第20話 カイ、ロゼとともに盾の練習をする。

 今日は一日通して、座学なしの演習日である。


「ようやく来たわね、ポック!」


 朝から元気なロゼがポックに絡む。


「へいへい、もう休まねえよ、室長」


 魔法演習が始まった。前回と変わらず、基礎魔法力、魔法コントロールを上げるということで、再びアルテとラン&ヒールを始めようと準備体操していると


「五感強化じゃなくて、俺は毒魔法の方をやらしてくれ」


 とポックがグラス先生に言った。周りにいたクラスメイトがざわつく。やはり毒魔法に対してのイメージはよくない。後ずさるやつまでいる。


「ほう」


 とグラス先生がポックをじっと見たそのとき、大火が闘技場の上空を覆い尽くした。おお、すごいな、これほどだとは。しかしめっちゃ熱い。


「私の魔法の方がよっぽど危険よ。調子に乗らないでね、ポック」


「調子に乗ってねえよ、室長」


 とポックは笑った。

 ロゼは、ふんと笑い、再び自分の演習へと戻る。世界に入ってるな。が、もう魔力が残っていないのか、炎がでない様子で、久しぶりに真っ赤な髪と同様に顔を赤らめる。真っ赤っか。


「ロゼ、無理しすぎだ。それじゃあトレーニングにならんぞ」


「す、すみませんグラス先生」


「まあ、室長としては良かったぞ」


 グラス先生のことばに、ロゼは目を輝かせる。まだ演習は始まったばかりだが、このあとどうする気だ。


「ポック、このプリントに毒魔法の基礎練習法が書いてある。これは私がつくったものではないが」


「お前じゃないのかグラス。誰だ?」


 ポックさん、先生にお前はどうかと。


「レイだ。正確には、レイの親友のものだ。それをレイが残していた」


 含みのある言い方である。

 ポックは、それ以上ことばを発さず、プリントを見た。


「さあ、こちらも始めないとね」


 優しい笑顔で、ケントさんが言った。もう騙されませんよその笑顔。


「ただで?」


 ぼそりとアルテが呟いた。


「ただで。はい、スタート!」


 とケントさんが答え、俺たちは走りはじめた。むしろ学校にお金払ってるんだから有料だろうよ。


ーーーー


 昼休憩、腹は減るが、リュウドウの買い込みは想像以上である。


「さすがに食い過ぎだろリュウドウ」


 購買部で買ってきた大量のパンを食い荒らすリュウドウ。


「そうか?」


 とリュウドウは再びパンをむしゃりつく。そりゃあそこまででかくなるよ。


「昨日のあのぶっとい根っこはな、植物学のケイだ。あいつの飼ってる生き物なんだ」


 ポックが、ロロに説明している。声がでかい。周りに知られたらことだぞ。

 アルテと弁当を食っていたアルトが、こちらを振り返る。


「どうしたんだい?」


「なんでもないよ、アルト。そういえば、毎回弁当だな」


 なんとか話を逸らす。


「ああ、これはアルテの手作りさ」


 ほう、アルテって家庭的なところがあるんだな。


「100ルコで作ってくれるんだ」


「有料かよ!」


「アルテがただで作ってくれるはずないじゃないか、カイ」


 家族にもか。


「カイ、あなたも、つくってあげてもいいわよ。100ルコで」


「また今度にするよ、アルテ」


 いや、まあそりゃあ有料か。にしても100ルコはちょっと高い気が。


「カイは午後、どこに行くんだい?」


 アルトの問いに、「俺は、とりあえず、投擲にいくかな」と答えた。「へえ、珍しいね」とアルトは言った。午後は、選択演習である。剣技演習、魔法演習、投擲演習から選べる。投擲は人気がない。


「好きなのいけよ、俺に気を使うな」


 ポックの口調には刺があった。ポックとレイ先生の間を取り持とうという思いがあったりなかったり。読み透かされていたようである。


「大丈夫か?ポック」


「大丈夫だよ、心配すんな」


「じゃあ、まあ剣技に行くかな」


 盾を使ってみたいし。


「ポック、誰かと喧嘩でもしたのかい?副室長であるぼく、アルトにその大いなる悩みを」


「ねえよ!ああ、おせっかいが多いな!」


「誰がおせっかいですって!」


 とクラスの反対でシュナと飯を食っていたロゼが、立ち上がった。


「まあまあ」とシュナがロゼをなだめる。


「さあ打ち明けるんだ。副室長であるぼくが、君の悩みを」


「そ、その悩み、解決したら100ルコで」


 アルテまでしゃしゃり出始めた。

 まあ、毒魔法がどうたらで気にするほど神経質なやつらではなさそうだ。


「ロロは、どこに行くんだ?」


「僕は、今日の選択演習はちょっと抜けさせてもらって、モンスター学のトーリ先生のところにいくんだ」


「へえ、なんでまた」


「トーリ先生が今日学校に用事で来てるらしくって。あの方はね、モンスター学の権威といってもいい人で、僕、あの先生をとっても尊敬していて。この休んだ期間でモンスター学が2回もあったんだ!グラス先生にどうしてもトーリ先生の授業を受け直したい、って伝えたら、いいだろうって。トーリ先生が発表したモンスター発生学入門を読んで以来、それはもう追いかけて追いかけて、特に最近ではモンスター原型論が限界なのではないかとコラム記事に書かれて、話題にもなったりして、それに」


 ロロは、目を輝かせて話し続ける。熱意に負けたかグラス先生。にしても、みんないろいろあるんだな。とリュウドウを見る。昔から知っているが、こいつはずっと変わらんな。最近よくしゃべるが。


「おいリュウドウ、そんなに食って昼から動けるのか?」


「ああ、大丈夫だ」


 どんな胃袋してんだこいつ。


ーーーー

「なんだ、ロゼもか」


「なんだとはなによ、なんだとは」


 選択演習の剣技にて。


「シュナは一緒じゃないのか」


「シュナは投擲よ。チャクラムの操作を練習したいって」


 あの腕輪みたいな武器か。

 周りを見渡す。20人弱ぐらいか。学年の約半数が剣技を選んだことになる。あとは、クルテもいる。リュウドウにやられてからというもの大人しい。取り巻きともつるんでいないようだ。それと


「勇者!いたな!」


 銀色の髪の毛を揺らし、いつも元気はつらつなユキだ。実は会うたびに、「勇者!」と言ってくる。最初の授業で戦って以来そう認定されてしまったようだ。本人に悪気がない分たちが悪い。


「すみません、本当に」


 と長い前髪から奇麗な銀色の目をのぞかせ、ムツキが言った。こいつらは毎回ニコ一だな。どちらも銀色の髪色と透き通るような肌色は同じだが、よくよく見ると全く顔が似ていない。幼なじみかなんかかな。

 選択演習での剣技であるが、なんと型の素振りと打込みまでは、普通の演習の日と同じであった。しんどい。その後は割と自由である。タケミ先生やケントさんと実践練習することもできる。俺は、片手剣片手盾にもあるという型を教えてもらい、それを反復した。ロゼに時々打込んでもらったり。ロゼも俺と同じ片手剣で盾を持つスタイルだが、俺が選んだ盾よりもさらに小さな盾を左腕部分に付けている。剣も細長いスモールソードだ。スピード重視なのだろう。突き重視の型を反復している。一度実践することに。ロゼの突きは相変わらず早い。盾があれば受け切れないこともないが、攻撃に転ずるタイミングがわからない。


「あんたねえ、それじゃあただの私の打込みじゃない」


「ごもっともです」


 と今度は攻めに転ずる。片手用の剣なので、重さはそんなに気にならないが、両手のときよりも操作が難しいし、何かとぶつかったときの反動が大きい。ロゼの盾に跳ね返される。が、ロゼはロゼで盾の受け方を失敗したようで、態勢が大きく崩れる。


「まだ実践は早そうね。打込みを受ける練習を反復しましょう」


「そうだな」


 と延々それをしていると、チャイムがなった。

 しんどくはあったが、し始めは面白いもので、盾の練習は苦ではなかった。

 演習の終わり、ユキとムツキが扉を開け、闘技場を出て行く。ユキが外へ、次にムツキが。扉がしまる寸前、ムツキの足がまだ中に残っていた。扉が完全にしまる。足が挟まる、と思った次の瞬間、ムツキの足は扉をすり抜けた。ように見えただけなのか。目を擦る。見間違いか。


「何、目でもかゆいの?」


「いや、なんでも」


 変なやつが多すぎる。見間違えということにしておこう。

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