第7話 まっくらやみな俺の進む道
「どうぞ」
おじーちゃんがソファーに腰かけた、その3秒後にはその前に湯気立つコーヒーが置かれる。絶妙なそれは、言うまでもなくアンさんの仕事だ。
そのまま自然な動きでサムライの皆さんへも飲み物を手渡していく。さっきまで殺し合いをしていた相手なのだけど、その1㎜の他意も見えない100%の営業スマイルで勧められるコーヒーを拒む者はいなかった。
それは敗者の側にも配られ、冷え切った心を温めながら行き渡っていく。
…俺を除いて。
「申し訳ございません。…お茶っ葉がなくなってしまいまして」
みんなコーヒー飲んでね⁉
「缶でよろしければ、ミートソースがございます」
それ飲みもんじゃねぇ‼
「水が飲みたきゃ、そこのパイプから出せばええやろ?」
汚水だ!それは‼
「モニターをご覧ください」
もはや、ふつーにアンさんは全体の取りまとめの位置に納まっていた。勝者であり機材の提供側の筈の眼帯が、完全お手伝いの立ち位置だからな。
「…ヤシチ~、早くしてよねぇ。このノロマ」
スマホに落とした視線は1㎜も上げずに、スケさんが暴言を吐く。じ~さんとは反対側のソファーの肘置きに背をもたれかけ、黒いコートの中のミニスカートをひらひらさせて足を投げ、靴も脱がずにソファーに足を投げ出している。
…そして今、すっごい露骨に舌打ちしたぞ…眼帯は何もしてない。別に無視している訳でもない。ただ〝大人〟の態度で流しただけなのだけども…
その舌打ちにコーヒーの水面を波立たせたカクさんが、逃げ道を探して視線を泳がせている内に、不意に俺達と目を合わせて、…気まずそうにそっぽを向く。その隣では、ギンが同じく顔をしかめて俺達を白い目で見ていた。
「ハッ!なにビクついてんじゃ?ったく、勝者なら堂々としてればええがな」
…ほぼ裸みたいな恰好で大股開きに座る、ひょっとこにドン引きしてるんすよ?
巨大モニターに映し出されたのは東京周辺。宇宙から見た都市の明かりの写真?小さな赤い点の模様みたいなもんはなんだ?…じ~さんの言った『風水を使って、星石の場所を見つけ出す』ってのが、モニターに映るこれなんだろうなぁ。
数多くの光点の中、あからさまに大きく輝く場所がある。
「分かりました‼そこに〝十咫の剣〟があるんですね‼」
…いや、それ、
自信満々で指さした赤忍者以外、誰もがそう思ったに違いない。…考えてみれば、当たり前だな。多分、今、ここ程〝星石〟が集まっている場所がない。ニンジャの星石倉庫があるだろうし、目下サムライたちが大集結中だ。
ついでに俺の…アレ、もあるしな。
「そういった場所を除外したのが、コチラです」
地図上の光点が消えた、次の瞬間、4つ…いや、5つの光点だけが再点灯する。
「皆様には、この〝クサい場所〟を捜索して頂きます」
ちょうど山手線の楕円くらいか?…広いなぁ。人の活動範囲を考えれば当たり前なんだろうか?北に一つ、東に一つ、南東に一つ、そして円の内部に二つ。
「…めんどくさ~い。アタシ、パス」
「そういうわけにはいかないだろ?スケさん」
聞き分けのない子供を宥めるように、気持ち距離をとって眼帯が諫めた。寝そべったまま眼帯に視線をやったスケさんの細い視線を、眼帯はたじろぎもせずに受け止めている。やがて、一つため息をつくと彼女は立ち上がる。
「…ふん。じゃあ行くよ、ヤシチ」
「いや?俺は一緒に行かないぞ?」
「はぁ⁉」
いきなりスケさんがキレたのと同時に、タンっと地面をつく乾いた音が響く。
「政治上、〝協力〟の姿勢を見せねばならぬじゃろ」
それはじ~さんの刀の先、鞘の先端が地面を打った音だった。先に首相を政治利用した手前があるんだろうか、その表情は険しく、眼光は鋭い。…それを半分隠すように組んだ両手を柄の上にのせて、ソファーに深々と腰をうずめていた。
…コンの隣で。
「とゆーわけで、ワシはこのお嬢さんと一緒に行こうと思う」
「ぁああん⁉逝きたいってんなら、一発で天国に逝かせたろかコラァ‼」
こめかみに銃を突きつけんな‼
改めてサムライとニンジャの2人1組パーティが作られる事となったのだけど…彼女に近づく者は、一人もいなかった。…なんかもー明らかに不機嫌だもん。眼帯が一緒に行かないと言ったのが、そこまで気分を害すことなんだろうか…
「…あんたが彼女と一緒に行ってくださいよ」
「なんでだよ、ケイ?」
「女好きでしょ、あんた!彼女、可愛いっすよ!」
可愛い?…と言われて向かった俺の視線は、…汚物を見下ろすスケさんの視線とぶつかった。あの…可愛く、ないっすよ?眉間と顎にすっごいシワ寄ってますよね?…なんかもー気分は町でヤンキーにカツアゲされてるみたいなんすけど…
振り返ると、シルバとコンまでが俺にすっごい圧力をかけていた。まぁ…そら、一緒に行きたくない気持ちはわかるけども。唯一、この中で…本当に〝殺し〟をしようとしたのがスケさんだからな。しかも、対象は彼女たちだ。
「…ケイ、あなたが行きなさい」
「ええええええええええええええええええええええええええええ⁉」
人を呪わば穴二つ。
奇声を発した3秒後、ケイは顔を真っ赤にして不思議な踊りを踊っていた。あそこまで露骨に大声で、拒絶を表現しちまったからなぁ。
しかし、ケイに『アンさんに逆らう』とゆー選択肢はなかった。
「りょりょりょ、了解であります‼ご一緒させてありがとうであります‼」
精一杯の気持ちだけが空回りした、よくわからない敬礼。ただ、それは非難されなかった。スケさんはず~~~っと違う方向へガンくれてたから。
その視線の先では、キョウが眼帯へと駆け寄っていた。
「私とあなたは、ご縁があるみたいで」
つるっ
「あ、危ない‼」
いきなり、目の前で赤忍者がすっころび、持っていた飛んでいくコーヒーカップは、まるで眼帯をよけるように左へずれて…後ろにいたカクさんを直撃した。
「ぎぃやぁぁぁああああああああ‼熱っ熱いぃぃぃいいいいいい‼」
社交辞令なのかナンパなのか、アンさんに「お綺麗ですね」とか歯をキラリで話しかけていた、その顔面を熱湯が打ち据えて、火傷した顔をかきむしるように悶絶する。慌てて駆け寄ったギンの顔を殴りつけ、ギンが手放したカップが…大惨事。
…眼帯、これから可哀想だなぁ。
結局、じ~さんはコンと北へ。スケさんとケイが東。眼帯とキョウが南東へ行き、中の2か所は、ギンとシルバ、そしてカクとアンさんがそれぞれ受け持つ。
「これで、5か所の〝クサい所〟全てが決まりましたね」
「………」
俺は?
「仙人さまは、地下の汚水処理施設をお願いします」
アンさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん⁉
「俺だけ〝クサい〟の意図が違くね⁉」
「…確かに、ここの確率は0.000000000000001%以下ですが」
ほぼゼロじゃねーか‼
「仙人さまは我々の最高戦力。どこにでも行けるよう、中央で待機ください」
「中央ってか、すっごい北東に偏ってね?」
「はい………そうですね」
言い訳を諦めんな‼
言葉をなくして立ち尽くす俺の後ろでは、皆さんが何事もなかったよーに各々のクサい場所へと向かっていた。…えー、と振り返った顔が戻ったそこには、誰もいない…魔王の間のよーな広すぎるへの階段下に、俺は一人ぽつんと残された。
暫く無表情だった俺は、ポケットから10円を取り出した。
「表が出たら行く。裏が出たら行かない」
指に弾かれた十円玉は弧を描いて、後ろに落ちた。
「…表か」
はぁぁあああああ…しゃーない。行くか。
「………」
いや、下水道ってどーやって行くんだよ、おい。
あっさりと詰んで、途方に暮れかけた俺の前に、タブレットがちょこんと鎮座していた。なんともなく見たそれには、…うん。映し出されているのは巨大モニターと同じ東京の地図で、俺の目的地まで線が引かれていた。
ぶっちゃけ、カーナビだな。これは。さすがはアンさん、手回しがいい。
…って事で、タクシーを呼んでこれを見せて、目的地まで連れて行って貰うことにした。これは俺らしくない、非常に名案のように思われた。事実、地図を見せるとタクシーは目的地まで最短距離で俺を届けてくれたのだから。
「22690円です」
「………」
うん。やっぱ名案じゃなかった。
…やべぇ、手持ちがねぇ…俺が持つ一番高価なアイテムは…〝あおぐろいぼう〟だな。これを代金の代わりに渡すか?…いや、それ、ただの変態じゃねーか。
「あの…すんません、このタブレットを売れば2万くらいになると思うんで」
「へ?あ、いや、あのオフィスからの依頼は、全て後払いだから」
なんだよぉ。
サインだけして、俺は牢獄から解き放たれたように大きく空に向かって伸びをする。う~ん…いい天気だ。ここがどこかと言えば…オフィス街だな。うん。…いや、見たまんまってさ、ただタクシーが走るがままに来たんだから、知らんがな。
確かなのは、俺の目の前にマンホールがあるという事実だ。
「………」
いや、ポリの小屋の前じゃねーか。
ちょっとオシャレな外観だけど、『KOBAN』って書いてあるがな!硝子戸の中を覗いてみると、簡易な机と椅子に電話と地図…うん、俺が時々ご厄介になる、あそこだ。こんなとこでマンホールを開けようとしたらどうなるんだろう…
「うおりゃぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ‼」
「キミ…一体、何をしているんだい?」
ふつーに職質されたよ‼
「ええと、マンホールの蓋を開けようとしてます。はい」
「…だから、その理由を聞いてるの!」
「ええと…下水道のココに行く為に、このマンホールから行けって」
「…こんな所に?何で?許可証とかあるの?誰の指示?」
「ニンジャマスターの命令?」
「す、すすすす、すんまんした‼公務、ご苦労様であります‼」
…あいつは、何をしたらここまで怯えられるんだろうか。
「…あれ?でも、ここに行きたいなら、このマンホール全く関係ないけど」
「へ?」
「もっと近くのマンホールから入ればいいのでは」
アンさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん⁉
警官に渡された地図の通りに…電車で駅二つ、歓楽街の路地。真っ昼間で、人通りの殆どないその道の中央に、工事中の立ち入り禁止板が立てかけられていた。
…さっきの場所、全然関係ねぇよ‼
覗いてみると、すでにマンホールは空けられていた。ポリだろうか?至れり尽くせりだな。…結果的に、ポリに職質されてよかったのか?ここに着いたとして、マンホールの開け方とか分かんねーし。それを見越してあの場所を指示した…
「………」
うん。深く考えるのはよそう。
『汚水』と書かれたマンホールの中は…やっぱ、匂うな…意を決して降りようと手すりを掴むと…ヌメヌメしてる気がする…ようやく足がついてみれば…うわぁ、濡れた…たった数mで、俺の心は足元の汚水よりもどんよりドブ色だった。
そして、俺は下水へと降り立ち、気づいた。
「…明かりがねぇ」
溜息を吐いて見上げると、円。雲一つない青空からは、憎らしい程に光が差し込んできていて、…まるで満月だな。それが、どんどん欠けて三日月に…なって?
「ちょっとぉ⁉」
「はぁい!ここに人が入ったら、マンホール閉めろと言われてまぁす」
「誰に⁉」
「アンさんという方でぇす」
ずしん
「………」
アンさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん⁉
重~い音と振動を残してマンホールの蓋は閉められ、俺の周りは闇に沈んだ。慌てて梯子を上ろうにも、もはや何も見えない…、と思ったのは一瞬で、暗くなるとこのタブレットの灯りが、闇の中にクッキリと浮かび上がってくる。
タブレットを片手に持って照らしながら慎重に梯子を上り、マンホールを開けてみようとするも…ビクともしねぇな。普通に考えれば、下から開けられると思うんだけど…誰かが、故意に、細工をして、上から開かないようにしない限りは。
…そして、狭い…人が一人、なんとか、頑張れば、通れる、かもしれない…
うん!ここはもっと前向きになろうぜ、俺よ‼目的地には着けたじゃねぇか‼ミッションコンプリートだぜ‼次のミッションも、俺様にかかれば朝飯前‼
「………」
…で、
「俺はこんな所で、何をすればいいんだろう…」
確か…『ハンニャの持つ十咫の剣を探す』だっけか?俺は周囲を見渡してみる…うん。ねぇな。…いや、ある訳ねぇよ‼ただの下水だよ、ココ‼壁に何か謎の粘膜ついてるし、謎色の水は何か生暖かいし、人のいる気配さえねぇよ‼…あるのは、
かさかさかさかさ
…いや、きっと気のせいなのだけど、見えない場所を虫が這いずってるような…いやいや、気のせい気のせい。務めて冷静に、俺はタブレットへと視線を落とす。
「………」
Gがいた。
「ぎゃぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ‼」
絶叫した俺は、手放したタブレットを危なく空中で拾った。…Gは、いない。が、あああああああああ⁉何だ、この体を何かがウゾウゾ登ってくるような感覚…この暗闇じゃ確かめようがねぇ‼ああ、誰でもいいから俺を照らしてくれ‼
「そこにいるのは誰だ⁉」
いきなり光を向けられて、俺の視界は殺された。反射的に目を強く閉じて、左手をその前にかざす。…懐中電灯か?…光が視界を殺しにやってくる。光を遮りながらでは、足元から青いレインコートまでにしか辿り着かなかった。
「…お前は、あの時の仙人?」
「トキ?」
実は当てずっぽうだった。未だ全く見えないし、声からわかるのは、若い男くらいだからな。…ただ、俺を〝あの時〟の〝仙人〟と呼ぶのは、他に思いつかない。
「お、おおおお、お前、何でこんな所にいるんだよ⁉」
それはこっちのセリフだった。
俺の正体が知れて、懐中電灯の光が下へと落ちる。落とされたその明かりにぼんやりと照らされていたのは、細い目に、細い眉、細い口に、細い輪郭、細い体…レインコートと言い、あの時と全く同じ。トキだった。
…違うとすれば、あの〝ドクロ〟を持っていない、って所か。
「答えろ‼」
…あと、俺の知るトキは、荒っぽい言動とは無縁の『恋人にしたいイケメン』みたいな穏やかな感じだったけど…今、目の前にいるのは、興奮…と言うより、むしろ恐怖して血走った目で、殴り掛からんばかりで詰め寄る『最恐DV彼氏』だな…
「風水で計算され尽くした、それこそ0.000000000000001%の確率しか出ない、ここは完璧設計の隠れ家なのに⁉何故お前はここに来た⁉」
「………」
ただのイヤガラセです。
どう説明すればいいのか分からずに俺が押し黙っていると、トキがハッっとして、何かに気付いて半歩下がって口を押さえた。…いや、それ、多分違うから。
「ま…まさか、あいつらの…ボク達を、探しに…」
あいつら?
「トキ!どうしたのじゃ⁉」
現れたのは、美女。だった。くっきりと整った目鼻顔立ちと、それを美しく際立たせるメイク。瞳と同じく美しい漆黒の髪は、眉の上と肩の上で綺麗に切り揃えられる。その所作も美しく、こんな掃き溜めの中でも艶っぽい色気を醸し出す。
…そして、相変わらずベリーダンサーみたいな格好してるな…上は豊満な胸を半分以上露出させ、下は美しい脚線美を惜しげもなくサイドから露にする…どうやら彼女はアレが日本での標準的な占い師スタイルだと信じているらしい。
「よぉ、タマモ」
「アユム⁉お主、何でここに」
まぁ、トキがいるんだから、その彼女のタマモがいるのは当たり前だな。
「…こんな所ではなんじゃ。話は、奥で聞く」
俺の顔を見て、タマモは小さくため息を吐き、踵を返した。何も聞かずに、とりあえず自分たちを攻撃するような奴ではない、と信じた思いがそれには表れていた。…それが何でか分からない…不可思議な面持ちで、トキがそのあとに続く。
…あいつら、何でこんなとこをスイスイ歩けるんだろう…俺はもう、足元しか見ていなかった。残りの感覚の90%は…Gを警戒している。
「…なんだ、下水道に住んでるわけじゃないのか」
〝下水道からしか行けない場所〟に住んでいるだけだった。…虫を厳重注意しながら…下水道をしばらく進み、マンホールを開けたそこは、玄関…と呼ぶには殺風景すぎる、コンクリートに囲まれた部屋だった。…多分、どっかのビルの中。
ここが玄関?住んでるのは上か。
「待っておれ、今、茶を持ってくる」
俺はここまでらしい。…うむ。タマモがあの梯子を登るのか。
「…見上げたら、コロスぞ?」
…こいつと二人きりにしないでくれ。と、互いに思っていたのかもしれない。所在なく、辺りを見回して、公園にあるような立水洗を見つけた。おお、水が出るな。洗剤やら消臭剤やらも置かれているので、利用させてもらおう。
ちょうど手を洗い終えたところに、タマモがペットボトルのお茶を俺に投げ渡した。一方でトキにはペットボトルのミルクティを笑みと共にそっと差し渡す。
「で、お主は何をしにこんな所に来たのじゃ?」
「えーーーーっと………ハンニャを探しに?」
「ハンニャ?」
あ、やべ、変人だと思われたか?コレ?
「あの『日本刀大量殺人事件』を捜査しておるのか⁉」
それ何の事件⁉
…どうやら、あの日の一件は情報統制が行き届いているらしく、その事件自体が報道されていないようだ。…これも、あのじ~さんの〝力〟なんだろうか。
ただ、あれだけ衆目の面前で起きた事件を完全にモミ消せる筈もなく、ネットを中心に色々憶測が流れ『日本刀を振り回すハンニャが、警官数十人を切り殺した』的な話になっているらしい。実際は、死者どころかケガ人も出ていないんだが。
…ああ、約一目、トラックに轢かれたけども。
「それが、何でこんな下水道におるのじゃ⁉」
「………」
それは、俺も知りたい。
…アンさん曰く、仙人である俺は最高戦力なので、全地点に向かえる全体の中央に配置されている、らしい。…中央じゃないけど。…マンホール開かねぇけど。
とぅるるるるるるるる
突然、鳴り響く電話の着信音。俺もビックリしたけど、それは二人の比ではなかった。ここに隠れ住んでるらしい二人には、電話が鳴るという事象自体が非常事態なんだなぁ。…とはいえ、ここは俺も慎重に受信のボタンを押す。
「あんた、仙人か⁉」
…ここで「そうだ」と言えるほど、仙人の自覚が俺にはないのだった。
「ニンジャ屋敷にいた、全身野球ユニフォームの変な野郎だよな⁉」
「…そうだよ」
非常に不本意だけども、…否定できねぇ。ただ、これで相手の正体がある程度特定された。〝ニンジャ屋敷〟で俺に会った〝男〟となれば、…サムライの誰かだ。ってか、じ~さんじゃないから、実質二択。カクorギン。
「よかった!俺だよ!俺‼」
「サギか?」
「違ぇよ‼カクだ‼」
カクさん?…ああ、あのスポーツイケメンサムライか。
「襲われてるんだ‼助けてくれ‼」
「ハンニャにか⁉」
「ニンジャマスターにだ‼」
ぶちっ
「ど、どうした?いきなり電源を切ったけど…」
「うん。…間違い電話だった」
とぅるるるるるるるるる
切った直後に、鳴り響く電話。それを白い眼で眺めるだけの俺を、二人は奇異の目で一歩引いて、心は300歩くらい離れて遠目に見ていた。…仕方ねぇなぁ…
「もしもし⁉」
「おかけになった番号は現在使われておりません。番号をお確かめください」
「せめて声を似せる努力をしろ‼」
「…で、俺にどーしろと?」
「助けに来てくれ‼」
無理です。
しかし、その言葉をカクさんが聞く事はなかった。…ブチっと強制的に切断された後、もうかかってこなかったから。どうやら電話自体が破壊されたようだ。
「………」
何やってんだよ、あの白ニンジャ‼
『まさか』とか『バカな』とか『ありえん』とか、…アリンコ程も思わねぇ‼後ろから聞こえてきた、無関係な一般人の悲鳴?破壊音?いや、やるよ‼あいつは‼なんかもー目に浮かぶよ、町に火を放ち、アスファルトを裂き、雷を落とす様が‼
とぅるるるるるるるるる
目の前が真っ暗になった所に、再度電話が鳴り響いた。…今度はなんだ?
「…もしもし」
「あんた誰だ⁉」
電話の向こうは俺が誰か分からない中年男性のようだ。…つまり、さっきのカクさんとは無関係だな。…オッサンの声で心安らぐ日がくるとは。
「…いや、この際、誰でもいい!この携帯の持ち主の知り合いなんだろ⁉そいつが今、仮面を被った奴に襲われてるんだ‼助けに来てやってくれよ‼」
…仮面?
「ハンニャか⁉」
「いや、ひょっとこ」
ぶちっ
「間違い電話が多いな…」
「あ、アユム?どうしたのじゃ?…おーい」
…勿論、タマモの声は聞こえていた。しかし、それへの答えも反応もなく、ただ黙って殺気を放つ俺を、再び話しかけられず、不安げにタマモが眺めていた。
「…何やってんだ?あいつら」
町で暴れるひょっとこなんて、一人しかいねぇべ…あいつが悪いのか、じ~さんが怒らせたのかは知らんけど…人様に迷惑かけてんじゃねぇえええ‼っつか、だからカクが俺に助けを求めてきたんじゃねーか?ボスがこの体たらくだからな‼
とぅるるるるるるるるる
…うん。もはや悪い予感しかしねぇな…
「もしもし?」
「キョウです‼」
「…どしたの?」
「ちょっと手が滑って、眼帯さんがダンボールの下敷きに‼」
ぶちっ
「…イタズラ電話だな」
「さっきから何をやっておるのじゃ‼」
しらんがな。
「…さて、と」
俺がポケットから10円玉を出す仕草に、二人が思いっきり遠くに飛び退き、距離をとって警戒した。…ああ、そういえば、この10円玉が〝
攻撃の為じゃなく、選択の為に取り出したんだけどね。
「表が出たらリョウマを止めに行く、裏が出たら止めに行かない」
弾かれた10円をただ眺めていた俺の瞳に、何やら祈るような真剣な面持ちの二人の表情が入る。この二人が、果たして何を祈っているのだろうか…
まぁ、コインはそんなものはお構いなしに地面に転がるだけなのだけど。
「…裏、じゃの」
「ぃよっしゃぁああああああ‼」
リョウマんとこは行かないよ~、コインの裏表は天のご意思だからね~。
カクが行ったのは山手線内部のココだから、その時点でギンとシルバも除外。…論外、と言えばあのちんちくりん…消去法でコンの向かった北へと向かうか。
このタブレットのMAPで、行先地を決定すれば…ルート案内開始‼おお、下水道の地図にもリンクしてるのか。手近なマンホールは…塞がれてたし、このルート案内の通りに下水道を通っていくか。その内、開けられるマンホールもあるべ。
「…行くのか?アユム」
「あ、そーだ。明かり貸して?」
100円貸して?みたいに笑顔で手を差し出した俺を出迎えたのは、睨むような、申し訳ないような、すがるような…タマモの顔だった。借りても返しに来ない気だろー‼とか、そんな顔じゃないよね、コレ。懐中電灯は渡してくれたし。
「…何でわしらがここにいるのか…聞かぬのか?」
「今度、ヒマだったら聞かせてもらうわ。じゃーなー」
俺はギャグのなさそーな話に興味がない男なのだった。
そして俺は北へ進む。…進んでいるのか、分からないけど。…だって、足元とタブレットしか見てないからな‼要らん所を見て、要らん物を発見したくねぇ‼しかも所々で何度も道を曲がって歩いているので、…もう方角は全くわからない。
まぁ、このタブレット道案内があるから安心ではあるのだけど。この先どこに曲がり角があってどこにマンホールの出口があるか、ちゃんとMAPの通りだ。
…まぁ、虫がいつどこから湧いてくるか分からないから〝安心〟ではないけどな。ぶっちゃけ、ビクビクしながら…色々なかった事にしながら…俺は進む。
そして、ここがその終着点。タブレットの赤い点の真下。
結局、最後まで俺は下水道を歩いてしまった。何度か上に上がろうとはしたのだけど、その度にマンホールが開かなかったので、なんとな~く来てしまった。見た目は…入った場所と変わらないな。もしかして、単にフリダシに戻ってたりして。
マンホールを開けると、そこは…
「雷遁〝タケミカヅチ〟」
「〝不動明王の構え〟ぇぇぇええええええええええええ‼」
…戦場だった。
いきなり空に雷鳴が鳴り響き、突然の閃光が世界の全てを真っ白に染めてしまう。その、白しかない世界がを地震のような衝撃が襲う。…ようやく、ぼやけつつも戻ってきた視界に入ってくる、白いニンジャと黒いサムライの二つの影。
全くその世界についていけない俺がマンホールの蓋をより叩く掲げた、そこでは、一人の髪の長い女性が、こちらをのぞき込んでいた。
「遅かったですね。仙人様」
ハメられたぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ‼
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