第30話 戦争終結
戦争終結
テレポートしたのは、平壌の、あの馬鹿でかい肖像画の前の広場上空だ。
ここなら衆目に晒され、メリューと和解したという事が強調されて良かろう。
広場は閑散としており、数台の車両が居ただけで、それも慌てて路地裏に引っ込む。
そして、思った通り、何もしてこない。
ふむ、抵抗は諦めたと見るべきか?
なら、丁度いい。
俺は、ゆっくりと肖像画のど真ん前に着地する。
「よし、じゃあ、サヤはキムさんを連れて降りてくれ。あ、リンさんとクリスさんはそのままで。顔も隠しておいたほうがいいな」
「分かったわ。あ、でも帰る前に、サヤちゃん、ドラゴンさんとでいいわ。和解した証拠の映像が欲しいのよ。あそこじゃ撮れなかったから。なので、これ、お願いできる?」
「了解っす!」
「はいでございますです」
俺が振り返ると、クリスがサヤにビデオカメラを渡していた。
なるほどね。ここで俺と将軍閣下が握手でもしている映像でも撮れれば、世界も納得すると。本来ならば、アマンダとの握手がいいのだろうが、俺で勘弁して貰おう。
まあ、リンじゃないが、メリュー=俺って認識もあるようだし。
「じゃあ、じっとしてるっす! 縮地!」
サヤがキムを肩に担ぎ、地面に降り立つ。
残った二人はそのまま俺の背中にへばりついたので、俺も、肖像画をバックにしてサヤに振り返る。
サヤがキムを地面に立たせると、こいつも自分がなにをするべきか、ちゃんと理解したようで、俺の胸元に進み出て来る。
「んじゃ、シンさん、キムさん、笑顔でどうぞっす!」
「よし!って、この身体で笑顔は厳しいか?」
俺が指を差し出すと、キムはそれを、恐る恐る両手で掴む。
そして、明らかに作り笑顔だが、にっこりとほほ笑んだので、俺もほほ笑み返してやるが、これ、周りからはどう見えていることやら。
そして、キムが韓国語で、大声で叫ぶ!
「同志諸君! 見たまえ! 我が国はメリュー王国と和解した! 戦争は終わりだ! キム・ハンイルの名の下、武装を解除しろ!」
うん、いい感じだ。
こいつも、もう二度とあの痛みを味わいたくはないのだろう。
これなら安心できる。
なので、俺も少し援護してやる。
「そう! メリューとこの国との戦争は、このキム・ハンイルさんの英断によって、終結しました! では、そういうことで」
「う~ん、シンさん、笑顔になってないっすけど、まあOKっす! じゃ、キムさん、後は宜しくっす。縮地!」
背中に軽い振動を覚えたので、俺は翼を広げる。
うん、ここに長居は無用だ。
建物に隠れていた大勢の兵士が飛び出して来たが、銃とかを構えては居ないので大丈夫だろう。こいつが偽物認定されないかが、少し心配だったのだが。
俺は、あえて翼を大きく羽ばたかせながら、ゆっくりと舞い上がった!
そのまま、極力スピードを出さすに飛び、後ろを振り返ると、サヤがリンとクリスを背後で支えてくれている。
ちなみに、クリスがナビを抱えながら、衛星電話に耳を当てているところを見ると、モーリスに何か確認しているのだろう。
「後ろ大丈夫か? で、これで一件落着だな。皆、お疲れ様です」
「はいっす! シンさんもお疲れ様っす! で、もう少し加速しても大丈夫っすよ」
「ええ! ドラゴンさん、お疲れ様ね! そして、初めて乗せて貰ったけど、空気抵抗とか全く無いのね。あと、方角もこれでいいわね。今、モーリスから色々と買い出しを頼まれたわ。羽田に近づいたら、また連絡してくれって」
「分かりました。空気抵抗はフィールドのおかげだけど、加減速する時は、落ちないように気をつけて下さいね」
「はいでございますです!」
羽田空港が見えてくると、後ろから声がかかり、隅っこのほうにある、ハンガー前のヘリポートに着陸してくれとのことだ。
遠目に見ると、自衛隊だろう。迷彩服を着た人が、光る棒を振ってくれている。
ちなみに上空では、何機もの飛行機が旋回しており、地上でも、滑走路の前で行列が出来ているようだ。
俺の為に、待たされていると見て間違い無いか。なんか悪いな。
着陸すると、ハンガーから、二人の男が出て来た。
一人は、自衛隊の高官と思われる服装で、もう一人はスーツ姿のあの男、新藤だ!
俺が降りやすいように伏せてやると、早速クリスが駆け降りる!
「タカヒロ! 会いたかったわ! それで、全て完了よ!」
「あ~、皆さん、お疲れ様です。ええ、クリスも無事なようで何よりです。そして、シンさんにはお礼がまだでしたね。はい、岡田君と自衛隊員、そして、クリスを助けてくれてありがとうございました」
新藤は、一度軽く手を挙げてから、深々とお辞儀する。
「いえ、俺は俺に出来る事をしただけですよ。それに、そもそもの原因はこの俺の存在ですし。とにかく、全員無事で良かったです」
「まあ、それはそうなのですが、我々もそれが予測出来ていながら、あのミサイルを迎撃出来なかった。団長さん、あのバカ高い迎撃ミサイル、少し運用方法を考え直す必要があるかもしれませんね」
新藤はそう言いながら、隣の男に振り返る。
すると、その男も帽子を取って俺にお辞儀した。
あ~! そのスキンヘッド! あの開発実験団とやらの、恵南だ!
「シンさん、お久しぶりですな。活躍は聞いておりますぞ。そして、私からも、自衛隊員を守ってくれった事、感謝しますぞ。それで、良ければどうですかな? また、暇な時にでも、富士の裾野に来て頂くというのは?」
「い、いや、それはもう勘弁して下さい。俺も、あんな事しなければと、少し後悔してますんで」
「がははは、まあ、お疲れでしょう。そこのハンガーでお茶でもどうですかな? 今は自衛隊の管轄でしてな」
ふむ、あの中なら人目に触れる可能性も無くなるし、ゆっくりしていけという事だろう。これも、新藤の手回しと見た。
「では、甘えさせて頂きます」
俺達は、ぞろぞろとそのハンガーに入って行く。
恵南が入り口に居た自衛官に合図をすると、シャッターが閉じて行く。
「どうもありがとうございます。うん、なんかほっとしたのか、腹減ったよ。サヤ、買い物がてら、飯を食おう。俺も日本での外食は、生前以来だしな」
「それがいいっすね。もう2時前っす。アマンダさん達には悪いっすけど」
「そうね。でも、まだ食料はあったみたいだし、大丈夫でしょう。けど、少し心配ね。モーリスは自活能力ゼロだから」
げ!
そういや、それはアマンダも一緒だ!
まあ、何とかしてるだろ。松井も居るし。
しかし、もう2時か。いや、まだ2時と言うべきだろう。
考えて見れば、たった4時間程であの戦争を終結させ、更にその後始末までしてしまった。
改めて、この世界での俺達のチート性を思い知らされるな。
「じゃあ、サヤ、俺の服を頼む」
「了解っす!」
サヤが例のスーツを出してくれたので、俺は早速人間に擬態する。
サヤはもう慣れているので、別に変化は無く、クリスも特に動じている様子はないが、問題はリンだ!
彼女は、俺の身体を、それこそ舐め回すように見る!
「あ、あの~、そこまで見られると、流石に照れるんですが? それと、期待しているようなものは再現させてませんから!」
「そ、そうなのでございますですか? さぞかし立派な……」
「そ、そうだ! 新藤さん! 紹介しておきますね! この人はリンさん! 色々あって、今はメリューの国民です!」
俺は、リンに最後まで喋らせず、マッハで服を着込みながら、新藤に振り返る。
すると、新藤が軽く笑いながら、彼女に手を差し出した。
「あはは、貴女があの…。いえ、失礼しました。はい、私も少し聞いています。私は新藤孝弘、日本の国会議員です。今は、このメリューとの交渉担当をさせて貰っています。宜しくお願いしますね」
これでやっと彼女の視線が俺から離れ、リンは、おずおずと出された手を握り返す。
「わ、私はリン・ソヒョンと申しますです。は、初めましてでございますです。い、今はシン様の物でございますです」
ぶはっ!
俺の物って!
おまけに、また、あの『様』が復活してるし!
そして、新藤はこれで全てを察したのだろう。クリスと並んで、にやにやしながら俺とサヤを交互に見る。
「あ~、リンさん、さっきも言ったっすけど、シンさんはあたいの恋人っす! なんで、リンさんがシンさんの物なら、夫婦の共有物って奴っすか? あたいの物でもあるんすけど? それでもいいんすか?」
「別に私はそれでも構わないでございますです。では、サヤ様、宜しくお願いするでございますです」
ぬお?
まだ結婚はしていないし、そもそも出来ないのですが?
そして、そういう解釈もありと。
しかし、これは先が思いやられるな。
「え、えっと、リンさん、サヤ! この日本、いや、メリューでも、人は物じゃないし、所有も出来ない! なんで、その言い方はダメだ! 後、俺達に対して様付けも禁止で! と、とにかくそういう事で!」
「でも、メリューじゃ、奴隷制度あったっすよ? まあ、流石に冗談っすけど。とにかく、リンさん、シンさんに手を出すのは、あたいとアマンダさんの許可を得てからっす!」
「承知したでございますです。でも、シンさんのお世話は私に任せやがれです! そして、それなら、シンさんも私への言葉遣いを替えやがれです。『この雌豚!』とかが嬉しいでございますです」
ぶはっ!
何処から突っ込んでいいものやら。
そして、どうやらサヤとアマンダは、水面下で協定を結んだと思われる。
だが、これじゃもう、収拾がつかんな。
「あはははは、どうでしょう? 私も色々と話を伺いたいですし、これから食事するなら、私に案内させて頂けませんか? 羽田はよく利用するので、結構知っているつもりですよ」
お!
流石は新藤!
ナイスタイミングだ!
「そ、そうですね。じゃあ、新藤さん、お願いします!」
すると、クリスは新藤の腕に手を回し、新藤も少し照れた顔をするが、それを受け入れ、ハンガー奥の扉に向かって歩き出した。
うん、見ていて微笑ましいな。これこそ理想のカップルだろう。
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