12話

 ロベルトが見張りを始めてから三時間後。満天の星空を見上げながら、退屈な夜を過ごしていた。話し相手も、暇を潰せるものもない。静まり返った外の世界で自分一人が起きているのは、酷く孤独だった。

 懐から、餞別として贈られた懐中時計を取り出す。時刻は真夜中の二時を過ぎている。あと三十分ほどで交代の時間だ。リリンは寝起きがいいので起こすのに苦労はしないだろう。

「馬鹿だよなぁ。時計なんて、高価な物贈りやがって。しかもこれ、あいつの父親の形見だってのに。あのジジイも冒険者になるからってわざわざ地図なんて最高級品を……本当、お人好しばっかりだ」

 持ち歩けるような小さな時計は普通、貴族のような身分の高い者たちしか持てない高級品だ。平民はいつも、鐘の音と太陽や星の動きを頼りに動いている。平民で時計を持っているのなんて、時計職人くらいのものだ。

 ロベルト達の街には、一軒だけ時計屋があった。どうしてこんな田舎に時計屋があるのかと疑問に思ったが、どうやら街の領主のお抱えらしい。

 そしてロベルト達は、時計屋の息子の友人だ。彼の父親が亡くなる数年前からの付き合いだった。事故で死んだ父の跡を継いで、時計屋を経営している。

 カチ、コチ、と一定のリズムを刻む音は、まるで時計が生きているように錯覚した。

 旅に出る前与えられた地図は、街の偏屈な老人からだった。人付き合いが悪いくせに、ロベルト達が旅に出ると知って家中をひっくり返して探してくれたらしい。

 地図というものもまた、滅多にお目にかかれない代物だ。それを持っているだけでも驚きなのに、旅に出るからと普通に人に渡すのも珍しいことなのだ。地図というものは、伯爵家でも三分の一くらいしか所有していないという。

「……時間、だな」

 立ち上がると、ゆっくりテントの方に歩いて行く。

「リリン、起きろ。交代だ」

「ん……うん、分かった。お疲れ様」

 すぐに目を覚ましたリリンは目をこすりながらテントの外へ出て行った。それを見送ると、ロベルトもごろりと寝転がる。

 ロベルトはふあ、と大きな欠伸をすると、すぐに眠りの世界へと旅立った。

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