第12話 内緒?(改稿・第一章完結)

「おはよう、よく眠れたみたいだね」

 私がむくりとベッドの上に身を起こすと、アルテミスが声を掛けてきた。

「あっ、おはよう。今何時だろ……」

 私は部屋の時計をチェックした。

「うん、まだ朝ごはんに間に合うよ。早く着替えていこう」

 アルテミスが笑った。

「そうだね、またギリギリだよ!!」

 私は笑って、寝間着から制服に着替えた。

「よし、いこう」

「うん、いこうか」

 私たちは部屋を出て、寮の入り口に置いてある自転車に乗って、学食目がけて廊下を走っていった。

 学食に着くと、もうピークの時間が過ぎたせいか、人もまばらで簡単に席取りができた。「私が席を取っているから、スコーンは好きなご飯を持ってきなよ」

「うん、よろしく」

 私はあくびを一つして、券売機に向かった。

「えっと、玉子かけご飯定食にしようかな。納豆も追加して、味噌汁を豚汁に変更しよう。ご飯は特盛りかな……」

 半分寝ぼけて私は券売機のボタンをポンポン押していき、出てきた食券をカウンターに持っていった。

「……あれ、こんなに頼んだかな」

 なんとなく寂しい玉子かけご飯定食が、やたらと豪勢な定食に変身していて、私は頭を掻きながらアルテミスが持っている席に戻った。

「あれ、またずいぶん頼んだね」

「うん、寝ぼけてた……頂きます」

 私は目を擦り、もそもそと朝ごはんを食べはじめた。

「おっ、起きてるね。私も同席していい?」

 人の事はいえないが、朝から特大ステーキ定食をトレーに乗せた犬姉がやってきて、ソファに腰を下ろした。

「ずいぶんハードな朝ごはんだね……」

「このくらい余裕だよ。いただきます!!」

 犬姉がガツガツとご飯を食べはじめた。

「アルテミスは食べないの?」

「うん、基本的に食べなくて平気だから、気にしないでいいよ」

 アルテミスはスティック状の携帯食を食べた。

「そんなので平気なの?」

「うん、これでも多いくらいだよ。小食なんだ」

 アルテミスが笑みを浮かべた。

「そうなんだ。それにしても、犬姉はよく食べるね」

「そうかな、これでもセーブしてるんだけどな。ミス・モーニングステーキの名にかけて、この程度は前菜だよ!!」

 犬姉が笑った。

 しばらくしてご飯を食べ終えた頃、パステルが満面の笑みを浮かべてやってきた。

「おはようございます。図書館を物色していたら、こんな物を見つけました!!」

 パステルが古ぼけた地図をテーブルに広げた。

「なにそれ?」

「お宝です、お宝。今は幻といわれているオリハルコン原石の坑道跡です。今では掘り尽くされてなにもないといわれていますが、いってみませんか。見つけたら面白い事になるかもしれません!!」

 パステルが笑った。

「へぇ、面白そうだね。時間が空いてるし、いいんじゃない?」

「はい、ありがとうございます。すでに馬車を手配してあります。地図によると、車だと入れない細道がありますので、時間は掛かりますがこれで行きましょう」

 パステルが笑った。

「分かった、いいねぇ」

 私は笑みを浮かべた。

「では、ご飯を食べたらさっそく校舎裏の厩舎に来て下さい。まだ馬が残っているとは、思っていませんでした」

 パステルが笑った。

「そうなの、馬なんてあるの?」

「うん、あるよ。たまに使う生徒や教師がいるから、規模は小さくなったけど厩舎が残ってるよ」

 アルテミスが笑みを浮かべた。

「そっか、それはいいね。久々に乗ろうかな」

 私は笑った。

「はい、ほぼ使われていないので、よりどりみどりだと思います」

 パステルが笑った。

「よし、ならいこうか。乗馬免許取っておいてよかった」

 私は笑った。

「では、先にいっています。準備があるので」

 パステルが笑った。

 

 アルテミスと犬姉と一緒に校舎の裏に回り、年季が入った建物に向かった。

「へぇ、貸し馬って書いてある。ここにあったんだね」

 私は笑った。

「そうだよ、まさか馬に乗るとは思わなかったよ」

 犬姉が笑った。

「うん、私も数年ぶりだよ。乗れるかな」

 私は笑った。

 厩舎の前には年季の入った幌馬車が二台止めてあり、馬が六頭引き出されていた。

「お待ちしていました、食料や水を積み込んでいますので、待って下さい」

 先にきていたパステルが、せっせと馬車の一台に荷物を積み込んでいた。

「あっ、手伝わなきゃ……」

 私が足を動かそうとした時、背後からそっと肩を叩かれた。

「ん?」

 思わず振り返ると、明らかに外国の生徒だと分かる顔立ちの女の子が二人立っていた。

「あの、パステルさんから声を掛けられた、高等科三年のランとソノです。なにやらお宝探しのようで、興味があるのでご一緒してよろしいですか?」

 笑みが素敵な女の子二人が、軽く頭を下げた。

「うん、構わないよ。論文にでもするの?」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、何事も経験なので。お噂のスコーンさんとご一緒出来て嬉しいです」

「お噂ね。大抵ロクな噂じゃないけど、まあ仲良くしよう」

 私は笑みを浮かべた。

「さて、荷物……」

「あっ、いきなり参加したので、せめて荷物運びだけでもやらせて下さい。」

 ランとソノが馬車に近寄り、山になって積まれている物資を馬車に積み始めた。

「あれ、仕事なくなっちゃった」

 私は苦笑した。

 しばらく経っていると、マルシルが慌てた様子ですっ飛んできた。

「ごめんなさい、昨日パステルさんから声を掛けられていたのですが、寝過ごしてしまいました」

 スリッパに寝間着姿のマルシルが、私に頭を下げた。

「……あの、着替えなよ」

 私は苦笑した。

「ああ!? 着替えてきます!!」

 マルシルがまた校舎に引き返していった。

「なかなか、おっちょこちょいだね。さて、これで全員かな」

 私がいうと、見慣れぬ赤髪で長身の女性がゆっくり近寄ってきた。

「あれ、ミネルバだよ。珍しいね」

 アルテミスが笑った。

「ミネルバって?」

「うん、神の一員だよ。滅多に出てこないのに、なにか興味あったのかな」

 アルテミスが笑った。

「よっ、元気でやってるかい?」

 近づいてきたミネルバが、手を上げて挨拶した。

「うん、元気だよ。この子はスコーンっていって、なかなか面白いよ」

 アルテミスが笑った。

「そうか。面白そうだから混ぜてくれ」

 ミネルバが笑みを浮かべた。

「スコーン、大丈夫かな?」

 アルテミスが笑みを浮かべた。

「うん、別に断る理由はないよ」

 私は笑った。

「それはありがたいな。どうも、鈍ってしまってな。では、勝手に馬を拝借するとしよう」

 ミネルバは厩舎に入っていき、馬を一頭引き出してきた。

「かなりの大所帯になったね。これは、楽しみだな」

 私は笑った。

「それじゃ、いこうか」

 アルテミスが笑みを浮かべ、私に首輪をつけて鍵をかけた。


 馬と馬車二台の豪華な編成でカリーナを発ち、私はパステルから預かった地図を挟んだクリップボードを時々確認しながら、一番先頭を馬に乗って走っていた。

 もはや馬での移動は過去の物になっているせいか、街道をすれ違う車がたまにクラクションを鳴らしてすれ違っていった。

 ここの周囲は草原だけで、目的地のドルフという村まではかなりの距離があった。

「えっと、北方から北北東街道に入って……」

 頬を風で切りながら、私は街道の交差点を曲がった。

 ちらっと振り返ると、すぐ後ろにパトラがいて、笑みを浮かべて返してきた。

 私も笑みを浮かべ、馬の速度を一定に保ちながら、隊列を引っ張って走っていった。

「ん?」

 行く先に村のようなものを見つけ、私は馬の速度を緩やかに落とした。

「この辺りに、村なんかないはずなんだけどな……」

 村に近づいていくと、それは放棄された廃村である事が分かった。

「そっか、廃村か……」

 私はクリップボードの地図をみた。

 再び馬の速度を上げ、隊列は一気に廃村の中を通過した。

「さて、いこうか」

 私は笑みを浮かべた。

 街道を進む隊列は、やがて夕焼け空の下を走っていった。

「そうだね、そろそろ日暮れか……」

 私は手で合図を出し、隊列を止めた。

「今日はここでキャンプだね」

 私は馬を下りて、街道から外れた草地に入った。

 後続の馬車二台も草地に乗り入れ、積んである荷物を下ろしはじめた。

「さてと、早く準備しないと夜になっちゃうね」

 私は馬の手綱を引いて、笑みを浮かべた。

 キャンプの準備を手伝おうとした時、一台のパトカーがサイレンを鳴らしながら通過していった。

「あれ、ここの辺りってなにもないのに珍しいね。街道パトロールじゃないパトカーが通過していくなんて」

 私は笑った。

「そうだね、あれ広域警察だよ。なんかあったかな?」

 パトラが笑った。

「それにしても、馬で遠出なんて久々だから、腰が痛くなっちゃった」

 私は苦笑して伸びをした。

「こういう旅もいいですね。気持ちがいいです」

 パステルが笑った。

「なに、テントを張ればいいのか?」

 ミネルバが笑みを浮かべながらやってきた。

「はい、手伝って下さい」

 パステルが笑みを浮かべた。

「なるほどな、あの小さなテントか。これはこれで、またいいな。手伝おう」

 ミネルバが笑った。

「よし、君たちは警戒をしてくれ。こういう時が狙われるからな」

 ミネルバが笑みを浮かべ、テント設営に向かった。

「おーい、これ持っておいて!!」

 犬姉が元気に走り回り、双眼鏡を配り始めた。

「うむ、それは暗視機能付きだ。扱いは体で覚えろ」

 芋ジャージオジサンがサブマシンガンを肩に、煙草を吹かせた。

「暗視付きね……。これだけ見晴らしがよければ、必要かもね」

 私は試しに覗いてみた。

「……あれ?」

 どうにも上手く映らず、私は小首を傾げた。

「ん?」

 芋ジャージオジサンがニヤッとした。

「ちょっと、教えてよ!!」

「さぁな……」

 芋ジャージオジサンが、吸い殻を放りどこかにいってしまった。

「……研究する」

 私はなんだか分からないが、色々弄って遊んでみた。

「これでどうだ!!」

 今度は凄まじくデカい、芋ジャージオジサンの顔が映った。

「うばっ!?」

 私はビックリして、危うく双眼鏡を取り落としそうになった。

「……パトラ、ノート」

「うん、これ」

 パトラがノートを手渡してくれた。

「うーん。これがこうしてこう……」

「それ、あんまり弄るとぶっ壊れるよ」

 パトラが苦笑した。

「……バラしてみるか。工具ある?」

「あるよ」

 パトラが工具を渡してくれた。

「ありがと……うーん、これどう外すんだろ」

 私は工具で色々外してみた。

「……ますます分からないな。もっと研究しないとだめかな」

「あーあ、ぶっ壊しちゃった。それ、高いから反省文だよ」

 パトラが笑った。

「うげっ!?」

「まあ、私も同罪だけどね。こうなったからには!!」

 パトラが笑った。

「それ早くいってよ!!」

 私も笑った。

「さて、直すかな……」

 私はバラバラにした双眼鏡を組み立てはじめた。

「それ、もうダメだよ。レンズが……」

 パトラが苦笑した。

「そうなの、そこは気合いで……」

 私は割れたレンズを放り出し、取りあえず形だけ復元した。

「直った!!」

「馬鹿野郎!!」

 パトラのゲンコツが私の頭にめり込んだ。

「……ごめんなさい」

 パトラは苦笑した。

「おーい、敵だよ!!」

 犬姉が元気に叫び、筒状の武器を肩に担いだ。

「て、敵!?」

 私は慌てて壊れた双眼鏡をぶん投げ、犬姉をみた。

 足下に大型無線機をおいた犬姉が、なにかブツブツ呟きながら筒状のなにかを傾けた。

「あっ……」

 パステルが慌てて荷馬車に飛び込み、やはり筒状の物を構えて犬姉に並んだ。

「な、なに、敵ってなに!?」

 私は慌ててパトラをぶん殴った。

「うん、なんだろうね。まあ、みてから考えればいじゃん」

 パトラが私にゲンコツを落とした。

「いっくぞー!!」

「はい!!」

 犬姉とパステルが構えた筒状の物から、ややを開けて二本のオレンジ色の炎を吐き出しながら、何かが飛んでいった。

「パトラ、あれなに?」

「うん、スティンガーだね。なんか、空にいたんじゃない?」

 パトラが笑みを浮かべた。

「……研究しよう。あれ、爆発するの?」

「うん、しなかったら武器にならないから」

 パトラが鞄からノートを差し出した。

「ん、対空ミサイルか。覚えておこう。研究室に置いていいの?」

「うん、許可を取ればね。ダミーなら置いてもいいはずだよ」

 パトラが笑みを浮かべた。

 しばらくして、目の前一面に大量の土塊がドバドバ降ってきた。

「……しゅごい」

「なんだこれ?」

 パトラが不思議そうな声を上げた。

「おーい、ぶっ壊したぞ!!」

 犬姉が笑った。

「な、なにを!?」

「うん、上空パトロールしているチームから、変な空飛ぶゴーレムが向かってるって連絡がきてさ。取りあえずぶっ放した!!」

 犬姉が笑った。

「そ、空飛ぶゴーレム!?」

 私は唖然とした。

「ん?」

 犬姉が一瞬目を細め、ビノクラを手にした。

「……子供?」

 犬姉が怪訝な顔をした。

「ねぇ、ゴルビーもみてるよね。子供だよね?」

「うむ、服装からして戦闘服ではあるが、あれではお話しにならんな」

 犬姉とゴルビーが、そっと拳銃を手にした。

「なにかいるの?」

 私が聞くと、犬姉が笑みを浮かべた。

「うん、なんか女の子っぽいのが接近中だよ。無害だね」

 犬姉が笑った。

 しばらくして、草原を走ってくる小さな人影が見えてきた。

「ねぇ、パトラ。女の子っぽいってなんだろうね?」

「女の子は女の子じゃないの。まあ、敵意はないだろうね」

 パトラが笑った。

 人影が大きくなり、それが迷彩柄の服を着た女の子である事が分かった。

 その女の子はそのまま走り続け、犬姉と芋ジャージオジサンの間を通り抜け、私に飛びついてきた。

「ねぇ、お姉ちゃんでしょ。あのゴーレム私が作った最高傑作なんだけど、どうやってぶっ壊したの?」

 女の子が目を輝かせて笑った。

「わ、私じゃないよ。なに、空飛ぶゴーレムって!?」

「うん、暇だから作ったんだけど、お兄ちゃんからダメっていわれていたんだよ。でも、我慢出来なくてやっちゃったら、そのまま追い出されちゃった!!」

 女の子は笑った。

「お、追い出された!?」

 私は思わず声をひっくり返した。

 どうみても十才くらいの女の子は、目を輝かせていた。

「……困ったな。どうしよう」

 私は頭を掻いた。

「ねぇ、名前は?」

 パトラが笑みを浮かべた。

「うん、リートっていうんだ。よろしく!!」

 リートが無邪気に笑った。

「あの、追い出されたって……」

「うん、お姉ちゃん名前は?」

 リートが私の目を見つめて笑った。

「え、えっと……スコーンだけど」

「うん、じゃあお姉ちゃん。友達になって!!」

 私は心底困って、パトラをみた。

「おーい、犬姉。くるよ!!」

 パトラが叫んだ。

「あいよ、ゴルビー。マジでいくよ!!」

「うむ、分かった」

 犬姉とゴルビーがそそくさと、荷馬車に向かっていった。

「スコーン、その子をどこかに匿わないとまずいよ。荷馬車のどっかに案内しよう」

 パトラが真顔で頷いた。

「分かった。取りあえず、急ごう。リート、いくよ」

「うん!!」

 私は女の子の手を引いて、近くの荷馬車に連れていった。

「ここで待ってて」

「うん、分かった!!」

 リートは笑みを浮かべ、馬車に積み込んである木箱の陰に隠れた。

「さてと……」

 私は二台目の馬車に積んである武器の中から、軽機関銃を取りだし、弾薬ケースをセットした。

「よし、こういう事でしょ」

 私は笑みを浮かべ、もう一丁軽機関銃を取り出し、急いでパトラの元に戻った。

「はい、これ」

「うん、ありがとう」

 パトラは小さく笑みを浮かべ、軽機関銃を受け取った。

「スコーン、死なないでね!!」

 パステルがカールグスタフを手に、大笑いした。

「はぁ、苦手なんだけどな……」

 キキが苦笑して、杖を構えた。

「あ、あの、なにが……はい」

 マルシルがおっかなびっくり、杖を構えた。

「よーし、皆の衆。ぶっ込むぞ!!」

 犬姉が叫び、私たちは一斉に女の子がきた方向に向かって駆けていった。

 しばらく進むと、低空で飛ぶA-10Aが六機飛んでいった。

「おらぁ、アレに負けるな!!」

 犬姉が叫び、パステルがいきなりRPG-7をぶっ放した。

「馬鹿野郎、気合い入れすぎだ!!」

「はい、走りながらの再装填!!」

 パステルが笑った。

 さらに進むと、無数のヤバそうな人たちの集団が見えてきた。

「ゴルビー、分かってるね!!」

「うむ……」

 犬姉と芋ジャージオジサンが散開した。

「よし、突っ込め!!」

 私は軽機関銃を構え、さっきの飛行機となんかバカスカ撃ちまくっている輸送機のような飛行機と、乱戦を繰り広げている集団に乱射しながら突っ込んだ。

 汗臭い兄ちゃんをどもをなぎ倒しながら、私たちは一丸となって駆け抜け、そのまま突き抜けて進んだ。

『おーい、そっち平気』

 無線機に繋いだ、インカムから犬姉の声が聞こえた。

「絶好調だよ。まずは一個目!!」

 私は無線に応じ、そのまま草原を爆走していった。

「この辺りは要注意地域だったから……えっと、確か四族か。今なら……」

 私は笑みを浮かべた。

 この周辺は名だたる強盗団の拠点があると聞いていた。

 想定外ではあったが、この際全部ぶっ壊す覚悟で走っていた。

 しばらく走るうちに、なんとなくボロけた村のようなものがみえてきた。

「撃っちゃダメだよ!!」

 私は無線で全員に指示を飛ばし、念押しをした。

「さてと……」

 私は迫ってきた村の門に向かって蹴りを入れてぶっ壊し、全員が中に入ると足を止めた。

 村のような物にいた皆さんが、なんだかぼんやりした様子で、私たちを見つめた。

「はい、全員逃げて!!」

 パトラが笑いながら笑みを浮かべ、パステルがあちこちの建物にC-4を仕掛け始めた。「キキ、みんなの誘導お願い。パトラも」

 パトラがキキの手を引いて、ぼけーっとしている人たちを村の外に誘導しはじめた。

「セット終わりました!!」

 パステルが戻ってきた。

「まだダメだよ。避難させないと」

「はい、分かってます」

 パステルが電気式起爆装置を持ったまま笑った。

 しばらく待つと、キキが戻ってきた。

「避難終わりました」

 キキが息を荒くしていった。

 私は後ろで杖を構えていたマルシルに目配せして、パステルの肩を叩いた。

「はい!!」

 パステルの声と共に、村の建物のあちこちで爆発が起きて倒壊した。

「これでクリアです!!」

 パステルが笑みを浮かべた。

「よし、次……遠いな」

 私はポケットから、カリーナ発行の地図を見つめた。

 逡巡しているうちに、ボロ臭いトラックが村の中から出てきて、パトラが運転席で笑った。

「あっ、お土産持ってきた。よし、いこう」

 私はハンドシグナルで指示を出し、みんなで急いでトラックの荷台に飛び乗った。

 トラックが草原を走り出し、荷台で軽機関銃の弾丸のベルトリンクを繋いだ。

「これで、いいね。よし」

 荷台の後方から身を乗り出すようにして銃を構えているパステルをチラッとみて、無線のインカムを触った。

「犬姉、一個ぶっ壊した!!」

『あいよ、もう二個目に移動中だよ。このポンコツ車が!!』

 犬姉の笑い声が聞こえた。

『うむ、十分で配置につく。先走るな』

 次いで芋ジャージオジサンの声が聞こえた。

「分かってるよ。どうせ、この速度じゃ三十分はかかるよ」

 私は小さく笑みを浮かべた。

 トラックは後方から派手に黒煙をぶちまけながら、草原をそれなりに爆走していった。

「あの、杖が折れそうなんですけど……」

 マルシルがせっせと杖を修理しながら、苦笑した。

「私は折れたので、接続しないと……」

 キキが笑った。

「よし、次に備えて準備してね。なんか、地図に『特別ヤバい』と書かかれているから、覚悟はした方がいいね」

 私は軽機関銃を見つめた。

 トラックは黒煙を吐きながら、草原を進んでいった。


 草原を進んでいたトラックが止まると、私たちは一斉に荷台から飛び下りた。

 すでにボロボロに破壊された村だったが、中からワサワサと強面のオッサンたちが出てきた。

「……いくぞ」

 私は小声で呟き、軽機関銃を構えた。

 マルシルが呪文の詠唱を始め、キキが半分折れた杖を構えた。

 私が軽機関銃のトリガーを引いた時、シュッと音が聞こえ遠くから銃声が聞こえた。

 それを合図に、私はトリガーを引いた。

「パトラ、右。私は左、マルシルはなんかぶっ込め。村ごとぶっ飛ばしていい。キキは折れた杖でいける?」

「はい、なんとか」

 私は頷き、トリガーを引いた。

 敵弾が頬を掠り、私は手榴弾を投げて伏せた。

 爆破と共に敵が吹き飛び、立ち上がると同時にトリガーを引いた。

 マルシルとキキの攻撃魔法が村に炸裂し、根こそぎぶっ飛んだが、敵はまだまだワサワサと出てきた。

『航空支援要請したよ。頭引っ込めて!!』

 インカムから犬姉の声が聞こえ、私は手早くハンドシグナルを出して伏せた。

 すぐさまA-10が二機低空を飛行し、派手な発砲音と共に機関砲で一斉掃射を始めた。

 しばらくしてA-10が引き下がり、私は再び立ち上がってトリガーを引いて残敵をなぎ払うように撃ちまくった。

『おい、スコーン。お前ちょっと下がれ』

 芋ジャージオジサンの声がインカムに届き、私は数歩下がった。

 同時にシュッと音が走り、最後方にいた偉そうな敵の頭が吹っ飛んだ。

『よし、始末した。あとは、任せた』

「了解」

 私は軽く返事を返し、もうほとんど残っていない残敵に向かって突っ込んでいった。

 私のやや後方に付いたパトラが、薬瓶と手榴弾を纏めて放り投げ、半壊した村の門を粉々にぶっ飛ばした。

 私はショート・ソードに武器を持ち替え、一気に村に突入した。

「おっと……」

 危うく近くにいた子供を斬りそうになり、私はその子を蹴り飛ばして村の中に走っていった。

「散開!!」

 ハンドシグナルで合図を出し、私は一番大きな屋敷に向かっていった。

 バックアップに付いたパステルが、大きな家の閉ざされた門に向かって、RPG-7を叩き込み、爆発と同時に空いた穴から突入した。

 パステルがRPG-7を投げ捨て、アサルト・ライフルに持ち替えて私に続いて、屋敷の玄関扉を蹴り壊して身を低くした。飛び出てきたゴツい敵をパステルがライフルでぶちのめし、足を抱えたまま呻いているそれを踏み倒して屋敷の裏手に回った。

「よっと!!」

 なにもない壁に手を当て、私は弱小の攻撃魔法を放ち、大穴を開けて一気に突入した。

 ちょうどトイレに出た私たちは、便器を飛び越えて扉を蹴破り、屋敷の廊下を全力で駆け抜けた。

 屋敷の中には十人ほどの敵がいて、大広間のようなところで慌てている様子だった。

 その敵を目がけて、私はショート・ソードで斬りかかった。

 パステルがフルオートで威嚇射撃を繰り広げ、私はあっという間に剣で切り倒した。

「クリア」

「クリア・ゴー」

 私とパステルは廊下に出て、次の部屋に向かった。

 私が素早く扉を少し上げて、パステルがフラッシュバンを投げ込み、扉を閉めると当時に高音の爆音と微かな光が扉の隙間から漏れた。

「ゴー!!」

 私たちは勢いよく部屋に飛び込み、のたうち回っている敵の皆さんを、パステルがナイフで始末していった。

「クリア」

「クリアだね。あとは、もう部屋はないか」

 私は笑みを浮かべ、ショート・ソードを鞘に収めた。


 四つある強盗団の拠点を破壊した私たちは、再び馬車を止めた場所に戻った。

「あっ、お姉ちゃんが帰ってきた!!」

 アルテミスと手を繋いでいたトーリが、私に抱きついた。

「うーん、この子は困ったね」

 私は苦笑した。

「とりあえず、連れていくしかないよ。まさか、ここに放置っていうわけにはいかないよ」

 パトラが笑った。

「そりゃそうだね。まあ、ゆっくりご飯でも食べながら、話しでも聞こうかな」

 私は苦笑した。


 小さなテントが並ぶエリアに夜闇が訪れ、静かな夜が過ぎていた。

 私は使った軽機関銃を整備しながら、草地に座って煙草を吸っていた。

「さてと……」

 私は並んで座っているパトラが、薬瓶を一個一個拭きながら笑みを浮かべている姿をみた。

「パトラ、それなんの薬瓶?」

「うん、回復とか爆破とか色々あるよ。興味ある?」

 パトラが笑った。

「私はいいや。はぁ、疲れたねぇ」

 私は小さく息を吐いた。

「うん、久しぶりに大立ち回りしたからね。さて、リズを呼んでくるかな」

 パトラが笑った。

「そうだね、紛らわしいよね。同姓同名なんて滅多にないのにさ」

 私は笑った。

「そうだね、私は遊べて楽しかったけど!!」

 パトラが吹き出した。

「ほら、いかないと。また、リズが遊び出すよ」

 私は笑った。

「全く、これ幸いにどっか隠れて、後発便で追いかけてくるなんて、リズらしいけどね。さてと」

 パトラが立ち上がって、テント群の方に向かっていった。

「はぁ、アイツらなにやってるんだか。まだ、遊んでるのかな」

 私が苦笑した時、背後から足音が聞こえてきた。

「師匠、こんなところにいたんですね」

 ビスコッティが笑った。

「全く、なにあの名前。わけ分からなかったよ!!」

「はい、あれはコードネームです。もちろん、クランペットもきていますよ。今は偵察に出ています」

「そっか、またこれかな」

 私は軽機関銃を叩いた。

「そうですね。ちょっと待って下さい」

 ビスコッティがインカムを弄った。

「やれやれ……」

 私は立ち上がり、軽機関銃を掴み直した。

「師匠、ぶっ壊す時間です。いきますか」

 ビスコッティがナイフを抜いた。


 夕方パトラが拾ってきたオンボロトラックの荷台に乗り、深夜の草原を進む中、私は暗視装置を下ろし、目を慣らした。

「さてと……」

 トラックが速度を上げ、ドカンという衝撃と共に門をぶっ壊して村に飛び込んだ。

 すでに村中が大騒ぎになっていて、私はトラックの荷台から飛び下りて走った。

 先行するビスコッティがナイフで戦っている間、私は軽機関銃を乱射して攪乱させ、クランペットが拳銃を片手にただひたすら敵を倒しまくった。

「待避!!」

 背後でパステルの声が聞こえ、私は素早く地面に伏せた。

 前方で爆発が起こり、敵の群れがぶっ飛んだ。

「よし、いくよ!!」

 私は素早く立ち上がり、パステルと共に村の奥深くまで突っ込んでいった。

 走っていると、首筋にざらっとした感覚が走り、私は横っ飛びに避けた。

 瞬間、攻撃魔法の光が掠め飛び、パステルがRPG-7を放った。

「魔法使いまでいたか……危ない危ない」

 私は笑みを浮かべ、村の最奥部を目指して突っ込んでいった。

 家の陰の小道から轟音を立てて装甲車が現れ、私は反射的に呪文を唱えた。

 放った光の矢が装甲車を貫き、黒煙を上げて止まった。

 装甲車から飛び出てきた六人ほどの敵に向かって、私はトリガーを引いた。

 敵が放った銃弾が体のそこら中を抉り、パステルがアサルト・ライフルで応戦しながら、手榴弾を放った。

「もう手榴弾ないよ!!」

 パステルが叫んだ。

 爆発で数人が吹き飛び、残り数名を私が片付けた。

「ったく、変なオモチャ持ってるね」

 私は頬を流れる血を服の袖で拭い、小さく笑みを浮かべた。

 そのうち、村の奥で派手な爆発が起こった。

「先を越されたね。これで終わりかな」

 私が笑みを浮かべた時、シュッと音が聞こえ、物陰に隠れていた敵が悲鳴を上げて転がった。

「……あぶね」

 私は小さく息を吐き、今度は残敵掃討に取りかかった。

 パステルが途中で分かれ、ビスコッティが背後を走り、クランペットがサブマシンガンを片手に前に立った。

 出会い頭の敵をビスコッティが拳銃で撃ち抜き、転がって喚く敵をクランペットが蹴り飛ばして、ひたすら走った。

 やがて夜が明ける頃になって主立った戦闘は終わり、重低音を響かせながら戦闘ヘリ六機が飛来して、村を粉々に破壊しはじめた。

「よし、撤収だね。このオンボロはもうダメか。歩きだね」

 村の門を破壊したオンボロに向かって、私は攻撃魔法を唱えた。

 巨大な火球が直撃し、あっという間に爆発しながら溶解して消えた。

「うん、これでよし。みんな集まってるし、さっさと帰って寝よう」

 私は軽機関銃を肩に担ぎ、小さく笑った。


 翌朝、テントを畳んで片付けをして、私たちは出発した。

 私たちの一団は街道を駆け抜け、昼前には山がちな道に差し掛かった。

「ん?」

 私は変な音を聞き、馬の速度を少し落とした。

 思わず顔を見上げると、三本の白い煙のようなものが通過していった。

「なんだ、あれ……」

 まあ疑問には思ったが、私は首を振って馬の速度を上げた。

『師匠、止まって下さい。この先で大規模山賊団とファン王国海兵隊並びに……とにかく激戦になっているようです。直ちに止まって下さい』

 無線のインカムにビスコッティの声が飛び込んできて、私は慌てて馬を止めた。

 止まった一団の上を多数の航空機が通過していき、遠くから遠雷のような音が聞こえてきた。

「……これ、多分ラ○ボーどころじゃない」

 私は額の汗を拭いた。

「さて、どうしようかなこれ。大事どころじゃないけど、ここまできちゃったからな……」

 私は小さく笑みを浮かべた。

『師匠、くれぐれもぶっ込まないで下さいね。繰り返します、くれぐれもぶっ込まないでくださいね!!』

 ビスコッティがギャーギャー喚いた。

「分かってるよ、これは手に負えないや」

 私は胸ポケットから煙草を取り出し、馬から下りて火を付けた。

『ヤッホー、暴れるなよ!!』

 さらに犬姉の声がインカムに飛び込んできて、私は苦笑した。

「ねぇ、スコーン。ちょっと気になるよね。こんな規模の山賊団が住む山だよ」

 馬から下りたパトラが笑った。

「そうだねぇ……」

 上空を巨大な爆撃機が無数に飛んでいく姿をみて、私は笑みを浮かべた。


 騒ぎが収まった頃、インカムにビスコッティの声が入ってきた。

『いいですよ。いきましょう』

 インカムからビスコッティの声が入ってきて、私は馬に飛び乗った。

「さて、いくか」

 私は馬を進め、山道を登りはじめた。

 曲がりくねってはいたが、なぜかやけに太い道を登っていくと、反対車線を大型ダンプがクラクションを鳴らして通過していった。

「ん、ここって鉱山かな。あれ、どうかんがえても採石積んでいたし」

 私はいんかむのボタンを押した。

「パトラ、ここって鉱山?」

『うん、もう掘り尽くされたらしいけど、昔はオリファルコンが産出されたんだって』

 私は小さく笑みを浮かべた。

「へぇ、掘り尽くされたね……。これはお宝の香りだね」

『古い坑道はあるらしいけど、もう崩れて使えないと思うよ。この人数じゃせいぜい、麓の村で遊ぶくらいじゃない?』

 パトラが無線越しに笑った。

 そのまま山道を登っていくと、片側を三角コーンと遮断棒で塞ぎ、片側交互通行していた。

「あれ、工事かな……」

 強面で笑顔が素敵な警備員さんが、赤く光る棒で停止を示していた。

 先頭の私が馬を止めると、警備員さんが反対側とこちらを交互にみて、険しい顔つきで見つめていた。

 しばらくして、轟音と共に大型の機械を積んだトレーラーがゆっくり正面から進んできた。

「こらー、なにしておる!!」

 警備員さんが怒鳴り声を上げ、ゆっくり走ってきたトレーラが私たちと交差した。

 警備員さんが胸ポケットから手帳を取り出し、首を傾げた。

「……あれ、採掘してるのかな。まあ、いいや」

 私は笑みを浮かべた。

 さらに大型ダンプが三台通過し、警備員さんが赤く光る棒で進行を示してきた。

「よし、いくか」

 私たちの一団は、再びゆっくり山を登っていった。

 しばらく進むと、見るからに寂れたような栄えているような、微妙な感じの村が見えてきた。

 村の門を守っていた人が、私に笑顔で声を掛けてきた。

「これは、馬とは珍しいですね。どうされました?」

「うん、どうって事はないけど、カリーナのフィールドワークだよ」

 私は身分証明書をみせた。

「なるほど、結構です。では、ごゆっくり」

 村人が道を空け、私たちは村の中に入っていった。


 ちょっとした広場に一団を集め、私は馬から下りた。

「お姉ちゃん!!」

 馬車からすっ飛んできたトーリが、私に飛びついてきた。

「全く元気だね。さて、どうしたもんだか……」

 私は女の子の頭をワシワシ撫でながら、苦笑した。

「うん、なんだ。珍しい集団だな。なんの用事だ?」

 恰幅のいいオジサンが、笑いながら接近してきた。

「あっ、おじちゃん格好いい!!」

 トーリがオジサンに抱きついた。

「そうか……ん?」

 オジサンがトーリの耳を軽く触った。

「……ちょっと待ってくれ。これは大変な事だぞ。えっと、お嬢ちゃんこの子はどこで?」

 オジサンは私に目をやった。

「うん、途中で盗賊団を潰したんだけど、この子が見捨てられたって逃げてきちゃって」

 私は苦笑した。

「……ヤバいな。俺の元で匿う。いいな?」

「うん、そうしてくれると助かるよ」

 私が笑みを浮かべると、オジサンは頷いた。

「よし、これは記念だな。なんか、活きのいいヤツらがきてるし、紹介しよう。ちょっと待ってくれ」

 オジサンは笑って、トーリを連れて近くの家の中に入っていった。

「はぁ、緊張したよ。よりによって、エルフの子だよ。ここ、ドワーフの村って教えてよ!!」

 私はパトラの頭を叩いた。

「そこまではねぇ……」

 パトラが笑みを浮かべた。

 しばらくすると、オジサンだけが家から出てきて、笑みを浮かべた。

「よし、いいだろう。ついてくるがいい」

 オジサンが笑って、私たちに手招きした。

「よし、みんないこう」

 私は笑った。

「こら、チームメイトを置き去りですか?」

 いきなり背後にリズが現れ、笑みを浮かべて私に軽くゲンコツを落とした。

「やーい、逮捕魔!!」

 私は笑った。

「馬鹿野郎、アレは下の階のボケカスじゃ。同姓同名であたしがびっくらこいたぞ!!」

 リズが笑った。

「ねっ、だったらついでに金分捕っておけばよかったね!!」

 パトラが笑った。

「馬鹿野郎、そんな子とするほどまともな研究してねぇ!!」

 リズの拳がパトラの顔面にめり込んだ。

「えへへ」

 パトラが頭を掻いた。

「あれ、同姓同名だったの。なんだって、ビックリしたけど……」

 私は目を丸くした。

「当たり前でしょ。勝手にどっかいくな!!」

 リズが笑った。

「なんだ、ビックリしたよ。ビスコッティとクランペットは知っていたけど……」

「当たり前でしょ。コードネームなんか、表に出せるか!!」

 リズが笑った。

「なんだよぉ、ビックリしたよ!!」

 私は笑った。

「さて、まさかここにくるとは思わなかったよ。ここ、ドワーフの隠し村だよ。大した冒険野郎だね!!」

 リズが笑った。

「パステルが面白い事したいっていうからさ!!」

 パトラが笑った。

「また、お前か。ったく、危うく戦闘ヘリでぶっ飛んでこようかと思ったよ。人が反省文書いているうちに、パトラまでなにもいわないでいなくなるな!!」

「だって、スコーンってドワーフと顔見知りじゃん。あの……なんだっけ」

「ああ、アイツね……。あれ、ここの人?」

 私は小首を傾げた。

「うん、そうだよ。だから、顔パス状態で入れたんだよ!!」

 パトラが笑った。

「まあ、なんか怪しいとは思っていたけど、ここだったか」

 私は苦笑した。

「さて、いこうか。活きのいいヤツらって、多分さっきの戦闘で不完全燃焼だったから、ストレス溜まってるんじゃないの!!」

 リズが笑った。

「そんなわけないでしょ。ビスコッティがこっそりゴニョゴニョしたんでしょ!!」

 パトラが苦笑した。

「あれ、それってクランペットじゃないの?」

 私は笑った。

「まあ、いいじゃん。さっさといくよ。コマンダがブチ切れちゃうよ!!」

 リズが笑った。


 私たちはオジサンに連れられ、馬車や馬に乗って移動した。

「あれ、軍人さん?」

 家々が立ち並ぶ中を抜け、巨大なトンネルが口を開けた広場に軍服を着た皆さんが多数いた。

「おう、活きがいいヤツらっていったろ。お土産に持っていけ。面白い物が採れるぜ!!」

 オジサンが笑った。

「お土産って……」

 私は馬を下りて、頭を掻いた。

「はい、これ!!」

 パトラが走ってきて、ツルハシを渡した。

「……これでパトラの頭をかち割るの?」

「うん!!」

 パトラが笑った。

「あ、あのね……。要するに、ぶっ壊すんでしょ。鉱脈を。これで平気なの?」

「花崗岩だから脆いよ。まあ、こっちがいい?」

 パトラが一抱えある削岩機を取り出した。

「……それ、どこから出したの?」

「秘密!!」

 パトラがスターターを引いて、エンジンを起動させた。

「……これでいいや」

 私は苦笑した。

「こら!!」

 リズがパトラをぶん殴った。

「いいじゃん……」

 パトラはエンジンを止めた。

「ちょっときなさい。あんたに説教なんて効かないんだけど!!」

 リズが削岩機を抱えたままのパトラを引きずっていった。

「……これで穴掘りか。使った事ないな。その辺掘ってみるかな……」

 私は適当な地面にツルハシを打ち込んだ。

「こら、師匠!!」

 ビスコッティが私の頭にヘルメットを被せた。

「……新パターン?」

「はい、ぶん殴っても意味ないので!!」

 ビスコッティが笑って、C-4の束を押しつけた。

「……おい」

「はい?」

 ビスコッティが笑った。

「スコーンさんの筋力では、採掘は厳しいです。申し訳ありませんが、道具の運搬をお願いします」

 クランペットがやってきて笑みを浮かべた。

「ああ、そういうことか。ビスコッティを爆破するのかと思ったよ。なんだよもう!!」

 私は笑った。

「おーい、いくぞ!!」

 オジサンが叫び、軍人さんたちが整列した。

「あ、あの、私たちは?」

「うん、ついていけばいいんじゃない?」

 パトラが笑った。

「馬鹿野郎、説教はまだだ!!」

 いきなり現れたパトラを、リズが引きずっていった。

「まあ、ついていけばいいんじゃないですか、師匠」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「ま、まあ、そうだね。これ、私たちがやる事あるかな」

 私はC-4を抱えて苦笑した。


 大きなトンネルを潜ると、鉱石を満載したトロッコを押して登ってくる人たちとすれ違った。

「へぇ、坑道ってこんなに広かったんだね」

 私は笑った。

 トンネルの奥深くに進むにつれて、段々狭くなり熱気が溢れ、重たい機械の音が聞こえてきた。

「よし、ここだ!!」

 姿は見えなかったが、大きなオジサンの声が聞こえた。

 その途端、私とビスコッティを軍人さんがトロッコにぶち込み、勢いよくきた坂道を登りだした。

「うげっ!」

 私たちを乗せたトロッコはあっという間に外に飛び出て、軍人さんが私が抱えていたC-4だけを奪い取り、今度はダイナマイトの木箱押しつぶすように積み込み、再び勢いよくトンネルに引っ返していった。

 それを何度も繰り返されたあと、最後の一回目で私とビスコッティはトロッコから放り出され。そのまま地面を転がった。

「……しゅごい」

「はい、師匠。そのうち、この辺りにぶちまけると思うので、片付けの手伝いをしましょう」

 ボロボロになったビスコッティが、笑みを浮かべた。

 そのうち続々と皆がトロッコで放り出され、なんじゃこりゃ? という感じでぼんやりしていた。

「ほら、危ないよ!!」

 どこに犬姉がいたのか、犬姉が大声を上げながら広場に散らばった私たちを蹴飛ばすように退けはじめた。

「師匠、待避!!」

 ビスコッティが私を抱えるように広場の端っこに向かって突っ走った。

 しばらくすると、空から図太い爆音が轟いてきた。

「こ、今度はなに!?」

 私が声を上げた時、いきなり飛来したCH-47Hがドカドカ車両を下ろしはじめた。

 ヘリからロープで下りて来た皆さんが、車両のワイヤーを外す作業に取りかかり、その間に次々と勢いよく飛び出てきたトロッコから、岩のような物を車両の荷台と連結されたコンテナにバカスカぶち込んでいった。

「……もっともっとラ○ボー?」

 私は残されたC-4本を抱え、それで頭を掻いた。

 荷物を積み込んだ車にトンネルから出てきた皆様が飛びのり、次々と撤収していった。「……これが、噂のハードボイルド?」

 私はさらに小首を傾げた。

 かなり時間が掛かって全車両が撤収すると、今度はトンネルから石を山積みにしたトロッコが出てきて、タイミングを合わせたようにやってきたボロい軽トラックに、スコップでせっせとトラックの中身を荷台に積み込み始めた。

「な、なんなのこれ……」

 ……しかし、うるさくて私の声はどうやっても誰にも届かなかった。

 さらに時間が掛かって最後のトロッコが作業を終えると、トンネルからワサワサ出てきた皆々様が、次々に着陸してきたCH-47にガンガン飛び乗っていった。

 全てが片付きヘリの爆音が遠ざかっていく遠雷のような音の中、私はただひたすら夕焼け空眺めていたのだった……。

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