第50話 魔法実験
魔法実験
「しかし、あの記者、あんな質問によく100万払ったな~」
「そうでござるな。でも、あの陛下を見れば、誰でもこの質問はいける!って思うでござるよ」
「そうっすね。まあ、儲かったっすし、いいんじゃないんすか?」
「しかし、シン君の身体が雌だったとは、私も少し驚きましたよ。うん、やはり私の選択は間違っていませんでした。ここに居れば、絶対に退屈しませんね」
「あたしもびっくりだわ! でも、シン君、その話なら、これからに期待すればいいんじゃない?」
記者会見が終わり、俺達は帰り支度をしている。時間は、もう6時だ。
新藤とクリスは、終わる寸前に到着したらしい。色々と食料やら物資を買い揃えてきてくれた。俺の呼び方が変わっているのは、新藤家で統一したと考えてよかろう。
カオリンは既に居ない。帰りがてら、記者会見で得た金を銀行に振り込みに行ってくれている。
ちなみにアマンダは、俺の胸元で、さっきからずっと頭を下げ続けている。
だが、サヤ含め、他の人達に特に変化はない。
そらそうだ。今更この身体が雄だろうが雌だろうが、大差無い。
「いや、アマンダもういいよ。俺もこの身体に関してはもう諦めているし。それに、その理由じゃ仕方ない。クリスさんの言うように、これからに期待だな。って、♂になれたところで、全く意味は無いけど」
そう、あの話には実はまだ続きがあって、アークドラゴンは、産まれた時は全て雌だそうだ。また、この種族は一夫多妻制、一頭の強い雄を中心にハーレムを形成するらしい。そして、その雄が居なくなると、その群れの中で最も強い雌が雄に変化するそうだ。
「そ、そうですわね。私も、シンさんを男性として見ていますから、問題ありませんわ」
「うん、ありがとう。じゃ、サヤ、実験を始めよう。運転席に座ってくれ。後、警備の皆さん、ご苦労様でした! これからメリューだけでの話がありますので、外して下さい! あ、それと、勝手に帰りますんで、居なくなっているかもしれませんが、ご心配なさらずに」
「了解っす!」
「皆さん、お疲れ様でしたわ」
警備の人達が、軽く一礼してぞろぞろと引き上げていき、ハンガーのシャッターが閉じる。今の説明で不審がらないところをみると、俺達がテレポートできる事を知っていると見ていい。ま、新藤曰く、もはや公然の秘密だそうだし。岡田の手回しだろうが、感謝だな。
サヤが、空港の人が運んできてくれた給油車に乗り込む。
そう、4日後、国連の人達が来るのに、ヘリ用の燃料補給手段がどうしても必要だった。羽田からメリューまで、民間だと、長めの航続距離があるヘリでも、辿り着くのが精一杯。とても往復はできない。自衛隊や米軍のヘリは、空母を派遣しているから運用できているだけだ。
「では、ソヒョンさん、聞こえますか? 今からシンさんがそちらにテレポートします。ヘリポートに何もないか確認してください」
「ア、アマンダ陛下でございますですか? かしこまりでございますです!」
アマンダが指輪に向かって話しかけると、すぐにソヒョンから返事が来た。
「大丈夫でございますです。誰もいやがらないでございます!」
うん、問題無いようだ。俺は両手でそっと給油車を掴む。
「よし、サヤは楽にしていてくれ。じゃあ、行くぞ! テレポート!」
ふむ、やはり失敗のようだ。
早速、ソヒョンが俺を見つけて駆けて来るが、給油車の運転席にはサヤの姿は無かった。
座席に置いてあった書類とかはそのままなので、人間と着ていた服だけがテレポートできなかったようだ。
取り敢えずサヤが心配なので、テレポンで確認する。
(サヤ、そっちは大丈夫か? こっちは給油車だけだ)
(へ~、人が乗り物の中に居るとこうなるんすね。こっちは、いきなり周りが消えて、あたいが尻もちをついただけっす)
(分かった。とにかく無事なようで安心したよ。じゃあ、後はアマンダと一緒に帰って来てくれ)
(了解っす!)
しかし、こうなるとは思っていたが、少し残念だ。
これは、後々の事を考えての実験でもあった。
もし、メリュー星に、こちらの世界の人間を連れて行くとなった場合、俺に掴まらなくても、例えばバスなんかに乗って貰えば、一度に多人数を運べるかもという考えだ。
当然、飛んでいる戦闘機なんかをそのままテレポートさせた場合、パイロットは空中遊泳してしまう。これは試しておいてよかった。なので、あの核ミサイルの時の俺の対応は間違っていなかったと言える。
「ま、厳密に言えば、乗り物そのものを服として認識していれば可能なのかもしれないけど、そこまでする必要もなかろう。俺に掴まっていて貰えばいいだけだし。うん、ソヒョン、只今。留守番、ご苦労様」
「お帰りでございますです。私は松井さん達と一緒に、新藤さん達の為にご馳走を作っていたです。今日は、二人の結婚パーティーでございますです。覚悟しときやがれです!」
給油車の方はソヒョンが運転できるようで、俺の家の横につけて貰うと、すぐに松井が飛び出してきた。色々と点検してくれるとのことだ。
「お、これは凄いな」
俺が家に入ると、既に何台ものテーブルが並べられていた。その上には何種類もの料理が用意されており、岡田達、日本領事館の人が食器を持って走り回ってくれている。
ウェディングケーキこそないが、充分と言えるだろう。
「ええ、これなら新藤さん達も喜びますわ。ソヒョンさん、そして、日本の方々、本当に感謝致しますわ」
アマンダ達も奥の扉から入って来た。
「ん? サヤ、新藤さんとクリスさんは?」
ふむ、さっきから見渡しているのだが、肝心の主賓がまだ来ない。
「あの二人は今着替え中っす。以前、あたいらが使っていた部屋を使うみたいっす」
「拙者の部屋の隣は嫌だと抜かしたでござる!」
ま、気持ちは分かる。仮設住宅の壁は薄い。今、あの部屋の隣は会議室兼、PC関連の共用部屋なので、夜は誰も居ない。
もっとも、あの二人は基本、羽田の領事館で仕事なので、あまりこっちは利用しないだろう。
万雷とは言えないが、拍手の中、真っ白なタキシードの新藤と、それに肩を並べながら、純白のドレスを纏ったクリスが、ハンガーの大きく開いた入り口から入場してきた。
「で、何で俺達はこっちなんだ? 俺も、人間に擬態して、あのご馳走を食べたいんだけど?」
現在、俺とアマンダは、ハンガーの一番奥。目の前には、沢山の料理が盛りつけられたテーブルがいくつか並んでおり、その周りには現在メリューに居る人全てが座っていた。サヤに至っては、既に食ってるし。
「新藤さん達の御希望ですわ。何でも、神前結婚だとか」
彼女はそう答えて、俺を見上げて悪戯っぽく微笑む。
ん?
神前結婚なら、タキシードとドレスではなく、袴と着物に、文金高島田では?
ここで俺は気付いた!
はいはい、シン前結婚な訳ね。
新藤カップルは、手を繋ぎながら、皆のテーブルを抜け、俺達の前に進み出て来る。
「では、これより、婚姻の誓いをして頂きますわ。メリュー式ですが、宜しいですか?」
なるほど。出汁にされた感バリバリだが、このカップルの意図は理解できた。
「はい、陛下、お願いします」
「はい、アマンダさん、宜しくお願いします」
ふむ、俺もメリューの結婚式とかは参加した事はないので良く分らないが、要は、アマンダが神父役と。で、俺が十字架に張り付けられたキリストってところか?
「では、汝、新藤孝弘、貴方はクリスティーナ・シュタイナーを妻にするにあたり、生涯彼女を愛し、もし彼女が過ちを犯しても、それを全て許すことが出来ると、メリューの神々とシンさんに誓いますか?」
「はい、誓います」
ふむ、後半部分がキリスト教とは違うと言えるが、大体同じだな。
って、おい!
最後に余計な名前が出て来てないか?!
おまけに新藤の奴、にやにやしながら俺を見上げやがった!
うん、これはもう諦めよう。
どうやら、この場では俺は神様扱いのようだ。
クリスにも同様の言葉がかけられ、彼女も大きく頷いて誓い、やはり最後ににやりと俺を見上げる。
はいはい、おめでとうございます!!
少々むかついてきたので、俺も一言言ってやる。
「お二人共、おめでとうございます。でも、もし浮気とかしたら、お互いが許しても俺が許さないですから」
そして、大きく開け放たれたハンガーの入り口に向けて、軽く火を吐いてやった。
二人は一瞬口元をひきつらせたが、すぐに新藤が答える。
「はい、そのつもりでシン君に立ち会って貰ったのですから」
「ええ、それでいいわ。タカヒロは、丸焼きにされないようにしなさいね」
ま、これくらいじゃこの二人が動じる訳もないか。
じゃ、後はお幸せに~。
その後、アマンダが例の指輪を二人に嵌めさせ、二人がちょこっとキスして終わりのようだ。
なので、俺も早速人間に擬態した後、料理を貪ろうかと思ったが、何故か俺とアマンダは新郎新婦の横の席だそうだ。ふむ、仲人席?
「それで、何で日本かアメリカで式を挙げなかったんですか? 親族すら呼ばれて無いようですし」
俺は、隣でシャンパンをあおっている新藤に聞いてみる。
「あ~、それは、クリスがこの島で挙げたいって言ったからですね。そして、この島は、周りから見れば機密の塊でしょう。メリューに直接関わった人には、間違いなく妙な人達が接触しようとしてきます。私もクリスも、友人や親族にそんな思いはさせたくなかったですから。なので、身内にもメリュー関連の事は一言も喋ってませんよ。ちなみに、週刊誌にすっぱ抜かれたのは、半分わざとですね。同盟の下準備もほぼ終わってますし、いいタイミングで煽ってくれましたよ」
なるほど、魔法関連の事とか、それこそ根掘り葉掘り聞かれそうだ。
そして、新藤にとっては、あれは全て予定の行動だったと!
よくよく考えてみれば、この人が用心していない訳が無いか。
更にクリスも追従する。
「それに、もし日本で式を挙げたら、面倒なんてもんじゃないわ! マスコミが殺到してくる様子が目に浮かぶわ」
ふむ、ここで挙げる方が、余計な邪魔が入らずに良かったと。
しかし、何か俺のせいで、かなり迷惑かけてないか?
「でも、シン君が気にする必要は無いですね。私は今、結婚もそうですが、このメリューに関われたのが楽しくてしょうがないですから」
流石は新藤だな。
全て見透かされている気がする。
「ええ、私もそうよ。あらゆる意味で亡命して正解だったわ」
なら、いいか。
皆の腹も膨れ、日本の人達が領事館に帰ると、正面のシャッターが閉じていく。
「では、そろそろお開きですかね~。いや~、皆さん、本当にありがとうございました」
「ええ、ドラゴンの前で宣誓なんて、他では不可能ね。シン君、皆、本当にありがとうね。後、ソヒョンさん、料理美味しかったわ。ところで、あのお肉は何のお肉かしら?」
新藤とクリスが揃って頭を下げる。
そして、肉に関しては、もはや言うまでもなかろう。
そういや、俺達が出る前に、サヤがソヒョンに、結婚式用にとアイテムボックスの中身をぶちまけていたな。
「お二人共、おめでとうございますです。あれは、パイソントードの肉でございますです」
「おや、あれがそうでしたか。確かに美味かったですね~。なら、モーリス、あれの権利をたかだかマンション一棟って、安売りしすぎかもしれませんよ?」
「タカヒロ、そう言わないでほしいでござる。それに、今はあれで充分でござるよ。それで陛下、丁度全員揃ったでござる」
なるほど、これから会議と。
新婚の新藤夫妻には申し訳無いが、やれる時にやっておくべきだろう。
全員が一つのテーブルにつくと、アマンダの表情が険しくなる。
「今日、報道陣の前でも言いましたが、魔法の扱いについて、皆さんの意見をお伺いしたいですわ」
先ずはモーリスの手が挙がる。
「拙者は、この世界の人間に魔法を教えるのは早計だと考えるでござる。メリューに住めるようになってからが時期だと思うでござる」
新藤もそれに追従する。
「ええ、私もモーリスと同じ考えですね。それに、教えるにしても、メリュー星に住む人限定にするべきだと思いますよ。この世界での混乱は予測がつかない」
なるほど、メリュー星限定という案はいいかもしれない。
「でも、タカヒロ、もしメリューと地球で行き来ができるようになるのなら、確実に地球にも広まるわよ?」
ふむ、クリスの言う事ももっともか。メリューで魔法を覚えた人が地球に行けば、どうなるかは目に見えているな。最悪、拷問してでも聞き出そうとする奴が出るだろう。
「う~ん、メリューじゃ、魔法なんて当たり前だったっすからね~。でも、使えない人が馬鹿にされていた訳でもないっす。エルフでも使えるのは6~7割、あたいらヒューマで3割くらい、亜人で1割ってところっすから」
この、サヤの意見は参考にはならないだろう。今や、純粋なメリューの生き残りはアマンダだけなのだから。だが、折り合いがつくという意味では重要かもしれないな。
「私は、魔法を覚えたいでございますです。料理に使えたら便利でございますです」
ふむ、動機はともかくとして、これが一般の考えだろう。
メリューでだって、魔法学校は盛況だったと思う。もっとも、魔族が出現してからは、少しでも魔法が使える人は、ほぼ強制的に入学させられたと聞くが。
「う~ん、取り敢えず、使えるかどうかだけでも確かめてみる必要があるのでは? 勿論、本人の同意が必須だけど」
俺の意見に、全員が頷く。
「では、ソヒョンさんは如何ですか? 但し、この世界で魔法が使えるという事になれば、貴女は、私達と同様、常人では無くなるという事になりますわね。下手をすれば、命を狙われる危険性もあります」
うん、これには覚悟が必要だ。俺に至っては、核ミサイルで狙われたのだから。
しかし、ソヒョンは涼しい顔で答える。
「問題無いでございますです。私の命は、シンさんのものでございます。シンさんが居なければ、私は死んでいたでございますです。なので、私で試しやがれです」
ぐはっ!
「い、いや、そもそも俺が居なければ、ああいう事態にはならなかった! なので、それは理由にはならないぞ」
「では、理由を変えるでございますです。私は、皆様のお役に立ちたいでございますです」
う~ん、退かないようだ。
だが、決意は堅そうだ。
「でも、魔法なんて、そんな大層なもんじゃないっす。あたいだって覚えられたくらいっすから。あたいからすれば、クリスさんのITの知識とか、モーリスさんの頭のがよっぽど羨ましいっすね」
ふむ、言われて見れば、俺もそんなもんかもしれないな。
隣の芝生は青いって奴だろう。
今の俺からすれば、俺以外の人間全てが、人間の身体をしているというだけで羨ましい。
そして、このサヤの発言で、一気に場が和んだようだ。
「なら、あたしも試してみたいわ。タカヒロ、いいわよね? あの指輪が使えたことから、あたしにも魔力はあるはずよ」
「う~ん、僕に拒否する理由は無いですね。クリスがやりたいというのなら、止めはしませんよ。そして、それなら私もやってみましょう」
「ならば、拙者もでござる! 兄としての面子があるでござる!」
ふむ、皆、乗り気になったようだ。
先ずは全員、揃って外に出て、仮設住宅から少し離れた場所で輪になって座る。
これは、無いとは思うが、盗聴されている可能性を考慮してのものだ。また、既に外はかろうじて月明かりのみだが、これはこれで都合が良かろう。
「では、最初に、これがメリューでは最も有力な仮説なのですが、何故魔法が使えるかというところからですわ」
ふむ、その話は俺も初めてだ。
俺とサヤの場合、もはや使えるのが前提の下で説明を受けた気がする。
アマンダによると、魔法を使える人間は、『マジカルワーム』、訳して『魔法虫』というものを、体内に飼っているとのことだ。但し、この虫は目に見えるものではなく、存在すら確認できていない。しかし、この虫が居ると仮定すれば辻褄が合うそうだ。
そして、この『魔法虫』は、親しい者同士で伝染する。魔力の共有現象や、テレポンの魔法が使えた場合、高確率で相手も魔法が使えるとのことだ。
従って、いくら魔力が高くて魔法を覚える才能があっても、親しい人の中にこの魔法虫を飼っている人が居なければ、そもそも不可能とのことだ。
エルフ族に魔法が使える人が多いのは、エルフの種族内でその魔法虫が伝染しあったと考えられるそうだ。ヒューマや亜人に少ないのは、まだ伝染しつくしていないからと考えられる。
ふむ、納得だな。エルフ族は大陸の東に集中しており、中央から西にヒューマ。更に南半球はほぼ亜人だったと思う。そして、他種族との交流が本格的に始まったのは、数百年前だという。
「ならば、その魔法虫が、魔力を魔法として具現化する媒体になっているのでござるな?」
「ええ、流石はモーリスさんですわ。なので、この魔法虫が体内である程度増えないと、高位の魔法や高威力の魔法が使えなく、他人へ伝染させることも不可能と考えられています。ただ、この魔法虫がどうやって増えるかは、まだ完全に謎ですわ」
「なるほど。納得できましたよ。そして、この話を私達にしたということは、陛下は、このメリューの国民全員を、親しい者として認識されているということですかね?」
「ええ、そうですわ。新藤さんも流石ですわね。なので、もし魔法が使えなくても、それは魔法虫の受け渡しができていなかったのではなく、その方の適性だと考えて頂きたいですわ。但し、これも地球の方ではどうかも分かりませんが」
だな。
ということで、アマンダは次のステップ、具体的な魔法の使い方を教える。
何、こっちの方はそれ程説明は要らない。
意識を集中し、魔法をイメージし、それを解き放つだけだ。
だが、単純なだけに、これが出来るかどうかが適性という事だ。
ちなみに、アマンダによれば、実は呪文は何でも良かったらしい。
要は、魔力を放つ時の掛け声、単なる補助と。その人のイメージに合った呪文であればOKとのことだ。
なので、アマンダクラスになると無詠唱でも可能なのだが、若干威力は落ちるらしい。
「では、最初に初歩の初歩ですわ。これは火の魔法で、『ファイア』と言います。これが出来ない方は、残念ながら適正に乏しいかもしれません。ですが、これが使えなくても他の魔法で成功した例もありますので、諦める必要はございませんわ。ではシンさん、目隠しの方、お願いしますわ」
「分かった! サーマルビジョン!」
俺は服を脱ぎ捨て、ドラゴン形態に戻る。
そして空に舞い上がり、大きく翼を広げ、皆の上でホバリングする。
うん、これで上空からでは、下で何をやっているかまでは見えない筈だ。
「点火!」
「火遁の術!」
「ファイア!」
「불! 火! ファイア! でございます!」
下を覗くと、皆、手を前に翳し、口々に詠唱している。
お、ソヒョンが成功してるな。
やはり、この世界の人間でも可能と。
彼女の手の平には、ライターくらいの大きさだが、しっかりと炎が載っていた!
「ソヒョン! その調子だ! ついでに、そのまま意識を炎に集中しながら、その炎を投げてみろ!」
「こ、こうでございますですか?」
ぬお?!
ソヒョンの手の平の小さな炎は、へろへろと俺に向かって飛んで来た!
そして、俺の胸に当たって消える。
ま、俺に火系統の魔法は無効なので問題無いのだが、コントロールを鍛える必要があるかもな。
だが、初めての挑戦で『ファイアショット』を成功させた彼女には、充分に魔法の素質があると言えよう!
「で、出来てしまったでございますです?!」
「ソヒョンさん、凄いっす! あたいは、最初は成功しなかったっす!」
「ええ、おめでとうございますわ。ソヒョンさんには適性があったのですわね」
「しかし、これはある意味問題でござるな。この世界の人間でも魔法が使える事が証明されてしまったでござる」
「そうですね~、ですが、私もそうなんじゃないかと思っていましたよ」
「あたしも負けてられないわ! ファイア!」
その後、他の3人も暫く挑戦し続け、結果、クリスが成功させていた。
だが、彼女は炎を維持するのがやっとで、投げるまでには至っていない。
そして、これは二人共だが、あの程度の炎では、とても実戦では使えないだろう。原因は明白だ。魔力が低いのだ。
だが、アマンダの話によれば、魔法虫が増えれば高威力の魔法も使えるようになるので、そっちに期待しよう。
「では、今日はもう遅いですし、この辺にしておきましょう。そろそろ日本に嗅ぎつけられそうです。ですが、私もあの指輪は使えたので、出来ると思っていただけに、少し悔しいですね~」
「拙者とクリスは、血の繋がった兄妹でござる! 納得いかないでござる!」
「女性の方が、魔法の適性が高いのかしら? シン君も魔法が得意なのは、身体が雌だから?」
ぐはっ!
クリス! そこでそのネタ出しますか?
「確かに、女性の方が適性は高いと言われていますが、男性でも優れた魔術師は大勢いらっしゃいましたわ。後、魔法には深層心理が大きく影響すると考えられています。なので、モーリスさんと新藤さんは、心の何処かでブレーキをかけているのかもしれませんわね。では、帰りましょう」
ふむ、それなら納得できるな。
新藤とモーリスなら、『もし魔法が使えてしまったら?』くらいの戸惑いがあっても不思議じゃない。
モーリスと新藤は、揃って顎に手をかけながら歩きだした。
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