地球外エージェント

 あなたの隣に宇宙人がいる。

そう言われたら、あなたならどうするだろうか。

あり得ないことだと思うかもしれないが、事実である。現に私は宇宙人だ。

姿はそんなに違いはないと思うが、中身は全くの別物である。間違いないと私は確信している。

 もしかしたら、勘違いをしているかもしれないが、実はこの星には純粋なこの星の生まれというのは極わずかしかいない。普段、まったく気にも留めないのかもしれない、この巨大な集合体の構成は大半が宇宙人である。昔は宇宙人だとわかると火炙りだの、村八分だの、生贄だのと、命の危険を感じることが多かったため、ただ、それを表立って口にしないだけでマジョリティはとっくにマイノリティになっているのだ。もう少しすれば、宇宙人ではないと口にした方が、白い眼をされる時代が来るかもしれない。

 だが、我々は決して対立を求めているわけではないことをわかってほしい。我々がほしいのは、市民権であり、優しさと寛大さと少しの生きやすさなのである。宇宙人であるからとすぐに仲間外れにするのは、やめてほしいのだ。


 読み終わってすぐ、私は目の前にある砂嵐のテレビに話しかけた。画面の上にはご丁寧にアナログの文字が映っている。点滅する白黒が、意思を持つように揺れる。

「はあ、これはまた・・・なんとも、ええっと、前衛的な文章ですね。心を打たれます。・・え、嫌ですよ、そんな面倒なこと、どうして・・・いや、ちょっと、そんな!!」

傍から見たら、テレビと話しているようにしか見えない危ない奴もとい私は、小さく声を出してテレビに縋りついた。しかし、テレビはもうずっと砂嵐だった。

「ついてない。」

テレビが、ではない。私が、だ。

 その日は、朝から良くない気分がした。そもそも、予定よりも早く目が覚めてしまった理由は怖い夢を見たからだった。買い物依存症気味の母親が、私の目を盗んで財布からお金を勝手に拝借し、意味不明に洗濯機を買ってくる。なんだよ、洗濯機って、家に一台あればいいものを何でそんな大量に買ってきたんだよ、どうせなら、昨日壊れた掃除機にしろと喉が痛むほど怒鳴り散らした、ところで目が覚めた。悪夢だった。その悪夢を引きづりながら、食卓についたものの夢で洗濯機の大量購入をしてきた母親との会話はぎこちなく食べた納豆はなんの味もしなかった。嘘、納豆の味、すごいした。臭かった。その臭い納豆が洋服にくっ付いていたのを気づいたのは、母親が仕事に行ってしばらくしてから、郵便屋さんがお手紙を運んでくれたのを受け取った辺りだった。気づいてなんだよおお、こんなとこにくっつくなよおお、なんて思って手紙を開けたら、これだよ。

 すっかり利きが悪くなったリモコンを何度か叩いてチャンネルを変える。朝でも昼でもないこの時間は、テレビショッピングが流れ放題だ。それをぼーっと眺めていると、不意に忘れていたことを思い出した。そういえば、新しいの買おうと思ってたんだ。掃除機じゃないよ、いや、確かに掃除機は買うけども。吸引力の変わらない掃除機を買おうと思っているけれどね。でも、テレビショッピングでは買わないよ。電気屋で買うよ。ポイント貯まるし。

「本日限定、か。ううん、でもなあ。どうしたもんか。今のでもいいけど、性能がなあ。」

テレビのショッピング番組ではおじさんが高らかに布団乾燥機の性能を述べている、のに重なるようにもう一つの声がしている。私は、それを聞きながら電話に手を伸ばそうとしている。本日限定で欲しかったものが安いとしたら、大抵の人は買うんじゃない。でも、掃除機は電気屋で買うけどね、週末辺りに車で買いに行く予定だ。


 ボスはいつだって無理難題を言ってくる。まあ、私がとても優秀なエージェントであるから仕方のないことではあるが、それでも節度ってもんがある。この前も、私はボスの指令でかなり大変なミッションをコンプリートしたし、その前だって、他の誰にも出来なかったことをしてやったのに。

「だったら、給料を上げてほしいもんですねえ。」

結局、買わなかったテレビショッピングの画面を見つめていた。いいんだ、今日の占いでは散財注意って書いてあったし。今の、まだ、使えるし。性能、落ちるけど。

「はあ、本当に。世界は平和なのに、私は大忙しです。なぜって?世界を守るためにですよ!」

もう、何年も使っているユニフォームに着替えて性能の落ちた装備を身に着けて私は家を出る。ボスの指令をさっさと片づけてしまわねば。

ガチャリと鍵を二つ、それと音声認識用のボイスキーをスイッチオンして出かける。万一、家に帰ってきて侵入者なんかいたら、我が家で戦闘勃発しちゃうからね。

すったすったと慣れた道を歩きながら、私は任務のために情報を集めることにする。

「お、やっほー、親分。お久しぶりですね。しばらく見ない間に恰幅良くなりましたね。え、いやいや、別に太ったってことじゃなくて・・・え、いやだなあ、そんな怒んないでくださいって。今日は、ちょっと聞きたいことがありまして。」

「あ、別嬪さん。今日も美しいですね。違いますよ、お世辞なんかじゃなくて。・・そんなことしたら、みんなに怒られちゃいますって。あ、そうだ、ちょっと聞きたいんですが。」

「ハローハロー。ハウアーユー、ハウアーユー。アイムファインセンキュウ。」

馴染みの親分に情報通の別嬪姉さん。それから、世界情勢に詳しいジョニーまで。どんな些細なことも聞き逃さないように気を付けながら、私は歩いた。

 「特に、異常はなさそうです。引き続き調査します。っと。」

私はいつもの場所でボスに定時連絡を入れて一休み。汗をかいたら、やっぱり麦茶だよね。なんて思いながら、持参した水筒からお茶を飲む。

空は相変わらず、青いし。なんとなく涼しくなってきた空気を吸い込んで私はまた、情報収集に出かけることにした。

 結局、目ぼしい情報は得られず、私は今日の外出を終えた。

「まあ、まだ、初日ですからね。仕方がないですよ。ええ、大丈夫ですよ、ボス。」

ユニフォームを脱いで部屋着に着替えて、ボスに報告する。たった一日で収穫があることの方が珍しいのだ。私は、できるエージェントだから焦ったりはしない。

 

「今日、あんた、また、テレビに一人で話しかけてたでしょ?あれ、気持ち悪いからやめなさいっていつも言ってるでしょ。外でも、やってるんじゃないでしょうね?ご近所に変な目で見られるからやめてよ。」

「違うよ、あれは、ボスと・・・・ううん、なんでもない。」

私は、優秀なエージェント。地球人にはわからない世界を、生きているのだ。

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虹色の詰め合わせ 霜月 風雅 @chalice

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