第40話 異世界生物の価値

       異世界生物の価値



 その後は、車の中で縛られていたクリスを、サヤが無事に解放して事無きを得る。

 クリスにも俺の話は聞こえていて、かなりお冠のようだったが、あれは芝居だと弁解したら、あっさり許してくれた。

 もっとも、大元の作戦の発案者、モーリスだけは許さないと息巻いていたが。


 そして、クリスを救出したので、一斉に警官隊が飛び出そうとするが、再び俺が一睨みし、まだ介入させない。

 中には、あられもない姿に、上着をかけてやりたいとか言うのも居たが、それも拒否する。

 なので、新革命派とやらも、完全に戦意を失っているようだ。


 そう、この状況、こいつらは一度警察に保護?されれば、再び覇気を取り戻し、黙秘権とか抜かすのは目に見えている。さっさと終わらせるには、この機を逃す手は無い。


 俺が初老の男をぶら下げて、口元に寄せると、ぺらぺらと答えてくれる。


 それによると、こいつらはやはり末端、ただの実行部隊だったようだ。

 上から指示が来て、従っただけと。

 ただ、アジトの場所と、指示を下した奴の名前だけでも判明したのは収穫だろう。

 もっとも、こんな連中、既に公安がマークしていそうなので、微妙なところだが。


 そいつを下ろし、俺がサヤ達を背中に乗せようとすると、警官隊の連中が、せめて事情聴取だけでもと食い下がるが、お騒がせしたとだけ述べ、当然辞退だ。ちなみに連中は、警官隊に保護?された奴を除き、まだ全員俺の足元で蠢いているが、もうこいつらから得られる情報はなかろう。


「じゃ、帰るか。クリスさんも、一度メリューで休みましょう」

「そうね。あ、お礼がまだだったわ。ドラゴンさん、サヤちゃん、リンさん、どうもありがとうね。おかげで助かったわ」

「そうっすね、皆、心配してるはずっす。とにかく、クリスさんが無事で良かったっす」

「シンさん、人間は美味いのでございますですか?」


 俺は三人を乗せ、舞い上がる!



 メリューに着くと、米軍の輸送ヘリは、一機だけ残して既に撤退していた。

 そして、当然のように、会議室からアマンダとモーリスが飛び出して来る!


「クリス! 無事で良かったでござる! 何もされなかったでござるか?」

「クリスさん、ご無事で何よりですわ! そして皆さん、お疲れ様ですわ」

「ええ、皆のおかげよ。本当にありがとう。でも、モーリス! 少し話があるわ! って、あ、後でいいわ」


 ふむ、クリスが会議室を覗き込んだので、俺も釣られて見ると、中には、岡田とアメリカの二人、ガーナード少将とデイヴィス次席補佐官が居た。


「そうですわね。では、狭いですし、シンさんだけ、ご一緒して欲しいですわ」

「分かりました。俺も、アメリカにはお礼を言いたかったですし」


 うん、あの二人が来ているという事は、俺の家が完成したと考えていい。

 もっとも、今回の件に、何か絡みがあったのかもしれないが。


 俺が人間に擬態して服を着込み、中に入ると、三人が笑顔で出迎えてくれる。


「お帰り、君の活躍は既に聞いたよ。少しやり過ぎな感は否めないが、作戦成功、おめでとう! それと、君の家、どうだったかね? 外壁などは、取り壊したハンガーを組みなおしただけなのだが、内装にはかなり手を加えさせて貰ったよ」

「はい、流石はロ…、いえ、シンさんですね。これは、やはり中東でも…、いえ、失礼。おめでとうございます」


 少将とデイヴィスはそう言って、俺に手を差し伸べてきたので、俺もその手を握る。


「はい、充分過ぎますね。ありがとうございました。後でもう一度見させて頂きますね。そして、あれの発案は俺じゃないです! モーリスさんと、ソヒョンとサヤです!」


 そう、モーリスが、完膚なきまでに叩きのめすべきだと主張し、するとソヒョンが、俺に食わせたらどうかと提案しやがった。そこにサヤが、裸にしたら更に現実味が増すと言い出し、ああなった。

 まあ、俺も服を着たままのは……って、流石に人を食う気は無いが。


「とにかくクリスさんが無事で何よりでした。あ、犯人逮捕の御協力、ありがとうございます! 本来ならば、日本がやらなければならないことなのですが、本当に済みません!」


 岡田は、これまた深々と頭を下げる。

 う~ん、この人、謝ってばかりだな。


「いえ、そもそもの原因は俺ですし、俺一人じゃああは行きません。強気に押したモーリスさんの作戦と、サヤとソヒョンのおかげですよ。それに、メリューの国民を救うのは当たり前ですよ」


 まあ、偉そうに言ってはみたが、これは、俺にこの身体があるから出来るだけなのだが。

 もっとも、そのおかげでこうなってしまった訳で。

 力があるからトラブルを引き寄せ、そして、力があるから何とかなった。何ともやるせない話だ。



 一通り挨拶が済み、皆が席に着く。


「それで、貴方達も取り敢えずではあるが、家もでき、少し落ち着いたのではないかね? 疲れている所を申し訳無いが、話だけでも聞いてはくれないかね?」


 ふむ、少将のこの言い方は、何か依頼がある感じだな。俺の家が出来上がったタイミングだし。

 更に、デイヴィスが営業スマイル、もとい、にこやかに俺に話しかける。


「あの、パイソントードと言いましたっけ。あの生物、もう一度あちらの世界から取り寄せる事は可能ですか?」


 ほら来た!


 俺は、アマンダと顔を見合わせる。


「え~っと、それって、こちらで繁殖させたいって事なのでしょうか?」


 そこへ、岡田が割って入る!


「それ、やるなら日米で共同だとこの前言ったじゃないですか! 日本が頂いたのは雌! そちらは、どうやら雄のようですし。そっちが精子を採取してくれれば、後は日本が責任を持ってやりますよ!」


 なるほど。

 これは俺でも理解できる。

 どちらの国で繁殖に成功させたかが、重要だと。


「あの~、その話、メリューの許可が必要だって言いましたよね? それに、あいつら、検疫とか、問題無かったんですか? 後、パンダとかとは違って、観賞用には少し厳しいですよ? もっとも、肉は結構いけますけど」


 そう、あいつらの容姿は、牛のような蛙。あれで、パンダみたいな特徴的な配色ならまだしも、全身茶色じゃすぐに飽きられるだろう。


 アマンダは、流石にパンダは知らないようだが、俺の言っている意味は理解してくれたようで、少し首を捻った後、神妙な面持ちで頭を前に倒す。


 だが、この三人にとって、あいつらの認識は、俺達とは違うようだ。


「観賞用ですって?! あれは、史上初の地球外生命体なんです! あれを研究することが、この世界への、大いなる寄与となるのです! 本来ならば、シンさん…いえ、失礼しました。とにかく、増やさない選択などありえません!」


 デイヴィスがまくしたてると、岡田も続く!


「だから、そちらの精子を日本が言い値で買うと言っているんです!」


 う~ん、俺達からすれば、ありふれた家畜。

 だが、デイヴィスの言う事はもっともだろうな。

 一泊二日で獲りに行くか?


 岡田とデイヴィスが睨み合うので、モーリスが宥めてくれる。


「まあ、両国の考えは理解できるでござるよ。でも、アマンダ陛下達の話によれば、あちらの世界は相当危険でござる。金にはなるのでござろうが、拙者は、そこまでのリスクを冒して欲しくはないでござるよ。ここは、仲良くできないでござるか?」


 うん、今の所、日本のレスキューとかの仕事もできたので、金にはそれ程困らないだろう。

 来年には、ロケット打ち上げという大仕事もあるし、いざとなれば、メリューの金貨とかもある。

 そして、俺もあいつらの肉、じゃなく、繁殖には興味があるので、可能ならばメリューでやりたいところなのだが、この島の環境では厳しかろう。


 ここに新藤が居れば、何かうまい案を捻り出してくれそうなものなのだが、これじゃ、埒が明きそうにもない。睨み合いに少将まで参戦するが、岡田はその二人を毅然と睨み返している。

 ふむ、この人、実は凄く気が強い?

 俺ならとっくに譲歩しているところだが、国益がかかっているのだろう。外交官の鑑だな。


 という事で、俺が折れる。


「分かりました。今の所、特に予定も無いですし、俺が獲りに行きますよ。俺だけなら、そこまで危険じゃないですから」


 もっとも、寝ている所を囲まれでもしたら、俺でもかなりのダメージを喰らうのは間違い無いが。


 アマンダとモーリスが心配そうに俺を見るが、目の前の三人は、あっちの世界の危険度など、知る訳も無く。

 満面の笑みとなる。


 その後、皆で交渉した結果、報酬は金ではなく、家。それも、10世帯くらいが住める、ちょっとした高級マンションという事になった。

 勿論、小型の発電所とか、下水とか、インフラ込みでだ。

 これは、両国にとっても都合のいい話で、メリューに現金を渡すのではなく、自国の建設会社に金を支払う事になるからだ。まあ、公共工事と同じ感覚だな。

 電気に関しては、海底ケーブルという手もあったが、こっちの方が安上がりらしい。

 もっとも、光ファイバーだけなら数億くらいとか言っていたので、そっちは、また余裕ができたらお願いしよう。


 ふむ、パンダ一頭のレンタル料が、年に一億とか昔聞いた事がある。これはレンタルではなく、増えた奴の権利も込みなので、妥当なところなのかもしれない。もっとも、オークションなんかに出そうものなら、それこそ天文学的な値がつく可能性が高いが。


 そして、これはいい。

 これから国民も増える可能性が高いし、何より、これでアマンダ達をまともな家に住ませてあげられる。


 三人はそれで気が済んだようで、岡田は領事館へ。アメリカの二人組は、輸送ヘリへ引き返して行った。

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