7話

 魔法使いの得意魔法は、魔法が覚醒した時、一番最初に使った魔法によって決まる。魔法が自然に使えるということが生来の才能でもあるのだ。パン屋の子どもは最初に火属性魔法を使ったから火属性の魔法が得意魔法ということになる。

 ではロベルトの得意魔法は何かと言えば……それが分からなかった。ロベルトには得意魔法や苦手魔法といった認識がない。操天魔法は複合魔法なので、基礎属性がある程度満遍なく使えないとこの魔法は扱えないのだ。

 何よりロベルトには最初に使った魔法属性の記憶がない。物心ついたときから、魔法が使えるのが当たり前だった。

 魔法使いという職に就くものにとって、本来それはあり得ない事態だ。普通は誰だって覚えているものなのだ、一番最初に使った魔法というのは。

 記憶の封印ではないかと街の医者は言っていたが、それも定かではない。何より記憶封印は『教会』と呼ばれる集団の専用魔法であり、おいそれと使われるものでもかかるものでもない。

 だからロベルトの記憶喪失……らしきものには全く別の原因がある。その原因も全然分かっていないのだが。

 三人のいた街にはロベルト以外の魔法使いがいなかったので問題なかったが、これから先、都会へ出ると苦労するだろう。魔法使いは数が少なく、その数少ない魔法使いの会話で絶対に上がるのが「お前が最初に魔法使った時はどんな感じだった?」というものだからだ。

 何かしら上手い言い訳を用意しとかないとな、と三人で魔法談義をしながら、ロベルトは密かに考えていた。

「ねぇ、そろそろお昼にしない? 街道にも着いてるし、そろそろ太陽が真上になるわよ」

「あ、本当だ。気付かなかったよ。そうだね、この辺でお昼にしようか?」

「そうだな。これからまた盗賊が現れるかもしれないし……食べられる時に食べておくか」

「旅出てすぐに盗賊遭遇なんて、一日二回もあっちゃ堪らないわよ」

 リリンが抗議すると、二人とも真顔で頷いた。

 三人は街道から一メートルも離れないくらいの場所に座って、荷物から今日の昼食を取り出した。といっても、旅の最中なので街で食べていた昼食よりかなり質素なものだが。

「それじゃあ、いただきます」

 きちんと手を合わせて、三人は初旅の初昼食を食べ始めた。

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