51話

「そう、ね……何から話せばいいのかしら。というか、ロベルトはどこまで知っているの?」

「……あの日、師匠が……。その後に襲撃されて、イデアの奴らと他の門下生とで襲撃者を迎え撃って……先生が来て、それで、それでライが、壊されて……取り戻そうとした俺も、何か、よく分からない赤いモノに貫かれて……あいつが連れて行かれてて、隣でお前も倒れてた、ところまでしか……」

 必死に記憶を辿りながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐロベルト。その顔が悔しさと苦しさに歪む。

 あの日、大事な仲間達を守れなかった。自分は強いと過信していた。いや、強いのは間違いないのだろうが、自分より上の人間がいることをきちんと理解していなかった。

 二人でいれば最強だと思って、実際そうであったはずだった。

 それなのに、自分達でさえ叶わなかった。イデア二位のライでさえ、やられた。負けた。いつだって強者であったプライドは、あの時完全に粉々にされた。

「そう。そこまで、なのね。そこで貴方は死んでしまった……」

「ああ。今でもはっきり思い出せる。俺は、心臓を貫かれて死んだ。あの赤いモノでな」

 ロベルトの言う『赤いモノ』。あれが何なのかはさっぱり分からない。魔法なのか未知の武器なのか、見当もつかない有様だ。  一つおかしいことがあるとすれば、ロベルトはあの日眼鏡をかけていなかった。なのに赤いモノには一切の魔力が見えなかった、ということだ。

「まず、分かっているとは思うんだけどね、前提として聞いてほしいの。オールドマスター一門は、歴史からその名を消された。そしてあの日からは、もう時間が経ちすぎている。あまりにも永い時間が……」

 伏せ目がちに言ったエメルダ。ロベルトはそれを黙って聞いている。二人の頭の中には、同じ光景があった。

 オールドマスター、連れて行かれる仲間、絶命する仲間、先生、そして血の海の中に横たわる自分たちの姿――

 どれもこれも、あの日に見たものだ。

 オールドマスター一門が、歴史から消えた日。史上最強を誇った自分達が、蹂躙された日。

 思い出すことすら憚られる地獄絵図は、今でもロベルトを苦しめていた。

 二人の間に、しばらく重い沈黙が降りた。

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