第32話 ドラゴンのお仕事
ドラゴンのお仕事
若森が帰って、これで終わりかと思いきや、新藤はまだあるようだ。
俺を見上げて、軽く手を挙げる。
「あ~、そのままでいいです。これからが、本当のバイトの話です。クリスとモーリスには既に通してあるんで、後はシンさんの確認だけなんですよ」
ふむ、確かに、恵南の話は新藤も断られる前提だったようだし、JAXAの話は、まだ先のことだ。今すぐの資金にはならない。
羽田の領事館の費用だって馬鹿にならないだろうし、俺としては、皆の家を何とかしてあげたい。
「まあ、今の話では、当面の資金にはなりませんよね。そこでです。シンさん、日本のレスキュー活動を手伝う気はありませんか? 具体的には、自衛隊が受けられない状況での、救難作業です」
お、先程の話といい、こういうのはいいな。
「ええ、そういうことなら喜んで。モーリスさんに通してあるなら、俺も異存ないです」
「シンさんなら、そう言って下さると思いましたよ。本当なら、もっと早くにするつもりだったのですが、日本の国家承認も得られ、あの国との問題も片付いたようなので、いい頃合いかと。まあ、一件当たりの金額はそれ程にはならないんですが、塵も積もればって奴ですね。メリューの維持費くらいには充分なるでしょう。それで2種類の依頼があるのですが……」
新藤の話だと、現在、山や海での遭難事故に、地元の警察や消防での活動には限界があるそうだ。具体的には人手やヘリとかの資材が圧倒的に足りない。また、民間でやってくれる会社もあるのだが、やってくれるところ自体がごく僅かで、焼け石に水と。
勿論、自衛隊も出動するが、それには知事からの要請が必要だそうだ。そして、自衛隊と言えど万能ではない。無理な物は無理だし、その費用だって馬鹿にはならない。
なので、メリューに来る依頼は、一つは、知事からの要請はあったが、自衛隊ですら無理な状況での救助活動。これは日本から金が支払われる。
二つ目は、遭難者やその家族からの、直接メリューへの依頼。知事の自衛隊要請が間に合わないとか、そもそも出ない場合とかだ。
「それで、具体的な金額としては、自衛隊からの依頼の場合、状況にもよりますが、一件当たり、数百万くらいと思って下さい。これは、民間の基準にある程度合わせるそうですので。民間だと、ヘリの使用時間とか、捜索人数で値段が変わります。ヘリだと、1時間で大体50万。捜索の場合、一人当たりの日当が3~10万ですね。これも雪山とか、状況によって変わります」
なるほど。
確かにそこまででかい金額ではないが、充分な額だと思う。
そして、俺とサヤで組めば、大抵のことなら対応できそうだ。
また、俺達の場合、燃料費とか、維持費がかからないので、丸儲けに近いはずだ。
「但し、直接依頼を引き受ける場合は、注意して下さい。クリスにも言ってありますが、相手が保険に入っていない場合、支払えない可能性がありますので。まあ、会社を一枚噛ませるのがいいですかね~。そこら辺は、私にも当てがありますよ」
ふむ、会社を通じて依頼を受け、料金の徴収とかもそこに任せると。儲けは減るだろうが、今のメリューに、それを全てできる余裕など無いからな。
また、その新藤の当てとやらを利用すれば、彼も少しは美味しい思いをするってことになるのか?
「分かりました。ええ、喜んで受けますよ。ありがとうございます」
俺が巨大な頭を下げると、新藤は慌てて両手を振る。
「いえ、これは同盟を成立させる為の一環でもありますから。今回の件で、メリューに対する日本国民の感情は、少し変化するでしょう。なので、少しでもプラスイメージになるようにとの提案ですかね。実際、私のところには、それなりに金にはなりますが、厄介な頼み事がかなり来ていますからね~」
あ~、これは理解できる!
戦争なんかやらかす物騒な国とは、同盟なんか組めないって意見も当然出るだろう。
だが、救助活動とか、社会奉仕的な活動をする国なら、信用も高まるだろうと。
そういや、東日本大震災の時、協力してくれた米軍の評価は大きく上がったと思う。
もっとも、俺達は金を取るので微妙なところだが、安くできそうだし、悪いことにはなるまい。
その後、その厄介な頼みとやらを、新藤が笑いながら教えてくれる。
ベタなところでは、海賊退治。こういうのは、明らかに死人が出そうなので、俺も遠慮したいところだ。また、やり方を失敗すれば、国際的な評価も大きく下がる。スポンサーは、その海域諸国と保険会社らしい。ハイリスクハイリターンって案件だろう。
その他では、微笑ましいのもあったようだ。
遊園地や動物園の依頼だ。地元議員を通じて来たそうで、見世物扱いはちと嫌だが、これは、落ち着いたら受けてあげてもいいかもしれない。
後はマスコミの依頼が最も多く、これにはクリスも苦労しているらしい。
何処から嗅ぎつけたのか、既に日本の領事館にも来ているとのことだ。
「なんか、俺達に関わってしまって、凄い迷惑をかけているのでは?」
「いえ、これくらい、予想されていたことですよ。私の意思で関わったのですから、気にしないで下さい。あ、帰ってきたようですね」
奥の扉が開き、サヤとソヒョンが顔を出した。
ふむ、クリスはおらず、二人共服装が変わっている。黒のスーツ姿にサングラス。
どこぞのアクション映画に出て来る女刑事、いや、スパイのようだ。
「シンさん、お待たせっす! で、新藤さん、やっぱ、セーラー服にサングラスじゃ目立つっす! 補導されそうになったっす! なんで、これ返すっす! あ、でもやっぱ欲しいっす。あたい、高校には行けなかったっすから」
ぶはっ!
まあ、明らかに違和感爆発だったからな~。空港でなら、これから家族とバカンスって言い訳もできるが、街中じゃ、ただの不審なJKだろう。
そして、サヤの気持ちも分かるな。彼女は中学三年の時に召喚されてしまったからだ。
「おや? それは私としたことが失礼しましたか。でも、そういうことなら、ばれてはないと見ていいでしょう。ええ、喜んで差し上げます。それで、クリスは領事館ですか?」
「そうでございますです。晩のニュースまでに配信するとか言っていたです」
ふむ。なら、連れて帰るのはこの二人だけと。
なんか、クリスには悪いが仕方あるまい。
もっとも彼女からすれば、この新藤の居る日本のほうがいいのかもしれないが。
「で、買い物は全部済んだのか? 荷物は…、あ~、アイテムボックスか」
「はいっす! 完璧っす! 防犯カメラの無さそうなところで仕舞ったっす。ソヒョンさんに説明するのが大変だったっすけど」
「あれは、本当に驚いたです!」
「ま、その話は帰ってからで。じゃあ、乗ってくれ。新藤さん、ここからなら転移しても構いませんよね?」
「はい、後は何とでも誤魔化せますから。では、帰ったら、モーリスとエルバイン陛下に宜しくお願いしますね。あ、陛下で思い出しましたよ。忘れる所でした。これ、お返ししますね」
新藤は胸元からビニール袋を取り出し、サヤに渡す。
中には、以前バーベキューの時にサヤとアマンダが預けた銀貨と宝石と、何やら折り畳まれた紙が入っていた。
「鑑定結果は、一緒に入れてあります。まあ、ここでは何ですからね。では皆さん、お疲れ様でした」
「はい、本当にありがとうございました」
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