第42話 アマンダの独白
アマンダの独白
「先ずは、あの世界においての、召喚者のことから説明させて頂きますわ」
「あ、それはあたいも興味あるっす。あたいら以外、過去にも居たらしいっすね」
ふむ、それは俺も聞きたいな。
「シンさんは気付いておられたようですが、メリューの成り立ちは、500年以上前の召喚者と、それを呼び出したエルフ族からですわ。私も、この世界に来て、かなり繋がりましたわ。それで……」
アマンダの話によると、やはり最初の召喚者は英国人。元々エルフ族は魔法に関しては優秀ではあったが、まだまだ発展途上。それを現在の魔法体系にしたのは、その人の力によるところが大きいようだ。
そして、魔法を極めたエルフ族が、その人を中心として国家と呼べるものを創り、メリューになったと。
「凄い人が居たものだな。では、何故、召喚の儀式が禁止されてしまったんだ? 普通なら、どんどん呼び出しそうなものだが?」
「それは、その後の召喚者が、力に溺れてしまったからなのですわ。当然、その方の死後、残されたエルフ族は再び召喚の儀を行い、新たな指導者を求めたのですが、次の方は、己の欲望の為のみに力を振るう始末。結果、一時的にですが、メリューの国力は大きく減退したのですわ」
あ~、なんか納得できるわ。
典型的な独裁者の末路だな。
そして、それで懲りたと。
「ですが、召喚の儀の方法は、各国に広まった後でしたわ。なので、戦争中の国などは、その危険性を承知してでも召喚したのですわ。そして、最後の悪しき例が、20年前だったのですわ」
アマンダは更に続ける。
それによると、当時戦争中だった国家、バイゼンとナポランが、ほぼ同時に二人の若い男性を召喚したらしい。
そして、召喚された二人は、それぞれ直接は争わず、如何に自分の方が優秀であるかという、アピール合戦を演じたらしい。
ふむ、二人共、自分達が戦争の具にされているのに気付いていたと見える。
ならば、そこまで馬鹿ではなかったように思えるが?
また、その結果、両国に停戦が結ばれたまでは良かったそうだ。
まあ、両国とも、せっかく戦争の駒として呼び出したのに、戦ってくれないのでは仕方あるまい。気が抜けてしまったってところか?
「しかし、その二人も、やはり力に溺れていたのですわ。彼等の取った示威行為は、この世界の最強種族である、ドラゴンを狩る事だったのです。確かにドラゴン族は、人間と敵対することもありましたし、彼等の身体は、魔法道具の素材としても価値の高いものでしたわ。ですが、彼等は知能も高い種族。メリューでは、ドラゴン族とちゃんと協定も結んでいましたわ」
あ~、これで繋がった!
何故、俺の身体が、あの世界で最後のドラゴンだったかを!
そこから、アマンダが珍しく声を荒げる。
「彼等は、先を争って、ドラゴンというドラゴンを狩り尽くしたのですわ! シンさんの身体に使われたような、幼いドラゴンまで! シンさんの身体は、その亡骸を、父が魔法で大切に封印していたものですわ。勿論、時のメリュー国王である父も、そのやり過ぎに抗議はしたのです! ですが、民衆は違いましたわ! 彼等を勇者と呼び、崇め奉り、狩られたドラゴンの死体に群がったのです!」
う~む。何ともやるせない話だ。
昔の狼とか、人間に害を及ぼした猛獣を思い出すな。
「でも、ドラゴンを狩るって、そう簡単にできるんすか? シンさんに勝てる奴なんて、想像もつかないっす!」
「サヤちゃん、それはシンさんだからですわ。長老の話ですが、普通のドラゴンならば、私でも、その気になれば勝てたそうですわ。増してや、彼等はそれをする為の努力を怠らなかったそうです。あの、簡易テレポート、『縮地』等は、彼等の編み出した業だそうですわ」
「なるほど。俺でも油断しているところをサヤに襲われたら、瞬殺されるかもな。空を飛んでいても、高度を上げていない限り、防げないだろう」
「そんなもんっすかね~? それで、その後、どうなったんすか? シンさんが、最後のアークドラゴンだったってのは理解できたっす」
そこでアマンダは一拍おく。
ん? 何やら背中がこそばゆい。
どうやら、俺の背中をさすっているようだ。
「メリュー王家の者として、本当に…、本当に申し訳ありませんわ。あの時、メリューが彼等の入国を拒否していれば……」
彼女は泣いているようだ。そして、これは俺ではなく、ドラゴン族への懺悔だな。
「いや、アマンダは悪くないだろ。うん、今日はもう寝よう」
「いいえ、ここからがお二人には聞いて頂きたい話なのですわ」
彼女は尚も続ける。その、勇者と呼ばれた召喚者の顛末を。
その後、ドラゴンを狩り尽くした彼等は、お互いの力を認め合い、争う事もなく、結構仲良くしていたそうだ。
争っていた国同士も、彼等のおかげで和平が結ばれ、互いに周囲の弱小国家を併合しつつ、あの世界での覇を競うにとどまっていたらしい。
ふむ、少し違うが、昔のアメリカとソ連ってところか?
「6年前のことですわ。当時の私は、王女として父と一緒に、バイゼンとナポランの和平記念の式典に出席したのですわ。そこで彼等は私に興味を示し、揃って私に求婚しましたわ」
あ~、なんか、この後の展開が読めるな。
まあ、これだけの美貌だし、一目惚れしてしまうのも仕方あるまい。
「片方だけならお受けできたのですが、両方とは無理ですわ。なので、私も父と一緒に、双方に丁重にお断りしたのですが、彼等は諦めませんでした。そして、遂にその二人がぶつかり合ったのですわ!」
ぐはっ!
女を巡ってなら、本気になったと!
英雄、色を好むとは、よく言った物だ。
そして、その後は俺の予想通りだったようだ。
国を巻き込む戦争に発展し、メリューとしては、どちらが勝つかを見届けるしか無かったらしい。
「で、どっちが勝ったんすか?」
「勝者は居ませんわね。確かに、どちらか片方が勝ったとは伺いましたが、同時に魔族が出現したのですわ! 勝った方も、その魔族達に殺されたそうです。その後は、お二人も御存知の結末ですわ」
ふむ、そこから俺達の召喚に繋がると。
だが、この話では、何故俺を好きになってくれたのかまでは分らんな。
「なんか、壮絶っすね。でも、何でその話がシンさんを好きになった理由なんすか? あたいは、気が付いたら好きになってしまってて、自分でも良く分らないっす」
まあ、サヤはそんなところだろうな。
二年も一緒に飯食ってれば、ってところか?
なので、これはお互い様だな。俺も、具体的に何処が好きかと聞かれたら、少し困る。
そして、サヤ、ナイス質問だ!
「あら? サヤちゃん、今の話で分かりませんですの? その、勇者と呼ばれた召喚者の力は、サヤちゃん以上でしたわ。それでも、今のシンさんにはとても敵いませんわ。サヤちゃんを召喚したのも、シンさんが居たからこそですわ。そして、これ以上は私の口からは言えませんわ」
う~ん、俺も良く分らないが、彼女なりの基準があるのだろう。
「なんか、恥ずかしい事を言わせて悪いな。うん、俺の理由もサヤと一緒みたいだ。だけど、魔族の出現の前には、そんな事があったとはな。勉強になったよ」
「ええ。なので、私はその召喚者達の争いが、魔族の出現に関わったのではないかと考えていますわ。そ、そして、ここまで言わせた責任は取って頂きますわよ! わ、私と、け、け、結婚しなさい! こ、これは、女王としての命令ですわ!」
ぐはっ!
これはとんだ藪蛇だったようだ!
まさか、アマンダがそこまで本気だとは思ってもなかった!
「だ、だから、気持ちは嬉しい! だが、何度も言っているが、種族が違う! 不可能だ!」
「ここはメリューですわ! ここの法は、私達で作れますわ! 今から、メリューでは異種族間での結婚を認めます! これでいいですわね?」
「ちょっと、アマンダさんずるいっす! なら、あたいもっす!」
「では、一夫多妻制も認めますわ! 私と結婚すれば、シンさんは王になる訳ですし、複数の妻を娶るくらい、何の問題もありませんわ。あの召喚者達にも、既に何人もの妻がいたようですし」
ぶはっ!
職権乱用も極まれりだろ!
あの、キムなんたらですら、正妻は一人だったはずだ。
まあ、イスラム教とかでは認めているようだが、流石に異種族間では認めていない。
「いや! やはりこの身体じゃ無理だろ! そうだ! もし、俺が人間の身体になれたら結婚する! それでどうだ?! もっとも、そうなった場合、俺には何の取り柄もないか」
うん、これなら諦めてくれるに違いない。
だが、俺の読みは甘かったようだ。
「それでいいですわ! シンさん、約束しましたわよ!」
「了解っす! アマンダさん、一緒に方法を探すっす!」
「あ~、もう好きにしてくれ。じゃ、俺は寝る! 明日はメリューだしな。お休み!」
その後、背中で二人が何やら小声で相談していたようだが、俺はシラン!
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