第43話 魔族への疑問

         魔族への疑問



 翌朝、早速俺とサヤで、領海を警備して回る。

 ナビに、領海である12海里、約22キロのラインをクリスにつけて貰い、それを基準に、島をぐるりと回っていく。

 また、モーリスによると、排他的経済水域である、200海里については、今はまだいいとのことだ。

 ま、その気になれば、衛星軌道くらいから監視すれば一発なのだが。


「松井さんの話によると、さっきの連中だけだよな?」

「そうっすね。ブレス一発で逃げていってくれたんで、思ったよりも簡単だったっすね。ん…? シンさん、ちょっと高度下げるっす! ファーサイト! シースルー!」


 なんだろう? サヤが何か見つけたようだ。しかし、俺も海面を見渡すが、何も見えない。

 だが、高度を数百メートルくらいまで下げ、注意深く見ると、海中に、しみのようなものが見えた!


「ふむ、潜水艦か。厄介だな」

「深度は50mくらいっすかね。どうするっすか? あたいとしては、あいつらには恨みがありまくりっす!」

「う~ん、俺も潜るのは可能だし、その気になれば捕まえられるけど、海水に濡れるのは嫌なんだよな~。後でべたべたするんだよ。やるなら、雨の降ってる日がいいな。それに、日本かアメリカだったら悪いし」


 まあ、お堅い自衛隊が領海内にまで侵入するとは思えないし、米軍の空母だって領海外、島から30キロくらいの地点に停泊していた。これについては、アマンダ達と、ちゃんと話し合ってのことだろう。


「じゃあ、取り敢えず追っ払うっすか?」

「だな。ファイアブレス!」


 俺は、海面に向けて軽く炎を吐いて、水蒸気爆発を起こしてやる。


「あ、逃げるっす!」

「うん、今日はこれでいいだろ。しつこく近づいてくるようなら、また考えよう。拿捕したところで、面倒が増えるだけだしな」


 そういや、あの中国の偵察機、あの後どうなったんだろ?

 新藤の感じでは、後始末に相当大変そうだったが。


 その後は、慌てて逃げた漁船が捨てていった網が、まだ海面に漂っていたので、それを回収してメリューに戻る。


 サヤによると、あれを放って置くと碌なことにならないらしい。なので、かなりの長さがあったが、引き摺ってきて、空き地に積み上げる。

 確かに船とかのスクリューに絡んだら面倒だろうし、あれこそがマイクロプラスチックとやらの元になるのは間違い無かろう。

 それに、これはこれで色々と使い道がありそうだ。

 サヤの言っていた、養殖とかに使えたらラッキーだな。



 俺達が会議室に顔を出すと、既にアマンダもクリスの送迎を終えて帰ってきており、モーリスと話をしていた。漁船と潜水艦のことを報告すると、モーリスが一瞬にやりとしてから、二人で日本領事館に出向いて行く。

 ふむ、あの感じだと、何か策がありそうだ。



「よし! 魔力も満タンだし、行ってくる! 多分、明日の朝には帰ってこれると思う」


 皆との昼食後、俺はドラゴン形態に戻り、のそのそと家から這い出る。


「くれぐれも気をつけるでござるよ! こちらは、アメリカと日本との連携も取れているでござるから、心配は無用でござる!」

「食事を用意して待っているでございますです!」

「はい、分かりました! って、おい!」


 何か足りない気がすると思って振り返ると、俺の背中にサヤとアマンダが、いつの間にかちょこんと乗っていやがった!


「あの~、前も言ったけど、あっちには、まだ魔族がうようよしてるんですが?」

「だからですわ! 妻として、そんな危険な場所に、主人を一人では行かせられませんわ!」

「あたいもっす! それで、だからこそっすよ。あたいとアマンダさんは、シンさんの魔力倉庫っす。あたいらの魔力を使えば、うまくすれば、往復できるはずっす!」


 ふむ、妻とかはどうでもいいとして、それは考えた事も無かった。

 多分だが、サヤとアマンダの魔力量は、それぞれ俺の1/5くらいだと思う。

 また、テレポートの際、全員の魔力を均等に消費するなら、その分、回復も早いはずだ。

 もしそうでなくても、二人の魔力がストックになるのであれば、半日かからず戻って来られるだろう。


 モーリスは既に聞いていたのだろう。うんうんと頷いている。

 まあ、この三人なら、そうそう魔族に後れを取ることもあるまい。

 それに、やはり滞在時間は短ければ短いほうがいい。


「う~ん、仕方無いな。あ、でも、それなら丁度いい。俺も、日本とアメリカに、パイソントードだけじゃ悪いと思ってたし」

「そこらも準備できてるっす! ポリタンクと段ボール箱、それに、さっきの網を切り取って、アイテムボックスに入れてあるっす!」


 なるほど、知らなかったのは俺だけと。そういや、俺がソヒョンに歯を磨いて貰っている間、サヤが、あの積み上げた網のところでごそごそしてたな。


「じゃあ、行くか! って、その前に!」


 俺は軽く尻尾を振る。


「ふごっ!」


 松井が俺の家の奥に弾け飛んだが、自業自得だろう。

 だが、その度胸には脱帽だな。


「守れる自信が無いので、諦めて下さい。じゃ、今度こそ行って来ます! テレポート!」



 メリューに着いた俺達は、先ずは魔族の居ない場所、無人島に着陸する。

 気がかりだった魔力の消費は、半分くらいか?

 サヤとアマンダも、そんな感じだそうだ。

 ふむ、これはいい!

 この調子なら、すぐに帰れるかもしれない!


「じゃ、あたいとアマンダさんで、そこの草地の土を、段ボールのビニールに詰めるっす!」

「うん! 草ごと入れてくれ! それが終わったら、そこの浜辺で海水を頼む! 後、アイテムボックスには入れるなよ。入れたら最後、せっかくの微生物とかが死んでしまう」

「かしこまりましたわ!」


 俺は彼女達が作業をしている間、上空を旋回し、魔族を警戒する。

 ふむ、流石にこの近辺には居ないようだ。

 しかし、連中は地面から浮いているので、海であっても、問題無く渡ってきやがる。

 既に、ここを目指している可能性が高い。


 程無く作業も終了し、彼女達を載せると、次はパイソントードだ。

 俺は、メリュー郊外の牧場地帯に向かう。

 途中、王都の上空に差し掛かると、下では、無数の魔族がひしめいてやがった!


「うじゃうじゃ居るっすね~。まだ人間の姿の奴も居るっす」

「だな。あれから、それ程時間も経って無いし」

「燃やし尽くしたいところですが、残念ですわ」

「うん、アマンダ。俺もそうしたいが、今は魔力を温存しないとな」


 そう、ここは最後に滅ぼされた土地。

 この星中の魔族が、ここを目指していたはずだ。


「やはり、これでは住めそうもありませんわね。もしかしたらと思ったのですが……」


 うん、気持ちは分かるが、現状では無理だろう。アマンダ達がついて来たのも、半分は、これを確認する為だったと見ていい。

 だが、そこで一つ疑問が浮かんだ。


「なあ、アマンダ、あいつら、何食って生きているんだろう? 俺も、あいつらとはさんざんやりあったが、あいつらが食事をしている場面は見た事が無い。もっとも、人間を乗っ取る=食事とかなら納得だが。しかし、それなら、今のあいつらに餌は無い筈だ」

「あ、それ、あたいも気になるっす! でも、土とか空気とかから、直接栄養補給してるとも考えられるっすよ?」

「どうなのでしょうか? 危険すぎて、捕まえる事すら無理だったので、そういった事は、全く知られていませんわ。ですが、乗っ取られて間もない、まだ魔族になっていない人間だけは、かろうじて拘束できたようですわ」


 ふむ、確かにあいつらを拘束する等、自殺行為に等しい。そして、あいつらは、人型の、影のような幽霊のような存在。見た目も、どれも同じに見える。個々を識別することすら不可能だろう。そもそも、俺達と同じ理の存在なのだろうか?

 しかし、それでも、魔族になっていない奴だけは何とか拘束し、約一月で魔族に変化するという事だけが判ったと。だが、そいつに食事を与えていたとは思えない。


「う~ん、今はどうしようもないな。そうだ! 一週間、いや、一月後にまた来よう! まだ人間状態の奴が全て魔族になった後、何か変化が出るかもしれない」

「それがいいですわ! 流石はシンさんですわ!」

「じゃ、今日のところは、あいつらに構わず、さっさと用事を済ますっす!」


 その後、見通しのいい、魔族が見当たらない牧場で、パイソントードのつがいと思われる奴らを都合4匹捕獲し、サヤの出してくれた網でくるむ。

 ついでに牧草も採取する。


 また、そこに沢山咲いていた、真っ赤なユリのような花、パジー・リリカルを、サヤに頼んで周りの土ごと摘んで貰う。

 これは、当然アマンダへだ。

 運が良ければ、あの島でも咲いてくれるかもしれない。もっとも、日本かアメリカに、あっちの世界の生態系に危険がないかを確かめて貰ってからとなるが。


 すると、アマンダが顔を真っ赤にして、俺を見上げる。


「シンさん、本当に嬉しいですわ! 勿論、その花の花言葉、ご存知ですわよね?」


 あ~、そういや、なんか聞いたことあるな。

 俺も恥ずかしくなったので、少し顔を背けて返事をする。


「え? そんなの、この世界でもあるんだ? あと、採ってくれたのはサヤだし、礼ならサヤに言ってくれ」

「へ~、あたいも知らなかったっす。で、意味はなんなんすか?」

「クフッ、秘密ですわ」


 確か、意味は……。まあ、今更か。



「じゃあ、魔族が来る前に離れよう。出来れば、他の生物とかも持って帰ってあげたいんだが、積み過ぎると、テレポートできなくなるかもしれないしな。それに、一匹だけとかだと、また喧嘩しそうだし」

「そうっすね。あたいも、パワーラビットとかも捕まえたかっすけど、ここらには居ないみたいっすね」


 二人が載り、俺の背中にポリタンクと段ボール箱を置いたのを確認し、網の中でもがくパイソントード達を抱いて、俺は舞い上がる!


 うん、この感じなら、ギリギリ行けそうだ!

 万が一にも魔族を連れて帰る訳にはいかないので、数キロくらいの上空で唱える。


「テレポート!」



 花言葉は、『命にかえても、君を護る』だったっけ。

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