8話

 昼食から数時間後、太陽が沈み始める頃のことだった。前方からガラガラと低い音が聞こえてきた。馬車の車輪の音だ。

 馬車、ということは商人だろう。馬車を使うのは基本的に貴族か商人、特例として合同パーティによる集団討伐依頼を受けた冒険者くらいのものだ。

 田舎の街に貴族が来る理由はないし、合同パーティが結成されるようなモンスターの群などもこの辺では確認されていない。となれば必然的に、商人が来ているということになる。

 それに、秋口であるこの時期に商人が来るのは当然のことだ。

 帝都や王都のような都会で越冬のための用品を揃え、田舎の街で売る。田舎街の人々はそれをお金で買ったり、足りなければ野菜などの農作物や地域の特産品を、買った品物に見合うだけ売る。そうして商人は、田舎で買った農作物や特産品を都会で売るのだ。

 この辺りではそのサイクルが当然であり、また都会でも常識だった。都会田舎関係なく当たり前と考えられている物事の数少ない例の一つである。

「あ、御者席にアロンダさんが乗ってる! てことは、旅芸人もいるよ!」

「そうか。今回はシェルダさんいるかな。俺、あの人の歌好きなんだよな」

「ロベルトは詩人だからねぇ。僕は剣呑みのナーベルさんに来ていてほしいな。剣を呑むなんて、剣士として尊敬するよ」

 三人は旅芸人の一座が大好きだった。田舎の街には娯楽というものが少ない。それゆえ、冬に来る商人達の都会の話や旅芸人達の芸は一大娯楽なのだ。街の子どもたちは、寒いにも関わらず夜中まで彼らと話し込むことも多い。

「おーい! アロンダさーん!」

 手を振りながら、リリンは声を張り上げた。すると、前方の馬車が止まる。御者席から一人の男が降りてきた。

「やあ、久しぶりだね、三人とも。こんなところでどうしたんだい? 」

「私達、冒険者になったんです。それで今日の朝から旅をしてるの!」

「ほぉ。そうかそうか、ついになぁ。まずは隣街に行くんだろう? 隣街の冒険者ギルドは街に入って大通りを真っ直ぐ進むとすぐにあるよ」

「ありがとうございます。あ、俺達もいくつか買わせてもらっていいですか?」

「勿論いいとも。好きなだけ買いなさい」

 アロンダは人の好い商人だ。特に、一人息子と同じ年頃の三人には良くしてくれる。

 優しい商人の心遣いに感謝しつつ、三人は荷馬車の方へと回っていった。

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