第24話 報復前日
報復前日
その後は、アマンダと岡田、そしてデイヴィス次官は席を外し、残されたモーリスとガーナード少将で、何やら地図を前にして話し込む。ビデオは既に回っていないので、本当の極秘内容のようだ。
俺もする事が無いので、「自分の家だし」と言って、俺の家の建築を手伝おうとすると、物凄い勢いで拒否される。今度の理由は、「気持ちは嬉しいが、素人が手を出すと、間違いが起こる可能性がある」とのことだ。
う~む。疑わしさ爆発なのだが、正論すぎて何も言えん。
全体はどうなっているのかと、上空から見下ろすと、既に骨組みとなる鉄骨が何本も立ち、かなりのピッチで進んでいるようだ。
ん? なんだ?
日本領事館であるプレハブの裏で、何やら蠢く茶色い物体が2体。そして、あの自衛官達が、その傍で手を差し出し、しゃがんでいた。
ぶっ!
よく見ると、パイソントードに餌付けをしているようだ。
大方、野菜屑でもやっているのだろうが、それくらいじゃ、あいつらの食欲は満たせないだろう。
ふむ、痩せてしまう前に、俺が食べてあげるべきだな。
すると、そこへ、辺りをきょろきょろしながら歩いていた不審者、もとい、デイヴィス国務次官が駆け寄って行く。
あ~、これ、何か展開が読めたわ~。
思った通り、気の強そうなおばさん、もとい、デイヴィスは、パイソントードを指さしながら、自衛官に詰め寄る!
自衛官二人は、揃って首を振る。
更に、声を聞いたのか、岡田まで出てきて参戦する!
そして、全員、埒が明かないと見たのか、空を見上げて手を振り出した。
はいはい。
俺は、俺の気配に気付き、逃げようとするパイソントードを、瞬時に捕獲、両脇に抱える。
「そ、その生物は何ですか? 異世界の生物ですよね! そうですよね!」
案の定、俺が着地すると、デイヴィスが凄い剣幕でまくし立てる!
「はい、そうですが?」
「で、では、その得体のしれない、いえ、地球外生命体、アメリカに研究を任せる気はありませんか? いえ、そうするべきです! しなければ、人類の損失です!」
うん、これは諦めたほうがいいな。
ここで繁殖させるのは厳しいようだし、ぶっちゃけ、どうしてもこいつらを食べたいのならば、また獲りに帰ればいいだけだ。魔力の都合上、丸一日かかるけど。
そして、これに岡田も便乗してくる。
「ええ、ですが、これをシンさんに頼まれて、最初に発見したのは日本です! それに、さっき餌をあげたのも日本です! 任せて頂けるのなら、是非日本に!」
ふむ、新藤ならここで、何か魅力的な提案をするのだろうが、新米外交官では仕方あるまい。
しかし、このアメリカのお偉いさん相手に一歩も引かない、その度胸を買ってあげよう。
「では、両国とも、色々とお世話になっているんで、一頭?ずつどうぞ。結構美味いですよ。ですが、絶対に繁殖させないで下さいよ! させるなら、メリューに許可を得てくださいね!」
まあ、一匹では繁殖も無理だろうが、もしこの世界で大ヒットするようなら、特許?だけは主張しておきたい。
サヤに毒されて来た気がするが、妥当なところだろう。
二人は俺を見上げながら、満面の笑みで頷く。
なんか、子供に玩具をあげた気分だ。
その後、一匹はロープを持ってきた自衛官に渡し、もう一匹は輸送ヘリに放り込んでやった。
ま、後はこいつらで何とかするだろ。
「モゲ~ッ!」
「モガ~?」
デイヴィスが上機嫌で輸送ヘリに戻って行くと、モーリスが食堂から顔を出し、俺を手招きする。
なので、俺も人間に擬態し、中に入ろうとすると、アマンダも呼ばれたらしく、隣から出て来た。すると、俺を見るなり、彼女は真っ赤になった顔を俺から逸らし、虚空に手を突っ込む。そして、黙って俺のスウェットを差し出してくれた。
あら。この身体になってから三年、普段はマッパなので、服を着るという習慣が見事に消し飛んでいる。気をつけているつもりなのだがな~。
部屋に入ると、ガーナード少将が、机に大きな地図を広げていた。
北朝鮮の地図のようだ。何ヵ所か印がつけてある。
少将は、俺を見ると、一瞬驚いたようだが、特に感想とかは延べず、俺とアマンダに、地図を見るように促す。
ふむ、この姿で彼と会うのは初めてなのだが、既に俺の情報はかなり知っていると見える。流石だな。
「モーリスには既に説明してあるが、改めてだ。この、赤い印がついている地点が、あの男が隠れている、シェルターがあると思われる場所だ」
「三か所ありますわね。何処が一番有力なのでしょう?」
「エルバイン女王、残念ながら、アメリカでも、これ以上絞り込む込むことはできないのだ。ひょっとしたら、まだ他にもあるのかもしれない。だが、シン君の力を考慮すると、この三か所が最も怪しい」
まあ、そんなところだろう。
それ程大きな国ではないが、その気になれば、いくらでもそういった施設は作れるはずだ。
三つに絞れただけでも凄いと思う。
「かしこまりましたわ。では、この黄色い印は?」
今度はモーリスが答える。
「それは、核ミサイルの発射場、ないしは核関連施設があると思われる場所でござる。アメリカとしては、ここを潰して欲しいのでござろうが、リスクが高すぎるでござる。なので、ミサイルが撃たれたとか以外なら、ここには近寄らない方が賢明でござろう」
「なるほど。俺を仕留められるなら、自爆させる可能性まであると」
モーリスと少将は、顔を顰めながら頷いた。
「しかし、こういう事を聞いてはなんだが、ミサイル基地や、核関連施設を叩かないのであれば、貴方達は、どうやって、あの国にお灸を据えるつもりだね? あの男が居るシェルターは、地下100m以上という可能性が極めて高い。しかも、場所以外の詳細は、米軍も殆ど知らない。シン君の能力がいくら高いとはいえ、少し厳しいように思えるが?」
ふむ、もっともな質問だ。
しかし、アマンダとモーリスは、お互いに顔を見合わせ、力強く頷いた。
「そうですわね。ですが、我が国は、シンさんだけの力で成り立っている訳ではありませんわ。それに、現在の主導権はこちらにあります。では、ガーナード少将、ご協力感謝致しますわ」
俺も、その気になれば、ブレスでシェルターごと溶かせるだろうが、それだと犠牲も多いし、何より、あの将軍様とやらを殺してしまうだろう。
別にあの男がどうなろうが知った事ではないのだが、そうなれば、日本とアメリカからすれば、やり過ぎになる。
今回は、サヤとアマンダにお任せだな。
「では、お手並みを拝見させて頂くよ。私も何か、モーリスが羨ましくなってきたよ。では、失礼する。あと、シン君がこの島を離れる時だけは教えて欲しい。警戒レベルを変えないといけないのでね」
ガーナード少将はそう言い残し、部屋を出て行った。
ふむ、俺が島を離れる=報復開始と取る訳だ。
少将が部屋を出ると、早速作戦会議だ。
やはりか。先程の二人の自信の裏には、俺が居ない間に、かなり皆で話し合ったと見た。
モーリスは、既に俺達の能力やスキルをかなり把握しており、また、アマンダも、核とか、この世界の兵器のことをかなり理解している。
流石だな。
日が暮れる頃には、全ての作戦が決定した。
気付くと米軍は、作りかけの俺の家と、建築資材と重機を残し、撤収していた。
また、途中で岡田と自衛官二人も、俺達に挨拶をして迎えのヘリに乗って行く。
ま、これは当然だな。
報復が開始され、俺が此処を離れれば、ここにミサイルを撃つ意味はないのだが、追い詰められた場合、あの男がどう出るかなど、見当もつかない。また、連中も、此処に残ってリスクを冒す意味は皆無だ。
「これで下準備は完了でござる! では、アマンダ陛下、お願いするでござる!」
「しかしアマンダ、本当に出来るのか? 俺もそんなの、やった事ないけど?」
「問題ありませんわ。昨夜で確信しました。そして、シンさん、本当に申し訳ありませんわ。では、モーリスさん、参りますわよ。テレポート!」
アマンダはモーリスの手を握り、消えた。
そう、彼女達は、これから羽田の領事館で、サヤとクリスに作戦の詳細を説明しなければならない。
当然、俺も一緒に行きたいのだが、俺の場合は、寝てしまうと実体化してしまうので、行くだけならいいのだが、泊るのは無理なのである。また、俺が日本から出撃すると、まだ同盟を組んでいない日本にも迷惑がかかる。もっとも、陰では協力して貰うが。
そして、明日のアマンダは、テレポートを2回しなければならないので、魔力の関係上、魔力を消費するなら早めがいいので、こうなってしまった。
なので、その後は、俺一人で冷蔵庫を漁り、またぼっちである。
しかし、今回は前回とは違う。何となくだが、はっきりと彼女達との絆が感じられる。
翌朝、俺は一人で朝食を摂りながら、NHKの衛星放送を見る。
『たった今、緊急ニュースが入りました! 先日、日本に承認さればかりの国家、メリュー王国が、北朝鮮に対し、宣戦布告をしました! この映像は、インターネットに公開され、朝鮮総連にも投函されたとのことです! では、その映像をご覧ください!』
うん、始まったな。
これを見て、世界各国はどう思うことやら。
続いて、俺を背景にした、アマンダのメッセージが流れる。
『先日、我がメリュー王国に向けて、正体不明の飛翔体が北朝鮮から発射されました。幸いにも、我が国の国民、シンさんによって、その飛翔体は別世界へと廃棄されましたが、核ミサイルであったとのことです。これは、明白に我が国を滅ぼそうとした行為であり、断じて許すわけには参りません。よって、我が国は、朝鮮民主主義人民共和国に対し、宣戦布告します! 開戦は本日午前10時! 指導者キム・ハンイルよ、己の愚行を悔いて待ちなさい! では、ごきげんようですわ』
俺はその場で服を脱ぎ捨て、表に出る。
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