50話

 女性に連れてこられたのは、ギルドの二階にあるギルドマスターの執務室だった。とても綺麗に整頓されており、いかにも仕事のできる女性の部屋という感じだ。

 すすめられてソファに座ると、息つく間もなくロベルトが切り出した。

「で? 何のつもりだ、エメルダ。こんなところで何をやっている」

「あらあら、久しぶりに会ったのにつれないわね。生まれ変わってても変わらないのね、貴方のその態度は。いっそ懐かしいくらいよ」

 鋭い目で睨めつけられた女性――エメルダは、親しげな笑みを浮かべている。どうやら彼女とロベルトは知り合いらしい。

 黙って見守っているルヴォルスとリリンは、ふと思う。

もしかしてこの人も、オールドマスター一門の関係者ではないか? と。ロベルトの反応的にあまり仲は良くないように見えるが、旧い仲であることは窺える。

 もっともロベルトは誰にでもこんな態度なので、本当に仲が悪いかどうかは分からない。

「ライといいお前といい、この街にはオールドマスターの門下生が多いな。何か事情でもあるのか」

「……そう、ライにはもう会ったのね。あの子、変わってたでしょう? 面影なんてもうないわ。たまに知性を取り戻す時もあるようだけど、いつもはてんでダメ。早く、何とかしてあげたいんだけど……」

「だからそのために聞いているんだ。あの時何があった? 俺が死んだ後、一門はどうなった? お前はここで何をしている?」

 強い口調で詰め寄るロベルトを、エメルダは困ったような表情で見つめた。そして数度、口を開きかけては閉じる動作を繰り返す。よほど言い難いことなのだろう。

 エメルダが口を開いたのは、それから五分も経った頃だった。

「とりあえず、ロベルトには悪いけど……そっちの二人は外へ出てくれないかしら。貴方達は門下生ではないわよね? これから話すことは重要機密事項なの。あまり聞かれてはまずいのよ」

 二人がちらりとロベルトを見ると、ロベルトは無言で小さく頷いた。それを見た二人は素直に部屋を出て行く。

 扉がガチャリと音を立てて閉まると、エメルダは深く息を吐き出した。非常に険しい顔をしており、これから話すことが何か恐ろしい事実を含んでいることが分かる。

 ロベルトはそんな彼女を正面から見据え、ゆっくりと言った。

「教えてくれ。あの日、お前は、何を見たんだ。何が、――終わったんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る