第20話 募る思い
募る思い
翌朝、気付くと、柱の隙間から朝日が刺し込んでいる。
うん、いい朝だ。
あの、魔族さえ居なければ、地球の人を移住させてあげたいものだ。
住宅事情に悩む人などは、喜んでくるのではなかろうか?
もっとも、全て一からなので、それはそれで苦労しそうだが。
あれからは、テレポンは来ない。
まあ、サヤもアマンダも、俺が魔力切れしていることくらいは想定済みだろう。
完全に回復する頃合い、夕方にでも、またかかってくるかもしれない。
うん、腹が減ったな。
俺は神殿を出て、翼を広げ、舞い上がる!
「ふむ、やはり、凄い事になってるな~」
山裾では、操られた人間と魔族で、大渋滞が起こっている。
全員、たった一人の俺を目指しているようだ。
何ともご苦労な事だ。
どっちの世界でも、俺は人気者らしい。
「なら、俺が上手く位置を変えて行けば、あいつらを一ヵ所に集められるかもしれんな。うん、落ち着いたらやってみよう。纏めて全部燃やせるかもしれない。だが、先に腹ごしらえだな。って、早速いたか」
下を見ると、岩陰にポッピングシープの群れが居た。
あれで隠れているつもりなのだろうが、空からは丸見えだ。
体長2m程で、角が三本。長く白い毛に覆われた、二本足で跳ねまわる、カンガルーみたいな羊と言うべきか? こういった、険しい山に住んでいる。肉は旨いので、結構高値で取引されていたと思う。
俺は一気に急降下する!
「ファイアブレス!」
群れから外れている奴、一匹に狙いを定め、軽く焙ってやる。
ポッピングシープの毛皮が黒く焦げ、ローストビーフ?の完成だ。
「頂きます」
早速頬張るが、ドラゴン形態ではほぼ丸呑みなので、何とも味気ない。
それに、やはりぼっち飯は寂しいものだ。
今頃、あいつら、どうしているのだろうか?
その後は神殿に戻り、魔力の回復に専念する。
とは言っても、ただの食後の睡眠だ。
しかし、こんな生活を続けていたら、俺、絶対にデブるな。空を飛べなくなったらどうしよう? 飛べない豚はってアニメがあったが、飛べないドラゴンは何と呼ばれるのだろうか?
うとうとしていると、あっという間に時間が過ぎたようだ。
柱の陰から、夕日が見える。
そして、どうやら到着したようだ。
「ファイアキャノン!」
「ファイアショットガン!」
「ファイアトルネード!」
神殿目掛けて、大小合わせた炎の弾が撃ち込まれ、入り口に、炎の渦が巻き起こる!
俺に火は無効なのに、相変わらずワンパターンな奴らだ。
そして、ファイアトルネードが唱えられたってことは、魔族本体も居るってことか。ま、相手は俺一人だしな。
魔族の攻撃は、火系統がメイン。これは、魔族本体が、それなりに火耐性を持っているからだと思われる。もっとも、俺のブレスの前ではそんな耐性など無意味だが。
また、ファイアトルネードなど、高位の魔法を唱えるのは、魔族だけだ。
操られている人間の場合、生前、使う事が出来た奴でも、何故か、中級までの魔法しか唱えない。
なので、俺が余裕をかましていると、攻撃の種類が変わりやがった!
「サンダーランス!」
「ロックトルネード!」
神殿の入り口から、俺の足元に雷が突き刺さり、石の礫が降って来る!
うん、場所の替え時だな。
ここにこれだけ集まったということは、他は手薄な筈。アズガル島にでも行くか。
「縮地!」
俺は神殿の入り口に瞬間移動する!
テレポートの廉価版ってところだ。
サヤも使えるのだが、何故か彼女はその上位、テレポートが使えない。明らかに素質はあるはずなので、俺としてはかなり疑問だ。
周りを見ると、思った通り、うじゃうじゃいやがる!
だが、これは好都合だな。
俺は一気に舞い上がる!
「ファイアブレス!」
高度200mくらいから、炎の帯で焼き払っていく!
魔族も人間も、纏めてだ!
うん、あの人達は既に死んでいる!
これは殺人では無い!
操られた人達は、真っ黒に焦げて、倒れて行く。
魔族は、霧のように掻き消えて行く。
蛋白質の焦げる匂いが漂って来た。
「ふむ、いい感じで固まっているな」
神殿へ通ずる道の、広くなっている部分が、それこそ真っ黒になっていた。
「バーニングプロージョン!」
黒山の中心が真っ白に光り、その光が、一気に赤く膨張し、爆発する!
後には、何も残らない。
直系100mほどの窪みが出来ただけだ。
運よく?範囲に入ってなかった連中は、恨めしそうに空を見上げている。
奴らの射程は、魔族でも100mくらい。なので、この高さの俺には手出しできないのだ。
「ファイアブレス!」
俺は、更に行列をなして登って来る連中を、上空から道に沿って、焙りながら山を下る。
「こんなもんだろ。また、いい感じに固まったら燃やしてやる」
俺は捨て台詞を残し、高度を上げる。
アズガル島に行く途中、運悪く、俺の眼にとまってしまった、パイソントードを2匹、失敬する。
放置されていた牧場で、のんびり草を食べていやがった。
こいつらは、1m程の巨大な蛙なのだが、茶色いふさふさした毛を生やしており、草食である。また、『パイソン』とは言う物の、蛇とは全く脈絡がない。俺は、『バイソン』がなまったものだと考えている。角まで生えてるし。
晩飯用にと、モガモガと悲鳴を上げるパイソントードを両脇に抱えて飛んでいると、島が見えた。
標高3000m程の休火山を有する、アズガル島だ。
活動を停止した、ハワイ島って感じの場所で、ここには、海を渡って来ないといけないので、来るのは魔族だけだろう。元々無人島だしな。
カルデラになっている山頂に降りると、丁度ここで日が暮れた。あそこからはかなり西なので、時差がある。
早速、パイソントードの踊り食いをと思っていると、頭に声が響く!
(シンさん、もう魔力も回復したっすよね! だったら、さっさと帰って来るっす!)
うん、無視だ。無視。
俺が帰ったら、また迷惑をかける。
(あ、無視するっすか。へ~、そうっすか。今、アマンダさんがそっちに飛ぶって暴れてるっすけど)
ぬお?
こっちにアマンダが来たら、何をやっているのか分からなくなる。俺は大丈夫だが、彼女がここで暮らすのは不可能だろう。たった一人じゃ、何もできないはずだ。
だが、もし来てくれたら?
俺は本当に独りでいいのか?
(あと、こういう言い方はなんすけど、この島は、シンさんの為に造った島っす。そして、シンさん、愛してるっす! お願いっす! あたいの傍に居て下さい! もし、アマンダさんがそっちに行くなら、当然あたいもついて行くっす! あたい達を一人にしないで欲しいっす!)
俺は考える。
うん、これじゃ、本当に何をやっているか分からない。
そして、俺もサヤは好きだ!
一人で寝るのは、やっぱり寂しかった!
解っては居た事だが、俺は、本当にサヤを愛していたようだ。
最初は無視を決め込むつもりだったが、思わず返してしまう。
(俺も、お前と一緒に居たい! だが、それは俺の我儘なんだ! 俺が帰ると狙われる。そして、ここで暮らすのはやはり厳しい。さっきも、魔族の集団を焼き払ってきたばかりだ。ゆっくり寝る事は、まずできないだろう)
(そんなもの、我儘でもなんでもないっす! あたいは覚悟を決めていたっす! シンさと最後まで一緒だって! そして、今、やっと一緒に暮らせる場所が出来たんす! だから…)
チッ!
ここでテレポンが切れた。
俺は悩む。
サヤと一緒に居たい!
帰りたい! 地球に!
サヤの笑顔を! アマンダの笑顔を見たい!
(やっと、繋がりましたわ! 先にサヤちゃんが繋がるなんて、屈辱ですわ! シンさん、今からそっちに飛びますわよ! なので、場所を教えなさい!)
おわっ!
今度はアマンダだ!
屈辱の意味は理解できる。テレポンの魔法は、親しい者同士でないと不可能だからだ。
ちなみに、アマンダはサヤよりも魔力が高い。そういった意味でも屈辱だったのだろう。
彼女は更にまくしたてる!
(シンさん! 自分の居場所は、自分で作るものですわ! たった一人のその世界がシンさんの居場所なら、私も諦めましょう。でも、そうでないなら、戦いなさい! 私も戦ってきました。メリューの国民と、私の居場所の為に! あの、キムなんたらってお馬鹿を後悔させなさい! シンさんがやらないなら、私がやりますわ! あれは、丁度いい見せしめになりますわね)
ぶはっ!
見せしめって。
相変わらず、この人を怒らせると怖い。
そして、俺の居場所か。
うん、俺は人間だ。この姿はしていても。
なら、独りってのは、やはり無理があるだろう。
近いうちに、精神的におかしくなる可能性が高い。
サヤに会いたい!
アマンダに会いたい!
「テレポート!」
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