第39話 ドラゴンの制裁
ドラゴンの制裁
しかし、待つ身は辛い。
何もなければ、その中国漁船とやらに警告をしに行きたいのだが、魔力を温存する為にも我慢する。
結果、会議室でソヒョンの淹れてくれたお茶をすすりながら、メリューでの事をモーリスに説明していた。
「そうでござったか。辛い経験をされたでござるな。だが、それならば安心でござる。分かっているでござるな?」
「はい。あれは、一人でも多く救おうとしたことが招いてしまった惨事だと理解しています。なので、あそこまで魔族が増えてしまう前に、一匹でも魔族の出た街ごと燃やし尽くしていれば、勝てた可能性もあったかもしれません。でも、俺は間違った判断だったとは思っていません。ですが、時には鬼にならないといけないと痛感しました」
「私からは何も言えませんわ。そういう意見が出ていたにも関わらず、そうしなかったのは、私共の判断でしたから。でも、もし次があるのなら、私は何と呼ばれても構わない覚悟ですわ」
「あたいも、アマンダさんや、各国の王が間違っていたとは思えないっす。そもそも、街ごと殺し尽くすなんて作戦には、参加しなかったすね」
うん、初期段階で対応を誤ってしまったのは事実だろう。
そう、連中は、乗っ取った人間の数だけ増える。なので、その元になる人間を殺せば増える事はない。
だが、それを命令し、実行できる人は、それこそ人でなしだ。
そして、モーリスが言いたい事も理解できる。
今回のクリスの件、相手の要求を呑んでしまえば、また繰り返され、結果、更に犠牲が増える。
モーリスも、妹を人質にされ、俺達よりも辛いはずだ。
なのに、ここまで言える。
大統領に重用されていたってのにも納得だな。
外では、米軍がそろそろ俺の家の作業を終了しかかっているようで、輸送ヘリへ引き返して行く人たちが見受けられる。
ソヒョンまでもが深刻な顔つきになってしまう中、電話が鳴り響いた!
「はい、メリュー王国でござる! ……、承知したでござる! それで、クリスは無事でござるな? ……、ならば、シン殿が向かうでござる!」
モーリスが電話を置くと同時に、皆が一斉に立ち上がる!
「今から30分くらいでござるな。午後4時に、皇居、二重橋前でござる! 場所は予想外でござったが、これはやはり、政治犯の可能性が高いでござるな。要求も想像がつくでござるよ。では、日本への連絡とかは拙者達がするでござる!」
「分かりました! じゃあ、サヤ、ソヒョン、頼む!」
「はいっす!」
「任せやがれです!」
俺はその場で服を脱ぎ捨て、外へ飛び出す!
ドラゴンに戻ると、すぐにサヤがナビを片手に飛び乗る!
ソヒョンも、背中に今回の為の準備を入れたリュックを背負って、尻尾から駆け上がって来る!
うん、これならソヒョンも心配ない。
俺に乗るくらいで躓かれては、これから困るしな。
二人が背中に収まったのを確認し、翼を広げる!
江戸城が見えたので、俺は高度を下げて行く。
「少し飛ばし過ぎたか? サヤ、時間は?」
「いや、丁度いい時間っすね。10分前っす」
「ふむ、相手も既に待っているようだな」
眼下には、これでもかという程のパトカーと警官が、二重橋前の広場の周囲に集まっており、その中心に、白いワンボックスカーが停まっていた。
「しかし、わざわざ、日本でも最も警戒の厳しい場所を選ぶとはな。目の前に、警官の詰め所あるし」
「そうっすね~。まあ、うちに喧嘩を売ったことといい、度胸だけは認めてやるっす」
「アホなのでございますですか? あれで捕まらない訳がないでございますです!」
「いや、モーリスさんの読み通りだな。連中は、捕まるのは覚悟の上だろう。なら、クリスさんを殺す可能性は低そうだ。じゃ、降りるぞ」
俺が高度を下げて行くと、下の警官隊が一斉に空を見上げた後、ワンボックスカーを包囲していた輪を広げる。
なので、俺がその車の前に堂々と着陸し、サヤとソヒョンを降ろすと、車の中から、三人出て来た。
そこで車の中を覗くと、まだ一人、運転席に残っている。
ふむ、一応逃走要員を残したと。
ただ、残念ながら確認できたのはそこまでで、後部座席の窓には黒いスモークが貼ってあり、クリスが居るかどうかまでは分からなかった。
全員、真っ白な、お遍路さんのような装束を纏い、『新革』と白字が書かれた、黒いヘルメットを被っている。口元にはマスクをしているので、性別すら分かり辛いが、胸元を見る限りは、男のようだな。
その中から、一人、拡声器を持った奴が俺の胸元に進み出て来た。
そして、そいつは拡声器を口にあて、俺を見上げると、辺りに響き渡る、大声で叫び出した!
「我々は、日本の未来を憂う組織、新革命派である! 先ずは我々の要求に応じて来てくれた事に感謝する! しかし! 我々はシン君一人で来いと言ったはずだが?!」
なるほどな。
これは、モーリスの言っていた通り、完全に出汁にされたっぽい。
だがこれ、周りの人は迷惑だろうな~。
天皇陛下から苦情が来なければいいが。
周りの警官達は、顔を顰めながらも盾を前に翳し、黙って成り行きを見守っている。
耳を押さえたいところなのだろうが、本当にご苦労な事だ。
「あ~、そんな大声で怒鳴らなくても、充分に聞こえますよ。それで、既にこれだけギャラリーが居るんです。少し頭数が増えたくらい、問題ないでしょう」
「いや! 問題ありだ! 君は我々の約束を守らなかった! なので、人質に何があっても、我々のせいではない!」
う~む。これまたテンプレな回答だな。
なら、そろそろ主導権を取るか。
「いや、あの人の事はもう諦めてますから。貴方達にみすみす捕まるような馬鹿な国民、こっちも願い下げですし。俺がここに来た理由は、貴方達を処刑する前に、何故こんな事をしたかを聞きたかっただけですし」
これまたテンプレな返事だが、さて、どう出る?
「ふん! 我々は、そんなはったりには屈しない! それに、処刑と言ったが、我々には既にその覚悟はできている! この白装束がその証拠だ!」
ふむ、その衣装にはそんな意味があったと。
なら、その覚悟とやらに免じて、話だけでも聞いてやるか。
「あ~、分かったから、要求を言って下さい。俺と話をしたいんでしょ? で、終わったら彼女を解放してやってくれませんかね?」
「それは君の返事次第だ! 我々の要求を呑めば、彼女は無傷で解放される事を約束しよう! だが、断れば最期、彼女がどうなろうと、我々のせいではない!」
ふむ、またしても自分達のせいではないと。
手を下すのは自分達なのにな。
それに、約束とかほざいているが、そもそも、法律を守れていないだろ!
マスクをしているので表情は伺えないが、こいつは今、かなりのドヤ顔をしてそうだ。
「はいはい。じゃ、その要求とやらを言って下さい」
「要求は二つ! 我々は、現在の日本を憂いている! 憲法では政教分離を謳っておきながら、天皇制という、神道を介入させている! これは由々しき事態である! よってシン君、一つ目はここで、隣にある皇居を、天皇諸共焼き尽くして欲しい!」
ぶはっ!
何を言い出すかと思えば。
だがこれで、ここに呼び出された理由には納得だ。
「え~っと、それ、その言い方だと、天皇制がどうとか言う以前に、日本の憲法が矛盾している事になるのでは? なら、先にすべきは、天皇陛下を殺す事ではなく、憲法を変えることでは? あ、これって、内政干渉になるのかな? で、二つ目は?」
「そ、そんな事はどうでもいい! そして二つ目だ! そう! シン君! 我々と共に闘って欲しい! 我々の思想に君の力を併せ、日本をよりよい国家にしようではないか!」
あ~、なんかもう、どうでも良くなってきた。
こいつらだって、こんな要求が通るとは思っていないはずだ。
要は、俺を呼び出し、注目を集め、そこで自分達の主張をアピールしたいだけなのだろう。
「ファイアブレス!」
俺は、天に向かって炎を吐いてやる。
勿論、これは只の脅しだ。
しかし、連中はそれを見上げて、竦みあがる!
「そ、そんな脅しには屈しない! 人質は我々の……、うぎゃっ!」
「な、何を…」
「ちょ、人質……」
うん、流石はサヤだ。
俺の炎を合図に、サヤが連中に飛び込み、一瞬で三人の衣装のみを切り刻んだ!
三人共、慌てて股間を押さえて蹲る!
周りの警官は、皆揃って、呆然と立ち尽くす!
「か、確保~っ!」
だが、隊長とみられる男が号令をかけた!
あ、これは不味いな。
ここで捕まえてしまえば、それこそ何をしに来たか分からない!
なので、俺は大声で叫ぶ!
「全員、動くな! これは、メリューに対してのテロ行為です! なので、これから彼等にその償いをして貰います!」
更に、少し頭を下に向け、警官隊をぐるりと睨みつける!
連中は、それで完全に硬直したようだ。
その間に、サヤが三人に足払いをかけ、こかしていく!
そこへソヒョンがリュックからロープを取り出し、縛り上げていく!
一人、慌てて逃げようとするが、サヤが足で押さえつける!
あ~、しかし、この人選はまずったかもな~。
これ、こいつらが男で良かった。女だったら、かなりヤバい。
ソヒョンの縛り方は、特殊な性癖を持った人達向けであった!
しかも、凄い手際だ!
北朝鮮の訓練所、こんな事も教えるのだろうか?
ソヒョンが三人をマッハで縛り上げ、ヘルメットとマスクを剥ぎ取り、こちらのターンとなる。
ふむ、拡声器を持っていた奴は初老、60歳くらいか?
いい歳して、元気なものだ。
後の二人は、まだ二十歳そこそこに見える。学生か?
「お、お前等、こんな事をして、只で済むと思っているのか?! こ、これは立派な犯罪だ!」
学生と思われる片方が、見悶えながら怒鳴り散らす。
「いや、先に誘拐という犯罪をしたのはそっちですが? じゃ、始めるか」
「はいでございますです! 調理法を言いやがれです!」
「そうだな~。今怒鳴った奴は活きが良さそうなので、刺身、踊り食いだな。で、もう一人の若そうな奴は、焼き肉。で、残った奴は、骨ばってるし、から揚げがいいかな? 〇○タッキーみたいに、骨まで食べられるように揚げてくれ」
「かしこまりでございますです!」
ソヒョンはリュックに手を突っ込み、中から醤油のペットボトルを取り出す。
そして、必死に縄を抜けようと身体をくねらせている男の頭に、それをぶちまけた!
「げぼっ! お、お前等! な、何…、ぐばっ!」
醤油まみれの男が悲鳴を上げる!
「いや、あんたらみたいなの、生かしておいても意味ないでしょ? よりよい国家を作る為には、まずは貴方達から処分しないと。で、ただ殺すのも勿体無いんで、俺が食べてあげようかなと。うん、俺の血となり、肉となって、共に闘いましょう!」
更に俺は爪をロープに引っかけ、そいつを口元に寄せる。
男は完全に怯え切って、必死にじたばたする!
「お、こいつはいいな。口の中で暴れまわってくれると、これがまた快感なんだよな~。うん、命を自分のものにするって実感が出るんだよ」
そいつはそこで気を失ったようだ。
ぴくりともしなくなった。
「あら? ま、気が付けばまた暴れてくれるだろ。じゃ、次行くか」
「はいでございますです!」
俺がそいつを地面に置くと、今度はソヒョンが袋に入った塩を、もう一人の若い男の身体にふりかけていく!
「胡椒はどうするでございますですか?」
「そうだな~、少し利かせてくれ。こいつ、臭みがありそうだ。焼き加減は自分で調節するよ」
塩を撒かれている男は、ただひたすら、口をぱくぱくさせている。
そこで、今まで呆然としていた初老の男が、正気に戻ったようだ。
「き、君達! こ、こんな事が許されるとでも思っているのか! そ、それに、我々はまだ人質を殺してはいない! い、いくら何でも……」
「いや、どうせ殺すんでしょ? なら、あいこじゃないですか? もっとも、今すぐに開放するなら、食べないと約束してもいいですけど?」
完全に立場が逆転したな。
ソヒョンは、その男に小麦粉をふりかけていく。
こいつら、威勢のいいことを言ってはいたが、ここまでされるとは思ってもいなかったはずだ。
日本の法律ならば、確かに誘拐は重罪だが、こいつらは殺した訳でもなく、せいぜい数年ってところか?
そして、出所してくれば、こいつら界隈での箔がつくって算段か。その間の生活費も浮くしな。
しかし、これ、周りからはどう見えていることやら。
もっとも、これを発案した、ソヒョンが最も怖いか?
すると、ワンボックスカーの後部ハッチが跳ね上がった!
そして、運転席からもう一人が飛び出て来る!
「も、もう勘弁して下さい! ほら、人質はそこです! お、お巡りさん! は、早く僕達を逮捕して下さい!」
そいつは、一度車の後ろを指さすと、そのまま警官隊のほうへ駆け出した!
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