第3話 シュナ、ゲップする。
「先生、ロゼと私を戦わせてください」
シュナは、真剣な表情で剣を抜いた。
おろおろとしているタケミ先生と、一方で
「ロゼがいけるならな」
とグラス先生はにやりと笑った。
ロゼは何も言わず、再び剣を抜いた。
ロゼとシュナが、中央で剣を構え、にらみ合う。
ピリピリと空気が張りつめている。
「ゲフ」
突然、シュナがげっぷした。直前にあれだけ食べてたらそりゃあな。みるみるシュナの顔が赤くなる。しかし、それよりも顔を赤くするものがいた。恥ずかしさからではなく、怒りで。
「どいつもこいつも!学校をなんだと思ってるの!」
と真っ赤な髪と怒りで赤らんだ顔と、とにかく真っ赤っかになって、ロゼはシュナに切り掛かった。
「ご、ごめん、今のはなし!」
ロゼの剣を受けながら、シュナは言った。
「うるさい!」
ロゼは、再び剣を振り上げ、シュナに切り掛かる。
シュナはそれをいなし、後ずさる。
おお、と周囲から声が上がる。ロゼの踏み込みの鋭さもすごいが、それをなんなくいなしたシュナもすごい。
ロゼは距離をとり、剣を縦に構え、じっとシュナを見た。ロゼの右手中指にはめられた、赤いダイヤのリングがきらりと光る。
「火の精霊よ、私に力をーーベリサマ」
と唱え、剣先をシュナに向ける。炎が一直線にシュナへと向かう。それはシュナの頬をかすめ、闘技場の壁を焦がした。
シュナは、唖然と口を開けていたかとおもうと
「すごいね」
と少年のように笑った。
「ここは遊ぶところではないの。初日から休み、休み、来たと思えば居眠り。それなのにへらへらとして。その身に焼き付けなさい」
とロゼは俺を一度にらみ、再び剣を構えた。
「ふう、すごいね、ここは。次は、私の番」
ロゼのお叱りもどこ吹く風、興奮気味のシュナは、大きく空気を吸い込み、姿勢を低くして地面を掴む。
「ベリサ」
ロゼが唱え終わる寸前、シュナはものすごいスピードでロゼとの間合いを詰め、切り掛かる。
ロゼはギリギリのところでそれを受けるが、シュナのパワーは凄まじく、そのまま吹っ飛ばされる。
「ふしゅうううううう」
シュナは大きく息を吐き出した。
「それまで。二人とも、もういいぞ」
「ま、まってください、わ、私はまだ」
なんとか立ち上がりながら、ロゼは言った。
「一発目、わざと外したんだよね。今日は引き分け」
シュナがロゼに近づき、手を差し出した。ロゼはそれを拒否し、闘技場の端に座った。
「次、誰かいないか」
グラスのことばに、誰も反応するものはいなかった。あんな戦いを見せられた後だ、そりゃそうなる。
「ったくしょうがないな。お前と、お前、はい、いってこい!」
グラスは二人の生徒の尻を叩いた。
シュナが戻って来た。
「強いんだな、驚いた」
「カイの敵とるつもりだったんだけど、夢中になっちゃった。あれ、カイ、もう傷治ってるんだね」
「ああ、ヒールなんだ、魔法」
俺はシュナの腕の擦り傷に手を当て、魔法を使う。
「本当だ。ヒールってことは聖なる魔力を持っているんだね。しかも勇者だっていうし」
「いや、勇者ってのはみんなの誤解で。しかも、勇者なのにヒールってね。それに気づいた母親が教会でいろいろと教えてくれてさ。父親はいい顔してなかったが」
「いいお母さんだと思うよ。戦士でヒーラー。じゃあ、パラディンだね」
パラディンか。悪くないな。なんて思いながら、だらだらと試合を見ていると、途中から眠気に襲われた。虚ろのままぼんやりと試合を見ていると、ぎろりと視線を感じた。ロゼが、闘技場の反対側から俺を睨んでいた。いや、ロゼが睨んでいたのは俺だけではなかった。俺の隣でいびきをかいている、紫の髪の女が一人。まあ、シュナのことなんだが。
ロゼは、なにやら唱えたかと思うと、剣をシュナに向けた。
「あ、あちい!」
とシュナが鼻頭を抑え、「な、なに!」と立ち上がった。すると、ロゼは腕を組み、闘技場に響くほど大きな声で言う。
「授業中に寝てはいけません!」
生徒がみんな、中央で戦っていた二人までも手を止め、ロゼを見る。
「ロゼ、注意してくれるのはありがたいんだが、魔法でなく口頭でよかったのでは」
グラス先生のことばに、「す、すみません」とロゼは真っ赤な髪の毛と同じぐらい顔を赤らめた。今度は恥ずかしさで。
一体どういうやつなんだ。
なんやかんやで、初めての剣技演習は終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます