包永 20200201

「寅さん、だめだこりゃ。離れねぇよ」

 背の低い男が立ち上がり、汗を拭う。彼の向こうには不思議なものがあった。

 焦げた岩だ。ボロボロに崩れたフォルムの中に、どこか有機的な組成を見せる、見ているだけで不安になる塊。

「守ろうとして、必死だったんだろう」

 岩の中に、十にも満たない女の子がいた。

 表情の抜けた顔の、目だけが意思を持って二人を見つめている。

 綺麗な瞳だった。光の反射だろうか。虹彩が万華鏡のように色を変えて、その変化の美しさに目が離せなくなる。

「今、出してやるからな。おい、タツ。やれ」

 二人は瞳の誘惑を振り切るように、岩の掘削作業を始めた。

 元々焼いて埋めるものだ。大雑把に砕いても問題あるまい。


「だめ!」

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