第44話 釣り

       釣り



 よし! 成功だ!


 メリューの上空に出ると、ヘリポートには、既に2機着陸していた。

 だが、身体が滅茶苦茶怠い!

 うん、これは魔力切れだ。


 そのヘリの横に、滑り込むように着陸する!


「ふ~、何とか着陸できたようだ。後ろ、大丈夫か?」

「だ、大丈夫っすけど、もう限界っす……」

「は、初めて魔力切れを経験しましたわ。に、荷物も無事ですわ」

「なら良かった。俺も、もう限界だ」


 俺は、網に包まれたパイソントードの塊を地面に下ろし、その場で、だらしなく首を横たえる。


 しかし、早速ソヒョンを先頭に、松井も一緒に駆けて来て、背中の二人は無事降ろされたようだ。

 俺もそれで安心し、そのまま寝てしまう。



 気付くと、辺りはもう真っ暗だ。

 目を開けると、俺の口元でソヒョンが椅子に座って、心配そうに俺を見ていた。


「起きやがったでございますですか? 無理し過ぎでございますです!」


 更に周りを見渡すと、何台かのサーチライトが俺を囲んでおり、その傍に、数人の米兵と思われる人が立っていた。


「うん、もう大丈夫のようだ。ソヒョンもありがとう。で、今、何時だ?」

「夜の7時でございますです! カレーがあるでございますです。食べやがりますか?」


 俺はゆっくりと立ち上がり、のそのそと家に向かう。

 その後を、ソヒョンが子犬のように付き従い、兵隊達も、ほっとした表情でそれを見送る。



 家に入ると、既にサヤとアマンダがカレーにがっついていたので、こっちも安心だ。

 俺も早速人間に擬態し、それに参戦する。


「結局、パイソントードは一組ずつ両国が引取り、海水は日本、土はアメリカが持って帰るそうでござる。また、あの花は、日本が責任を持って調べてくれるそうでござるよ。どちらも、大喜びだったでござる!」


 なら良かった。

 無理した甲斐があったというものだ。


 その晩は、俺も疲れていたので、早々に寝る。



 翌朝、皆との朝食時に、モーリスが面白そうな事を言い出す。


「シン殿、釣りをしたことはあるでござるか?」

「ん~、俺は子供の頃、親に連れて貰ってしたことくらいしか。でも、やってみたいですね」

「私は、お付き合いで結構ありますわ」

「あたいは大好きっす! 釣った魚を皆で食べるのは最高っすね!」


 ふむ、サヤの魚関連の知識はそこからか。


「なら、サヤ殿と行ってくればいいでござるよ。仕掛けは表に用意しているでござる。米兵が協力してくれたでござる」

「残念ですわ。私は、モーリスさんと日本とアメリカとで、家とかのお話ですわ」

「私は掃除をしておくでございますです」

「アマンダさん、ソヒョンさん、悪いっすね。じゃ、シンさん、今日は二人でデートっす!」


 ふむ、確かにここは島だし、魚は豊富そうだ。

 わざわざ中国から獲りにくるくらいだし。

 それに、俺も魔力は大分回復したが、まだ満タンとは言えない。

 今日は、のんびりと遊ばせて貰うのも手だろう。

 そして、竿とかを米兵の人に借りたっぽいな。


 食事を済ませ、サヤと一緒に出ようとすると、モーリスがまだあるようだ。


「インストラクターを松井殿に頼んであるでござる。但し! 相手は大物でござる! キャッチアンドリリースが鉄則でござる! 持って帰っても、処分に困るでござる!」


 ん?

 これはどういうことだ?

 我が国の、食料事情に貢献するチャンスなのでは?

 俺は、サヤと首を傾げながら家を出る。



 表では、既に松井が待っていた。


「仕掛けはあちらです! では、ドラゴン形態に戻って下さい!」


 ん~?

 俺はてっきり、あの環礁の上か、自衛隊のゴムボートみたいなので釣りに行くのかと思っていたのだが?

 あ、俺が船の代わりか!

 俺がこの二人を乗せて、海面すれすれから糸を垂れると!

 ないしは、クルージングって奴だろう。俺もTVとかで見た事がある。


 俺が服を脱ぎ、ドラゴンに戻って松井について行く。

 そこには、極太のワイヤーの輪っかがあり、そこに、昨日の漁船が捨てて行った網のロープが、3本を縒って束ねられており、結ばれていた。


 あ~、これ、何か読めたわ~。


「ポイントは、メリューの領海内、北方! タナは、50mから600mです! では、サヤさん、この仕掛けを積むのを手伝って下さい!」


 サヤも、これから何が始まるか理解したようだ。

 呆れた顔をしながらも、俺の背中に、ロープにとぐろを巻かせて積んでいく。

 結構長いな。500mくらいあるか?


「絡まらないようにして下さい! 後、足元には充分注意して下さい!」


 ロープを積み終わり、その先端につけたワイヤーの輪っかを俺が手に持って、準備完了のようだ。

 ふむ、うまく出来ているな。

 俺がそのロープを引っ張ると、極太ワイヤーの輪が締まるようになっている。


「じゃ、行きますよ~。松井さんも、ロープに絡まらないようにして下さいね」

「はっ! では、サヤさん、早速獲物を探すところからです!」

「了解っす。ファーサイト! シースルー!」


 俺は、二人を乗せて舞い上がる。



「お、早速居たっすね! シンさん、慎重に垂らすっす! 相手に気付かれたら終わりっす!」

「お、おう! サヤ! 誘導してくれ!」


 サヤもその気になってきたようだ。

 さっきまでは呆れていたが、声に張りが出ている。


「深度は300mくらいっすか? 昨日ので、用心させたみたいっすね~。もうちょい右っす! 海流に流される分も考慮するっす!」

「はっ! サヤさんは筋がいいようです! 私も教える事は無さそうです!」


 ロープを手繰りながら、輪っかを慎重に沈めて行く。

 ちなみに、俺は透視の魔法は使えない。というよりは覚えなかった。あれを悪用する誘惑に勝てる自信がイマイチ無い。


「そこっす! ちょっとだけ前に出るっす!」

「おう! こんなもんか?」


 俺が少しだけ前に出ると、サヤが再び叫ぶ!


「今っす! 合わせるっす!」


 ロープを全力で引っ張ると、ガツンとした衝撃が伝わる!


「ヒットしたっす! そのまま上昇するっす!」


 ふむ、流石にかなりの抵抗だな。

 おまけに、相手も気付いたらしく、全力で逃げようとしているようだ。

 力任せに引き上げると、ロープが切れるかもしれんな。



 ファイトすること10分程、海面に、巨大なスクリューが顔を出した!


「やったっす! 釣れたっす! いや~、気分いいっすね~」

「シンさん、サヤさん、おめでとうございます! あれは、ロシアのヤーセン型原潜です! 初めてでこんな大物とは驚きました!」


 ふむ、松井のうんちくはどうでもいいが、どうやら、艦尾に輪っかを引っかけたようだ。

 ワイヤーがスクリューに引っかかっており、絡まってはいないものの、あれじゃ回転しない。道理で、途中から軽くなった訳だ。もっとも、相手も浮上しようとしたっぽいな。


 相手は既に観念しているようなので、俺が高度を下げながらロープを手繰っていくと、背中でサヤと松井とで、とぐろに直していく。


「で、松井さん、これ、どうするんですか?」

「シンさん、そのロープ、メリューの環礁にでも結んでおいてやるっす!」


 ふむ、サヤはかなり根に持っていたようだ。

 そういや、昔、セミに紐をつけて遊んだことがあったな。

 今思えば、残酷なことをしていたものだ。


「いえ! 逃がしてあげて下さい! 無用な殺生はお勧めしません! ロープを緩めれば、外れるはずです!」


 あ~、そういや、モーリスにも、キャッチアンドリリースって言われてたか。


 少し勿体無い気もするが、言われた通りロープを緩めると、ワイヤーの輪が広がり、簡単に外れた。

 既に潜水艦は完全に浮上しており、艦橋から人が出てきて、こっちに何か怒鳴っているようだが、知るか!


 そして、モーリス! これ、釣りとは言わないだろ!

 強いて言うならば、ヨーヨー釣りか?


 ま、サヤが上機嫌なので、これはこれでいいか。

 連中も、これに懲りて、メリューには近寄らないだろ。


 俺達は、意気揚々とメリューに引き返す!


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「ふむ、まさか、本当に釣り上げるとはな。とんでもないパワーのようだ」

「はい、あそこに潜んでいるのは分かっていたのですが、こちらから手を出す理由もないですし。しかし、流石はモーリスさんですね。私は、着艦用のアレスティング・ワイヤーなど、何に使うのかと思いましたよ。もっとも、現場の兵達も、何をさせられているのか判っていなかったようですが」

「それは私もだ。そして、あの艦も、今頃は魚雷を撃ったつけを支払わされたと諦めているだろう。うむ、引き続き、あの国とは良好な関係でいたいものだ」


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