第15話 ポックの魔法適性診断書
寮の部屋に戻ると、手紙が届いていた。手紙というか、入学試験のときに行った、魔法適性診断の結果である。自分がどの魔法を使えるかが、調べられるのだ。明日の魔法学でもってこいとグラス先生が言ってたな。予想外の魔法が備わっていることもあるが、俺は以前にも受けたことがあったので特に驚きはない。診断書が一枚。身体強化魔法という一番大きな枠組みのなかに、ヒールもまとめて組み込まれている。
ポックのベッドそばのゴミ箱に、くしゃくしゃになった紙があった。たぶん、魔法適性診断の結果だ。ポックがいないうちに見てもいいのだろうか。ダメだよな。でも、明日授業で必要なんだが。拾ってやるか。ゴミ箱から、紙を拾う。まだ見てはいないよ。そう、プライバシーなところだからね。見てはいけない。ん?紙が二枚ある。これは。
そのとき、がちゃりとドアが開いた。
「カイ、何見てんだ!」
「ポック、あ、ああ、適性診断結果だな」
やべえ。タイミングが悪すぎる。
「お、俺の、勝手に見たのか!?」
「いや、まだだけど」
「返せ、馬鹿」
ポックにぶんどられる。そんなに自身の魔法を知られるのがいやか。ならもっとちゃんと捨てとけよ!なんとか話をそらそう。
「それ、明日の魔法学で使うから捨てちゃだめだぜ。あ、そうだ、ロゼが演習もちゃんとこいってさ。魔法演習と投擲演習さぼったろ」
「俺に投擲の授業はいらねえよ。百発百中だ」
「投擲演習、結構面白かったぜ、って、デメガマだ!忘れてた!」
「今ドロ蜜やってきたとこだ。明日はお前がいけよ」
とポックは部屋を出て行った。不機嫌である。そんなに嫌かね、自分の魔法を知られるの。
すぐに再会となった。日課の素振りをしようと屋上へいくと、センチメンタルに空を見上げるポックがいた。俺を一瞥すると、再び空を見た。
気まずいが、まあとにかく素振りを始める。ただの素振りではなく、型にしよう。タケミ先生に教えてもらったポイントを思い出しながら、繰り返す。
「お前、見たか?」
「な、なにをだ」
「俺の魔法適性診断書」
型をつづけながら、俺は答える。
「ま、じでみてはいない。が、見ようとした、すまん」
「そうか、ならいい」
月が痛いほど明るい。
がちゃりと、屋上の扉が開いた。
大剣を持ったリュウドウがいた。
「相変わらずだな」
とリュウドウはふっと笑い、俺の隣で型を始めた。実家が近所だったりする。夜素振りしてるところを見られたもんだ。お前みたいな天才がいたから素振りしなくちゃいけなくなったんだよ!しかし、リュウドウが使っている剣、やっぱり昔と違うな。両手剣の中でも、最大級のでかさである。
「その剣は、リュウドウ」
「『チョウデッカイ剣』だ」
「なんだ、その安易なネーミングは」
「親父の形見だ。親父がつけた」
リュウドウには珍しく、センチメンタルな言い方であった。
「そうか」と俺は型の素振りを再開した。
リュウドウの親父さんを思い出し、ネーミングに納得する。無骨で無口だが、時折ずれたことを言う人だった。
夜風が気持ちいい。素振りにはいい夜だった。
「勇者も大変だな」
ポックが呟いた。
ーーーーーーー
「アルト、お前トリプルなんだな」
魔法学の前に、みなが昨日届いた魔法適性診断書を見せ合う。使える魔法が一つならシングル、二つならダブルになる。ダブルは診断書が二枚ある。ダブルは、結構いる。トリプルまでいくとかなり珍しい。
「ああ、武器魔法の人はだいたいダブル以上だよ。というか、武器魔法は、その特殊な武器に選ばれただけで、実際は魔力を流し込むだけだから一つに数えるのはおかしいような気もするけどね。チョウライも同じだと思うよ」
「チョウライ?」
「昨日魔法演習で僕と訓練してたお団子頭の子さ」
あの変わった棒持ってた子か。武器魔法とは、特殊な武器に魔力を注入し、発動する魔法のことだ。武器と魔法の使い手にかなりの因縁、というか、つながりがないと発動しない。先祖代々伝わる武器だ、とか、いろいろ。ただ、最近は魔法具の発展で、誰でも簡易に魔力を注入できる武器も増えている。まあ、そういう商品は本当に単純なことしかできないけど。
相変わらずの、パンツスーツに黒いとんがり帽子と黒マントというよくわからない組み合わせのグラス先生が現れた。自ずと教室のざわつきがなくなり、授業が始まった。ポックは、授業にでていない。何してんだあいつは。
「、、、と、それぞれの魔法適性はわかってもらえただろう。適性判断は、色を見て行った。魔力にはオーラが伴い、それぞれの色が違ったりする。うっすらとだが目に見える。また、身体強化魔法は基本的にみんなできる。しかし一口に身体強化といっても、それぞれ特徴がある。バランス良く体を強化するのが得意なものもいれば、上半身の強化が得意なものもいる。体の回復をすることができるものもいる。特に回復、ヒールは、身体強化に入れられているが、本当は別カテゴリーだと思ってもらった方がいい。その魔力は特別なものだ。聖なる魔力が宿っていなければならない。且つ、身体強化の要素である細胞の活性化もある程度行わなければならない。それぞれのグラフを見れば、細かく読み解くことができる。苦手な部分を伸ばす、もしくは得意な部分を伸ばす、どちらでもいいが、まあ長所を伸ばしながら、短所もある程度安定させたほうがいいように思う。すでに一度魔法演習は行ったが、魔法演習は週に3度ある。基本的には、一回目のときと同じように、一学期中は基礎魔法力を上げることに費やす。2学期以降は、本人の意向を尊重した演習を行っていく。知識も必要だ。魔力の構造をしることは訓練をより深める。また、モンスターには魔法をつかうものもいる。その対応や弱点などを魔法学では学んでいく」
授業の終わりを告げるチャイムがなる。クラスに賑わいが戻る。
再度、自分の診断書を見る。身体強化魔法。そのなかでも、聖なる魔力というものをもつものはヒーラー適性がある。俺のグラフは、ヒーラー適性はあるが、そこまで振り切れているほどではない。回復魔法も使えるが、純粋なヒーラーと考えるのは厳しい気がする。身体強化にも結構伸びているので、訓練すればそちらも武器になるか。有史2人目のパラディンを目指すほかなさそうである。他の人が気になるな。とりあえずヒールのやつのが見たい。
「アルテ、診断書見せて」
机にうつ伏せて眠るアルテに声をかける。
アルテは、眠そうに顔をあげながら、
「いくらで?」
と答えた。
「ただだよ!がめついな!」
「冗談よ」
アルテが、だるそうに机から診断書を出した。二枚ある。ダブルか。
「かなり回復よりだな」
診断書を見て、俺は言った。
「あんたのは」
「ああ、ほら」
と俺のを渡す。ギブアンドテイクだな。
「ふーん」
と興味なさそうに俺の診断書を見るアルテ。なぜ欲した。
アルテのもう一枚の診断書を見る。
「魔力増強?」
「アルテは他の人の魔力を増幅させることができる。とても珍しい魔法さ」
とアルトがにょきりと顔を出した。初めて聞く魔法である。診断書の備考欄によると、自分の魔力を他者に付与することで他者の魔力の補充も可能、と。便利だな。にしても、ヒールといい、アルテはめちゃくちゃ補助タイプだな。
「サンキュー、いろいろあるんだな」
「うぃ」
とアルテは再び机に伏した。
シュナはどんな感じだろう。見せてもらおうとシュナのもとへ。
「いいよ。カイのも見せて」
と紫の髪をポニーテールにしたシュナと診断書を交換する。
「めっちゃバランスいいな」
全身の強化のバランスがめちゃくちゃいい。下半身にやや寄っているか。ん?俺の診断書にはない項目がある。
「特殊魔法?」
「身体強化は身体強化なんだけど、私、少し違う魔法もあって」
「ふむ」
息を止めると、爆発的に身体強化率がはね上がる、とかかれている。
「身体負荷が結構激しいんだけどね。カイは回復だけど、筋力強化も得意そうだね。剣の技術もすごいし、練習してみてもいいんじゃないかな」
シュナほどの実力者にほめられると、ほんと嬉しいの。
「なににやついてんのよ」
赤い髪の毛が五月蝿い。
「お前のはどうなんだロゼ、って、火一辺倒だな」
「身体強化もあるわよ!」
ああ、二枚目もあったのか。
それにしても、ポックの二枚の診断書が、今にしてめちゃくちゃ気になりはじめた。
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