第37話 見られたくない光景
見られたくない光景
質問席に立っているのは女性議員。テロップには、憲政民主党、塚田議員と出ている。
「彼女は、鋭い舌鋒で有名な議員です。この政党は、反対で統一されていたようですが、昨日の件で変化が出たので、これは注目ですよ」
岡田が解説をしてくれる。
なるほど。彼もそのつもりで来たと。
『昨日、メリューは北朝鮮に宣戦布告し、あの竜が平壌に乗り込み、戦闘行為をしたと聞いています! しかし、数時間後には和解。これに対し、総理はどのようにお考えですか?!』
ん? 反対派で、しかも鋭い質問をするという割には、ありきたりのような?
もう少し、答えに窮するような質問をすると思ったのだが?
すると、質問席の前に陣取っていた、阿納総理が映し出される。
そして、彼の隣には、やはり新藤が座っていた!
二人で、なにやら短い相談した後、総理が立ち上がる。
『メリューの発表によれば、先に核ミサイルを撃ったのは北朝鮮であります。日本でも、メリューに着弾する軌道だったという見解です。なので、それに対し、応戦するのは当然でしょう。放っておけば、第二、第三の核が撃たれるかもしれません。そして、わざわざ宣戦布告をした後、すぐに和解したことから、私は、メリューは好戦的な国家ではない、という考えであります』
なので、これも予想通りの返答だ。
『ですが、あれは人工衛星だっと北朝鮮は発表していますが?』
『日本では、メリューを狙ったミサイルだという見解です』
ふむ、これは、既にデイヴィスがアマンダに論破されたのと、同じ展開だな。
何とも拍子抜けだ。
彼女はそれで質問を終えたようで、席に戻る。
彼女が戻った席の周りでは、なにやらざわざわしている。
「岡田さん、あれで反対意見なんですか? そもそも、同盟に関する質問がないですよ?」
俺が岡田に聞くと、彼は、一度にやりとしてから答えてくれる。
「やはりそうなりますよね~。これは僕でも分かります。僕の口からはあまり言えないのですが、彼女は、昔、キム総書記のパーティーに出席したとだけ。そして、あの政党も一枚岩じゃないんです。今の質疑に、不満を持っている憲政党議員も多いはずですね」
あ~、なるほどね。
彼女は、将軍閣下に配慮したと。
あの戦争、あの映像が流れた瞬間、客観的に見てメリューの勝利だろう。
なので、和解の内容を知らない彼女は、余計な事をしたくない。と言うよりは、メリューに関わりたくなかったはずだ。
「予定が変わったという感じですわね」
「拙者もそう思うでござる」
次は、少し小太りの男、共民党の委員長、梨田議員とやらが質問席に上って行く。
『先程の質問で、総理は応戦するのは当然だと言ったが、メリューには何の被害も確認されていない! 更に、あの後、北朝鮮は何もしなかった! それなのに、メリューは宣戦布告までして、あの竜が北朝鮮国土を蹂躙した! なので、国民からはやり過ぎだという意見も多い! そのような好戦的な国家と同盟を結べば、この国が戦争に巻き込まれるのは火を見るより明らかだ! これを踏まえ、メリューと同盟を組む意義を、明瞭に説明して欲しい!』
お、これこそが反対意見だろう。
会場からも、それに賛同すると思われる野次が多数響く。
しかし、蹂躙したって言われてもな~。俺からは一切攻撃していないし、ちょっと踊ってやっただけだぞ?
「やはりそう来たでござるか。ここが踏ん張りどころでござろう」
「ええ、そのようですわね」
再び、総理が新藤と少し交わした後、立ち上がる。
『メリューの発表によれば、あれは核ミサイルです。そして、あのシン君が未然に防がなければ、当時、日本から派遣していた使者が居たことから、日本人も犠牲になっていたのは明白であります! 確かにその後、北朝鮮からの行動は無かった! ですが、もし日本が同じことをされていればと考えると、私はぞっとしております! 迎撃に失敗していれば、それこそ数万、いえ、数百万の命が犠牲になった! その脅威に、メリューが日本に、いや、世界に代わって立ち向かってくれたと言えましょう!』
お、総理はちゃんと守っているな。
そう、あの和解内容は極秘なので、最後の部分は、こういう言い回しにせざるを得ない訳だ。あれを出せるのなら、『立ち向かった』ではなく、『取り除いた』とかになるはずだ。
ここでまばらな拍手が起こり、同時に、あれは核じゃないとか野次が入る。が、阿納総理はそれを無視して続ける。
『そして、蹂躙したと仰るが、その事実はありません。日本で確認できた被害は、北朝鮮からの発砲が、市街地に着弾したのみです! シン君からの明確な攻撃は、一切確認されてないのであります!』
ここで総理は壇上の水を飲み、一息つく。
おや? 俺が躍った結果、いくつか家が壊れたが、そこは知らなかった? いや、伏せたのか?
まあ、あのドラゴンダンスを攻撃と呼べるかは微妙だしな。被害だって、あいつらの同士討ちに比べれば可愛いものだ。
『そして、あのスピード和解! 私は、メリューは、ほぼ犠牲を出さずにあの戦争を終結させたと考えております。これを持っても、好戦的な国家とは呼べないはずであります。さらに、日本国民を救ってくれたのは、あのミサイルからだけではないのです! 昨夜の長野県における豪雨の中、登山パーティー5人を救ったのもメリューです! しかも、あの戦争の直後だっということも考えれば、メリューが如何に日本に対して好意的なのかも伺える、と考える次第であります』
うは。なんかこそばゆいが、頑張った甲斐があったというものだ。
しかし、ここで議場は大きく荒れる!
『詭弁だ! あれが核という証拠は無い!』
『同盟すべきだ! あのドラゴンが居なければ、あの人達も助からなかった!』
『こんな答弁は許さない! 議長! 審議を止めろ!』
『それは総理の独断と偏見だ!』
『反対意見が出ている事を考えて! 少数意見を殺さないで!』
ふむ、反対の野次が多いな。
『まだ阿納君の答弁中です! 静粛に! 静粛に!』
だが、数十人くらいの議員が、『阿納政治を許さない!』と書いた紙を持って立ち上がり、議長席に押し掛けようとする。それを、与党の議員だろうが、必死に阻止しようとしている。
しかしこれ、まだ答弁中だろ?
総理は、まだ同盟する意義とやらに答えていない。
議長さんも、そう叫びながら机を叩いているし。
もっとも、ここまで言えば、後に続く答えも想像できるが。
すると、横で岡田が溜息を吐き、照れ臭そうに俺達を見回す。
「いや、お恥ずかしいですね。日本の法律に、野次禁止というのが無いもので」
「アメリカだって、似たようなものでござるよ」
「あれしないと、給料出ないんすかね? いつもやってる気がするっす」
「メリューでもありましたが、ここまで酷くはありませんでしたわ」
「あの騒いでいるボケ共、処罰されないのでございますですか? 北朝鮮でなら、即座に射殺されるです!」
うん、俺も少し恥ずかしいと思う。
ここ、議論の場だろ?
これじゃ、国会前でのデモ隊だろ。あんな紙を掲げるなら、そこでして欲しい。まあ、この状況、もはや、どっちもどっちだが。
画面の中では、議長席を中心に、議員さん同士で揉み合っている。
「僕から勧めておいて、本当に済みません! これはもう見る価値、いや、お見せしたくないです。ですが、これは阿納総理の答弁が良かった結果でしょう」
「ん? 岡田さん、まだ総理の答弁は、終わっていないのでは?」
「いや、シン殿、反対派は、もう総理に喋らせたくないのでござるよ。なので、強硬手段に出たでござる。そして、昨夜の事もきっちり活用したでござるな。これは、タカヒロの手柄でござるな」
うん、あそこで新藤の提案を受けていなければ、あの救出劇はおろか、依頼すら無かった。
これは偶々だろうが、結果、同盟にとっての好材料になったのは間違いない。
しかし、新藤、いや、俺達は強運のようだ。昨夜だって、ほんの少し歯車がずれていれば、俺とサヤはともかく、あの学生達は死んでいただろう。そうなれば、逆に非難されていた可能性が高い。
反動が出なければいいのだが。
岡田が一礼して部屋を去る。
これ以上は居辛かったのだろうが、誰も、そこまで気にしてはいないと思うけどな~。
また、モーリス曰く、あれはマスコミと国民向けのアピールの場で、国会での質疑応答だけで立場を決める議員は、そうそう居ないないそうだ。元々数で勝る与党が、如何に意見を統一できるかが鍵で、それも今回のを見る限り、大丈夫だろうとのことだ。
なので、アマンダもTVを消し、ソヒョンが昼食の準備を始めてくれる。
いきなり、テーブルに置いてあった衛星電話が鳴り響く!
ん? 誰だろう?
これの電話番号を知っているのは、日本のごく一部、政府と自衛隊の関係者のみ。後はメリューの国民だけのはずだが? なら、クリスか?
「メリュー王国でござる。どちら様でござるか?」
電話を取ったモーリスの顔色が変わった。
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