第47話 記者会見に向けて
記者会見に向けて
その後、俺の家、兼食堂、兼会議場で、皆で盛大にソヒョンの作ってくれた朝食をがっつく。
何故か日本領事館の人達も居るが、これはこれでよかろう。
松井と、元?自衛隊の人達は積極的にソヒョンを手伝ってくれるし、食卓も賑やかになる。
連中からしても、メリューと仲良くなるという目的があるはずなので、願ってもないチャンスだろう。
ちなみに今朝の朝食は焼き魚とホウレン草の和え物、それに味噌汁と漬物に海苔という、純和風だった。
魚の方は、自衛隊の人達がこの島で釣って来たとのことだ。なんでも、このメリュー島の環礁の削れた部分から、魚の大群が入り込んで来たらしい。
ふむ、俺も潜水艦なんかじゃなく、そっちを釣りたかったものだ。
サヤは、釣って来たという元自衛官と、その話で結構盛り上がっているし。
「それで岡田殿、羽田の会見場の方は大丈夫でござるか?」
モーリスが箸を置きながら岡田に尋ねる。
「はい、以前使った、あのハンガーを押さえています。もっとも、あそこはもうシンさん専用って感じですがね。招待する報道関係の方は、既にクリスさんからリストを頂いているので、警備の方は、日本が責任を持ってさせて頂きますよ」
そう、今日一番の仕事は、日本での記者会見だ。当然俺も行く予定だ。
ようやく落ち着きつつあるので、ここらで地球の人達の質問に答えようという事である。
また、これには、メリューの事を知って貰いたいという趣旨も当然含まれている。
4日後にはこの世界のお偉方との会談を控えているので、偶々ではあるが、丁度いいタイミングだそうだ。
「感謝するでござる。それで、こちらの出席者は、陛下と拙者、そして、シン殿とサヤ殿でござる。また、会談後に、向こうでクリスとタカヒロと合流する予定でござる。なので、二人は出席しないでござるが」
ま、そらそうだ。新藤夫妻?が出ると、余計な質問の嵐になりそうだしな。
それに、新藤に至っては、今はそれどころじゃなかろう。
「了解しました。では、予定通り、15時からという事でいいですか?」
「はい、宜しくお願いしますわ。そして、お魚の差し入れ、感謝致しますわ。美味しかったですわ」
アマンダも箸を置きながら、軽く微笑む。
「い、いえ、この魚はメリューで獲れたものですから! それに、ここの調理器具が無ければ、上手く焼けませんでしたし!」
サヤと話していた奴が、慌てて両手を振る。
見ると、顔が真っ赤だ。
ふむ、やはりアマンダの笑顔は反則だよな~。
俺はもう慣れたが、アマンダはこれから苦労しそうだ。
もっとも、俺としては、彼女には俺なんかではなく、『普通の人間』と一緒になって貰いたいと願っているが。勿論、それはサヤにもだ。
「いえ、お気になさらずですわ。それでは、ソヒョンさん、皆様、ご馳走様でしたわ」
「「「「「「御馳走様でした!」」」」」」
皆が一斉に立ち上がる。
岡田と、岡田の護衛というか付き添いはまだ準備があるのだろう、いそいそと領事館へ。だが、松井だけは残って、ソヒョンと共に後片付けを手伝ってくれる。
「じゃ、モーリスさん、昼まではヘリポートの拡張と、船が入港できるように、あの削れた部分を広げるという事ですね?」
「そうでござる。建築資材の搬入は、やはり船が効率的でござるからな。それに、これからの事を考えると、タンカーは無理でも、そこそこの船が入れないと困るでござる。いや、ある程度の水深と幅さえあれば大丈夫でござるよ。港湾設備とかは、連中が何とかするでござる」
「かしこまりましたわ」
「了解っす!」
作業はそれ程難しいものでもないので、アマンダとサヤを乗せ、午前中に終わらせる。
ただ、先程のモーリスの言い方に何か含みがある気がしたのは、俺の気のせいだろうか?
そして、皆で昼食を済ませ、今度は日本だ!
と、気合を入れていると、出発する前に、アマンダが俺達を仮設住宅の会議室に集める。
「ここに残るソヒョンさんには、これを持っておいて頂きたいですわ。本来ならば、私がこの世界の電話というものを使いこなせればいいのですが」
アマンダは、アイテムボックスから2つの指輪を取り出した。
小さな青い宝石がついているだけの、見た感じではごく普通の指輪だ。
ふむ、あの魔道具か。
「それは、何でございますですか? 私は、アマンダ陛下と結婚はできないでございますですが?」
ぶはっ!
まあ、そう取られても仕方あるまい。
「クフッ、ええ、メリューでもそういう意味はあるのですが、この指輪の真の価値は、離れたところであっても、対になっている指輪同士で会話が可能なのですわ」
首を傾げるソヒョンの前で、アマンダが微笑みながら片方の指輪を指に嵌めると、彼女もおずおずと差し出された指輪を嵌める。
すると、アマンダは一歩下がってから、その指輪に向かって声を出す。
「「ソヒョンさん、聞こえますか?」」
全く同時に、ソヒョンの嵌めた指輪からもアマンダの声がする。
ソヒョンは慌てて指輪を嵌めた手を顔の前に持って来るが、そこからは尚も声が出る。
「「では、私と話したいと念じ、その指輪に魔力…、いえ、意識を集中して下さい」」
「「こ、こうでございますですか?」」
アマンダの指輪からもソヒョンの声が流れる。
うん、成功だ!
そして、ここから導き出された結論は、この世界の人間にも、魔法は使えなくとも、魔力そのものはあるという事だ!
サヤは軽く頷きながら俺に目を合わせ、モーリスは目を丸くしている。
「「こ、これは凄いでございますです! これ、私が頂けるのでございますですか?!」」
完璧だな。
うん、これなら何かあっても心配あるまい。
「「ええ、出来れば対の指輪はシンさんに持っていて頂きたいのですが、私で我慢して下さいね。後、それを使用するのは、本当の緊急時にのみお願いしますわ」」
まあ、これは仕方ないな。普通に携帯のように使用したら、この世界の人達を混乱させるだけだ。
また、俺がそれを嵌めると、擬態が解けた瞬間、その指輪が使い物にならなくなるのは間違いない。
ソヒョンは大きく目を見開きながら、こくこくと頷く。
「後、もう一組あるのですが、それは、クリスさんと新藤さんに差し上げるのがいいですわね」
「お、それはいいな。きっと喜んでくれると思う。俺達はテレポンで何とでもなるし。で、準備は以上でいいのか?」
「ええ、私からは以上ですわ」
「では、いざ、羽田でござる!」
羽田に着き、自衛官の誘導の下、全員を背中に乗せたまま、以前使わせて貰ったハンガーに足を運ぶ。
扉は大きく開け放たられており、その入り口には、これでもかという数の警備がついていた。制服からするに、警官も多いようだ。
そして、その警官隊の前で、明らかに違和感丸出しの、一人の女性が俺を見上げて手を振っている。
彼女は、少し脱色させた、短めの軽くウェーブのかかった髪形。若干きつそうな顔だが、美人と言えるだろう。
しかし! 彼女の服装は、アニメで見るようなメイド服だ!
はて? ここは秋葉ではない筈なのだが?
俺達が近づくと、彼女は深々と頭を下げる。
「シンさん、サヤさん、先日はありがとうございました! 私は
ぐはっ!
あ~、なんか、全てが理解できた気がする。
背中を振り返ると、アマンダは特に動じた様子はないのだが、サヤは完全に目を丸くしている!
そして、モーリスだけがうんうんと頷いてやがる!
ふむ、犯人はこいつと。当然、クリスもグルなのは間違いない。
シュタイナー兄妹、アマンダがこの世界の常識に疎い事を利用して、やりたい放題だな。
しかし、結構似合っているし、目の保養になっていいか?
ふむ、そう考えると、シュタイナー兄妹の仕事ぶりを褒めるべきか?
「あ~、あれは仕事なんで、気にしないで下さい。寧ろ、雑な救助で申し訳なかったと思っているくらいですから。ところで、その服は?」
俺も軽く頭を下げ、既に予想は出来ていたのだが、取り敢えず突っ込んでみる。
「あ、これ、メリュー領事館でのバイトの制服だそうです。採用時に、クリスさんから渡されました。あたしも最初は抵抗あったのですが、慣れれば気になりませんよ? あ、後、クリスさんから色々預かっていますけど、どうしましょうか?」
やはりな。
そして、この言葉遣いから、現在は猫かぶり中と。
ふむ、ならば猫耳もつけて貰うか?
「そ、そうですか。完全に理解できました。では、これから宜しくお願いしますね。クリスさんからのは、モーリスさんに渡して下さい」
そこで俺も地面に腹をつけて、サヤ達を降ろしてやる。
すぐさま自衛官が駆け寄り、アマンダとモーリスの手をひいてくれた。
3人が降り、カオリンと簡単に自己紹介を交わした後、皆でぞろぞろとハンガーに入って行く。
ちなみに、クリスからの預かり物とは、俺達のパスポートだった。何か、無性に感慨深い。俺の分はサヤが持っていてくれるそうだが、使う事はあまりなかろう。
そして、これはちと照れるな。
空色の表紙には、新生メリューの国旗、左側に杖を持った女性、右側にそれと握手をしているドラゴンが描かれている。
何でも、俺が核ミサイルを捨てに行っていた間に、皆で考えたデザインだそうだ。
また、サヤが俺の分をめくって中を見せてくれると、写真は俺のこのドラゴンの姿で問題無いのだが、なんと、名前が『シン・メリュー・エルバイン』と表示されてやがる!
アマンダを問い質すと、ファミリーネームが無いのは不都合な事と、メリューの真祖という意味で、勝手につけたらしい。なので、サヤも『サヤ・メリュー・エルバイン』となっているそうだ。
なんか、着々と既成事実を積み上げられている気がする。
ハンガーの中は既にセッティングされているようだ。メリュー側の三人は奥のテーブルに並んで座り、更にその背後に俺とのことだ。
ふむ、俺をバックにして、威圧感丸出しの布陣な訳ね。
ちなみに、取材側のテーブルには、既に何組かの報道スタッフが陣取っており、カメラも回っている。そして、そこをカオリンがメモを片手に何処の社かを確認し、また、極力フラッシュは遠慮してくれ等、色々と注意しながら走り回ってくれる。
うん、やはり彼女は優秀だったな。あのメイド服に加えて、惜しみなく営業スマイルを振りまいているので、記者達も素直に従ってくれている。
「では、そろそろでござるな。皆、席に着くでござる!」
正面のシャッターが閉じ始めた。
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