第35話 続・初仕事
続・初仕事
俺は咄嗟に考える。
これは不味いどころじゃない!
倒木も岩も跳ね回ってやがる!
この高さでも喰らうだろう!
しかし、ここを離れる訳にはいかない!
そうすれば、サヤはともかく、残った二人は確実にあれに巻き込まれる!
ならば、サヤを待つしかない!
彼女ならば、また二人纏めて連れてくるはずだ!
逃げるのはそれからだ!
「後ろ! ハーネス掴んだまま伏せろ! フィジカルバリア!」
俺は振り返らず、翼を軽く畳み、背中を覆う!
そして、濁流と正対し、体位は変えず、頭だけを持ち上げる!
これで、少しでも俺の背中への被弾は少なくなるはずだ!
よし! ここだ!
「フリーズブレス!」
俺は濁流目掛けて、氷結のブレスを吐く!
よし! 先頭部分は凍らせたようだ!
あれさえ凌げば、後は……、って、おい!
後から流れて来た岩や倒木が、先頭の凍った部分を、ジャンプ台よろしく、跳ね上がりやがった!
なら、もう一発!
「吹き飛べ! トルネードブレス!」
げげっ!
ここで魔力切れかよ!
俺の口からは、しょぼい、つむじ風しか出なかった。
ヤバイ! ヤバい! やばい!
このままだと、俺ごと墜落してしまう!
更に眼前には、俺の頭と同じくらいの岩が迫る!
うん、これはもう、避けるとか以前の問題だ!
ん?
落ちない?
だが、あれを避けると位置がずれる!
俺は覚悟を決めて、目を瞑る!
ぐはっ!
俺の頭に直撃したようだ!
防御魔法をかけているのに、目まいが起きる!
だが、その瞬間だ!
背後に、再び衝撃を感じる!
「お待たせっす! すぐに離脱するっす! 二人共、そのままあたいにしがみ付いてるっす!」
「「は、はいっ!」」
よし! やはり待って良かった!
あそこで避けていれば、サヤは俺に着地できたかかなり怪しい。
おまけに身体がかなり軽くなった!
これがアマンダの言っていた、信頼する者同士の、魔力共有って奴だろう!
「行くぞ!」
俺は迷わず上昇する!
一気に雲を突き破り、月明かりの下、静寂の空に飛び出す!
「ふ~、危機一髪だったな~。それで、皆さん、無事ですか?」
「あ~、二人、伸びてしまったみたいっす。他は大丈夫そうっすね」
あら。まあ、あれだけ急激なGがかかれば無理も無いか。
「あ~、すみません。少し手荒な飛行になってしまいました」
「いや、多分、原因はあたいっすね。この二人、押さえつけていたっすから。あ~、もう大丈夫っすよ~」
「う、う~ん」
「うげ~」
俺が振り返ると、最後に連れてきた二人だろう、サヤが揺さぶると、すぐに気付いたようだ。
そして、さっきのカオリンと呼ばれていた女性が、座ったまま、深々とお辞儀する。
「本当にありがとうございます! おかげで全員無事みたいです!」
続いて、最初に連れてこられた女性と、先程の男二人も、ペコリと頭も下げる。
しかし、この男の意見は違うようだ。
「ど、どうも。だ、だけど、こんな雑な救助の仕方って、問題だろ! 俺のスマホだって回収できなかったし! よし! 降りたらツイートしてやる! 大体あんたら、これ、どうせ金貰ってやってるんだろ?!」
なんと、ユウヤと呼ばれていた男が毒づいてきやがった!
まあ、言われた事は全て事実だし、否定のしようがないな。
もっとも、スマホ無しで、どうやってツイートするつもりなのかは知らんが。
俺とサヤが黙っていると、カオリンがいきなり立ち上がった!
そして、乾いた音がする!
げ!
この女、ユウヤの頬を張りやがった!
更に、大声でまくし立てる!
「おい! いくら何でも、その言い方はねぇだろ! あれ見なかったのかよ?! あたしら、助かっただけでも奇跡なんだよ! 贅沢こいてんじゃねぇよ!」
へ?
この人、さっき、土下座ばりにお礼してくれた人ですよね?
俺はサヤと顔を見合わせ、残りの三人は、完全に硬直している。
そして、ユウヤが頬を押さえながらも、立ち上がろうとする。
「お、お前! 先輩に向かって……」
「どうするってんだよ! そもそも今回のプラン、天気が崩れそうだからやめようかってのを押し切ったのは、あんたじゃねぇか! 先輩面すんなら、それなりの事してから言えってんだ!」
「い、いや、天気予報ではここまで荒れるとは…。それに、ミカが足を滑らせていなければ……」
「ぐだぐだ言い訳してんじゃねぇ! それでもって、この、シンさんとサヤさんに謝れ! 話はそれからだ!」
ぐはっ!
カオリンは、その男の頭を、上から押さえつける!
「あ、あの、助けてくれてありがとうございました! そ、そして、済みません!」
「お、ちゃんと出来るじゃねぇか! あ、皆さん、大変失礼しました。てへ♡」
『てへ♡』じゃねぇ~っ!
だが、別に謝って貰おうとまでは思っていなかったが、この男に不快だったの確かだ。
そして、これは非常に気分爽快だ!
皆が呆然とする中、カオリンは、何事も無かったかのように俺の背中に腰を下ろす。
ふむ、この
「今、全員回収して、そっちに向かってるっす。5分もかからないと思うっす。一応、救急車用意しておいて欲しいっす」
サヤがトランシーバーに向かって話している。
雲の切れ間から、街の明かりが見えて来た!
その後は彼等を市役所で降ろし、サヤが自衛隊の人に報告してくれている間に、俺も少しだが休息を取る。
うん、完全に魔力が枯渇していたようだが、これで、飛ぶくらいは問題なかろう。
その間、当然俺は取材攻勢を受けそうになるが、サヤが言ってくれたのだろう。自衛隊の人が完全にガードしてくれた。
また連中も、雨の中、頭と翼をだらしなく地面に這わせている俺を見て、遠慮してくれたと思われる。
ちなみに、彼等5人組は、某大学の登山サークルだったそうだ。
ふむ、それでちゃんと山小屋の予約とか、登山ルートを事前に提出していたと。
そして、それをしていなければ、彼等は助からなかっただろう。
あの取材陣には、そういった事を報道してくれると期待しよう。
また、俺から降りる時に、あの気丈だったカオリンの足元が少しふらついていた以外は、全員全く問題無かったようで、せっかくの救急車が無駄となる。
しかし、これは喜ぶべきことだな。
最後に、全員で俺とサヤの前で整列し、頭を下げてくれたのが本当に嬉しい。
もっとも、あのユウヤという男は、渋々だったようだが。
だが、次回からは、俺とサヤだけでの救助活動は止めよう。
やはり、最低でも後一人、俺の背中で待機してくれる人が必要だ。
結果、一度に救出できる数は減るかもしれないが、それは仕方なかろう。
「報告も完了っす! ギャラは、クリスさんが開いてくれたメリューの口座に振り込まれるそうっす! で、シンさん、どうするっすか? ここで寝ていてもいいって言ってるっすけど?」
「いや、流石に迷惑だろ。少しだが魔力も回復したし、メリューに帰ろう。あ、そういや、俺の家、どうなってるんだろ?」
「そうっすね。じゃあ、アマンダさんにテレポンするっす!」
「うん、任せた! じゃあ、乗ってくれ!」
「はいっす!」
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