第26話 テロリスト VS テロ国家
テロリスト VS テロ国家
俺は、一路南西に向かう。
とは言っても、たったの数十キロ程で、すぐに着いた。
眼下には、淡いグリーンをした、中華風の屋根を冠する、巨大な寺院のような建物が見え、その周りを、コンクリートで出来ていると思われる、如何にも頑丈そうな施設が取り囲んでいる。
モーリスの話では別荘とのことだが、イメージとしては、もはや城塞だな。
「よし、写真どおりだな。で、撃ってはこないところを見ると、脈ありか?」
俺はその宮殿の真ん前の広場に着地する。辺りに全く人影はないが、見張られていると思って間違いなかろう。
しかし、この宮殿みたいなのが別荘ってどんだけよ。
これが、ここの国民の労働力によって、たった一人の男の為だけに造られたと考えると、なんともやるせなくなるな。
なので、今度は少し控えめに叫ぶ。当然、韓国語だ。
「メリュー王国の者だ! この戦争を終わらせたければ、キム・ハンイルを出せ! それが無理なら、代理でも何でもいい、話が出来る奴を出してくれ」
うん、もし居たとしても、いきなり本人が出て来られないのは当然なので、これくらいでよかろう。
俺もいい加減、この茶番を終わりにしたい。
はっきり言って、今のメリューは、ある意味究極のテロリストだと思う。
そう、俺達には拠点はあるものの、そこを潰されても、数日もあればまた創れるし、そもそも、俺達相手に報復をすることすら難しいだろう。転移して逃げればいいだけだ。また、もし、モーリスとクリスが捕まったとしても、居場所さえ分かれば、救出するのは造作もない。
なので、俺達を止めるには殺すしかないが、それが最も難しいはずだ。
まあ、この国だって、テロ国家と言われているのだから、お似合いかもな。
辺りが静寂に包まれる中、正面の寺院のような建物の脇にある、小さな扉が開き、一人の軍服を着た、女性士官と思われる人がおずおずと出て来た。
「お、お待ちしておりましたです。しょ、将軍閣下が、お、お話をしてもいいと仰っておられますです。た、但し、貴方お一人だけでございますです。に、人間様に化けて、私についてきやがれです」
ぶはっ!
彼女が放ったのは日本語だ!
しかし、語尾がかなりおかしい。まだ慣れていないのだろう。
だが、もっと不審な点は、彼女が完全に怯え切っていることだ!
まあ、これは初対面の俺相手には、大抵の人が示す反応だが、俺が擬態できることまで知っているのなら、ここまでではなかろう。
元は端正に整った顔立ちだと思われるのだが、俺を見上げるその表情は、今にも泣きそうだ!
うん、もし、本当に話が出来るのなら大歓迎だが、これは用心した方が良かろう。
俺は、彼女を舐めるように見る。
ふむ、やはりおかしい。
明らかに、胴体と四肢との、太さのバランスが不自然だ!
彼女の腹、胸、背中、少しだが、膨らんで見える!
「フィジカルバリア! フィジカルバリア!」
俺は、迷わず俺と彼女に魔法をかける!
彼女の肌の部分も、一瞬黄色く光ったので成功だろう。
そして、これで少しは安心だ。
この魔法は、俺の魔力に比例して、防御力を跳ね上げる。
喰らった事がないから分からんが、多少の爆弾くらいなら耐えられるはずだ。
「な、何をしやがったです?」
彼女も、俺に何かされたことくらいは理解したのだろう。
両手を顔に近づけ、閉じたり開いたりしている。
「まあ、ちょっとした魔法だ。で、将軍閣下とやらに会うのはいいが、その前にだ! 悪いが、服を脱いでくれ」
彼女の表情が更にこわばる!
「な! な! 何を! あ、貴方、竜の分際で、ド、ド、ドスケベです! で、でも、でもそれ、無理! ぬ、脱いだら最後なのです!」
あ~、やっぱりか。
すると、周りの建物の窓が開き、そこから何機ものドローンが放たれた!
うん、これは一刻の猶予も無いな。
俺は、真下の彼女を掴み取り、そのまま舞い上がる!
その瞬間だ!
俺の前脚で、彼女の身体が、轟音と共に弾け飛んだ!
彼女はかろうじて、爪の先に、足先だけが引っかかっている!
だが、血まみれだ!
なので、俺も慌てて彼女を掴みなおす!
そして、上昇しながら、すぐさまアマンダにテレポンする!
(アマンダ! サヤと一緒にすぐに俺の背中にテレポートだ! 怪我人が出た!)
(かしこまりましたわ! サヤちゃん!)
尚も慎重に高度を上げて行くと、背中に重量を感じる。
「サヤ! 説明は後だ! 俺の抱えている女性を頼む!」
「了解っす!」
俺も、脇を確認するが、彼女は完全に意識を失っている。
可哀想に、血まみれな上に、完全に裸だ。
だが、致命傷ではなさそうだ。腹に穴が開いている感じではないし、手足もちゃんと繋がっている。
サヤが、器用に背中から俺の腕を伝い、彼女に触れる。
「これくらいなら大丈夫っすね。ヒール! げ! シンさんの鱗も少しめくれてるっす! ヒール!」
サヤは、そのまま彼女を脇に抱え、再び俺の背中によじ登る。
落ち着いたところで俺が振り返ると、彼女は毛布にくるまれ、アマンダの膝枕だった。
そして、その顔をサヤがタオルで拭っている。
うん、血は取れたようだが、まだ意識は無さそうだ。
しかし、良く見ると、かなりの美人だな。年もまだ20代前半だろう。
すっと通った鼻筋に、切れ長の眉、胸までかかる、ストレートの長い黒髪。
アマンダには及ばないものの、これが噂の、お抱え美女集団、いや、ハニートラップ工作員って奴か?
「アマンダは知らないと思うが、彼女は自爆テロの犠牲者だ。俺の目の前で爆発した。そして、下に飛んでいるドローンはかなり要注意だ。モーリスさんの読み通りなら、あれは毒ガスを撒いているはずだ。俺とサヤの毒耐性も、通用するかどうかは微妙だな」
アマンダも理解したのだろう。顔を伏せ、首を振った。
サヤは眉を顰め、嫌悪感を顕わにする。
「それで、シンさんは無事ですの?」
「うん、俺は掠り傷程度だ。防御魔法が間に合った。今のサヤの回復で、もう何ともない。で、どうする? 一旦引き返すか? 俺としては、もう奴を許す気にはなれないのだが?」
「そうですわね。ですが、この方を安全な場所に保護してあげるのが先決でしょう。シンさん、魔力はどうですか?」
「大丈夫だ。怒りのせいか、この感じならまだまだいける。じゃあ、彼女を俺に密着させてくれ」
「了解っす!」
サヤが彼女を俺の背中に横たわらせ、その上から覆いかぶさった。
「よし、テレポート!」
俺は、伊丹のハンガーにテレポートする!
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