悪政政策と仮面の青年
第2話 悪政の国策
もう何度見ただろう。
ウトウトしていただけでこれを見てしまっては夢でも気持ちが滅入る。
前を向けば、スーツ姿の人が大勢座席に座っている。
「美亜? 大丈夫?」
隣に座っているお母さんがウチを心配して話しかけてくる。
「大丈夫やで、ただ、お父さん喜んでくれるかなって……」
母親の顔がより穏やかになる。
「ふふふ、そうね。なんたって帝国大学ですもの。お母さん鼻が高いわ。お父さんにちゃんと顔向けできるわ。よく頑張ったわね」
「うん、そうだね。帰ったらお父さんに報告するよ。式の様子とか」
ウチは
お母さん、心配かけました。
これからの学生生活頑張りますので見守っていて、と隣の母に言えばいいのだが、
面と向かってはどうも気恥ずかしい。
今日はその入学式の日で朝8時から電車に揺られて今は座席に座れて移動している。
スーツ姿の人がこの時間だと当たり前だけど多くいる。
この中に、ウチと同じ大学に通う人もいるのかと思うとなんだか嬉しいな。
『次は○×大学病院前です』
あっ、降りなあかん。
電車のアナウンスで自分の目的地の駅だということに気づいた。
電車に揺られて小一時間、通学時間としてはそんなものだろう。
一人暮らしを憧れたりもしたが、別に下宿する距離でもないし、
今は自宅から通うことにしている。
電車を降りて、改札口を抜けると目の前にすぐ大学がある。
スーツの人々は大学に向かって列を成している。
私はもちろんその流れに乗って入学式の行われる会場に歩みを進める。
大学の入り口には私服姿の在学生とスーツ姿の新入生で人だかりができている。
そこでウチはさっそく第一関門を突破しなくてはならなくなった。
「水泳部です。冬は温水プールで練習しています」
「君可愛いね。野球部のマネージャーしない?」
「バスケ部です。君、マネージャーとかに興味ない?」
「茶道部です。興味あったらぜひ来てください」
「バトミントン部です。練習厳しくないんで楽しくやりましょう。初心者大歓迎です。飲み会も多いから楽しいで、オレらと飲み会とかせーへん?」
男の先輩方が、入学してくる女子の新入生にクラブの勧誘で声をかけまくる。
嬉しいことではあるのだが、
ウチは女性の先輩が配る勧誘のチラシのみを受け取りながらそれ以外の勧誘を目線を合わせず避ける。
気分を害する人もいるかもしれなかったが許してほしい。
ウチは『男性恐怖症』なのだ。
その後も、おそらく先輩であろう方々からのサークルの勧誘などの誘いを受けながら人込みを掻き分けて進むのが意外と大変だったが、
なんとか、新入生控え室にたどり着くことができた。
学部学科別で控え室が違うので今年の看護学科の入学生50名がこの部屋に集まったというわけになる。
私は空いている席に一人さみしくちょこんと座る。
看護学科といえば女子が大半を占めることがほとんど、
しかもこの学科は男子の受験人数が少なくないのに、なぜか毎年5人程度しかいない。
そんなものだから異常に目立つ。
でもまぁ、そういう学科だから選んだというのもある。
そんな感じで一人入学式が始まるのを待っていると、おもむろに前の女子二人が男子の話をしだした。
「今数えたんだけど、男子今年は五人だけみたい」
「例年通りだね。男子どこにいるの?」
「一人目は右のあそこ、初対面だろうから五人ともお互い話しかけるのを躊躇しているみたい」
その女子が指差した方向を私も見た。
その方向に目線を送ると、顔は見えないものの座っていても高身長であることが分かるほど座高が高く、髪を少し金に染めている。
「背高い、入学式やのにもう髪染めてイケイケやん」
「後で話しに行こう」
何がイケイケなんだか、どうもあのタイプは苦手だわ。
「二人目はその二つ後ろ」
右の横顔が見える。茶髪に染めている髪の隙間からピアスをした左耳
「ピアス開けてるやん。いい感じやわ」
片耳って、どっちかだけだったら確かバイかゲイの意味じゃなかったかな? 後で確認しとこう。BLは好きだけど、リアルはちょっと……。
「三人目後ろ」
ウチは少し振り向いた。短髪黒髪でクールな感じがする。
「おとなしそうね」
「無口のタイプもいいんじゃない」
いや、あれは女子の中に放り込まれて緊張しているだけだろ。
「四人目は右」
身長は高くなさそうだが、白い肌に対照な黒縁メガネを掛けている。今話題の草食系メガネ男子か。
「草食っぽいなぁ」
「今時っぽくていいと思うけど」
彼もヲタクかな?
まぁ、ここまで全員は容姿に文句がつけようないな……って当たり前か。
今のこの国ではよくあることだ。
それは、国のある方針が関係している。
才色兼備政策、通称『イケメン優遇政策』と呼ばれるとんでもない国策だ。
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