49話

 ようやく街の影が見えた頃、リリンは奇妙なものを目にした。街の外に大勢の人々が集まっているのだ。よく目を凝らすと、その人々は誰もが冒険者であることが分かった。その数、ゆうに五十人。どうしてこんなにたくさんの人が? と疑問に思う。

「ねぇ、街の外に冒険者が集まってる」

「え? ああ、本当だ。今日って何かあったか?」

「うーん……特に行事はなかったはずだけどな……」

 不思議に思いながら近づいて行くと、一人の冒険者がこちらを振り向いた。若い男だ。どうやら剣士のようで、腰に長剣がある。

 その男が、ぎゃっと奇怪な叫び声を上げた。

「レ、レ、レ、レッドウルフッ!?」

 ざわり、と場が波打つ。次々に皆がこちらを向く。その目がレッドウルフを捉えると、人々は歓声とも怒号とも絶叫とも取れない不思議な叫び声を上げた。

 そのおかしな反応に、三人は驚いて立ち止まる。それに合わせてレッドウルフ――もといそれを支えている精霊達も止まった。

「えーと、あの、これは……いったいどういう集まりで?」

 ルヴォルスが呆然と呟いた。精霊達もレッドウルフを抱えてくるくる回っている。驚いている、という意思表示だろう。ロベルトとリリンも精霊の姿は見えないが、何となく言いたいことは伝わった。

 最初に三人を見つけた男がこちらへ寄ってくる。

「き、きみ達、そのレッドウルフは……」

「俺達が討伐したが?」

 驚きが去ったロベルトが平然と返すと、男は目を丸くして、そして集まっていた人々の方に大慌てで戻って行く。

 本当に何なんだ? いったい何の騒ぎだ? と不審に思う一同。こんなに冒険者が集まって何をするつもりなのだろうか。

 どうすればいいのか分からずに立ち尽くしていると、三人の前に一人の女性がやってきた。

「貴方達、レッドウルフを討伐したっていうのは本当なの?」

「……っ!? ………本当だが。これが見えないのか」

 圧し殺したような平坦な声でロベルトが言う。その目は大きく見開かれており、明らかに何かに驚いていた。

「少し話を聞きたいわ。この事態になった理由も話すから、少しついてきてくれる?」

「分かった」

 女性とロベルトは淡々と話を進めて行く。いつもはルヴォルス、リリンに確認を取るのに、それすらもない。

 何かがおかしい。二人はそう思ったが、何を言うでもなくついていった。ロベルトが何も言わないということはそれが正しいことだと知っているのだ。

 不穏なものを感じつつ、三人は黙って女性のあとに続いた。

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