第51話 動き出すメリュー2


        動き出すメリュー2



 翌朝、日本領事館の人も交えての朝食中、岡田が例の、メリューから持ち帰った生物について報告してくれる。


 最近は、何か当たり前のように岡田達と一緒に食事を摂っている。まあ、この方が効率がいいし、また、アットホームな雰囲気でお互い腹を割って話せるのがいいと、アマンダも気に入っているようだ。そのうち、少将やデイヴィスまで居ることになっているかもな。


 それによると、メリュー星の生物の遺伝子は、この地球のものに酷似しているとの結果で、あのパイソントードも、遺伝子的な分類ではカモノハシに近く、細菌等に至っては、地球のものとほぼ同一ではないかと。

 また、海水や大気の組成も、地球とほぼ一緒のようだ。若干、地球よりも酸素濃度が高く、海水は塩分濃度が低いとのことだ。


 ふむ、この報告からは、かなり古い時代に、メリュー星と地球で行き来があったと見て間違い無かろう。どちらが始祖かは分からないが。


 ちなみに、アマンダは遺伝子とか大気の組成とか、分からない事だらけのようだったが、その都度新藤とモーリスが丁寧に説明してくれたので、凡そは理解できたようだ。

 そしてこれは、アマンダには小学生から頑張って貰ったほうがいいかもしれないな。

 もっとも、アマンダが日本に留学とかできる訳もないが、ここには優秀な教師が揃っているから問題なかろう。


「うん、アマンダ、分からないことは、今みたいにすぐに聞いてくれ。あ、岡田さん、日本の教科書とか手に入りますかね?」

「はい、可能ですよ。但し、歴史の教科書とかは、新藤さんに選んで貰うのがいいでしょう。日本の歴史解釈は、執筆者によって大きく分れるところですから。あっと、メリューには、日本史なんて必要なかったですね」


 ま、それもそうか。

 だが、アマンダは違うようだ。


「いえ、出来れば日本の歴史も詳しく知りたいですわ。現在、メリューにとっての日本は、最重要国家です。そして、国家の成り立ちとかを知ることが、その国民を理解する事にも繋がると私は考えておりますわ」


 ふむ、流石はアマンダだな。

 俺には、そんな発想は無かった。最低限の常識として、知っておけば恥は掻かない、くらいだったからな~。

 ならば俺も、もっと世界史とかは勉強しないといけないな。

 うん、これからは日本だけじゃなく、世界が相手だ!


「なら、その教科書、メリューの人数分、用意できますかね? モーリスさんとクリスさん、そしてソヒョンにも、日本の歴史はある程度でいいから知っておいて貰いたいですし、俺とサヤも、教師にならされる可能性がありますから」


 それに、岡田は満面の笑みで頷いてくれる。


「はい! では、中学までの日本の教科書、公立で使われているもの、全種類、10冊ずつくらいでいいですかね?手配しておきます! あ、でも、そのエルバイン陛下のお考えだと、僕達もメリューの歴史を…、あ、いえ、失礼しました」


 ここで岡田は慌てて頭を下げる。


 うん、メリューの厳密な生き残りは、もはやアマンダだけ。なので、国民性を知るという意味ではあまり役に立たない。今のメリューは既に、日本、アメリカ、北朝鮮、そして元メリューの、移民国家だ。

 そして、メリューの歴史書も、アマンダがアイテムボックスに入れて持ち歩いているとは流石に思えない。

 王宮に書庫があったが、あの後だ。焼け残っていたら奇跡に近い。


「はい、残念ながら、メリューの歴史を伝えることが出来るのは、今や私の記憶だけでしょう。なので、折を見て、私自身で書き記していこうと思いますわ。そして、出来上がったら、この世界の方々にも読んで頂きたいですわね。とは言っても、あまり誇れるような歴史ではないのですが…。あ! で、ですが、教科書に関しては、大変感謝いたしますわ! ええ! シンさんに出会ってからは、教わる事ばかりでしたし。あ、あの水車という魔道具は素晴らしかったですわ! あれのおかげで、水魔法を使える人が居ない村でも、耕地がかなり広がったと聞きますわ!」


 アマンダは、一瞬重くなりかけた空気を必死に振り払う。


 しかしアマンダ、この世界の技術を魔道具という認識では、先が思いやられるな。

 もっとも、彼女にとっては、そう思うことで素直に受け入れられるのだろうが。


 その後、教科書に関しては、新藤とモーリスで検定するとのことで、話はついたようだ。

 そして、気になる教師については、なんと、俺とサヤに丸投げされてしまった!

 モーリス曰く、『シン殿とサヤ殿も、復習になってよいでござろう』との事だ。

ま、現状、最も時間に都合がつくのは、俺とサヤというのは否めないので、これは仕方ないか。もっとも、日本史に関しては、新藤が纏めて教えてくれるそうだ。



 食事が終わり、日本の連中が領事館に引き返すと、早速打ち合わせだ。

 クリスによれば、羽田の領事館の費用が馬鹿にならないらしく、金策が最優先の課題となる。


「申し訳無いでござるが、現状、シン殿に頼るしかないでござる。と言っても、メリュー星の魔族さえ片付けば、状況は一変するので、今だけでござる。もし、陛下が仰る『ゲート』が出来れば、その通行料だけで左うちわでござるよ。借金するのも考えたでござるが、利息と担保に何を要求されるか、分かったものではないでござる。最悪、その担保目当てに邪魔が入るまで考えられるでござる」


 ぶっ!

 しかし、流石はモーリスだ。

 そう、この世界は、メリューと違って、魔族が居ない代わりに、人間同士の競争が激しい。


「ええ、シンさんには申し訳ありませんわ。私も、この世界で魔法が認められれば、魔法の教師になれるのですが」

「いや。モーリスさん、アマンダ、それは気にしないで欲しい。俺が、サヤとアマンダを焚き付けて建国させたようなものだから、そこは覚悟しているよ。そもそも、最初は傭兵でもいいと思っていたくらいだし」

「はい、それは私も感じていましたよ。ですが、国民としては、シン君とサヤちゃんに、そんな危険な仕事をさせる訳にはいきませんね~。なので、私の方で、金になり、且つ、リスクが低いと思われる案件を物色しておきましたよ。クリス、あのリストを出して下さい」


 新藤がクリスに振り返ると、彼女が既に用意していた書類を皆に配る。


 ふむ、トップにあるのは、オーストラリアでの、山火事の消火。ギャラは100万豪ドル、日本円にして8000万程。だがこれには、いくら俺でも数日、下手すれば1週間はかかると思われる。理由は、現在燃えている面積も広く、何よりも、何ヵ所もあるからだ。

 俺が例の登山隊救助の際に、フリーズブレスを放ったのを嗅ぎつけられたらしい。


 しかし、これはいいな。こういうのならば、報酬の多少に関わらず、喜んで受けたい。


 2番目はCMの依頼で、アメリカの大手飲料メーカーからのものだ。

 ギャラは、半日で数千万くらい。


 そして、それ以降も民間の依頼が続く。

 CMの依頼が大半だが、笑えるのもあった。日本の特撮映画で、主演をして欲しいと。

 しかしこれ、もはや特撮じゃないだろ!


 また、下の方には、あまり受けたくないのもあった。

 放射性廃棄物の、宇宙空間への廃棄作業だ。これは、若森さんじゃないが、人類自身の技術で解決すべき問題だろう。


「今来ているので、条件が合うのはこんなところですかね。ギャラに関しては、まだまだ交渉の余地がありますよ」


 新藤はそう言いながら、にやりと眼鏡に手をかける。

 うん、そっちの話は新藤に任せるべきだな。


「分かりました。俺としては、最初にこのオーストラリアのを受けてあげたいところですが、例の会談まで後3日。時間がかかりそうなので、それが終わるまでは、流石に受けられないですかね?」

「ええ、如何にシン君でも、数日で全部は無理だと私も思いますよ。ですが、これは国連交渉の材料にもなり得ます。取り敢えず現地に行って、触りだけでもやって貰えればいいかと。向こうだって、すぐに全部鎮火できるなんて思っていませんし」


 ふむ、流石は新藤だ。そこまで考えていたとは。

 俺に、こういった社会貢献的な仕事を回す事によって、軍事利用させることを回避させるのが狙いなのだろう。


「分かりました。じゃあ、アマンダ、これはOKでいいか?」

「ええ、新藤さん、早速お願いしますわ。それで、話が決まれば明日からですの?」


 すると、新藤は思いっきり頭を下げる!

 ん? 目元は笑っているぞ。


「いや~、そう言って頂けると思って、既に受けちゃいました。はい、今からです! また、金額については、まだ相手の言い値です。なので、これから吊り上げる予定ですので、現地には私も同行させて頂いて、更に交渉させて頂きます。それで、良ければその、クリスも一緒に新婚旅行を兼ねてどうかと、頼んでもいないのに、勝手にゴールドコーストのスイートを用意してくれるそうでして~♡」


 ぶはっ!

 これって、賄賂受け取っちゃった宣言ですか?

 しかし、この言い方だと、相手に譲歩する意図は微塵も無さそうだ。良く言えば、相手の厚意を無駄にしなかった。悪く言えば、たかっただけと。

 まあ、新婚早々、休暇も取らずに働いてくれているのだから、これくらいは役得だろう。

 クリスは上を向いて俺達から目を逸らし、それをモーリスが思いっきり睨みつける。

 そして、アマンダが、頬をひくつかせた後、作り笑顔で答える。


「なら、仕方ありませんわね。それで、私も…」

「はい、これも申し訳ありませんが、モーリスとソヒョンさんとで留守番お願いできますかね? サヤちゃんは、シン君のサポート役として欠かせませんし。羽田の方は、国連関連とか、何か重要そうな連絡が入れば、カオリン君に回して貰う手筈になっていますから。それで、構いませんかね?」


 新藤は、アマンダに皆まで喋らせず、更に机に手をつき、額を擦り付ける。

 ふむ、段取りも完璧と。

 この男、仕事が出来過ぎるにも程があるだろ!


「あ~、そこまでされていたなら、私からは何もありませんわ! そして、それならば、シンさん、サヤちゃん、分っていますわね?!」


 ぐはっ!

 アマンダは、氷の笑顔で俺に振り向く!


 しかしアマンダ、何故俺達に振る?

 俺がサヤに目を合わせると、彼女も当惑しているようだ。

先程までは、新藤に俺のサポート役と聞いてにやついていやがったが、今は目が泳いでいる。


 すると、またしても新藤だ!


「あ~、二人共、心配しなくていいですね。そこも抜かりはないですよ。土産物の選定は既に済ませてありますから」


 もう、何も言うまい。

 俺は服を脱ぎ捨て、ドラゴンに戻る。

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