第21話 帰還
帰還
景色が変わる!
眼下には、二棟の仮設住宅と、一軒のプレハブ小屋。そして、それに付随した設備。
辺りはもう真っ暗で、その窓から、それぞれ光が洩れている。
そして、あの二人が飛び出して来た!
俺は、迷わず彼女達の前に着地する!
「その、なんだ、あ~、心配させてごめんなさい!」
俺は、思いっきり頭を下げる。
更に、前脚もつこうとしたところで、違和感に気付く。
「モゲ」
「モガ~ン?」
ぐはっ!
彼女達のことばかりを考えていて、この、食料のことを見事に忘れていた!
こいつらを両脇に抱えたまま、テレポートしてしまった!
二人は俺の脇を見て、吹き出してしまう。
「ウプププ! い、いや~、帰ってきてくれただけであたいは満足っすよ。なんで、謝る必要はないんすけど。ククッ、そ、そのパイソントード、ひょっとして、詫びの印っすか?」
「クフッ。感動の再会シーンのはずでしたのに…、少し力が抜けしてしまいましましたわ。でも、シンさん、帰ってきてくれて嬉しいですわ!」
う~ん。ま、場が和んだということで、良しとするか。
取り敢えず、パイソントードを地面に降ろしてやると、ぴょこぴょこ跳ねながら、暗闇に消えていった。
ま、人畜無害だし、この島から逃げ出すこともなかろう。
そして、俺は自分の決意を固める為に、再度確認をする。
「と、とにかく、俺がここに居てもいいんだよな?! サヤもアマンダも、こんな俺でも迷惑じゃないんだよな?!」
二人はこくりと頷き、微笑んでくれた。
「なら、俺も覚悟を決めたよ。この世界での俺の居場所を! サヤとアマンダの居場所を! 俺が守る! そして、二人共、本当にありがとう!」
「はいっす! あたいもシンさんを守るっす! なんで、これからも宜しくっす!」
「ええ、私も、私に出来る事なら何でもいたしますわ。では、食事にしましょう。何でも、この世界の御馳走のようですわ」
「お、それは嬉しいな。じゃ、行くか」
「あ、擬態する前に、少し頭を下げて欲しいっす」
ん? 何だろう?
俺は言われた通り、彼女達の目線まで頭を下げる。
すると、サヤは、俺の鼻先に手を添え、キスをしてくれた。
「あ! サヤちゃん! ずるいですわ!」
アマンダも、サヤを押しのけて、俺の鼻先を奪う。
うん、これだけで、帰って来た甲斐があったというものだ。
人間に擬態して、食堂に入ると、モーリスが待っていた。
机の上には、大量の寿司が並んでいる。
なるほど、これは嬉しい! 大方、サヤとアマンダで、俺の為に買って来てくれたのだろう。
「シン殿、お帰りでござる! 拙者は、すぐに帰って来ると読んでいたでござる! 無事のようで、何よりでござる。それで、早速でござるが、あのミサイル、どうだったでござるか?」
「モーリスさん、只今。はい、あれは核だと思います。爆発したら、オーロラがかかりましたから。俺は星の裏側に逃げたので、多分ですが、被爆はしていないと思います」
「やはりでござるか…。まあ、拙者も、そうなる可能性があると思って、忠告したのでござるが。でも、クリスを助けてくれてありがとうでござる! シン殿がいなければ、この島に居た人達は助からなかったでござる」
ふむ、やはり、あのままでは間に合わなかったと。
しかし、先程から見渡しているのだが、そのクリスが居ない。
「で、クリスさんは?」
「クリスは連絡員として、今は羽田でござる。とにかく、会談はすぐに中断になったでござるが、後は全て上手く行ったでござる!」
「そうっす! 結局誰も怪我せず、島も無事っす! 流石はシンさんっす!」
「その通りですわ。では、シンさんの帰還祝いですわ! 早速頂きましょう。私もお寿司というのは初めてですわ!」
その後は、皆で歓談しながら寿司をつまむ。
そして、もっとも気になる点、何故、北朝鮮がメリューに核を撃ったかについて、モーリスが説明してくれる。
「あの国は、実績が欲しかったでござる。核もミサイルもあるのに、それが正確に飛んで、且つ、ちゃんと爆発するか? あの国は、今まで対外的に証明できなかったでござる」
なるほど、丁度いい的ができたと。
何とも迷惑な話だ。
「でも、流石にあれが爆発していれば、只では済まないのでは? 国連とかから袋叩きに会うはずですよ?」
「いや、あの国は、叩かれるのには慣れているでござるし、シン殿が死んでいたら、寧ろ、異世界の脅威を排除したと、高らかに喧伝するつもりだったのでござろう。あのまま当たっていても、犠牲はたったの6人でござる。それに、常任理事国は、本気で批判しないでござるよ。いや、批判する資格が無いでござるな。特に、アメリカとフランスには」
あ~、そういう事になるのか。
先ず、大義名分はある。俺自身、俺は脅威だと思う。犠牲も、最低限?と呼べると。
そして、実際に核を落としたアメリカと、ビキニ環礁を焦土にしたフランスは、あまり強くは言えない筈だ。
後の三国の反応も予想できる。
ロシアは我関せず。中国は、うちが叱っておいてやるから、勘弁してやれ。イギリスは、アメリカの顔色を見てからってところか。
「でも、それが失敗した今、北朝鮮は、あれは人工衛星だったと言い張っているでござるが」
なるほど。成功すれば、自国の核ミサイルの力を世界に見せつけることが出来たが、失敗したので、もみ消すしかないと。
そもそも、俺が死なないだけならまだしも、当たらないわ、爆発しないわじゃ、何一つ目的を達成できていない。
「そして、北朝鮮の唯一の誤算は、テレポンの魔法でござるな。今まで、サヤ殿が通信機を持って乗っていたので、連絡がつくとは思っていなかったのでござろう。あのままのスピードでシン殿が帰って居れば、完璧なタイミングだったそうでござるよ」
ふむ、これで全て納得だ。
しかし、このままでは、また撃たれる可能性があるか? いや、流石にもう懲りただろう。
俺がそんな事を考えていると、アマンダがいきなり立ち上がった!
「では、メリュー国女王として、これからの方針を発表しますわ! 我が国は、あの国、いえ、キム・ハンイルという男に報復しますわ! 異議のある方は、理由を述べて欲しいですわ!」
「賛成っす!」
「拙者も賛成でござる!」
「俺は反対だな。メリューにミサイルが通用しないのは、もう証明できている。なので、もう撃ってはこないだろう。あの指導者は、平気で自国民を盾にすると思う。なら、そいつに報復となると、国ごと滅ぼさなければならないのでは? 俺も、そこまではしたくない」
すると、アマンダは軽くほほ笑んでから、すぐに真剣な、女王の眼差しで俺を見る。
「ええ、優しいシンさんなら、そう仰ると思っていましたわ。でも、これは向こうが売ってきた喧嘩です。何もしなければ、負けを認めたとされ、また、横で見ていた国も、同じことを我が国にしてくるでしょう。なので、これだけは譲ってはならないのです!」
モーリスも追従する。
「拙者も全く同意でござる。歴史が証明しているでござる。抵抗しなかった、ないしはできなかった国や民族は、ことごとく隷属させられたでござる。勿論、犠牲は最小限にするでござるよ。そして、シン殿、いや、メリューならそれが可能でござる!」
ふむ、確かにそうかもな。アフリカの奴隷とかは典型的な例だろう。
逆に、ベトナムとかは、最後まで戦い抜いた結果、独立を手に入れたと。
「うん、分かった。それに、俺も戦うって決めたものな。じゃあ、モーリスさん、早速ですか?」
「それでこそシン殿でござる! でも、今日は皆、疲れているでござろう。急ぐ必要は無いでござる。あの男も、暫くはシェルター暮しでござろうし」
うん、そういや、俺もかなり気怠い。今は回復させるべきだな。
そして、俺を仕留められたか確認できない以上、やはり報復が怖いと。
もっとも、先の話からは、俺を葬る、完璧な作戦だったようだ。最低でも、
なので、今、こうやって寿司食っているとこを見たら、卒倒するかもな。
後、これはあまり考えたくないことなのだが、この島は、今まで2度、攻撃されている。
相手からすれば、まともな被害を与えるつもりはなかったのだろうが、それでも、手を出したのは事実。
そして、それに反撃しなかった俺達は、舐められた可能性が高い。
なるほど。アマンダとモーリスの言う通りだ。
あの男に、今までのつけも払わせるべきだな!
その後は、サヤとアマンダは風呂に入ると隣の部屋へ。
モーリスも、新藤が使っていた部屋をそのまま利用するようで、向かいの棟に行く。
ちなみに、あのテレポンの魔法で、やはり、サヤは魔力切れになったそうだ。
アイテムボックスに入れていた魔力結晶で、かなり回復したとのことだが、別世界なのだと実感させられる。同じ世界でなら、彼女クラス、消費する魔力よりも、回復する量の方が多いので、そんな事態にはならない。
残された俺も、そろそろ寝るかと外に出ようとすると、外交官の岡田と、この島に配属された、二人の自衛隊員がノックして来た。
扉を開けてやると、入るなり、岡田が頭を下げる。
「シンさん、お帰りなさい。サヤさんから聞きました。貴方が、僕達を守ってくれたと。ありがとうございました!」
「いや、頭を上げて下さい。そもそも、俺が居なければ、ああはならなかったんです」
「それとこれとは別です。それでは僕達の気が済みません」
続いて入って来た自衛隊員も頭を下げる。
う~ん、気持ちは嬉しいが、やはり俺が元凶な訳で。
そこで、俺はふと思いついた。
この時間にここに来たのは、俺達の話を邪魔しちゃ悪いと、気を遣ってのことだろう。
なら、ある程度、時間に余裕がある証拠だ。
そもそも、岡田に至っては、四六時中、アマンダやモーリスと話をしている訳でもあるまい。この島での仕事は、それ程多くは無い筈だ。
「じゃあ、恩を返せというつもりじゃないですが、少し知恵を貸して頂けませんか?」
「はい、喜んで。何でもいいから親しくなれと、事務次官からも指示されていますし」
「はっ! 私共に協力できることなら! それで、どういった事でしょうか?」
少し悪い気もするが、これくらいならいいだろう。
俺は、先程持ち帰ったパイソントードの話をする。
そう、あいつらは結構うまい。また、すぐに大きくなる。なので、せっかくだし、ここで繁殖させたいのだ。
俺もここで住むと決めた以上、環境を良くしたい。食料の自給は欠かせないだろう。
しかし、あいつらは草食だ。この島は岩を盛り上げただけなので、土が全く無い。
なので、どうにかならないかという話だ。
「とにかく、見てみないことには、何とも言えませんね。でも、面白そうな話です。友人とかにも聞いて、考えてみましょう」
「はっ! 丁度、米軍が残した車両もありますので、明朝、その、パイソントードやらを探しておきます!」
その話はそれで終わり、彼等も引き返して行く。なので、俺も魔力の回復に専念するべく、ドラゴン形態に戻り、ヘリポートで丸くなる。
すると、スウェット姿のサヤとアマンダがやってきた。
風呂上りなのだろう、何かいい匂いがする。
「で、アマンダ、貴女も俺の上で寝るつもりか? サヤもだけど、俺の背中はベッドじゃないんですが?」
二人共、毛布を抱え、アマンダに至っては、枕まで持って来ている。
「いや、シンさんの背中、結構弾力があって、寝心地いいんすよ。それに、翼の付け根が少し窪みになっていて、これまたいい感じなんす。あと、シンさんの体温が絶妙なんすよ。夏は涼しく、冬は暖かい。完璧っすね!」
なんと! 何か、自分でも寝てみたくなるな。
そして、こいつが毎晩俺の背中によだれを垂らしていた理由も納得だ。
で、アマンダはと見ると、彼女なりの言い分があるようだ。
「そ、その、やっぱり日頃の距離が問題なのですわ! 次こそは、私が先にテレポンを繋げますわ!」
ぶはっ!
まだ根に持っていたようだ。
「あ~、もう勝手にしてくれ! 但し、アマンダ、落ちても知らないからな」
「問題ありませんわ。くっつき魔法、アドヒーランをかけてから寝ますので、簡単には離れませんわ」
へ~、そんな魔法もあるんだ。
しかし、なんか、無性に目頭が熱い。
うん、嬉しい!
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