第8話 ついに来た、直接対決の日


 ニンジャが落とした雷を、サムライが刀で受け流した。


 「ほう、雷も受け止められるのだな」

 「たりめーだ…サムライマスターをナメるなよ‼」

 「………」


 いや、ふつー死ぬからね‼


 全く〝当たり前〟じゃねーよ‼っつか、どんだけ偶然が重なれば、雷を落とせんだよ⁉そして、どんだけ偶然が重なれば、雷の直撃受けても死なないんだよ⁉

 良い子も悪い子も、決して真似をしてはいけません‼


 「よし…あのラーメン屋を燃やして陽動するか」

 「人んち壊すんじゃねぇぇぇええええええ‼」


 「おお!仙人、助けに来てくれたのか⁉」

 「やべぇ、見つかった‼」

 「…今、何て?」

 俺はブンブン首を振って愛想笑いでごまかした。…俺の、ツッコミ魂が憎い。


 俺を見つけるなり、厳しく険だらけだったカクの顔が一気にドロっと緩む。そうとうホッっとしたんだろうなぁ。慌てて刀を前方に構え直した右目には炎の様な青色が灯り、さわやかイケメンスマイルでニカっと笑って、真っ白い歯を見せる。


 …勿論、俺には助けに来る気なんてなかった。


 それが何でここにいるのか。…俺を見るアンさんの顔は、完璧な営業スマイルだった。そこには、俺をまんまと罠にはめた、悪女の片鱗も見つける事ができない。


 俺は、ナビゲーション通りに進んだだけ。…つまり、ナビゲーションを細工されたんだ。俺がリョウマの元に向かわない道を進んでると見るや、改竄したのだろう。地下道のMAPは広く、拡大していたから、非表示部分は幾らでも変えられる。


 これには一つ前提があるのだけど。つまり〝俺がどこにいるのか〟知るという。


 「…ま、コレだろうな」

 苦々しく、腰に下がる棒を見る。この『あおぐろいぼう』は、あの深紅のドクロと同じ〝大星石〟だからな。…星石レーダーでは、一番目立ってるだろうよ。

 …ほんと、ただの厄介者だな!こいつ‼


 「おい、リョウマ!」

 「なんだ?」


 …えーと…


 「総理に言われただろ⁉『みんな仲良く』って‼」

 「俺が、あんなゴミの言う事を聞く男に見えるのか?」

 「………」


 見えねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼


 見える筈がねぇ‼それ以前に、こいつ他人の言う事なんて聞かねぇよ‼天上天下優雅独尊…自分の判断が最も優れていると思っているんだから‼


 「じゃ、じゃあ、何であの時は退いたんだよ⁉」

 「各個撃破した方が有効だろうが」

 「………うん」

 「あの場でサムライ全てを相手にするより、被害が少なく、勝率も高い」

 「………」


 やべぇ‼余りに正論過ぎて返す言葉がねぇ‼


 あーーー、腹立つ…この透き通る様な真っ白い澄まし顔に、油性マジックで落ちない落書きをしてやりてぇ…歯ぎしりする俺の肩を、カクが後ろからポンと叩く。

 「ありがとな、かばってくれて」

 「かばってねーーーーーーーーーー‼」

 「ん?今、なんて…」

 俺はまたブンブン頭を振ってゴマかす。…ツッコミ癖なんとかしようぜ、俺よ。


 辺りを見回すと…ラーメン屋がいっぱいあるな…どこかの駅前なんだろうか?色々と散乱し、人っ子一人いない今の状況では、ちょっと想像できなかった。おそらくは、アンさんがポリに手を回して、周囲の人間を避難させたんだろうな。


 …ってゆーと良い事みたいだけど、実は単なる上司による暴力行為の目撃者排除。ハナからカクと同行していたので、暴力行為の前に全ては終わっていただろう。と言うより、そもそもアンさんが同行していたからカクが最初の獲物にされたのか。


 あれ?ケイが一緒にいるな。


 「スケさんと一緒じゃなかったけ?」

 「…ビル出たら、すぐに別れたっすよ」

 ぶっきらぼうにそう答えた3秒後、ケイはポニーテイルを振り乱して振り返る。


 「しょ、しょうがないじゃん⁉だって、だって勝手にどんどん一人で」

 …その言い訳の量とか、アンさんから離れた場所にいるとか、俺を盾に隠れてアンさんの顔をチラチラ覗いているとか、…まぁ、アンさんの指示に背いたらどうなるかは俺も身をもって知ってるから気持ちは分かるけどさ。

 …こっちに向けてる、その笑みが怖い…


 「まぁ、リョウマは全く気にしてないからいいんじゃね?」

 そのリョウマがこちらを見ると、ケイは手の平返しで、口元と目元を緩めて顔中を赤く染める。…そうさせるだけの、美しさがあいつにはあるからな。…不思議なのは、アレだけ女性的な美しさの極みにあるようで男以外の性別を感じさせない。

 服装は、あのニンジャ屋敷の魔王の間(…どこだよ)と同じ純白の忍者装束だ。首元には色とりどりの星石鎖が3本?勾玉みたいに光っている。

 最大の星石は白いハチマキの下の〝ウソつきを殺す石〟なのだけど。


 「仙人殿、助太刀、感謝する!」

 俺のそれまでのツッコミも、ツッコミの言葉さえなくなって沈黙した事も、最大限好意的に曲解して、カクがちょっと困り顔で笑っている。

 こいつって、友達にしたらイイヤツなんだろうなぁ…


 「だが、もういい!サムライマスターの力を見せてやるぞ‼」

 咆哮を上げたカクの右目は眩しいほどに光を発し、その長髪は太陽コロナの様に逆立ってなびく。両手を大きく開いたコートの中に覗いているのが、サラリーマンの様なシャツとネクタイなのは、さっきまで迎賓される正装だったからだろうか。

 ただ、その手に持つのは紛れもなく日本刀である。


 一方、リョウマはクナイ…というか『星石が握りの先端についた刃物』を握る。

 「青星石を北、白星石を南、黒星石を北西と北東に」


 投げ終わると、次次に首にかけた勾玉の様な星石鎖を足元に配する。

 「北東に死門、北西に杜門、南に驚門、北に景門」


 リョウマは、ただ静かに刀を天に向けてかざした。その先を視線で追うと、…黒雲が急速に集まっている。瞬間、爪先から背中へと急激な寒気が登って行った。


 「雷神剣」

 「軍茶利明王ぉぉぉおおおおおおお‼」

 リョウマが振り下ろす軌道に合わせるように、空から雷が降り注いだ。その軌道は、…カクの飛び退く、さらに左だ。『攻撃する相手が〝偶然〟見えなくなる』…軍茶利明王の構えは雷神剣相手でも効果があるらしい。


 「南に死門、北に休門、東に生門、西に杜門」

〝コ〟の字に組んだ軍茶利明王の体制のまま、カクは頭を抱えるような姿勢で路面を転げまわる。その痛みに歪めた顔が、声の方向へ視線を上げると、そこではまたも足元に星石鎖を配し、リョウマが仕込んだ何かを喉を上げて飲み干していた。

 次の瞬間、リョウマが火炎を噴き出した。


 「火遁、コノハナサクヤ」

 大道芸人か、お前は‼


 リョウマの口から噴き出された火炎は広範囲に広がって、まるで舞い散る桜の花びらのようにカクめがけて降り注ぐ。広い…直径5メートルはあるんじゃ…それは、とても一振りの刀では防げないように思われた。


 カクは赤い脇差を抜き放つ。

 「…不動明王よ、我を護り給え」

 左手に赤い脇差を掲げたまま、右の長刀を腰に差した場所に構えて、細く長く息を吐く。五秒、そこで息を止め、カクは右の長刀を豪速で振り切った。それは火の粉が届くより遥かに早かったが、…火の粉は全て、その刀に纏われていた。


 「全て防ぐとはな」

 その呟きで場所が知れる。全ての炎をその刃に纏ったまま、地面を一つ、二つ、三つと右斜めに蹴る。その先でさらに後ろへ後ろへと飛ぶリョウマに向けて、必勝の笑みを浮かべてカクが、脇差を捨てて両手で燃え上がる刀を振り上げる。

 「その距離で、撃てるのか」

 「不動明王ぉ」


 …何だ?この違和感…


 「斬ぃ」

 「ふせろ‼」


 突然の絶叫だった。驚いたカクは踏み込んだ足を滑らせ、踵から前に滑るようにその場に尻もちをつき、悲鳴を上げた。…その尻の痛みではなく、両腕から流れる赤い血の痛みだ。…いや、腕だけじゃねぇ、体のいたる所、十数か所…

 そのカミソリのような切り傷は、首筋にさえ赤い糸を引いていた。

 カクは咄嗟に立ち上がろうとして、また体を切られる。歯を食いしばってそれに耐えつつ、ゆっくりと慎重に上がっていく右手が、何かに触れた。


 「これは…糸…ワイヤー?…バカな、こんなモノで…」

 「〝こんなモノ〟でも斬れるように、〝偶然〟を積み重ねるのだろうが」

 どんだけ偶然積み重ねたら糸で体が斬れるんすか⁉


 〝糸の檻〟…とでも言えばいいんだろうか?血が滴り、弛んだり、切れたりして、ようやく僅かながら目視できる。それを辿っていくと…必ずクナイが刺さってるな。あの手裏剣のどこかに星石が仕込まれていて〝運命〟を操っているのか。

 …その檻に、まんまと猛獣を誘きいれた訳だ。


 「そこのバカが声を出さなければ、首が落ちたのだがな」


 勿論、俺はこんな必殺仕事人みたいなトラップなんて知らない。見えもしない。…ただ、違和感を感じた。〝あの〟リョウマにしては多すぎる口数に。わざわざ星石配置を説明し、相手の能力を褒めるようなセリフを吐く。

 今は、無言で俺を見下ろし、その黄金色の瞳は俺の全身を捉えていた。


 「…何故、止めた?」

 「いや、そらヒトゴロシは止めるでしょ⁉」

 「ふむ」

 即断即決、常に不動の答えを用意しているリョウマらしくもなく、指先を顎に当てて何やら考え込んだ。視線を左、右、と動かして、俺へと戻す。


 「つまり、俺の前で八門五行の悪用に加担する…そういうことか」

 「………」

 へ?


 「えええええええええええええええええええええええええ⁉」

 それが自分への死刑判決だと分かり、危うく俺は尻もちをつきかけて、反腰で二歩後ろに下がった。溢れ出す脂汗をぬぐいつつ、反対の手はポケットの小銭を意味もなく中で転がす。…その前で、リョウマは顔を抑えて俯いていた。


 「はーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ‼」

 笑った。


 あの、リョウマが笑っていた。それは一片の『陰』もない、完全なる『陽』の笑いだ。侮蔑だとか嫉妬だとか嫌味だとか、そんな感情が全くない。と言って、子供のように無邪気という訳でもなく…なんか、本当、明るく高らかなら笑い…だな。


 「…リョウマ様が…笑って…」

 油の切れたブリキのおもちゃのように、ギシギシぎこちなく振り返る。そこでは、アンさんが今までに見た事のない顔をしていた。…何、萌えてんだよ。おい…顔を赤らめて、困った様に眉をしかめつつ、口元には紛れもなく笑みが浮かぶ。

 ケイはちゃんと、俺と同じ『UMAを見る目』をしてるな。うん。


 …一体、どれくらいの間、笑っていたんだろうか…十秒と言われればそんな気も、十分と言われればそんな気も、する…リョウマがようやく笑い終わった。


 「…これで、貴様を殺す理由ができたな」

 すっげぇイイ顔‼


 「俺、お前にそこまで嫌われる何かをしたっけぇ⁉」

 「胸に手を当てて考えてみろ」

 「………」

 すんません。


 「分かったら、死ね」

 「やだよ‼」

 納得はできたが、納得できねぇ‼


 すでにいつもの無表情に戻っているリョウマは、そう吐き捨てると刀を俺に向けて構える。…あの刀は、間違いなく俺の首を切り落とす為に振り下ろされるんだな。自分に向けられる殺意に、1%の疑問の余地もない俺は、慎重に距離をとる。


 …こいつと直接対決する日が、今日だなんて聞いてねぇ‼


 「撃ちなさい、ケイ」

 「…え?」

 いきなりのその言葉を、危うく俺は聞き逃しかけた。慌てて振り返ったそこでは、アンさんが部下に「コピーをお願い」くらいの感じでそう言っていたのだ。目にかかった髪を横に流す仕草と、俺の視線が重なる。

 …アンさんはいつもと同じように微笑んだ。


 「残念ですが、仙人様はリョウマ様の敵になりました」

 「で、でも、…でも」

 言われて銃を握ったケイだが、震えの余り、今にも落としそうだった。俺に向けた顔は…もう泣きそうだ。人殺しとか、できる筈ない。ポニーテイルを振り乱し、助けを求めて皆の顔を追いかける。…いや、俺に助けを求められても困るがな。


 「撃てないっすよぉ‼」

 「足を撃てばいいのよ」


 ぱんっ


 「よくねぇぇぇぇぇええええええええええええええええ‼」


 無造作に銃を取り上げ、無造作に引き金を引く。なんかもーすでにその危機を予想していた俺は、十分な余裕をもって後ろに飛び退いていた…のだが、これは…

 「牽制か‼…表!」


 右を向くと、リョウマがすでに最後の一歩を踏み込もうとしていた。その動きに合わせて、俺は5円の棒金を握った右手を振る。咄嗟に急ブレーキをかけて、リョウマは後ろに飛び退いた。俺の手の内で、まだ銭剣は伸びていない。


 「…やっぱ、2分の1の賭けはしないか」

 そう呟いた俺の左手には、まんま賭け事の道具が握られていた。


 「手前ぇに出るサイの目は…」

 「賽卦五行殺、か」

 俺の指からサイコロが弾かれる…それから一瞬たりとも目を離さずに、リョウマの手は首に下げていた星石鎖を超高速で何やら細工している。そして、サイコロが地面に落ちる一瞬前にその星石鎖を自分の足元に配する。


 「………」

 仙人による運命は天為…変えられない〝天命〟なんじゃないの?

 

 「凶だ‼」

 そして、サイコロは止まった。


 「三式、火行‼」

 「玄武の陣、水剋」

 不意に、背後の炎がリョウマに襲い掛かる。…それを、完璧に予測した動きでリョウマは右手の甲をかざして受け、流された炎は後方へと飛んで行った。


 「きゃああああああああああ⁉熱い!熱い‼熱いぃぃぃいいいいいい⁉」

 …炎は、吸い込まれるようにケイの元へと飛んでいき、背中に燃え移った。途端に背中で燃え上がる炎を必死に消そうと転げまわるケイ、アンさんも何とか消そうと上着を脱いでその身を叩いた。…相変わらずの火難の相だなぁ。

 絶対に回避不能の〝天命〟は、その通りリョウマに当たって…どっか行った。


 「不運が襲い掛かってくるなら、その不運が進む道を作ってやれば済む」

 「………」

 …いや、その理屈はおかしくね?


 「風神剣」

 考える暇なんてなかった。リョウマの振った刃先から走ったつむじ風が、辺りの風を食らう様に巨大化していく。…さすがに、前と違って〝竜巻〟と呼ぶ程ではない。空に黒雲とか呼んでないしね。ブーストアイテムを使ってないからか。

 …ただ、炎を巻き込んでとんでもない事になってるけど。って、こっち来たぁ⁉


 「表が出たら斬れる、裏が出たら斬れない!」

 宣言して、俺は5円の銭剣を振るう。刹那、つむじ風は掻き消えた。


 「ほぅ…風も斬れるのか…」

 その向こうに、リョウマはいなかった。声はそこから大きく左…どうやら、俺がつむじ風を避けると思ってそこで待ち構えていたらしい。


 「手前ぇに出るサイの目は…」

 また俺の指からサイコロが弾かれ、…またリョウマはそれから一瞬たりとも目を離さずに星石鎖を目にも止まらぬ速さで揃えていく。…そしてまた、サイコロが地面に落ちる一瞬前にそれを自分の足元に配し、クナイを2本左右に投げた。


 「凶だ‼」

 そして、サイコロは止まる。


 「六式、金行!」

 「玄武の陣、火剋」

 先程のつむじ風で巻き上げられたのか、破壊されたのか、空からリョウマめがけて鉄パイプやら一斗缶やらが降り注いだ。…いや、リョウマめがけて、じゃないな。それらは全てリョウマの左手のクナイを目指していた。

 リョウマが手放すと、それを押し潰さんと落下物の皆さんが降り注ぐ。まるでそのクナイに恨みがあるかのように、集中して、執拗に、徹底的に。

 絶対に回避不能の〝天命〟は、その通りリョウマに当たって…どっか行った。


 「不運が襲ってくるなら、その不運を何かに押し付けてしまえばいいだけだ」

 「………」

 …いや、だから、その理屈はおかしいだろ…


 「何だ?言いたい事があるなら、言え」

 「…何で、出る目が分かるの?」


 いや、確かに、例えば今なら『金行の攻撃が来るから、火剋の備えをすればいい』というのは分かるのだけどさ、それは『次に出る目が分かっている』というのが条件なのではなかろうか。何それ?未来予測?


 「バカか?貴様は」

 …俺のこの至極まっとうな問いに、リョウマは心の底から蔑んだ目を向けた。


 「サイコロの角度、そして回転、後は落ちる地面を見れば分かるだろうが」

 「………」

 いや、分かんないよ⁉


 「その状況でほぼ一択。…どんなに多くても二択に絞れる」

 …えー、確かに理屈はそうかもしれないし、サイコロ投げた時のリョウマの態度もそれを示唆しているのだけどさ、…それって、頭に銃を突きつけられながら、十桁の暗算をしつつ、ルービックキューブを完成する様なものではないのだろうか…


 リョウマは絶対に勝つ戦いしかしない。つまり『サイの目を読む』とゆー昭和のバクチ打ちみたいな訓練を、勝利の確信が持てるまでやったって事か…


 「………」

 つまり、見えないように投げればいいんじゃね?


 ぽろっ


 俺はこっそりとサイコロを地面に落とした。出た目は…

 「げ、『1』だ」

 どげしっ

 「いでぇぇええええええええええ‼」


 どこからともなく飛んできた看板が、俺の顔面を直撃した。その角が深々と俺の頬をめり込ませ、その重量が俺の体を浮き上がらせて放り投げる。勢い良く俺は顔面から地面に激突し、錐もみ3回転してから、地面を転がった。

 鼻血を垂らして起き上がろうとした、その前に刀が突き付けられていた。


 「クズに似合いの末路だな」

 「………くっ」


 「ハンニャデース!ハンニャが出まシタヨ~!」

 そこに、シルバが駆けつけてきた。日本晴れの上天気で現れた彼女の顔が、だんだんと嵐の前触れの様にどんより曇っていく…どういう状況か、分からないんだろうな…何か、壁がありますよパントマイムみたいな不思議な動きをしてる…

 リョウマが、心の底から鬱陶しそうにため息を吐き出した。


 「…何だ?」

 「ギ、ギンの字さんが、ハンニャに襲われマシタ‼」

 「それがどうした」

 …えええええええええええええええええええええええええ⁉


 「いや、ハンニャ捕らえるのが目的っすよね⁉この騒動‼」

 「当たり前だ」

 「じゃあ、別地域にハンニャが出た時点で、こいつは無罪じゃねーの⁉」

 あと俺も。


 「その理屈が通るなら、共犯者に般若の面を被せれば、全て無罪か?」

 「………」

 ぐぅの音もでねぇ。


 「カクという男と、ギンという男が共犯の可能性もあるだろ」

 「あー、アタシもそれ賛成~」

 それは救いの女神の声、ではなかった。


 「〝あの刀〟を使える者が、次の長になるんだからねぇ」

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