第25話 開戦
開戦
(シンさん、おはようっす! で、時間っす! 先ずは第一ポイント、平壌で合流っす! 合図よろしくっす!)
(分かった! 露払いは任せろ!)
(任せたっす! それで、心配はしてないっすけど、無茶はダメっすからね!)
(ああ、そのつもりだが、相手さん次第だしな~。うん、ありがとう。じゃ、また後で)
ここで、サヤとのテレポンを終了させる。
現在、俺は、隠岐の島の上空あたり、高度、400キロくらいか?
先程、擦れ違った、太陽光パネルを着飾った奴が、ISSって奴だろう。
この高さだと、完全に宇宙だ。領土とかは関係ないので文句は言われまい。
俺は、目標である、平壌目指して急降下していく!
う~む、なんか、自分がミサイルになった気分だ。
ふむ、迎撃の戦闘機は無しと。まあ、俺相手だと、落とされるだけなのは目に見えているしな。
しかし、その代わりに撃ってきたか。
ぎりぎり建物が視認できるくらいの高さ、高度15キロくらいか?まで降りてくると、地上から一斉に、5本の光の糸が俺に向かって飛んで来た!
なるほど、こいつがモーリスの言っていた、グランブルって奴だろう。
先日、富士の演習場でやったのと似た感じだな。
あれなら軽く避けられる。
しかし、あれは、中国の哨戒機の真下でやったことだ。北朝鮮が知っていてもおかしくは無い。
ならば、無駄と分かっていて、よく撃つな~。
ま、せっかく高い金出して買った、ないしは作った武器だし、ここで使わなきゃ無意味ってことか。
「取り敢えずは、相手にしない方向でいくか。モーリスの話によると、近寄られると、自爆して破片をまき散らすそうだし」
俺は、一気に加速して、ランダムに縫うような軌道を描き、地上を目指す!
すると、俺の横、数百メートルくらいを、数本の帯が掠めて行く!
しかし、当然これで終わりな訳もなく。
続いて、他の地点からもミサイルが放たれ、弾幕も張られる!
「ふむ、対空砲も当然来るよな~。あれが30mm多連装対空砲って奴か? ま、これも躱すのは容易いのだが、ちとうざいな。もし怪我でもしたら、またあの二人を悲しませるし。フィジカルバリア! ディメンジョンフィールド展開!」
俺の周囲に、空気の歪みが発生する!
仕組みとしては、アイテムボックスの大規模版ってところだ。流石にミサイルとかは無理だが、それ程大きくない物体ならば、俺に触れたら最後、異次元空間に飛ばされる。飛ばされた先のことまでは知らないが。
無数の銃弾をその空間に飲み込み、俺は軍事パレードとかで良く見る光景の広場に着地した。
あ、しまったな。
俺を追って来たミサイルの何発かが、周りの建物にぶち当たってやがる!
ま、俺の攻撃じゃなし。恨むなら、撃った奴を恨んでくれ。
そして、対空砲とミサイルはこれで終わり……ではなかった!
建物の隙間から、バズーカと機関砲だろう、まだ撃ってきやがる!
外れた弾が、高層ビルを破壊していく!
「じゃ、こういうのはどうだ? 縮地!」
俺は、広場の横にある、なんか馬鹿でかい顔写真を掲げた建物の、真正面に陣取ってやる。
「お、流石に撃ってはこないか。なら、そろそろ始めるか」
まだ銃声が響くが、どうやら小銃のみのようだ。これなら、当たっても、俺にダメージを与える事は叶わない。
また、先程までは、筒を持った、茶色い軍服を着た兵士がうろちょろしていたが、皆、近くの建物に隠れたようだ。
「ランゲージスキルオン! で、장군을 데 려와 라!」
俺は大声で叫ぶ!
背後で窓ガラスが割れる音がしたが、知るか!
意味としては、将軍を連れて来いってことだが、どうなることやら。
すると、今まで散発的に放たれていた銃声も止み、完全に辺りは沈黙に包まれた。
俺は、更に韓国語で喚く!
「キム・ハンイルを出せ! 奴には、責任を取って貰わなければならない! 話次第だが、殺すつもりはない!」
う~む。何の応答も無い。
周囲の建物には、大勢の兵が隠れているのは確かな筈なのだが。
鼓膜まで破れてしまったか?
出来れば、穏便に済ませたいのだがな~。
「ま、そうそう出て来る訳もないか。じゃ、ちと実力行使と行きますか」
俺は、馬鹿でかい顔写真の前で腕を組み、コサックダンス、もとい、ドラゴンダンスを披露してやる。
地響きと共に、いくつかの低い建物が崩壊し、そこから慌てふためく兵士が飛び出して来た。
しかし、もろすぎだろ!
日本でなら、この程度の揺れで壊れるなら、建築基準法違反だぞ!
そして、逃げ惑う人の騒ぎ以外は、何の音もしないし、俺に近寄って来る奴も居ない。
うん、モーリスの読み通りだな。
ここの兵には、俺を殺せという指示しか出ていないようだ。当然、あの男が何処に居るのかも知らされてはいないと。
しかし、もう撃ってはこないし、頃合いだろう。
「スキルカット!」
続けてアマンダにテレポンする。
(アマンダ、もう大丈夫のようだ。もっとも、出たらすぐに透明化しろよ)
(お疲れ様ですわ。はい、かしこまりましたわ。では、参りますわよ)
背中に軽い衝撃を覚える。
続けて、そこから声がする。
「ほら、やっぱり成功ですわ。アンチシーイング!」
「シンさん、お疲れっす! 思ったよりも被害はないみたいっすね。で、シンさんは大丈夫っすか?」
振り返るが、声がするだけで、何も見えない。
うん、アマンダの透明化の魔法は流石だな。サヤまで完全にカバーしている。
「うん、俺は無傷だよ。しかし、テレポートの場所指定で、俺の背中って! そんなの可能なんだ。で、待たせたな。後は頼む!」
「ええ、あの晩の景色、感触、全て完璧ですわ! あとは、信頼度の深さでしょうか? では、サヤちゃん、頼みますわね」
「なんか、少し妬けるっすけど、了解っす! ファーサイト! シースルー! サーマルビジョン!」
そう、モーリスの話だと、この地下を走る地下鉄の、更に下がシェルターになっているらしい。
「あ~、やっぱ、モーリスさんの言った通りっすね~。確かに、この地下深くに巨大な部屋があるっす。で、見た顔が何人も居るっすね~。じゃ、アマンダさん、失礼するっす!」
「では、行って参りますわ!」
「アマンダさん、軽いっすね~。縮地!」
今度は、俺の背中から重さが消えた。
うん、彼女の縮地なら、数百メートルくらいの跳躍なら造作もない。
また、サヤに確認や転移を任せたのは、アマンダの魔力を温存する為だ。これからの事を考えると、絶対に彼女の魔力を切らすわけにはいかない。
今日のアマンダは、既にテレポートを二度唱えている。
一度目はモーリスとクリスを連れて、自衛隊の伊丹基地へ。
これは、羽田のホテルだと、サヤとアマンダが居なくなった今、彼等を人質に取られる可能性があるからだ。
また、そこからなら、ミサイルとかの情報もすぐに分かる。なので、先程は透明で確認できなかったが、サヤも、ナビと衛星電話を持って来ているはずだ。当然、これはモーリスとクリスが、新藤に根回ししてくれたおかげだ。
待つこと数十分。
俺も待っている間は退屈なので、将軍を出せと喚いたり、軽い地震を起こしたりしてやるが、依然として沈黙は保たれたままだ。
しかし、こいつら、俺がこのままここに居座ったら、どうするつもりなのだろう?
一応、それが最終手段ではあるが。
全ての地点で外れだった場合は、日中、俺は毎日ここに来て、嫌がらせをするつもりである。もはや、借金を取り立てるチンピラ状態だが、モーリス曰く、最も効果的だろうとのことだ。
(う~ん、外れっすね~。じゃ、次の地点お願いするっす)
ふむ、流石に首都平壌には居ないと。
そして、彼女達がどうやって確認したかも見当がつく。
大方、アマンダの魔法で眠らせ、更にライアースキャンを発動させ、サヤが縛り上げた後に、順番に詰問していったのだろう。
(分かった。別荘の地下だな。そこで待っててくれ。またテレポンするよ)
俺は、再び翼を広げ舞い上がる!
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