第18話 すれ違う空
すれ違う空
俺とサヤで周辺海域を廻っていると、西の空に、日の丸をつけた、大型の輸送ヘリが見えた。
きっと、この島に必要な物資を積んでいるはずだ。俺も手伝いたいので、すぐに島に戻る。
松井が誘導してくれて、ヘリからは、一人のスーツ姿の男と数人の自衛官が出て来る。そして中には、おそらく、組み立てるとプレハブになると思われる、資材やら物資やらが満載してあった。
スーツの男は、名前を岡田といい、外交官とのことだ。髪を七三に分け、この人もかなり真面目そうな印象だ。そして、まだ20台に見える。まあ、修行がてらに飛ばされたってところか?
彼の説明によると、正式に国家承認されたので、今運んで来たものを組み立て、仮ではあるが、日本の領事館にするらしい。
後は、松井の交代要員。二人に増えるので、少し賑やかになりそうだ。
そこで、後ろから、新藤とアマンダ、モーリスとクリスも出て来た。
「ご苦労様です。では、岡田君、後はお願いしますね。名残惜しいですが、私のここでの仕事もここまでです。帰ったら、山のように仕事が溜まっていると思うと、少し憂鬱ですね」
「はい、新藤さん、お疲れ様でした。後は、僕に任せて下さい。そして、予定より早いですが、既に首相も羽田に向かったそうです。では、シンさん、宜しくお願いしますね」
「はい、岡田さんも宜しくお願いします」
皆で簡単に挨拶を交わすと、クリスが泣きそうな顔になっている。
すると、新藤がクリスを連れて、仮設住宅に引っ込んだ。
まあ、何を話しているかは、何となく分かるな。
その後、俺は皆を乗せて、舞い上がる!
乗っているのは、アマンダ、サヤ、モーリス、そして、新藤と松井だ。
ハーネスを着け、最後尾では松井とサヤが並び、頑張ってくれている。当然、先頭はアマンダだ。
クリスは可哀想だが留守番となる。だが、先程の表情はもう無く、笑顔で手を振ってくれている。
ふむ、新藤と、何か約束をしたと見ていいだろう。
「じゃあ、行きますよ! ゆっくり飛びますけど、しっかり掴まって下さい!」
「グラビティーバリア!」
ぎりぎり音速は出さないように飛んだ結果、空港へは数十分ほどで着いた。
背後から、松井が指示をしてくれる。
「現時点、全ての航空機の発着は止めてありますので、安全です! あの、棒を振っている誘導員の場所へお願いします!」
ふむ、あそこだな。
下を見ると、発着ロビーの前、ど真ん中に赤いカーペットの道があり、その先に誘導員が居た。
そして、これは凄い!
展望ロビーって奴か?屋上には、それこそ人が鈴なりになっている!
皆、日章旗と旭日旗を振って、上を見上げ、歓声を上げている!
そして、無数のフラッシュが俺に殺到する!
もっとも、メリューに対して悪感情を持っている人も多いようで、『異世界へ帰れ! 戦争反対!』とか横断幕を掲げている連中も結構いたが。
「あ~、反対派の人達は、組織的に動員されている、いわば、あれが仕事の人ですから、気にしないで下さい。今の日本は、圧倒的に歓迎ムードですよ」
振り返ると、不安そうな顔をしているアマンダの背後から、新藤が諭してくれている。
すると、アマンダは笑顔を作り、手を振りだした。
着地すると、カーペットの両脇に警官が並び、奥から二人、進み出て来る。
ふむ、左が阿納総理か。60歳とのことらしいが、もっと若く見えるな。隣は、奥さんだろう。
真っ赤なネクタイを締め、これまた満面の笑顔で、手を挙げながら、こちらに近寄ってくる。周りは凄い歓声だ。
全員が降りると、総理は俺に向かって一礼し、アマンダと握手した後、プレス用のポーズを取る。
今日のアマンダは、ガウンを羽織り、頭には、無数の宝石に彩られたティアラを載せ、まさに、あの世界でのメリュー女王を彷彿させている。
これはいい写真になるだろう。
「じゃあ、俺はここまでですね。後は皆さん、宜しくお願いします。新藤さん、松井さん、今までありがとうございました」
俺が前脚を下に差し出すと、二人は、両手で俺の指を掴んでくれた。
「はい。でも、またすぐに会えるでしょう。では」
「はっ! こちらこそありがとうございました! いつか、また乗せて下さい!」
俺が舞い上がると、再び下から大歓声が上がる。
その声を後に、俺は家路を急ぐ。
島まで、後半分くらいというところで、いきなり頭に声が響く!
(ヤバいっす! 逃げるっす! ミサイルが撃たれたっす! あの、アホ書記長っす!)
チッ!
このタイミングでか!
そして、撃ったのは北朝鮮と!
なら、核の可能性が高い!
島には、クリスと岡田さん、そして、自衛隊の人が居るはずだ!
(いや、俺は島の人をテレポートさせる! ここから島まで数分もかからない!)
(もう全員ヘリに乗ったっす! あと、数分で落ちるっす! なんで、シンさんは島から離れるっす!)
(分かった! ミサイルの方角は?! 距離は?! 高度は?!)
(とにかく、何処でもテレポートするっす!)
チッ!
サヤは俺に教える気がない!
これじゃ埒があかない!
このままでは、あの人達は助からない可能性が高い!
たったの数分で、あの輸送ヘリが、被爆範囲から逃げおおせるとは思えない!
また、俺がテレポートさせた場合は、おそらく、触れている輸送ヘリだけ。
中の人までは分からない!
そして、俺が居たからミサイルは撃たれた!
なら、俺の責任だ!
俺は覚悟を決める。
全力で上昇する!
北朝鮮からなら、メリュー島と、東京を結ぶルート付近を通過する可能性が高いはずだ!
見えた!
遥か上空で、赤白い糸を引いている!
絶対にあれだ!
そして、凄い速度だ!
あれは俺の全力と互角、いや、俺より速い!
下を見ると、地球の丸さが良く分る。
更に、人工衛星らしき点がいくつか見える。
チッ!
光の糸は、明らかに地上に向けて降下している!
しかし、運がいい!
あの軌道だと、俺のすぐ側を通過するだろう!
なら、待ち伏せするか?
いや、接敵するのは一瞬だ!
ここでブレスを吐きながら待ち構えても、あの速度じゃ、ダメージを与える前に通過してしまう!
ええい! 迷っている暇は無い!
俺は、咄嗟に地上に向けて反転する!
そう、追い越される時なら、それほど速度差は無い筈だ!
背後に気配を感じる!
振り返るといやがった!
火を吹きながら、真っ黒なミサイル!
全ては俺のせい!
俺がこの世界に帰らなければ、こうはならなかった!
集中しろ!
タイミングは一瞬!
俺は手を伸ばす!
硬いものに触れる感触がした!
「テレポート!」
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「総理! 何故迎撃されなかったんですか! PAC3、あのくそ高いミサイルの出番のはずです!」
「初期探知で遅れてしまったようだ。さっきの報告では、あれは北極星2号、移動式のランチャーから撃たれる。今回は山の陰から撃たれた。そして、我が国の領海には落ちないし、現在、メリューとの同盟はまだ結ばれていない。アメリカも、見て見ぬふりだ。それに、シン君さえ無事なら何の問題も無い。彼が島に到着するタイミングを狙ったようだが、彼なら、あの現場から逃げるくらい、容易いだろう。新藤君、また、島を作れる場所を探してあげてくれ」
「報告します! ミサイル、ドラゴン共にロスト!」
「「えっ?!」」
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