第41話 一家団欒
一家団欒
その後、早速皆で、アメリカの作ってくれた俺の家へ向かう。
辺りはもう真っ暗だが、大きく開いたシャッターからは、煌々と明かりが洩れている。
中では、既に、サヤとソヒョン、クリスの三人で、食事の準備をしてくれているようだ。何ともいい匂いが漂っている。
部屋の左側奥に、台所というか、通常の家庭の倍はあろうかという流しの横に、調理場と、大きめのコンロが四つ。ちょっとした厨房の設備だな。おそらく、これも閉店した料理店か何かからスライドさせたのだろう。コンロには、使い込まれた年季を感じる。
そして、その厨房の前でソヒョンが頑張っており、サヤとクリスが、その横に並べられたテーブルとの間を、皿を持って往復してくれている。
また、壁紙も高さ5mくらいまで、木目調のが貼ってあり、やっつけ仕事感がありありなのだが、これはこれで嬉しい配慮だ。
更に、厨房と反対側の奥の角には、巨大な窓ガラスのついた、10m×5mくらいの部屋がある。なるほど、あれが人間用と。ここがアメリカなら、俺の生態を観察する為の部屋ってところか? 既に、仮設住宅にあった箪笥が運び込まれているところから、サヤが住むつもりと見た。
そして、入ってすぐの右角には、巨大な洗濯機と乾燥機と手洗い場。左側には例の、俺用と思われる砂場と、WCと書かれた小部屋があった。
「終わりましたでございますですか? では、全員、席に着きやがれです!」
ソヒョンが俺達に気付き、大声で叫ぶ。
テーブルの中央には、既に山盛りのから揚げとサラダが据えられており、その周りに、人数分の2種類の小鉢と取り皿、そして、茶碗と箸が並んでいる。
「うわ~、皆、疲れているはずなのに、何か悪いな。うん、明日からは俺も手伝うよ」
「わ、私もですわ!」
「せ、拙者も手伝うでござるよ」
そう、人数は6人だが、量は13人前、ちょっとした宴会並みだ。
すると、三人から、速攻で突っ込みが入る!
「ア、アマンダさんは気持ちだけでいいっす! 準備は、あたいとソヒョンさんだけで充分っす!」
「モーリス! あなた、砂糖と塩の区別すらつかないじゃない! 邪魔だから、大人しく座ってなさい!」
「シンさんのお世話は、私の役目でございますです! 黙って私の手料理を食いやがれです!」
ま、そうなるとは思ったが。
なので、俺達はうな垂れながら席に着く。
「では、クリスさんの無事と、シンさんの家の完成を祝って、乾杯ですわ!」
「「「「「かんぱ~いっ!」」」」」
アマンダが、とっておきのだろう、アイテムボックスから取り出した、メリューの果実酒を開ける。
ちなみに、酒を飲むのは、アマンダとソヒョンとクリスのみ。他はジュースだ。
俺は酒が入ると擬態が解ける可能性が高いし、サヤは未成年。モーリスは、根本的にアルコールを受け付けない体質らしい。
「このお酒、美味しいわ! 日本の梅酒に近いかしら? いくらでも飲めそう!」
うん、俺も飲んだというか、舐めたことがあるので、味は知っている。クリスの感想通り、梅酒に更にこくを足した感じだろうか? ふむ、材料の果物は知っているし、今度メリューに行く時、採って帰るのもいいか。
「シンさんの分は、私がよそってあげるでございますです。そのまま、口を開けていやがれです!」
「いや、ソヒョン、それ、よそうとは言わないぞ」
「シンさん! あたいのも食べるっす!」
現在、俺の両隣にはサヤとソヒョン。左右から、俺の口元に向かって箸が伸びて来る。
俺ももう諦めて、無駄な抵抗はせず、それを交互に頬張っている。
ちなみに向かいでは、アマンダを挟んで、クリスがモーリスに今回の件について愚痴っていたようだが、あっさりと論破されていた。
「今のメリューは戦時と思うでござる! ちょっとしたミスが皆の迷惑になるでござる!」
「そ、それは否定しないわ。なので、あの対応についてはもういいわ。でも、千虎屋の羊羹が食べたいって言ったのは、モーリスよね!」
「ヨウカンとはどんな食べ物なのですか? 私も食べてみたいですわ」
ふむ、俺も聞いた事があるな。
皆でアマンダに羊羹の説明をしてあげると、彼女も興味を示したようだ。
なら、落ち着いたら、皆と日本でショッピングというのもいいな。
「ところで、今朝、早速あの登山サークルの人から、お礼の電話があったわ。番号は、自衛隊の人に聞いたみたい。え~っと、
ふむ、領事館の電話番号は、公表はしていないものの、別に隠している訳でもない。
なので、マスコミとかからも結構かかって来ているそうだ。
そして、確かに今のクリスの負担は大きい。
だが、生田さん? 香? ……カオリン!
俺はサヤと顔を見合わせる!
暗かったし、帽子も被っていたので、顔はよく見えなかったが、あの中では、もっともしっかりしていると感じた女性だ!
そう、あの、ぶち切れて豹変した女だ!
「それはいいでござるな。但し、きちんとバイト料は支払うでござるよ。後、面接と身元調査は必須でござるな。今日の連中みたいなのも、これから潜り込んできそうでござる」
「ええ、そうね。身元に関しては、タカヒロに頼んでみるわ。ドラゴンさんからは、どんな感じだった?」
俺は、サヤと小声で相談する。
(おい、あの人、多分だが、能力的には問題無いと思う。いや、あの感じだとかなり優秀だろう。だけど…)
(そうっすね。あの人の言い分は、何一つ間違ってないっすし、あたいも嬉しかったっす。けど…)
(まあ、キレたとしても、言い方が乱暴なだけか。あの、文句言っていた奴は来ないだろうしな)
(あ~、あいつは却下っすね。じゃ、後はクリスさんに任せるっす)
結論が出たので、俺も補足する。
「う~ん、俺もあの人達のことはよく分からない。でも、生田さんって人は覚えていて、いい人だとは思う。けど一人、小煩そうなのが居たな…、え~っと、ユウヤって呼ばれてたと思う。とにかく、ちゃんと会ってからがいいと思う」
「そうなんだ。じゃあ、明日にでも連絡するわ」
その話はそれで終わり、食事も済み、サヤとソヒョンとクリスで後片付けをしてくれる。
当然、俺は元より、アマンダとモーリスも参加させて貰えない。
なので、俺とアマンダとモーリスは、そのまま明日の予定の相談をする。
「では、明日、朝食が済み次第、私がクリスさんを羽田にお送りしますわ」
「で、俺とサヤは、その間に漁船への警告。魔力を回復させて、午後からメリュー行きだな」
「拙者は、タカヒロと連絡を取ってから、アマンダ陛下と一緒に、岡田殿と会談でござる」
「なら、私は、ここの掃除とかさせて頂くでございますです」
うん、明日の予定も決まったし、俺もそろそろ寝る準備をと、服を脱ぎ、ドラゴンに戻る。
これで、皆一斉に仮設住宅に…、引き揚げなかった!
出て行ったのは、モーリスとクリスだけだ!
ま、これも予測していた事か。
「え~っと、食事とかは仕方ないとして、ここ、俺の家でいいんだよね?」
「そうですわ。そして、シンさんの居る場所が、私の居るべき場所ですわ」
「あたいは今まで通りっす。シンさんの恋人っすから」
「私はシンさんのお世話をするので、当然でございますです」
やはり、そう来ますか。
だが、俺も少しは抵抗してみる。
「ふむ。でも、そこの人間用の部屋でいいのでは?」
「ええ、その部屋はその部屋で活用させて頂きますわ。シャワーもついていますし」
「あ~、あの部屋は、ソヒョンさんの部屋兼、あたいらの着替え場所っすね」
「私は、あそこを使わせて頂きますです」
チッ!
あの箪笥はソヒョン用だったか!
考えてみれば、サヤとアマンダは、アイテムボックスを持っているから、必要無かったな。
「でも、そこ、俺からは丸見えなんだけど?」
そう、大きな窓がついているので、ちょっと俺が頭を下げれば、簡単に中が覗ける。
おまけに、よく見ると、その部屋の奥に洗面台とシャワーがついているが、特に間仕切りとか、カーテンとかは無い!
「も、問題ありませんわ。シ、シンさんになら、見られても平気ですわ」
「見たいっすか? じゃあ、今からシャワー浴びるっす!」
「私も気にしないでございますです」
げっ!
サヤとソヒョンは平然と。アマンダは、顔を真っ赤にしながら、俯き加減で答えやがった!
しかし、これは不味い!
このまま彼女達を押し倒せるのであれば、何の問題もない。
だが、この身体では無理なので、精神衛生上、非常によろしくない。
それに、サヤとアマンダが惚れてくれているのは、ドラゴンとしての俺だろう。
ソヒョンだって、俺に力があるから傍に居ようとしているだけだ。
もし、ただの人間なら、興味なんかないはずだ。
「とにかく、ここでのシャワーは禁止! 仮設住宅のを使ってくれ! あっちなら、小さいけど風呂もあるだろ! 嫌なら、俺は外で寝る!」
全く、何やっているんだか。
だが、彼女達も半分冗談だったようで、にやつきながらも大人しく引き上げてくれる。
もっとも、俺が電気を消して、うとうとする頃には、全員戻ってきたが。
天窓から刺す月明かりの中、風呂上がりのいい匂いがしてくる。
ソヒョンは、仮設住宅からサヤと一緒に簡易ベッドを運んできたようで、それを人間用の部屋に置く。
ふむ、流石に彼女は俺の上では寝ないようだ。
その後、サヤがアマンダの手を引いて、俺の尻尾から登ってくる。
定位置に収まったようなので、今まで気になっていたことを、ストレートに聞いてみる。
「なあ、サヤ、アマンダ。俺は嬉しいけど、こんな、人間でも無い、破壊する力だけのドラゴンの何処がいいんだ? 特にアマンダとは、作戦会議とか以外、それ程接点が無かっただろ?」
「あら、起きておられたのですか? そうですわね……」
アマンダが滔々と話し出した。
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