14話
それからさらに数時間後、今度はルヴォルスが見張りに立っていた。夜明けの少し前で、世界が最も静かな時間帯だった。
ルヴォルスはこの時間が好きだ。薄暗いが世界は青く染められ、物音といえば自分の呼吸以外には自然の奏でるものだけ。音色を聴き、それに身を任せる。この世で最も美しい時の過ごし方だと思っている。
静かな音に耳を澄ませ、風の流れを聴いていたルヴォルスは、すっと立ち上がった。そして、まるで観客にそうするように一礼する。ゆっくりと面を上げると、自然の音色を邪魔せぬように動き出した。
それは、見事なダンスだった。ここで舞踏会が開かれているような、そういう優美さを伴うものだ。
自然の音をオーケストラの演奏に見立て、目に映る美しい精霊達の手を次々と取って踊り回る。自然を揺蕩う精霊達はルヴォルスの見事な踊りに心惹かれ、我先にとその手を伸ばす。
人間と精霊の織り成すそのパーティーは、夜が明けるその瞬間まで続いた。
「ふぅ……これだけ長い時間踊り続けると体が辛いな。今度は見張りの時間帯、変えてもらおうか」
汗だくになって草の上に寝転がったルヴォルスはそう呟いた。息も絶え絶えといった様子で、立ち上がる気力もないらしい。
視界の端で『またね』と手を振る精霊に片手を上げて返礼すると、ルヴォルスは金色に輝くその目を閉じた。
(この辺りの精霊とは、結構仲良くなれたかな。これで変にちょっかい出してくることは少なくなったはずだ。精霊が視えると、人間はすぐにちょっかい出されるからなぁ)
思わず苦笑をこぼす。
弟が誘拐された時一緒にいたルヴォルスにかけられた呪いは非道なものだった。それは、『精霊が視えるようになる』というものだ。
精霊はこの世のありとあらゆるもの、その全てに宿っている。火の精霊は赤、水の精霊は青、というように実に色鮮やかだ。
しかし、その美しい世界とは裏腹に、精霊が視えるというのは多大な負担となる。何せこの世の全てのものに宿る精霊だ。それが視えるということは、視界は精霊に埋め尽くされてしまう。脳が精霊だらけの視界を処理しきれなくなるのだ。
幸いにもルヴォルスは何とかなっているが、年々呪いは酷くなっている。このままでは正気を失うのも時間の問題だ。
(そうなる前に、早く全てに片を付けてしまわないと)
僕が、いなくなってしまう前に。
頭の片隅にある懸念を追い払うように、目を閉じた。
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