第10話 カイ、言い訳がしたい。

「勇者様、俺とやろうぜ」


 緑の髪の毛が揺れた。やなやつだ。


「カイはお腹が」


 シュナがわざと大きな声で俺をフォローしようとしたが、これ以上弱いところは見せらんねえな!


「やるか!」とシュナのことばを切る。


 心配そうなシュナを背に、俺はクルテの前に立った。

 間合いがある。つまり、かけひきがある。クルテは、たしかリーフ市育ちの通い組だったな。オーソドックスな剣術に違いない。だからなんだと。つまり、受けがうまいのではないかと。基本的に、剣術は受けを基本にする。と親父が言っていたような気がする。こっちから仕掛けたくないな。

 小さく、お腹が鳴る。もっと大きくなってくれれば、お腹の調子が悪いことを自然に皆に伝えることができるのに。手が微かに震える。エネルギーが足りてない。ええい、早期決戦だ!じり、じりっと間合いをつめ、踏み込む。剣と剣がぶつかりあう。クルテが打ってくる。俺は素早く剣を戻し、それを受ける。つばぜり合いになる。


「どうした?その程度か?へへへ」


「う、うるせえよ」


 ああ、うぜえ。でもだめだ、力がでない。押し込まれ、剣が弾ける。後ろへ転げそうになり、なんとか受け身を取る。が、


「へへへ、まあまあやるじゃん」


 とクルテが、俺ののど元に剣を向け、にやりと笑った。うぜえ。

 しかし、とにかくへとへとだ。端っこにいき、座り込む。


「カイ、本調子じゃない。気にする必要なし。私、あいつ倒す」


 と暗号のようにシュナが言った。


「ああ、ありがとう」


 今日何回目かの情けなくなりながらも、俺は答えた。


「動きが悪いな」


 リュウドウの低音が背後でした。急に話しかけられたので、少しびくついた。


「おお、なんだ、今日はやたらと話しかけてくるなお前」


「うむ」とリュウドウは腕を組みながら答えた。


「次、お前だろ」


「俺はシードだ。さっき一人体調不良で授業を抜けた」


 そういえば、変な棒をを持ったお団子ツインヘアーの女の子がいたんだが、いなくなっている。


「ってことは、残りの4人はシュナとロゼと、クルテとお前か」


 なんて暢気にいっていると、シュナとロゼの打ち合いが始まった。一昨日もこの組み合わせを見たが、今度は両方魔法なしだ。

 ロゼは、スピードがあり、突きが鋭い。剣もより細身だ。国許の剣術だろうか。


「スモールソードだな」


 とリュウドウが呟いた。こいつは剣マニアだからよく知っている。大剣よりも小さい片手剣というものがある。しかし、ロゼのもっているそれはさらに細い。突きに特化しているようにも見える。

 シュナは、そのロゼの突きをうまくいなす。が、シュナの剣が、少しはねた。すかさずロゼが一気に間合いを詰め、シュナのお腹に得意の突きを入れる。


「決まったな」


 リュウドウが呟いた。

 ロゼの突きが決まったかと思いきや、シュナは、それを剣の柄で受けた。そのまま力を横へ逃がすと、無防備になったロゼの右脇腹を打った。


「誘ったのか」


「そうだな」


 とリュウドウがふっと笑った。こいつが笑うとは。なんか気持ち悪いな。明日雨だぞこれは。


「ふう、さすがね、シュナ」


 シュナの差し出した手を取り、ロゼが立ち上がった。一昨日のあのつっけんどっけんからえらく変わったものである。


「おい、お前だぞ、リュウドウ」


 突っ立ってるリュウドウに、声をかけた。クルテはすでに準備万端である。


「おお、そうか」


 と無感情に、リュウドウは歩き出した。何を考えているのか。いや、何も考えていないか。


「いくぜ、デカ物」


 クルテは、リュウドウを挑発した。が、とうの本人であるリュウドウは、何の反応もしない。

 強気なことばとは裏腹に、クルテはかなり慎重である。距離をつめずに間合いを見ている。

 リュウドウはでかい。それに、妙な威圧感がある。そのリュウドウの威圧感が、じわりとクルテを押し込む。堪え兼ねて、クルテがふっと息を吐いた。一瞬のゆるみ。次の瞬間、リュウドウはクルテとの間合いを一歩先のところまで詰めていた。魔造刀とはいえ、打込まれる、という恐怖がクルテを支配する。生まれる選択肢は二つ。前にでるか、それとも。クルテは、後ろへ下がった。すると、それよりも早く、リュウドウはさらに間合いを詰め、クルテの剣を払い上げる。すでに気持ちの押されたクルテの握力は、その払いにすら耐えられなくなっていた。一本の剣が宙高く舞う。そのまま、クルテはへたへたと座り込んだ。

 やっぱり強いな。

 いつのまにか、ギャラリーが集まっていた。タケミ先生とケントさんも見ている。いいのか授業は。


「さあ決勝戦だ!」




 と指笛が響いた。ポックである。賑やかなやつだ。

 シュナとリュウドウが向かい合った。二人とも、笑みを隠しきれていない。天才の感情はよくわからん。


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