第7話 いじめっ子クルテ、笑う。
「ぼ、僕はロロ。2組なんだ」
「俺はカイ。よろしく」
「う、うん。知ってる。君はアルトくん、だよね」
「知ってくれてたか!で、この僕を噛もうとしたこの虫は一体なんなんだい、ロロ」
「こ、これはメイテイカ。噛まれたものは酔っぱらったみたいに頭が朦朧とする。ただ」
「ただ?」
とアルトが訊ねる。
「う、うん。結構貴重な蚊で、この地域にはいないはずなんだけど」
どっかから紛れ込んだか?地方からきたやつらと一緒についてきたとか。うーん。あり得るっちゃあり得るか。
そのとき、長い金髪が光に反射した。白い衣服を着た女が、木々の開けた場所に立っている。
「アルテ」
とアルトが女に寄っていく。
「はい、あなたのきのこ」
「サンキュー!」
「100ルコね」
「え?」
「100ルコ」
「また金?」
「じゃああげない」
「もう。ポック、ロロ、カイ、またあとで」
とアルトは、アルテと呼ばれた女と去っていった。アルテは、アルトの前の席のやつだ。双子か?髪の色は同じだな。しかし、顔はそこまでそっくりというわけではない。いや、雰囲気は似てるのか。そもそも名前も似てる。
「おーい、ロロ、俺らの茸は見つけたか?」
今度はチャラそうな男が現れた。どんどん現れるな。緑色の髪の毛を肩口まで伸ばしている。
「く、クルテくん」
とロロが俯いた。
緑髪のクルテというやつは、隣のクラスだ。昨日の剣技で戦ってるところを見たが、かなり強かった。その後ろに2人、クルテの子分のようなチャラい男たち。
「おっと、これはこれは、勇者様も一緒でしたか」
クルテは俺を見つけると、わざとらしく大げさにお辞儀した。一瞬で嫌いになった。
「ロロ、早くしろよ、時間になっちまうぜ。なかったらお前のきのこ頭でも提出するか」
とクルテと取り巻きは、けたけたと笑いながら去っていった。
「じゃ、じゃあ、僕、茸探さないと」
去ろうとするロロに、ポックが声をかける。
「お前、なんで言い返さないの?」
「え、言い返したら、だって、うん」
木漏れ日が痛い。
ロロが、気まずそうに去っていく。
「締まらねえな」
とポックは舌打ちして歩いていく。
俺は、ただポックについていく。俺って空気。
「はーい、みんな、そろそろ集まってね。茸見せてもらうわよ」
つなぎを着ていておっぱいが大きくて残念美人でメガネが少しずれていて、とにもかくにもいろいろ特徴のあるケイ先生の声が森に響いた。
生徒は、それぞれが茸を持ち寄る。
「カイ、茸はとれた?」
シュナが訊ねた。紫色の髪の毛を後ろで束ねている。さっきは下ろしてたんだが。まあ束ねていてもグッド。
「ポックが選んでくれたんだ。髪の毛、束ねたんだ?」
「座学の間はって思ってたんだけど、森の散策となっちゃね」
とシュナは笑った。ちゃっかりニコイチになったのか、というかシュナぐらいしか相手できないのか、彼女の後ろには、燃えるような赤い髪の毛の女がいる。我がクラスの室長、ロゼである。
「ポックにばかり頼っていてはダメよ、カイ。自力で探さないと」
とロゼが言った。何か小言を言わないといけない性分らしい。さて、その茸を探してくれたポックが、いつのまにかいなくなっていた。辺りを探すと、少し離れた木陰にいた。
「どうした、ポック」
「ああ、カイか。ちょっとな」
とポックは、木の向こうにいるロロと、クルテ率いるチャラ男団の様子を伺っている。
さっきの事情を知っているので、一瞬でなにがどうなっているかわかった。聞き耳を立てる。
「で、ロロ、どうすんだ?一個足りないんだが?」
クルテが冷たく言い放った。高圧的な態度である。
「ぼ、僕の茸、使って」
「僕の茸?お前の頭についてるやつか?それともお前の股間についてる茸でもひんむくか?ははは」
なんとも下品なやつらである。
「こ、これ」
とロロは、自分の採った茸を差し出す。もちろん股間についているやつを採ったわけではない。
そのとき、ポックがずいと一歩踏み出し、言う。
「おい、ロロ、お前の渡す必要ねえよ。お前ら、茸が一個足りねえんだろ」
と白い茸をクルテに向かって投げた。
「なんだ、チビが勇者気取りか、っと、本物の勇者様もお目見えだ。ははは、こりゃいい、はははははは」
俺に気づき、クルテは大口を開けて笑った。絵に描いたようにやなやつである。
「どうしたの、君たち、茸は集まった?早くこっちに集まりなさい」
ケイ先生が現れた。間がいいのか、悪いのか。
「へいへい」とチャラい返事でクルテたちは先生に付き従う。
「いくぞ、ロロ」とポックはロロに言った。
「う、うん。でも、ごめんね、茸、ポックくんのなくなっちゃんたんじゃ」
「俺のは別にある。さあ、行こうぜ」
ポックがクルテに渡した茸。嫌な予感しかしないが。
「はーい、じゃあ茸検分していくよ。まず、シュナとロゼ、こちらへ。ふむ。面白い茸もってきたね。食べられるし、毒もないよ。これは知ってる人いる?」
ケイ先生が生徒に訊ねると、ポックが口を開いた。
「それは夜になると光る茸だな。もう一つは東に伸びるやつだ。名前は忘れた」
「や、やるわねポックくん。そう、少し補足するわね。シュナが持って来たのは、正式には夜行茸といって、夜になると光るのね。非常蛍光灯にもなるわ。もう一つが伸光茸。朝日を求めて東の方向に伸びる。朝日を求めてっていったけど、まだ理由は解明されていないわ。じめじめした木陰で育つのに、東に向かって伸びるなんて不思議ね。さて、次は、クルテくん」
とクルテは自信満々に先生の方へと歩いていく。俺たちを横目に、ふんと鼻を鳴らす。その右手には、先ほどポックが投げ渡した、いたって普通に見える白い茸を持っている。そのとき、ポックが足を突き出した。クルテはつまずき、地面に手をつく。
「て、てめへ、へへへへ」
とクルテはポックに食ってかかろうとしたが、急に変な声を発した。こけたときに、手に持っていた茸が鼻をかすめたのである。さて、その持っていた茸が問題で。
「へっひひへっへいえひへえ」
とクルテの口角がにやりと上がり、奇声を発する。さっき俺もかいだ、笑茸だ。
入学して数日、知り合って間もないこの時期に、この状況を笑っていいのかだめなのかわからず、クラスに奇妙な空気が流れる。
笑いこけているポックを除いて。
数秒後、クルテは笑茸から解放されると、先ほど言おうとしていたセリフを吐く。
「てめえ、ポックとかいったな!この野郎!」
「ポックくん、あなた、何をしたの!?」
ケイ先生が、ポックを睨む。
「違うぜ、こいつ、ロロから茸を奪おうとしてたんだぜ」
ポックのことばに、ぴくりとケイ先生が反応する。
「それは本当ですか、クルテくん」
と今までのとぼけた感じはすでになく、ケイ先生は毅然と鋭く、クルテに問うた。腐っても勇者学校の先生である。
気圧されるように、クルテは答える。
「そんなことしてねえよ」
とバツが悪そうに、隅へと向かう。すれ違い際に、ポックに「覚えてやがれ」と言い残し。
「ロロくん。そうなの?」
とケイ先生はさらに問う。
ロロは、もじもじするのみであった。
「まあいいわ。初めての授業だからのびのびと、と外でしたけど、なかなかね」
ケイ先生はため息をついた。
あとは淡々と、生徒の持って来た茸の解説をし、遠くから聞こえたチャイムを合図に授業は終わった。やや後味の悪い終わり方であった。
半ドンなので今日はもう終わりである。半ドンって妙に興奮する。気分転換に、街の散策もかねて外食でもするか。
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