16話

 それから数時間は経っただろうか。空が夕暮れの様相を呈してきた頃だ。隣の街の外壁からあとわずかの距離まで達した。この分なら間もなく着くだろう。

 基本的に、この世界――リバーシス――の街は外壁に覆われている。まるで戦に備えるように、真っ白な壁に囲まれている。それは無論モンスターから住民達を守るためのものでもあるし、盗賊などの襲撃から守るためでもある。

「少し急ごう。あまり遅くなると、宿がなくなる」

「そうね。ゆっくりしすぎて暗くなっちゃったらもう街には入れなくなるもの」

「ここはまだモンスターが少ないから、僕らの街よりちょっとだけ門が閉まるの遅いけどね」

 見張りを立てなくてもいい安全な場所で眠れる。それは三人にとって重要なことだった。平気そうに見えるが、実は初めての野宿で酷く神経をすり減らしていたのだ。

 夜間、いつモンスターや盗賊が襲ってくるか分からない。しかも三人は、初日に盗賊と遭遇している。全員にある程度の戦闘技能はあるが、実戦経験はほとんどないのだから。

 特にリリンは美少女で、しかも貴族に求婚されている身であるため、街の外には家族としか出たことがない。死の恐怖を知るルヴォルスや、実戦経験のあるロベルトに比べると、性別的にも力の差にも大きな遅れがあるのだ。

「ちょっと水でも飲むか? 疲れてないか?」

「今日は休みすぎだよ。野営地を出てから二回、昼食に少なくとも二時間、それからさらに三回だ」

「数えてたの? でもしょうがないじゃない。私達、皆疲れてるんだから。精神的にね。ロベルトは休憩中に魔法実験しすぎて吐いちゃうし、ルヴォルスも私もつられて吐いちゃったし」

「あれは悪かったな。少しムキになった」

「いや、いいよ。それより早く行こう」

魔法使いにとって、魔力の枯渇は死活問題だ。

 自然回復が可能な魔力量は微々たるものなので普通は回復ポーションで回復する。だがそれも大変不味いため、服用する者は少ない。子ども舌のロベルトも飲まないタイプだ。

 大魔法の二連発動による消耗は一晩経ってもあまり回復しなかった。花についた朝露くらいのものだった。

「もう一息。さ、頑張りましょ!」

 弾むような声でリリンが言い、隣の街へと駆け出した。二人もそれを追う。この三人の中で最も運動神経がいいのはリリンのため、門に着くまで追いつけなかったのだが。

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