第11話 天才同士の戦いに舌を巻く。

 シュナとリュウドウが向かい合う。二人とも、好敵手に出会えてよほど嬉しいのか、口元が綻んでいる。天才ってのは、本当によくわからん。

 それぞれの間合いを探る。じりじりと前に出ては下がるを互いに繰り返す。呼吸さえ命取りとなる。寸分を置いて、両者が同時に悟った。間合いのぶつかる瞬間を。同時に踏み込む。剣と剣が二度、三度とぶつかる。


「くっ!」


 シュナが力で押され、後ろへ下がる。

 リュウドウが一気に前へ間合いを詰め、


「ぜやああ!」


 と打込む。

 シュナは、じりっと地面を踏み込むと、上へ跳び、それを避けた。なんという跳躍力。すかさず、リュウドウは剣を返し、自分の頭を超えんとするシュナに打込む。シュナは、それを上空で受ける。リュウドウの力に押され、そのまま飛ばされるが、うまく着地し、再び剣を構える。

 ふう、と大きく息をついた。のは、観客である。


「やるな」


 とリュウドウは再び構え直す。

 ふう、とシュナは一度大きく息を吐いた。

 シュナに迷いが見える。対して、リュウドウは正眼に構え、じりじりと間合いを詰める。シュナは、すっと剣先を右下に下げ、手首を返した。切り上げを狙っているのか。リュウドウは、気にせず、さらに間合いを詰める。圧倒的威圧感。シュナが、堪え兼ねてか、ふうと息をついた。リュウドウはその一瞬を見逃さず、剣を微かに振り上げ、鋭く踏み込んだ。いや、それよりも早く、シュナが踏み込んでいた。リュウドウは誘われたのである。しかし、シュナの踏み込みは浅い。リュウドウの体にまでは剣が届かない。シュナの下から振り上げた剣は、リュウドウの体ではなく、その微かに振り上げられた、リュウドウの左腕を狙っていた。シュナの剣がリュウドウの左腕を打った。勝負ありか、と思いきや、リュウドウは打たれる直前に、左手を剣から手放した。それでも、シュナの剣が、浅くリュウドウの左腕を打った。しかし、リュウドウはなんとか右手に剣を残し、シュナの右太ももへ振り下ろした。互いが互いに打込まれ、地面に手をつく。

 チャイムが、戦いの、そして授業の終わりを告げた。

 いやあ、いいものを見た。

 興奮さめやまぬまま、散開していく生徒たち。さあ、放課後だ。


「あ、今度の剣技では盾を使った戦い方を学びますので、予習しておいてください!」


 とケントさんが言った。


「カイ、ヒールしてくれ」


 唐変木が唐変木な声で言ってきた。魔造刀は、人肌を感知し柔らかくなる。が、やっぱりちょっと固かったりもする。


「観戦料金だ。いくらでもしてやるよ」


「あ、私もお願いしようかな」


 とシュナもきた。


「よいよ」


 打撲系は治しやすい。二人にヒールをかける。


「すまんな」


「ありがとう!」


 と両極端なテンションで感謝を述べられる。


「シュナ、売り切れちゃうよ、急いで!」


 ロゼに言われ、「はいはい!またね、カイ、リュウドウくんも!」とシュナはかけていった。なんだ、何が売り切れるんだ、気になる。


「強いなシュナは」


「リュウドウ、お前はここでも一番か」


「いや、シュナとはなんともいえん。むしろ負けか。それに、今日は魔法なし、盾なしだ。お前は、剣だけなら3番か4番だな」


「は?もうちょい下だろ」


「シュナと俺、次にお前だ。早退したやつがどれだけの強さかはわからんから3番手か4番手だ」


 妙に細かいやつだな。


「クルテにもロゼにも負けたぜ」


「今日は動きが悪すぎる。もっと動けたぞ、昔は。ロゼはいい勝負をするだろうが、剣だけならお前の方がやや上だろう。クルテよりは上だ。お前はあのとき、前に突っ込んで来た」 


 リュウドウの言うあのとき。クルテがリュウドウに踏み込まれ、後ろへ下がったときの話をしているのだろう。そう、あのとき、二つの選択肢がクルテにはあった。後ろへ下がる。もしくは、前に出る。何年も前だが、リュウドウと初めて打ち合った時、同じような状況になったのである。まあ、どちらにせよ結果は同じなんだけどね。


「それは気持ちの問題だろう。現に昔、突っ込んだ俺をお前はあっさり打ち伏せたじゃないか」


「そうだ、気持ちの問題だ。だが、俺はお前が突っ込んで来たとき、初めて冷や汗をかいた。負けるかもしれない、そう思ったんだ」


 よくしゃべるな。こんなやつだったか。こいつなりに興奮しているのだろう。


「おいカイ、病院にいくぞ!」


 ポックが慌ただしく現れた。


「どうした?」


「ロロが病院にいるらしい!」


「きのこか!」


「あいつは俺のきのこ料理食べてねえよ!お前もこい!」


 いや、まあ行くが。

 放課後スタート。

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