第19話 死に場所

           死に場所



 景色が変わる! 


 眼下には見覚えのある、少し緑がかった、青い星が見えた!

 よし! 成功だ! 

 大陸の配置が、地球とは全く違う! あの星だ!

 もっとも、かなり燃やされたのだろう。その大地は、俺が以前にここから見た風景とは少し変わっており、若干赤黒くなっているように見える。


 そして、俺の横を、凄まじい速度であのミサイルが通過していく!

 うん、あの方角なら大丈夫だ。漆黒の中、煌めく星の海へと向かっている。


「テレポート!」


 俺は再びテレポートする。

 目標は、この星の裏側だ。

 あれは、いつ爆発するか分からない。巻き添えはごめんだ。


 再び景色が変わったその瞬間だ!


 星の輪郭が一瞬白く輝く!


 その後、オーロラだろうか?

 不気味な、緑色のカーテンが、これも一瞬だが、あちこちにかかった。


 ちなみに、この星にはまだ名前が無い。

 アラガス大陸とか、バース大陸とか、土地の名前はあるのだが、この星の人達は、まだ自分達が住んでいるところが、星だという認識がないのだから、仕方あるまい。

 また、星の大きさとしては、おそらく、地球と同じか、少し小さいくらい。

 重力差は感じられないので、質量としては、ほぼ同じなのか?


 うん、そろそろ地表に降りよう。

 まだ息は続くのだが、かなり身体が怠い。これは、魔力切れの証拠だ。


 俺は、俺の召喚された神殿、メリューのオリンポス山の山頂を目指す。



 改めてメリューの国土を見ると、やはり、かなり燃やされてしまっている。まあ、半分は俺が燃やしたのだが。

 メリューの城の周りは、豊かな森がいくつもあったのだが、その緑はあまり残ってはいない。


 そして、まだいやがった!

 地表には、あちこちであの影が漂っている! 


 そう、魔族だ!


 まだ魔族にはなっていない、操られている人間もかなり居る。

 そして、あの人達が操られているという証拠は明白だ。

 操られていなければ、確実に魔法で攻撃されているからだ。


 ただ、数は減ったか?

 初めて俺が、完全に滅ぼされたバイゼンの上空に差し掛かった時は、それこそ、無数の魔族が居たのだが。


 だが、やはりこの星に、人はもう住めないだろう。

 俺はメリューが滅ぼされる直前、この星を隅々まで回ったが、どんな小さな村にも影は居た。



 俺が高度を落とし、オリンポス山の山裾を舐めると、地上に動きが出た!

 全ての影と人間が、一斉に、俺目掛けて移動を開始する!


 幸いにも、あの山にはまだ居ないようだ。まあ、あそこは神聖な山とされ、誰も住んでいなかったしな。居ても、大した数ではないだろう。今の俺でも何とかなるはずだ。


 あいつらは、何故か、正確に人間を目指す。その意味では、俺も人間扱いのようだ。

 そして、付近に人間が居ないと、半分くらいの個体が、放射状に散っていく。海を越え、山を越え、この星の隅々にまで!

 なので、どうやら、索敵担当みたいなものがあるようだ。


 また、高度な魔法が使えるところからも分かるが、それなりの知能があると思われる。

 連中は、乗っ取って間もない、まだ人間状態の奴からやってくる。人間だと思って近寄ると、乗っ取られるか攻撃される。


 メリューが滅ぼされたのも、それが原因だ。

 避難してきた住民だと思って、城に近づけた時点で終わってしまった。

 衛兵が操られ、その操られた衛兵が内部の人間を操る。しかも、範囲は結構広い。人間状態なら50m、影本体なら100mくらいか?

 城の内部は一瞬で阿鼻叫喚状態になり、至る所で魔法の撃ち合いが始まった。

 サヤが片っ端から斬っていったが、もう完全に手遅れだった。



 俺は神殿の前に着地し、中に入る。

 うん、誰もいないし、影もいない。

 アテネの遺跡を思わせる、石造りの巨大な柱の隙間から周りを覗うが、ここはまだ安全のようだ。まあ、居たら、問答無用で魔法を撃たれているしな。



 俺は、あの世界を振り返る。

 どうやら、俺の居場所は、地球には無いようだ。


 最初に、俺のチートな力を見せつけてしまったのが失敗だったのだろうか?

 いや、遅かれ早かればれていたな。

 アメリカではないが、俺の身体を調べたいって連中は、五万と居るはずだ。

 そして、少しでも俺が人間の脅威になると判断されれば、結果は一緒だったか。


 また、アメリカや中国、ロシアのような大国につけば、俺は完全に兵器扱い。最初はそれでもいいと思っていたが、やはり、俺の力であの世界のバランスを変えてしまうのは良くないだろう。

 それに、よくよく考えれば、俺の力を利用した国が、地球を統一したとして、その後に何がある?

 権力者、いや、民衆に至るまで、人間の脅威である俺を、野放しにしておくだろうか?

 結局、いつかは粛清される運命か。



 うん、俺はここで死のう。



 そもそも、俺は一度死んでいる。あの駅のホームで、背中を押された時に終わっていた筈だ。

 それが何故か、気付くとこの身体でアマンダ達を見下ろしていたのだ。


 それに、俺があの世界に飛んだのは、サヤとアマンダを守る為だ。

 既に、その目的は達成された。

 メリューは、早晩、日本かアメリカに併合され、彼女達は、あの島の権利だけで、何不自由なく暮らせるだろう。



 うん、それでいい。



 次に、これからのことも考えてみる。

 俺だけなら、ここのような、連中の居ない場所を転々としていけば、何とかなるのではなかろうか?

 連中の移動速度はそれ程早くはない。あの感じなら、ここに辿り着くには、丸一日はかかるだろう。その間に、俺の魔力もかなり回復するはずだ。

 また、幸い、連中は人間以外には興味がないようだ。

 なら、人間のいなくなったこの世界、動物に満ち溢れるだろう。結果、俺は餌には困らないはずだ。



 そろそろ日が暮れて来た。

 俺はうとうとする。


 そういや、完全に独りで寝るのは久しぶりの気がする。

 サヤが召喚されてからは、彼女は常に俺の傍に居た。

 彼女からすれば、この世界で、地球の常識が通用するのが俺だけなので、きっと不安だったのだろう。そして、俺への想いは、それが変化しただけだ。

 今のアマンダも、そんなところだろう。

 地球で誰かいい奴が見つかれば、二人共、俺なんか忘れてくれるはずだ。



 そこで、いきなり俺の頭に声が入る!


(やっと繋がったっす! シンさん! 今、何処っすか?! いや、メリューっすよね! こっちはシンさんのおかげで全員無事っす! なんで、早く帰ってくるっす!)

(サ、サヤなのか? 異世界にテレポンって…、す、凄いな…)

(いや、テレポートできる方が凄いと思うっすけど。それで、どうっすか? 怪我はないっすよね? 無事っすよね?)


 ここで俺は考える。

 うん、俺はもう決めたんだ。


 そう、俺は帰ってはならない!


(ああ、無事だ。そして、俺は帰らない。もう俺は疲れたよ。これ以上は勘弁してくれ。お前とアマンダは、そのまま地球で暮らすといい。今まで本当にありがとう。じゃあな)

(え?! ちょっと、ま……)


 そこでテレポンは切れた。

 あの感じだと魔力切れか? それとも、異世界だし、何か通信トラブルみたいなものか?

 いずれにせよ、丁度いい。

 うん、もし、次にかかってきても、無視しよう。

 うん、それがいい。


 彼女達は、俺なんかに縛られず、幸せになるべきだ!



 辺りはもう真っ暗だ。

 今日はさっさと寝て、魔力を回復させて、明日は狩りをしよう。

 多分、パイソントードの牧場には、まだ残っているはずだ。

 あいつらなら、充分腹の足しになるし、捕まえるのも簡単だ。

 そんな事を考えながら、俺は目を閉じる。

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