9話
商品の積んである馬車へと回った三人は、知り合いの商人達に値段を聞きながら個人的な趣味に関わるものや新鮮な果物を幾つか買った。すると、最後尾に近い馬車から何人かが降りて近付いてきた。
基本的に商人達と旅芸人の一行は、最初に商人、次に商品が数台、最後に旅芸人、という風に列を作っている。つまり、最後辺りから出てくるということは旅芸人だ。
「あら~、ロベルト君久しぶり~」
「シェルダさん、どうも。お元気でしたか?」
「ルヴォルスくん、久しぶりだな。あれから剣の腕は上達したか?」
:あ、お久しぶりですナーベルさん。剣は勿論上達しましたよ。街では一番です!」
男子二人が贔屓にしている旅芸人達が会いにきてくれたのだ。ちなみにリリンには贔屓の旅芸人はいない。誰の芸も凄いと思っているし、何より一番仲が良いのは商隊隊長のアロンダだからだ。
すぐに話に夢中になった二人を横目に見ながら、リリンはアロンダと今年の冬についての話を聞いていた。商人は情報が命の職業であり、情報屋に知り合いのいない新米冒険者達にとっての情報源はいつの時代も商人達だ。
冬に関しても情報は、冒険者だけでなく裕福層以外の全ての人にとって命綱に等しい。越冬は平民達にとって非常に大変なことなのだ。比較的温暖な冬なのか、厳しい冬なのかというのは、生死に直結する。
「今年は……そうだな、去年に比べれば暖かいよ。去年は異常だったからね、平年並みだと思ってくれて良い。ただ、新米冒険者なら早めに大きい依頼を取っておいた方がいいかもしれない。越冬の資金も必要だろう?」
「そうですね。とりあえず、隣街の次はゼルに行こうと思うんですけど間に合いますかね?」
「いや、冬は隣街で過ごしなさい。今年の冬はいつも通りな代わりに来るのが早い。ひょっとすると、ゼルに行く途中で大寒波がくるかもしれない」
「分かりました。じゃあ越冬は隣街にしておきます」
ぺこりと頭を下げたリリンは、そのまま世間話に移った。
結局、三人と商人達、旅芸人達の世間話は太陽の傾きがかなり大きくなるまで続いた。空が紫色を帯びてきたことに気付いた三人が大慌てで夜営の準備を始めることになった。
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