第49話 衝撃の真実
衝撃の真実
ん?
この視線の意味は?
俺が答えろってことか?
いや、こんな大事な事、俺が答えていい訳がない。
そもそも、この質問はアマンダに対してだ。
俺が戸惑っていると、頭に直接声が響いた。
(シンさん、貴方はどうしたいですか?)
ふむ、テレポンか。確かに、こういう時は重宝するな~。って、そっちじゃない!
(いや、俺は、アマンダの方針に従うだけだよ。それに、アマンダが答えられないなら、素直に答えられないと言えばいいだけなのでは?)
(いえ、私は妻として、夫に聞いているのです! また、ここで答えないという選択は、この世界の人々に要らぬ誤解を与えてしまう危険性があります。そうですわね…、シンさんは、メリュー王国……、いえ、王制という政治システムに対してどう思いますか?)
あ~、そういう事か!
妻が夫にどうこうはいいとして、俺は彼女の真意に気付いた。
あの世界の政治システムは、基本的に全て王制だったと思う。
愚鈍な王も居た。ホーシェンのように、民との距離を嫌う王も居た。
そして、アマンダはかなり理想に近い王だと俺は思う。
だが、アマンダはこの世界に来て初めて、民主主義というものに出会ったはずだ。
(そうだな~、これは欲目かもしれないけど、俺は、王としてならアマンダ以上の王は知らない。北朝鮮だって、もしアマンダが指導者だったなら、ああはならなかっただろう。だけど、次のメリューの王も優秀かどうかは分からない。なので、王制というシステムそのものは、諸刃だと思う。俺は、民衆にも責任を取らせるという意味においては、民主主義が優れていると思う)
そう、民は王を選べないのに、悪政のつけは民が支払わされる。
なので、王というか、指導者を民が直接選べるシステムの方が、俺には納得できる。
しかし、衆愚政治という言葉があるように、人気だけの愚鈍な代表が選ばれてしまう危険性は常にあるので、微妙なところではあるが。
だが、なによりも重要だと思えるのは、もし今のメリューが何かやらかした場合、その責任は全てアマンダにあるという事だ!
あの、北朝鮮の指導者がいい例だろう。北朝鮮という国家のしでかした過ちを、彼一人で、メリューの奴隷になるという形で支払ったのだ。
うん、アマンダだけに責任を取らせてはならない!
すると、俺を見上げていたアマンダがいきなり微笑む。
ん? 俺、何か面白い事言ったか?
(クフッ、シンさんは、まだテレポンの扱いに慣れていないのですわね。考えていることが全部聞こえてしまいましたよ。ですが、それでこそ私のシンさんですわ! はい、これで私の考えも決まりました。そして、きちんとシンさんにも責任を取って頂くとしますわ)
ぶはっ!
今後、その扱い方とやらを特訓しないといかんな。しかし、アマンダ相手だと、何か弄ばれそうな気がする。サヤで………同じか?
アマンダは大きく頷いてから、記者達に振り返る。
連中は、長い沈黙に少し戸惑っていたようだ。
質問した記者に至っては、バッグから札束を用意してるし。
「お待たせ致しましたわ。私の考えとしては、メリュー王国の再興は望んでいません。私が望むのは、新生メリューです! なので、メリュー『王国』という国名も、いずれ変わるでしょう」
うん、俺もそれでいいと思う。
モーリスも、何度も首を前に倒している。
但し、もしメリューで選挙が行われるとしても、満場一致でアマンダが代表に選ばれるとは思うが。
札束を握りしめていた記者は、即座にそれを引っ込め、換わりに、ノートパソコンを叩きだした。
「他に質問は無いでござるか? メリューからの話は、もう特にないでござるが…、そこ、どうぞでござる」
「では、メリューは、これから民主主義体制に移行すると考えていいでしょうか?」
ふむ、念押しか?
これから隣国の政治システムがどうなるか、気になるのは当たり前か。
「それは未定ですが、この世界の、特に日本のあり様は、大変参考になると考えていますわ」
なるほど、王制から民主制へ切り替わるのに、天皇制というシステムは便利ということだろうか? なら、初代天皇はアマンダか? だが、俺としては、アマンダには権限のない天皇なんかより、現場で執政して欲しいところなのだが。
等と考えているうちに、また手が挙がりだした。
「北朝鮮との和解内容を伺っても宜しいでしょうか?」
「答えられないでござる」
「日本との同盟内容について…」
「まだ調整中でござる」
「4日後の、国連との非公式会談について…」
「答えられませんわ」
ま、ここらは仕方ない。
これは、金を積まれても教えられないし、そもそも、国連とはどういう話になるのかも未定だ。
そして、やはり想定していた質問が出た。
「モーリスさんは、あのクリスティーナ・シュタイナーさんの実の兄と伺っていますが、新藤議員と、クリスティーナさんとの関係は?」
当然、記者の手には札束が握られている。ま、こういう下世話な話のほうが大衆受けしそうだしな。
モーリスが促すと、カオリンが立ち上がり、その札束を受け取る。
「結婚したでござるよ。クリスの猛アタックの勝利でござろう。タカヒロは今、日本に国籍変更の手続きをしているはずでござる。後、説得力はないでござるが、そちらが懸念していたような事は、あの男には一切無かったと証言するでござる。タカヒロがあのまま交渉役についていれば、メリューにとって、若干不利な内容になっているかもでござるな」
ま、それは同感だ。
だが、今までの彼を見ている限り、そこまでメリューに不利な内容には絶対にならないとは思う。
その後は、記者のほうもネタがつきたのか、パイソントード関連と、くだらない質問が多かった。
サヤはオリンピックに出るのか?とか、アマンダにミスコン出場の意思はあるかとか。
この辺の質問になると、タダで答えてくれればラッキーという感覚だろう。金を請求すると、答えなくてもいいと言われてしまう。
そして、モーリスが周りを見回し、「では…」と、言いかけたところで、おずおずと手が挙がった。
「あの~、失礼な質問でしたら申し訳ありません。先程シンさんは人間だと仰られましたが、シンさんの性別は男ということで宜しいでしょうか? いえ、今までのシンさんの言葉遣いから、男性だとは思うのですが、俺っ
ぐはっ!
俺が全力で『俺は男です!』と言おうとした瞬間、アマンダが先に制する。
「そ、その質問には、お、お金を頂きますわ!」
ん?
まあ、メリューにとって重要な質問とはとても思えないので、金を取るのは分かるが、これくらい即答してやってもいいのでは? ってか、俺が即答したいのですが?
しかもアマンダ、何故か動揺してるし。
すると、その記者は札束を持って前に進み出て来る。
慌ててカオリンが立ち上がり、その札束を受け取った。
はて? こいつもこいつだ。
こんな質問に、100万の価値があるとはとても思えないのだが?
「で、では、お答えしますわ! シンさんは、人間としての性別は男性ですが、その…、その身体は…、♀のアークドラゴンですわ!」
は?
へ?
俺は、呆然と立ち竦むしかなかった。
しかしこれ、絶対スクープ記事にされるだろ!
その記者は、これでもかというどや顔であった。
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