第33話 結果報告
結果報告
メリュー上空に出ると、辺りはもう日が落ちかけており、ヘリポートには、米軍マークをつけたヘリが三機着陸していた。
ふむ、連中も一件が片付いたのをすぐに気付いたと見ていいな。再び俺の家の建設をしてくれていて、既に柱は組み終えたようで、今は屋根をつけてくれている。
俺に気付いた人たちが、手を振ってくれたので、俺も軽く手を振り、邪魔にならないように、仮設住宅の前に着陸する。
窓越しに食堂を覗うと、中にはアマンダとモーリス、そして、ガーナード少将とデイヴィス国務次官が、机を挟んで会議中のようだ。ん? 日本の岡田も居るのか。
ふむ、三人共、どうなったか聞きにきたのだろう。
早速アマンダが気付いて、飛び出して来た。
「アマンダ、只今。全部うまく行ったよ。で、あの人達は放っておいていいのか? 大事な話じゃないのか?」
「ええ、丁度終わったところですわ。皆さん、お疲れ様ですわ」
「はいっす! 完璧だったっす! ニュースが待ち遠しいっす!」
「アマンダ陛下、只今でございますです」
二人を俺から下ろすと、サヤがソヒョンを隣の女性用の部屋に案内する。
うん、いい判断だ。ここでソヒョンのことをアメリカに説明するのは面倒だしな。
もっとも、既にばれている可能性は高いが。
すると、残りの4人も出てきた。
使者の三人は、俺を見上げながら、満面の笑みだ。
「シン君、お疲れ様だ。先ずは戦争の終結と勝利、おめでとう! うん、我々の情報も無駄にならずに済んで良かったようだ。そして、欲を言えばきりがないが、まずまずの感じに纏めてくれたようで、何よりだ。アメリカが最も恐れていたのは、テロリストへの核の譲渡だったからな」
少将がねぎらってくれ、デイヴィスと岡田もそれに続く。
「ええ、おめでとうございます。しかし、私にはまだ信じられません。ほぼ犠牲を出さずに、あの男を捕らえるなど! これはISでも…、いえ、何でもないです。しかし、本当にあの男が約束を守るのでしょうか?」
「それは僕もですよ! あ、おめでとうございます。そして、それでもかなり安心できると言えるでしょう。本当にありがとうございます!」
ふむ、アマンダとモーリスがどういう説明をしたかは不明だが、この、ガーナードと岡田の言い方からは、俺達が新藤に教えた以上の事を伝えたのは確かなようだ。彼にはなんか悪いな。
「はい、両国の協力のおかげですね。こちらこそありがとうございました。あと、あの感じだと、約束は絶対に守ると思いますよ」
俺が照れながら補足してやると、モーリスが頭を掻きながら進み出て来る。
「シン殿、お帰りでござる。そして、まあ、そういう話でござる。但し、三人共分かっているでござるな? この件は、北朝鮮を含めて知らないものとするでござる! 守られなかった場合は、メリューも付き合い方を考えるでござる!」
三人は、揃ってちょっとにやりとした後、神妙な顔で頷く。
あ~、これ、なんか分かって来たわ~。
この人の場合、かなりの事を正直に話してしまったと見える。
もっとも、流石に魔法とかのことは伏せていたようだが。
しかし、あれくらいの事ならそれ程問題ではなかろう。日本もアメリカも、北朝鮮とやりあうつもりは無いと思うし、あの命令も、あの男が代替わりすれば無意味だ。それに、軍が独断で暴走してしまった場合などを考えると、引き続き警戒は必要である。
ただ、重要なのは、この後発表されるニュースを見て、各国がメリューを舐めなくなるであろうという事だ!
その後、岡田はプレハブ領事館に引き返し、アメリカの二人も、工事の予定を話してから輸送ヘリに戻って行く。
少将によると、明日から雨が降るそうなので、今晩中に俺の家を仕上げるべく、突貫工事になるらしい。
ふむ、ベストタイミングだな。この仮設住宅の裏では、既に煌々とライトが灯っている。時計を見たら、もう6時を過ぎていた。
まあ、俺は今晩、どっか隅で寝るとしよう。
そして俺も人間に擬態し、サヤとソヒョンも呼んで、食堂に集合する。
「改めて、皆さん、お疲れ様ですわ!」
「そうでござるな! とにかく、これで今回の件は終了でござる! あ、アマンダ陛下、その、申し訳ないでござる」
モーリスが頭を下げようとすると、それをアマンダが遮る。
「いえ、モーリスさん、私はあれくらいで丁度いいと思いますわ。何も教えないと、彼等も納得しないでしょう。魔法のことさえ伏せておけばいいのですわ」
「俺もそう思いますよ。じゃあ、ソヒョン、今日からは、この島が貴女の家だ。アマンダとモーリスさんに、改めて自己紹介とかしてあげてくれ」
これでモーリスも顔を上げ、皆で席に着き、ソヒョンが簡単に自己紹介をする。
それが終わると、サヤが買い出して来たものをテーブルに広げていく。
食料:肉、魚、野菜を含めて、とにかくいっぱい。これは、そのままサヤがアイテムボックスに仕舞い直す。うん、その方が腐らない。もっとも、誰が調理するのかと言う不安は残るが。
衣類:ソヒョンの分は、既に部屋に収納したようだ。なので、出て来たのは、クリスが選んだと思われるモーリスの着替えと、俺が慌ててドラゴンに戻った時に破いてしまったスウェットだ。俺の分は、サヤとアマンダに手分けして持っていて貰う。
PC一式:これはモーリスの指示だそうだ。やはり、アメリカから貰ったものについては、信用が無いらしい。
卓上ガスコンロ2セットと鍋一式:ふむ、これからのシーズン、鍋は嬉しいな。それに、これなら俺やサヤでも出来る。たれとかも色々買って来ていて、早速今晩は、しゃぶしゃぶの予定だそうだ。
マンガ:山程買ってきやがった! 少女漫画はサヤ用、アクション系の漫画はモーリスの依頼だな。早速自分の部屋に持って行ったので、俺も今度モーリスのところにお邪魔しよう。
日用雑貨:歯磨き、石鹸、シャンプー、タオル、その他には電池とか。そういや、俺もこの身体になってから、歯を磨いたことないな。と、思ったら、洗車用ブラシが出て来た! 何でも、ソヒョンの提案らしい。う~む、俺の世話をするってのは本気のようだ。
「後は、ガソリンの入った20L缶、20本っすね。クリスさんがスタンドに予約してくれてたっす。人目を誤魔化して仕舞うのに、クリスさんと結構苦労しったっす。後で、外に出しておくっす」
「あ~、それは申し訳ないでござる。そこまでは考えていなかったでござる。でも、シン殿の家の照明に、かなり食うと予想されるでござる。これからは、自衛隊が来る時にお願いした方がよいでござるな」
ふむ、流石だな。
見た感じ、俺の家は数十メートル四方だろう。発電機もつけてくれているようだが、それの照明全てとなると、フル稼働になりそうだ。
「あ、それと、アマンダさん、新藤さんが預かっていた、銀貨と宝石の鑑定ができたそうっす」
お、それは俺も興味あるな。
早速、添付されていた紙を皆で読む。
「ふむ、宝石の方は、普通のルビーだが、かなり品質がいいようだ。で、銀貨の方は…って、おい、これ!」
アマンダはきょとんとしているが、それ以外の全員、目を丸くする!
「「「「プラチナって!」」」」
一斉にはもった!
道理で新藤も、自衛隊員の居るあそこじゃ言えなかった訳だ!
「げ! これは予想外っす! しかも、純度も高いみたいっす! 銀貨なんて、そんなに持ってないっす! せいぜい50枚くらいっす!」
「だな。上の通貨、金貨があった訳だし。だが、それでも金の方が高いはずだぞ。うん、今度金貨も鑑定して貰おう」
「え? その銀貨、この世界ではそんなに価値のあるものなのですか?」
すると、モーリスがその500円玉くらいの銀貨を手に取って、しげしげと見る。
「そうでござるな~、拙者も相場までは覚えてないでござるが、確か、グラムあたり30ドルくらいだったはずでござる。なので、これ一個が20gらしいので、500~600ドルくらいでござるか? 金なら、これの倍近くでござろう」
ふむ、流石はモーリスだ。
つまり、この銀貨一枚で5~6万と。
で、金貨も同じくらいの大きさだから、金だったとして、1枚10万くらいと。
これは、メリューでの価値と大差ないな。
なら、サヤは数百枚くらい持っていたはずだから、数千万ってところか。
「じゃあ、それは本当に困った時の為に取って置くのがいいだろう。確かに価値はあるが、そこまでじゃあない」
「私も価値はよく分かりませんが、シンさんの言う通りですわ。それに、それに頼ってしまっては自立できませんわ!」
うん、アマンダのフォローで、サヤも納得して銀貨を仕舞う。
「あ、それで思い出したよ。さっき新藤さんから、バイトの話があった。あ、でも先に飯だな。その時に話そう」
「ええ、私もお腹が空きましたわ!」
「拙者もでござる! サヤ殿、鍋でござるか、楽しみでござるよ」
あ、この様子じゃ、やはりこの二人、まともに昼飯を食っていないと見た。
台所を見ると、流しに缶詰の空き容器が散らかっている。
「なら、急いで作ろう。サヤ、一緒に……」
準備をしようと言いかけたところで、ソヒョンが割って入ってきた!
「シンさん、それは私に任せやがれです! 料理だけは、皆、褒めてくれたでございますです! 鍋なら簡単でございますです!」
お、これはいいな。
これが本当なら、これで我が国の食生活は、大幅に改善されるだろう。
皆で、マッハで机の上の物を片づけ、サヤがアイテムボックスから食材を取り出してくれた。
ソヒョンの料理の腕は確かなようで、てきぱきと食材を切り、どんどん皿に並べて行く。
「コンロと鍋を用意しときやがれです! 出したら、これをぶちこみやがれです!」
ふむ、指示も完璧のようだ。
俺がテーブルに2台、卓上コンロに鍋をセットすると、サヤが昆布をそれに入れ、火を点ける。
程無く準備が整い、皆、箸を構える。
「では、メリューの戦勝祝いですわ! 皆さん、お疲れ様ですわ!」
「「「「頂きます!」」」」
ちなみに鍋は二つなので、片方は、サヤ、アマンダ、モーリス。もう片方は俺とソヒョンの担当となる。これは、俺が5人前食べる都合上、そうなった。まあ、向こうだって併せて6人前なので、丁度良かろう。また、ソヒョンが俺の世話をすると言い張った結果でもあるが。
皆で、衛生放送のニュースを見ながら、盛大にがっつく!
う~ん、これは、笑顔の練習をしないといけないかもな~。
キムと握手をしている俺の顔は、牙が剝き出て、威嚇しているようにしか見えなかった。
「アマンダさん、肉はさっと通すだけで充分っす! モーリスさんは、ちゃんと野菜も食うっす!」
ふむ、向かいの鍋は、サヤがしっかりと奉行をしてくれているようだ。
「シンさん、あ~んでございますです!」
「あ~っ! リンさん、シンさんに近づき過ぎですわ!」
「しくったっす! やっぱ、この配置は不公平っす!」
あ~、もう勝手にしてくれ!
俺はソヒョンにされるがままだ。
皆の腹も膨れて来て、そろそろ締めにうどんでも入れようかという時、扉を叩く音がする。
見ると、岡田だ。
「盛り上がっている時に済みません。それでシンさん、早速仕事が入りました!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます