第19話 ポックがパーティに加わった。

 こっそりとポックの縄で寮の部屋に戻り、ロロから話を聞く。


「ハードクラッカー、通称、ネギリネは、モンスターじゃないんだ」


 俺とポックの部屋にて、ロロいわく。あの森の廃墟で遭遇した根っこ、ハードクラッカーは、モンスターではないが、危険植物に指定されているという。モンスター以外の、人に襲いかかることのある動植物は危険指定されているが、ロロはさっきのハードクラッカーの暴れっぷりにはわけがあるんではないかと言う。


「なんでそんなことがわかるんだ?」


 ポックが訊ねた。


「ハードクラッカーの感情が、なにか、伝わってきたっていうか。勘違いかもしれないけど、朦朧としながら、たぶん怖がってた。いや、怒ってたのかな、その中間のような気がする。でも、なにかがあって、そうなったんだと思う。普段はあんなに暴れるような子じゃないと思う」 


 ロロのことばは、曖昧ではあるが、しかし妙な説得力があった。今日はもう遅いということで、リュウドウとロロは自室に戻っていった。

 ふう、と息をつき、ベッドに横になる。ベッドって素晴らしい。


「まあ明日、あのおばさんに聞いてみるよ」


「ポック、あのおばさんって誰だ?」


「え?ああ、あのぶっとい根っこ、ハードクラッカーはケイが飼ってる」


「まじで?ケイ先生が?」


「森を探索してたときに見たんだよ。あの廃墟でケイが根っことじゃれてるの。ロロも言ってたけど、そのときは今日みたいに凶暴ではなかったな」


 ハードクラッカーとケイ先生がじゃれる姿を想像できないのだが。


「まあ、どちらにせよ明日はちゃんと学校いけよ。ロゼが俺にうるさいんだ」


「おせっかいなやつだな」


「心配なんだろうよ」


 ポックは鼻をぽりぽり掻いた。癖だなこれは。


「カ、カイ、お、お前は、なんで勇者学科に入ったんだ?小さいときから大変だったんだろう?」


「何がだ?」


「いや、勇者勇者と呼ばれてさ。リュウドウからちらっと聞いたんだよ。カイも勇者と言われて苦労してきたって」


 なんだ、リュウドウめ。そんなフォローができるやつなのか。しかし当時の悩みの原因がリュウドウだったりしたわけだが。


「まあ、勇者と言われても、それほどの才能はなかったからな。近くにリュウドウとかいう化物がいたし。そうだ、パーティを組むからにはいろいろと話しておこう」


「ま、まだ組むとは言ってねえよ」


「は?お前組むって言ったろ!」


「うるせえ、で、なんで入ったんだよ、ここに」


 昔はよく何があったのかと聞かれたが、最近はなかったな。過去を話すのは久しぶりである。


「10数年前だ、世界は闇に包まれた。魔王が復活すると言われたが、光が世界を覆い、人々は救われた」


「んなもん知ってるよ。その光の発生源にいたのがカイだろ?」


「覚えていないんだ。光以前の記憶がない。が、その光はなんとなく覚えている。そして、その光の先に、誰かわからない誰かがいたのも覚えている。だから、俺は勇者じゃないんだ。なんて言っても世間様はお祭り騒ぎ。幼い俺は、勇者だと祀り上げられてなんやかんやいい気分で神輿にのってたら、リュウドウなんて天才がすぐ現れるんだから困ったもんだ。周りの熱が冷めていくのを感じるのはなかなか辛かったな。まあ天狗のままよりは良かったか」


「そのまま勇者学校って流れか?」


「まあ、そうだな。親父とお袋には感謝している。二人のようになりたい、という憧れもあるし、なにより、俺は、光の先にいた誰かを探しにいかなければならないと思っている。もしまた魔王が復活するなら、なおさらだ。そのために、ここに入った。で、お前は?」


「へ?」


 とぼけるポック。こいつせこいな。


「お前だよ。出自から話せ」


「めんどくさすぎる」


「俺は話したぞ!早く話せ!」


「カイって時々超強気になるな」


 そんな一面が、ないこともないか。ポックは鼻頭をかきながら、「俺は、捨て子だ」と話しはじめた。

 ポックは、生後まもない頃、シャーマンと呼ばれる魔法に長けた夫婦に、トネリコ連邦の森で拾われたという。拾われたとき、致死的な毒にかかっていたが、夫婦がなんとかポックを回復させてくれたらしい。夫婦はもともと定住せず転々と生活をしていたが、ポックのために、と戦で荒れていたトネリコ連邦のなかで、唯一安定した街、サバへ定住し、ポックを初等学校に入れる。しかし、そこで毒魔法がポックに現れ、周りからの忌避にあい、やめることに。その後3人は再び流浪の生活に戻る。夫婦が旧友グラスと久しぶりの再会をした際、ポックを学校に、という話になったという。ポックは嫌がったが、夫婦の説得もあり、男子寮での生活を条件に入学が決まったらしい。


「はあ、ポック、なんとも波瀾万丈だな」


「お前に言われるか」


「で、毒魔法ってのはよくわからんだが、最強すぎない?」


「俺が作り出せるのは自分が食らったことのある毒だけだ。それに毒を作り出した時、自分にも毒が回るから、耐性のできてるやつだけ」


 致死性のやつは無理か。そういえば、あれも聞いとくか。


「ポック、ダブルだろ?もう一個は身体強化か?」


「あ、やっぱり見てたんだな俺の適性診断書」


「二枚あるのを知ってただけだ」


「ふん、まあいいけどよ。身体強化だ。どっちかって言うと五感強化よりだがな」


 とポックはあくびを一つ。もともと五感が敏感らしいが、さらに強化できるとか。こっちに適性があるやつは意外と少ない。

 ポックが布団に潜ったので、俺は電気を消した。


「カイ、入ってやるよ」


「ん?何にだ?」


「お前のパーティーにだよ!馬鹿!ただし、カイ、俺は勇者じゃない。お前が勇者だ。それだけは覚えとけ」


「入ってくれるならなんでもいいよ」


 と曖昧に返し、俺は布団に入った。俺は勇者じゃないんだが、まあいい。明日の授業なんだっけな。

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