第27話 たった一日の戦争 1

         たった一日の戦争 1



 伊丹に着くと、何と、ハンガーには、モーリスとクリスは当然として、池上と松井まで居た。

 全員、ハンガーの隅で、モニターを注視している。おそらく、偵察衛星の写真だろう。


「只今、ってすぐに出るつもりだけど。とにかく、この女性ひとを頼む! 自爆テロだ! サヤが回復してくれたので、大丈夫だとは思うが」


 全員、驚いて俺に振り返るが、すぐに事態を察したようだ。

 サヤが担ぎ下ろす女性に、クリスと松井が駆け寄り、池上は、インターホンに向かって何やら怒鳴っている。

 モーリスだけは、うんうんと頷いている。


「やっぱりでござるか。ならば、あそこがビンゴでござろう」

「え? モーリスさん、確かにミサイルとかは飛んで来ませんでしたが、流石にこれだけでは、決め付けられないのでは?」

「理由は簡単でござる。もし、そこに居なければ、核とは行かないまでも、あの施設ごと吹き飛ばしていた可能性が高いでござる。しかし、シン殿は無事なようで、何よりでござるな」


 あ~、そういう事か!

 流石に首都では被害が大きすぎるが、それ以外ならば、大した損失ではないと!

 そういや昨日、撃ってこない時は要注意だと、忠告されてたな。


「なるほど。じゃあ、逃げられる前にとんぼ帰りだな。サヤ、アマンダ! 俺に乗れ!」

「そうですわね! そして、きっちりとお仕置きしなければなりませんわね」

「はいっす! あたいも、まだ暴れ足りないっす!」


 サヤがアマンダを抱えて俺に飛び乗ると、池上がインターホンを置いて、こちらに振り返る。


「あ~、シン君、エルバイン女王、一応断っておくけど、この女性に関しては、日本は関係無い。このハンガー内でのことは極秘だ。だけど、拘束して、検査だけはさせて貰うよ~。見たところ、傷は浅そうだしね。意味は分かるよね?」


 ふむ、彼女の自発的な意思であった可能性もあると。

 また、下手したら、まだ体内にも、爆弾とか通信機とかを仕込まれているかもしれないと。


 そして、それにはモーリスが答える。


「当前でござる! では、後は拙者達に任せるでござる!」

「分かりました。じゃあ、行って来ます! テレポート!」



 別荘?の上空に出現した俺達は、早速行動に移る。

 先程まで飛んでいたドローンは、既に居なかった。


「先ずは、空気の入れ替えと、探索だな。毒ガスが周囲に広がるのは嫌だけど、放って置いても同じだしな~。サヤ、アマンダ、障壁を張っておいてくれ。俺は息を止めておくよ。数時間くらいなら余裕だし」

「了解っす! エアシールド! ファーサイト! シースルー! サーマルビジョン!」

「かしこまりましたわ! エアシールド!」


 俺は、地上数十メートルまで降下し、翼で扇ぐ!


 地上に砂嵐が巻き起こり、樹木が一斉に薙ぎ倒され、更に、あちこちから窓ガラスの割れる音が響く!


 それを、念入りに360度回転しながら数分間行うと、最後には、寺院風の建物の屋根が吹き飛んだが、それくらいは必要経費だろう。


 そして、俺は再び上空、1Kmくらいまで戻る。

 流石に息を止めたままだと喋れないからな。


「こんなもんだろ。で、サヤ、どうだった?」

「確かに、この地下にもシェルターがあるっすね~。美人さんで溢れかえっているっすけど」

「ふむ、例のお抱え美女集団だろう。それで、奴は?」

「う~ん、居るには居るんすけど、さっきと同じっすね~。同じ顔が3人居るっす」


 あ~、影武者って奴か。


「それで、サヤちゃん、昨晩、モーリスさんが仰っていた、地上への別ルートはどうですの?」

「はいっす。今、探してるっす。あ、多分あれっすね。シンさん、もう少し左、山の裏側へ移動して欲しいっす」

「分かった!」


 俺が言われた方向へ移動していくと、背中で大声が上がる!


「居たっす! 多分間違いないっす! 通路を移動してるっす!」

「サヤ! でかした!」


 俺はすぐさま高度を下げる!


「護衛が三人居るっすね。じゃ、行って来るっす! 縮地!」


 待つこと数分。

 背中に軽い衝撃を覚える。


 振り返ると、茶色い軍服がはちきれそうになっている男が、ロープで縛られ、背中で伸びていた。

 但し、TVで見たのとはかなり印象が違う。髪形が大きく変わっており、前髪を目元まで垂らし、おたくっぽいイメージだ。もっとも、その額の真ん中には、赤いこぶが出来ていたが。ま、何をされたかは想像がつくな。


 だが、良く見ると、確かにあの顔だ。

 そして、流石はサヤだな。俺なら別人だと思ってしまうところだ。もっとも、体型のヒントがでかすぎるが。


「只今ですわ。スキルカット! これで、半分完了ですわね」

「只今っす。で、これからはどうするっすか? 伊丹に戻るっすか?」


 彼女達が視認できるようになる。サヤがその男の首根っこを押さえており、アマンダはそれを見下ろしていた。


「ご苦労さん。そうだな~、護衛の連中はどうなってる?」

「全員、すぐにアマンダさんが寝かせたっす。何が起こったかすら、気付いていないはずっすね」

「流石だな。じゃ、起きる前に手早く済まそう。アマンダとサヤで、先にこいつを連れて、島まで飛んでくれ。日本にはこれ以上迷惑をかけられないしな。俺は、伊丹でモーリスさんとクリスさん、そして、あの女性を回収してくるよ」

「それがいいですわね。島ならもう逃げようがありませんわ」



 その後、俺は伊丹で三人を回収し、島へテレポートする。

 ちなみに、あの助けた女性は、名前をリン・ソヒョンと名乗ったらしい。危惧していた、余計なこともされていなかったとのことだ。

 また、傷はサヤの魔法で完全に回復していたようで、自衛隊の女性隊員の服を着せられ、椅子に拘束されていた。


 俺が島のヘリポート上空に転移すると、既に用意はできているようだ。

 ヘリポートの隅に、業務用のテーブルと、パイプ椅子が3脚。

 机を挟んで、右手の片方にはアマンダが腰掛けており、その後ろでサヤがビデオカメラを持って立っていた。

 そして左手の椅子には、あの男が縛られたまま座らされている。


 ん? まだ寝てやがる。

 こいつ、見かけ通り図太いな。


 そして、俺が地面に着地し、三人を降ろそうとしたところで、違和感に気付く!


「あれ? シンさん、松井さんも連れて来たんすか?」


 ぶはっ!

 振り返ると、俺の尻尾に、大きな背嚢を背負った、松井がしがみついていた!


「はっ! 私は只今より、メリュー王国での任務に就きます! 既に池上の許可も得ています!」


 う~む。この人らしいと言うべきか。


「あ~、もう勝手にして下さい。じゃ、ついでに、俺の背中の人達を降ろすのを手伝ってあげてくれますか?」

「はっ! 喜んで!」


 松井が手を引いて、俺の背中から、順番に三人を降ろしてくれる。

 保護した女性、リンは、まだ少し怯えている感じだったが、無言で従う。

 まあ、俺に乗る時もそうだったし、あの、泣きそうな顔に比べれば、遥かにマシだ。


 全員が降りると、モーリスはアマンダの隣に座り、撮影係もサヤからクリスに代わり、俺が背景に入るように位置取りする。

 松井は気を利かせてか、プレハブに引っ込んだ。

 最後にリンは、俺の横でサヤに付き添われているが、その目付きは険しい。

 真っ直ぐにあの男を睨みつけている。



「これで準備完了ですわね。では、始めましょう」


 アマンダが、毅然とした表情で立ち上がり、まだ寝ている男の前に手を翳す。


「ライアースキャン! トランスレイト、日本語! いい加減、起きなさい!」


 ふむ、嘘発見魔法と翻訳魔法か。

 翻訳魔法は、モーリスとクリスを配慮してのことだろう。俺達には韓国語でも分かるが、あの二人には無理なはずだ。


「ん? ここは? え? え? おい! 誰か説明しろ!」


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