第17話 運命の駒
「〝
ぱ、ぱお?
それは、いつもの10円玉だった。俺がポケットにジャラジャラと入れている、大量生産されたどこにでもある10円玉だし、もっと言えば、俺のポケットにすら何枚かある中の一枚で、よーく見るとやや中央に錆があって…あ、ギザ付きだ。
ま、いっか。
「そう!これが、パオパオだ!」
「…〝
あれぇ?
「っつか、パオパオって何じゃ⁉」
「『南の島の大怪獣の封印を解く、伝説の秘宝』だ」
「…知らぬのなら、知らぬと言っておけい!」
いや、だって、戦いに使えそうだったからさ…この死門しかない状況での、トキの驚き様…間違いなく、これはとてつもなく強力な武器って事じゃねーか?
俺は10円玉をトキにかざした。
「パオベイ、ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーム‼」
「………」
しかし、なにもおこらなかった。
「あれ?」
「んなもん出るわけないじゃろうが‼」
出ねぇのかよ…
しかし、この10円玉を見たトキの驚き様は異常過ぎた。危うく、あの真紅のドクロを落としかけた程だ。開かれたのは目だけではない。左上に歪みつつ口も大きく開かれ、もっと言えば鼻の穴も大きく開かれて荒い鼻息を出していた。
…そーいやぁ、こいつの目の前で10円玉弾いた事なかったな。
驚きはタマモへ伝染した。タマモはこの10円玉を見慣れている筈なのだけど、そこから上がってきた俺の顔を見る視線は、トキと全く同じだった。それが実在する事に驚いている。…ヒマラヤで雪男を見つけた顔してるから。
「っつか〝ぱおべい〟って、何?」
不意にトキの口から出た聞きなれない言葉。俺にはまーったく理解できないが、何かタマモとトキの二人がかつてないほど驚いていた。
「仙具。…仙人が使う道具の事だ」
それは今までとは違う方向から、ぼそりと呟かれた。この、常に輝いている男が珍しく…いや、見た目は目立ちまくってるけども。この白忍者。
さらに聞こうとする前に、リョウマは言葉の意味以外は知らないと言う。
「あれ?」
って事は、俺って、
「そう、貴様は仙人だ」
「ウソーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー⁉」
驚愕の事実発覚‼
「えーっと、ほら、仙人ってさ、何か杖持った白い服着たお爺ちゃんで、雲に乗って空を飛んで霞を食って生きてる?みたいなんだよね?」
「なんだその俗すぎる想像は」
「…俺、全然違うけど」
「仙人とは『自分とこの世に起こる全てを〝天命〟として受け入れる者』の事だ。…それは常日頃、貴様が10円玉を放ってやっている事だろうが」
…あー。
「だからこれが仙具…〝
大凶星がいつも言おうとしてた「お前は、せ…」の後は『仙人』だったんだな…ぶっちゃけ、俺にはまーったく自覚がないのだけど、大凶星とリョウマが断言し、タマモとトキのこの驚き様からして、俺は本当に『仙人』なのだろう。
「って事は、俺って不老不死なの⁉」
「永遠に童貞という事だな」
転職の神殿はどこですかーーーーーーー⁉
「ウソだ‼」
それは俺の心の声だった。が、発言したのはトキだ。…この、超美人で、ナイスバディで、一途に自分を想ってくれる、彼女のいる男…トキ。…死ねばいいのに。
「仙人など、空想上の存在だ‼」
人をドラゴンみたくゆーな。
勿論、トキら八門使いは建前的に〝仙人〟を目指して修行している。ただ、少なくとも産業革命後の数百年、仙人が目撃された例はないのだと言う。だから修行も非実在の不老長寿ではなく、現世利益的な運命操作らしい。
「ならば‼その〝
…そー言われると困る。
改めてつまんだ10円玉を見つめたり、放したり、すかしてみたりするが、…10円玉だった。コインにあるのは裏表だけですがな。
「あ」
思いついた。
「トキぃ!仙人の力、見せてやろう‼」
いきなりの居丈高な声。それに僅かに躊躇してトキの足が止まる。その眉間には憎悪による皺が深く刻み込まれ、その頬には焦燥による汗が垂れているが、冷静さも垣間見えた。その根拠…光り輝く真紅のドクロを俺に向けてより付きつける。
それを受ける俺の顔は…憎たらしいほど自信満々な笑みを浮かべていたに違いない。右手で10円玉をかざしたまま、ビシっと左手人差し指で指さす。
「八門遁甲の陣、思いついちゃったぜ」
「また〝おっぱいの陣〟とかか?」
お前、何で知ってんの⁉
「敵の心を読みつくした素晴らしい戦術だ。学校の教材として推奨しておいた」
…ああ、うん、ありがと。
「…おっぱい?」
何故か心の底からの賛辞を贈られる反対側から、当然心の底からの軽蔑が向けられていた。ついさっきまでの、畏敬にも似た表情はどこへやら。顔を後ろに傾かせて物理的に見降ろす瞳の、上の眉にはくっきりとしわが刻み込まれていた。
「…まさか、この状況でそんなタワケた陣を描くつもりではあるまいのう?」
「ないないないない‼同じネタを二度やるなとゆーオキテがあるからな‼」
そもそも、それ使った相手は目の前にいるこの男ですがな。
本人も思い出したのだろう、小さく舌打ちをする。しかも、その思い出はトキに慎重な冷静さを呼び起こさせてしまった。踏んだり蹴ったりだなぁ…その元凶は、思いっきり眉をひそめ眼を細めて、俺の一挙手一投足を監視してるし。
俺は、大仰な動作で両手を大きく開いた。
「まずは二つ丸を描く」
「ほう」
「そして、真ん中に一つ線を引き」
「………」
「いくぞ!八門遁甲ぉお〝まん…」
ばきぃ
「今、何を叫ぼうとしたぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ⁉」
タマモのツッコミパンチがクリティカルヒットした。な、何だ?この威力は…これが真紅のドクロの力なのか⁉今までで一番痛かったけど‼…いや、ってかなんかタマモの顔が赤鬼さんみたく真っ赤で…俺の目には角と牙さえ見えそうだった。
「ちょ、ま、待て!何か勘違いしてねぇか⁉」
「…勘違い?」
「お前が想像しているような陣じゃないんだよ!」
「…ほぉ」
「〝ま〟で始まって〝こ〟で終る陣だ」
どばきぃ
「そのまんまじゃろうが‼」
…満月二弧の陣、なのに…
「…じゃあ、ええと…改め〝陰陽二元の陣〟」
仕切り直した俺は、10円玉をトキに向けてかざした。
「表が出たら右、裏が出たら左、がアタリな?」
何を言ってるのか分からない表情のトキの真ん前で、10円玉が空高く弾かれた。弾いた俺の右手は上から、左手は下から、同時に双方で円を描いて、それはは中央で重って完全な円となる。左右の手はそれを別つように中央へと戻った。
「これは…太極図か⁉」
「さっきも同じ図を書いてたんすけどねぇ‼」
「まるで、満月の中で二つの勾玉が弧を描くが如し…」
「うん‼それ言おうとして殴られましたけど‼ボク‼」
ツッコミが終わると同時に、10円玉が地面に落ちた。
「さ~、右か左か…好きな方から殴ってきな?アタリがでりゃ勝ちだ」
俺は両腕をトキに向かって開く。トキの目は、…落ちた10円玉に向けられていた。そして上がってきた瞳が俺と合う。そして、視線がまた落ちた。数秒して戻ってきたそこにあったのは、変わらぬ俺のイイ顔だ。
「…自らの吉格と凶格を左右の手に凝縮する事で、真紅のドクロに対抗しよ…」
「違いま~す」
俺が何をやっているのか、全く分からないんだろう。分からないながらも、考えてみるのがトキの真面目さだった。やがて一つ小さく舌打ちをする。分からない、で結論したらしい。だから何だ、こっちには真紅のドクロがあるんだぞ、と。
トキは俺の〝右〟肩に向けて拳を振り下ろした。
「何ぃ⁉」
俺は、それをあっさり左手で止めた。
そして、反対の腕をトキの隙だらけのどてっ腹に叩き込む。〝偶然〟よほどイイ所に決まったのだろう…トキの顔が苦しみ歪んだ。
後ずさったトキが足を滑らせ、転んだその場所にあったのは、〝偶然〟さっきの爆風で飛んできた金属の破片だ。それは〝偶然〟無慈悲にトキの右ももを貫いた。転んだ子供の様に痛みを絶叫して、トキは転げまわる。…危険な地面の上を。
「き、汚…そういう事か…ボクが狙う逆の手を出せばいいのだからな‼」
「違いま~す」
…あからさまに地面を見てたからなぁ。おそらくは〝右側〟から攻めるのが吉と分かっていたんだろ。すっごい単純な動きだったからからね。
そして俺はまた10円玉を指で弾き、円を描き線を引く。
「さ~、右か左か…好きな方から殴ってきな?アタリがでりゃ勝ちだ」
トキが今度は〝左〟胸を狙って手刀を繰り出す。
「な、何ぃ⁉」
…が、俺の右顔を掠めて空を切った。
反対に、クロスカウンターがトキの左頬を強打していた。トキは踏ん張るも…〝偶然〟吹き抜ける突風。それと一緒に〝偶然〟やって来た『らぶどーる・みかんちゃん』の看板が、トキの顔面に〝偶然〟見事に命中し、顔が看板を突き破った。
…って、恥ずかしい顔だしハメ看板みたくなっとんぞ。
「う、裏と表、俺にウソをついて、逆に言ってたんじゃないのか⁉」
「違いま~す」
今度は俺の〝右側〟から攻めるのが〝吉〟と分かっていたんだろうな。でも、それでもあえて逆のそのまま殴り掛かったと。躊躇が見え見えだったからな。
そしてまた、俺は10円玉を弾、こうとして、やめる。…先に看板取って。
「な、何故だ⁉何でだ⁉どうしてだ⁉」
トキが目と歯をむき出しにして吠え掛かってくる。理解不能…さっきから、見当外れな事ばーっか言って、…結果、ボロボロになってるからなぁ。やっぱりネス湖でネッシーを発見したような目で俺を見ているタマモも、同感なのだろう。
別に、そんな難しい話じゃないんだけどね。
「お前が負けるのは、イカサマしてるからさ」
さっきからこいつはず~っと下見て…裏か表か、どっちがアタリか、それ見てから攻撃をしている。そんなイカサマをしているから、勝てないんですよ?
「だから、な~んも考えずに右か左か選んで殴ってきな?50%で勝てるぞ」
「違う!違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う‼」
首がもげて飛んで行ってしまうかのような勢いで、トキは首を振り続けた。
「何故、真紅のドクロが全く役に立たない⁉」
ああ、そっちか。そりゃー
「人為が天為に勝てる訳がないだろ」
ハモった。
同じことを言って大笑いした大凶星とは真逆の、…心の底から嫌そーに、呪詛の文句が聞こえてきそうな表情で、リョウマが俺と目を合わせていた。さらに唾を地面に吐きつけて、言葉を続ける。…俺と同じなのそんなに嫌なのぉ⁉
「その真紅のドクロには幾千幾万…幾億の人々の思いが籠り、これまで数千年かけて培った八門五行の技術の粋が込められているのだろうな。…が、所詮は人為」
文字通り〝偽(いつわり)〟だよ。
「こいつのコインの裏表は、純粋に偶然。どちらが上かなど、語るべくもない」
「そ。コインの裏表とサイコロの目は、天のご意志だぜ?」
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ‼」
やっぱり納得しなかったトキを無視して、俺はコインを弾く。
「運…運…運命で全て決まるのか⁉運命には従わねばならんのか⁉作戦が失敗したのは運命か⁉ボクがキミに負けるのも運命か⁉タマモが…死ぬのも運命か‼」
大声で辺り構わずトキはがなりたてた。心の中を全て吐き出すかの様に、喚き、叫び、吠える。なりふり構わぬ魂の言葉であり、蛮声は燃え残った木々を揺らし、もしかしたら演習場にまで届いたかもしれない。
それに続いた数秒の沈黙…の最後に、コインが地面で跳ねた。
「…まぁ、そーだねぇ」
「そんなのボクは認めないぃぃ‼」
結局、トキは最後まで運命に身を委ねようとはしなかった。
「だから、お前は負けんだよ」
トキが狙ったのは〝真ん中〟…どイカサマだった。
それは、かざしただけの俺の手に当って滑り、〝偶然〟斜め前のめりに体勢を崩す。…結果〝偶然〟ぴったり目の前に現れた右顎を俺の拳が捕えた。その打ち所は〝偶然〟最高に良く、脳震盪を起こしたトキは吸い込まれる様に地面に倒れた。
そして、もう立ち上がらなかった。
「運命なんて…ぼ、ボクは、そんな物に…負ける…わけに…は…」
「トキぃいいい‼」
トキの震える手が掴もうとして、その横をすり抜けた真紅のドクロは、もうその輝きを失っていた。代わりにトキの手が掴んだのは、強く握り返してくるタマモの両手…タマモは何も言わずに、ただ涙を流してトキの体を抱きしめていた。
…その隣では、何事もなかったよーにリョウマがドクロを回収している。
タマモの膝枕に頭を沈めるトキの涙が止まらない。何か言葉を吐き出そうとして荒々しく息を吐いているが、時々咳込むだけで言葉は出てこなかった。そこにあるのは屈辱ではなく、ただ悲しみ。最愛の人が死んでしまう事への。
…その隣では、何事もなかったよーにリョウマがアンさんに連絡している。
それってやばくね?首をかしげて振り返った俺と、絶望に青ざめる二人の目が合う。トキは間違いなく逮捕される。テロリストだから当然だけど。それから逃れる為の最低条件は〝今、リョウマと戦って勝利する〟だった。…むり。
…そして、リョウマは何事もなかったよーにトキの後ろ襟をつかみあげる。
「爆発物を仕掛け、テロリストと破壊活動…20年は刑務所暮らしだろうな」
「イヤじゃ‼」
タマモはひったくる様に強く、トキの体を奪い取って抱きかかえた。
「もう…もう、わしはこやつと離れとうないのじゃ‼」
「安心しろ。二人とも逮捕だ」
…あれ?
「ダメだ、タマモ…ボクは、もう、これ以上、キミを不幸に…できない…」
「おぬしを失う以上の不幸など、ある筈がなかろう‼」
…おや?
「せめて…せめて、僕の死で守らせて…キミだけは生きてくれ‼」
「イヤじゃイヤじゃ‼おぬしを失ったら、わしは死ぬ!生きていけぬ‼」
…これって?
…あの、まさか俺がリョウマと戦わなくちゃいけない雰囲気?いや、だから、無理だからね?おそるおそる振り向くと、そこにあったのは美しすぎるゴミを見下ろす顔、だった。かばいあう二人を前にしても1㎜も変わらない。
「もう、わしを救わなくてもいいのじゃ‼」
「…そうだよね。ボクにキミを救う事なんて…」
「もう、治っておるのじゃ!わしの病は‼」
「………へ?」
トキの、時が止まった。
「この前、警察病院で調べて貰った時…何もなかったのじゃ。わしの体の死の病が、影も形も…それこそ、初めから無かったように消え去っていたのじゃ!」
…ああ、だから「わしなら戦いを止められる」って言ってたんか…
トキの涙はもう止まっていた。…が、それは愛する人が助かった事を喜ぶ顔ではない。ただただ困惑。引きつった顔を俺に向けてくるも、答えは返ってこない。
愛した女がもうじき、絶対に確実に逃れよう無く、死んでしまうと分かった気持ち。あがいて、あがいて、あがいていたその心の底では、タマモの死の病が治る事は〝ない〟と思っていた気持ち。それが治った。あっさりと。その気持ち。
トキの悩みなんて、俺には想像もできなかった。
「彼女いない歴が年齢だからな」
「そんな話はしてねぇ‼」
今、ちょっといいこと考えてましたよ⁉ボク‼
「な、…何で?」
それに答えられる人間が、…いた。
「俺と同じ〝能力(ちから)〟の奴に触れられたんだろぉ?」
言葉と共に現れた、その血まみれの人物は、
…いや、比喩とかじゃないから‼本当に血で赤黒く染まっていない場所が無いけど⁉それで何で生きているのか、と言えば〝大凶星〟だからなのだろう。ガレキの山に押しつぶされたくらいで死んでいたら、俺は毎日死んでいるぜ。とゆー
「お前と同じ?」
「…あー…いや、正確には真逆か?触れただけで傷を癒してしまう能力。世間で、神の奇跡とか心霊治療とか呼ばれてるアレだけどさ。心当たり、無いか?」
こいつと真逆の…
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼」
セーコちゃんか‼
真逆で思いつく人間は一人しかいなかった。〝大吉星〟セーコちゃん。リョウマの許嫁だ。そーいえば、タマモを捕まえた夜…お腹と背中をさすってたわ。彼女。
「…あの『痛いの痛いの飛んでけ~』かよ…マジで」
「ちなみに俺は、触れただけで人を死の病にできる」
「手前ぇ!絶対ぇ俺に触れるなよ‼」
「…ほ~ら、タッチタッチぃ!タッチしちゃうぞ~ぉ!」
「バ~~~リヤ‼バリヤしたから効きません‼無効です‼」
「いい大人がバリヤとかゆーでない‼」
指をニギニギして追いかける大凶星と、両掌をかざしてそれを防ごうとする俺、それを叱りつけるタマモ。…そして、ただ空を見上げるだけのトキ。トキの目からは、もう完全に光が消えていた。うわ言の様に何かを呟き続けている。
「そ、それだけで、消えたのか…?」
…まぁ、口で言われても信じられんだろうなぁ。
大凶星の〝能力(ちから)〟を目の前でまざまざと見せつけられた俺としては、力強く納得できたのだけど。…だって、あいつが触れただけで〝運悪く〟柱とか床とか建物とかが、グニャグニャに歪んで崩れ去ったからな。
そら、死の病くらい〝運良く〟治るさ。うん。
「…何で、もっと早く言ってくれなかったんだ…?」
いや、説明しようとしてたよね?
俺がそのツッコミを入れなかったのは、世間の顰蹙を買うからではない。…それどころじゃないからだ。この二人を助ける為にリョウマと戦うか…って、今さら考えるまでもない事だけどな。すでにポケットにある、自分の手に苦笑する。
そして、俺はいつもの様に10円玉を取り出した。
「あれ?」
リョウマが、いねぇ。
はずみで指で弾いた10円玉を、すぐにつかみ取る。タマモとトキの前に立っていた、俺の目の前にいた筈のリョウマがいない。首を左右に振っても、廃墟しか見当たらない。首を伸ばしてみても、ケイが未だ蹲っているのが分かるくらいだ。
いっそ、遥か遠~~~くを見てみると、…いた。20m以上離れた、そこはこの部屋の入口。足元にあるあの扉は、忘れもしない俺達の命の恩扉だった。
「あの、…どこ行くの?」
「逃げる」
「は?」
「そこの大凶星と戦いたくないからな」
ご指名とばかりに立ち上がろうとして、大凶星はその場に崩れた。…まぁ、どう見ても一番の重傷者だから。それでも、こいつは存在自体が〝大凶〟だ。絶対に勝てる戦いしかしない主義のリョウマには『逃げる』以外の選択肢がないようだ。
「…えーと、この二人は?」
「そのゴミに何か価値があるのか?」
「…えーと、自衛隊とか米軍とか呼ばないの?」
「バカ、だったな。貴様は」
なにその新バージョン⁉
「大凶星とそれらを戦わせないように、止めていたのだろうが」
…あ、そっか。
有言実行でゴミでも見るように吐き捨てられて、俺は納得し、トキの顔が屈辱に歪んだ。こいつの戦略目標に『大凶星の死』が無い以上、真紅のドクロを手に入れただけで十分目的達成なのだろう。…もはや輝く事の無い、ただの工芸品だけど。
「…わしらは、このまま逃げていいのか?アユム」
「えーと…うん。よし!ハッピーエンドだな‼」
「…ボクのやってきたことは、一体、何なんだろう…」
「無駄な努力だな」
ちょっと言葉を選んであげて‼
(おしまい)
運命の駒たち 最強のニンジャマスターVS最凶のサムライマスター まさ @goldenballmasa
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