第17話 メリュー王国承認

        メリュー王国承認



 皆揃ったので、食べながら、今日の段取りを相談する。


 メリュー承認の閣議決定は、昼前になされるようで、それはもう決定事項だそうだ。

 それで、その後、出来れば、首相が直々に会いたいとのことだ。既に、その準備もしているらしい。


「羽田空港に特別室を設けました。本来なら、首相官邸でと言いたいところなのですが、交通混乱が予想されますし、あそこに直接来られるのも、ちょっと不味いですかね。時間は、メリューに合わせるとのことです。そして、シンさんと一緒に来たという事実が重要なので、羽田までは、シンさん、お願いしますよ。あと、もはや公然の秘密ですが、日本国内では、あの転移魔法は控えて下さいね。ですが、羽田からの帰りはどうぞご自由に。伊丹の件も、極秘に自衛隊が送った事になっていますから」

「承知しましたわ。では、夕方、伺うとお伝え下さい。まだまだここでの事も済んでいませんし」


 アマンダは、返事をしながらモーリスを覗う。


「拙者も、それがいいと思うでござる。ただ、シン殿は、申し訳ないでござるが、アマンダ陛下を送った後はとんぼ帰りでござる。理由は、説明する必要もないでござろう」

「分かりました。まだまだ不安定な状況だと」


 モーリスは大きく頷いてから、全員を見回す。

 ん? いやに真剣な顔だ。

 まあ、皆、飯は食い終わっているから、これから日本との話に入るつもりか?


「それで、起こりえる事への、対策は立てて置くでござる。シン殿、質問があるでござる」

「はい、何でも聞いて下さい」


 すると、新藤が立ち上がる。


「じゃあ、私は席を外しましょう」


 ふむ、重要な話と見て、気を利かせてくれたのだろう。

 しかし、モーリスは違うようだ。


「別にその必要は無いでござる。確認だけでござるよ。それに、タカヒロの意見も聞きたいでござるし。勿論、お互い他言無用ではでござるが」

「そうですか。では…」


 新藤が腰を下ろすと、モーリスは続ける。


「先ず、シン殿は、あの転移魔法を使えるでござるか?」

「ええ、俺がこの世界に飛ばしましたから。しっかりと記憶に残っている場所なら、何処でも行けますね」

「そうでござるか。では、行ったことの無い場所は無理なのでござるな?」

「ええ、イメージできませんから」


 すると、モーリスは一度うんうんと頷いてから、アマンダに向く。


「では、それはアマンダ陛下も同じでござるか?」

「ええ、でも、流石にシンさんほどの魔力はありませんので、世界を超えるテレポートとかは、分からないですわ」

「サヤ殿はどうでござるか?」

「あ、あたいは無理っす。テレポートの魔法は、高度な魔法っすから」


 うん、サヤの魔法は、初歩的なものが多い。それでも、アマンダには及ばないものの、威力は充分にある。昨日の回復魔法だって初歩だが、あれでも人間相手なら、大抵の傷は癒せるはずだ。ちなみに俺は、回復魔法に関してはからっきしダメ。なので、そこをサヤがフォローしてくれている。


 モーリスは、再びうんうんと頷き、今度は新藤に向く。


「では、日本の、シン殿に対する評価はどうでござるか? 答えたく無ければ構わないでござるよ。ちなみに、アメリカの評価は、局地戦においてはアメリカ並み。アマンダ陛下に関しては未知数。サヤ殿は、市街戦ならかなりでは?との結論だったでござる」


 ふむ、俺とアマンダはともかく、サヤへの評価は妥当だな。あの、カメラ没収事件からの考察だろう。そしてその評価なら、無理してでも同盟とか組みたがるのも納得だ。


「う~ん、日本の評価の方が低いですかね。流石にアメリカ並みという感想は無かったですし、陛下とサヤさんに関しての意見は皆無でしたよ。それで、モーリスは、何を言いたいのですかね?」


「いや、皆、特にシン殿に忠告したかっただけでござる。今ので分かったと思うでござるが、現在、世界が恐れているのは、シン殿を中心とした、元メリューの人間でござる。この島自体には、価値は無いでござる。なので、もし、ここに核ミサイルとかを撃たれた場合、さっさと逃げるでござる。この、メリューの国民さえ無事なら、また造ればいいだけでござる」


 あ~、そういう事か!

 昨日みたいに、無理して迎撃する必要は無いと。

 撃ちたければ撃てばいい。こちらはテレポートして逃げるだけだと。

 要は、メリューの国民さえ無事なら、いつでも再起できると!


 だが、なんだかな~。

 言っている事は理解できるが、この島は、俺達三人で造った島だ。

 そして、やはり俺が居なければ、そもそも狙われる事も無い!


「はい。確かに、核なんかとやりあう気は無いですが、この島は、俺の為だけに造られた島でもある訳で。そう簡単に見捨てる気にはなれそうもないです」


 あ、しまったか!?

 思わず本音が出てしまった!


 すると、すかさずサヤがフォローしてくれた。


「シンさん、今のは仮定の話っす。今までのシンさんを見て、うちに喧嘩吹っかける馬鹿はいないっす!」


 更にアマンダとクリスも続く。


「そうですわ! そうさせない為に、シンさんの力を見せて来たのですわ!」

「そうね。これはモーリスも言わなかったけど、アメリカは、通常兵器でドラゴンさんを殺す事は、まず不可能って結論よ! なので、報復の事を考えたら、ここに攻撃してくる馬鹿はもう居ないわね」


 ふむ、そう考えると気が楽だな。


「うん、分かった。で、その為の日本との同盟とかもある訳でしょ。アマンダ、モーリスさん、後はお願いします。俺、ちょっと、昨日撃たれたとこ、見てきます。サヤも来るか?」

「ええ、お願いしますわ。私も頑張りますわ」

「勿論っす!」

「当然でござる! では、タカヒロ、着替えてくるでござる!」

「そうですね。流石に寝間着ではね。では、失礼しますよ」



 俺は、外に出ると、早速ドラゴンに戻り、サヤを乗せて空を舞う。

 うん、いい気分転換だ。


「幅10mくらいっすかね? これ、いい感じに削れたんじゃないっすか? ほら、潮が入って来てるっす」

「ふむ、あの養殖計画か。だが、あれじゃまだ狭いんじゃないか? 水深も殆ど無さそうだし。うん、今度アマンダが暇な時にでもやろう。俺じゃ、微妙な加減ができんしな」

「そうっすね。それに、どうせやるなら、もう一ヵ所開けたいっす」

「ふむ。じゃあ、反対側を、俺が軽く吹き飛ばしておくか」


 ん? 

 振り返ると、会議室の前で、クリスが手招きをしている。

 なので、慌てて引き返す。


「ドラゴンさ~ん、デート中、ごめんね~。でも、モーリスが一応聞いて貰いたいって」


 う~ん、この、ドラゴンさんって呼び方はどうにかならんのだろうか?

 そして、デートではないのだが。


「本当にお邪魔っす! でも、仕方ないっすね」


 ぶはっ!

 あれはどうやらデートだったようだ。


 人型になって会議室に顔を出すと、アマンダと新藤は、会談中だったのだろう。机を挟んで対峙していたが、二人共、何かうんざりした顔をしている。そして、モーリスが奥の通信機で何か喋っている。


 ふむ、クリス、凄いな。あの通信機、もう使えるようになったんだ。

 で、相手は誰だ?


「ノー…、ノー…、ノーサンキュー! グッバイ!」


 どうやら相手はアメリカと。だが、何やら断っていたようだ。

 モーリスは、こちらに振り返ると、肩をすくめ、軽く両手を広げる。


「アメリカの大統領だったでござる。最初、家とか、メリューのインフラ、全て作ってやるから、1週間だけ、シン殿を調べさせて欲しいって言って来たので、断わったでござる! そしたら、また通信してきて、鱗一枚でいいから売って欲しい。最後には、糞でもいいとか、下水道を作ってやるとか言い出したので、切ったでござる! クリス! その無線機の電源を落とすでござる!」


 ぐはっ!

 鱗とか渡したら、俺のクローンとか作られてしまいそうだ。

 でも、♀とかなら……、って、流石に嫌すぎる!


「大統領、会ったらしばくっす!」


 はいはい。


 ちなみに、俺は殆ど排泄しない。しても、卵くらいの大きさの、石みたいなのが出るだけだ。どうやらこの身体、吸収効率がかなりいいようだ。

 まあ、蛇とかもそうらしいしな。実はドラゴンって、蛇の仲間か?



 その後、アマンダとモーリスと新藤で、同盟の話をしだしたので、横で聞かせて貰う。

 どうやら、これが呼び出された理由のようだ。


 最初にモーリスが条件を提示し、新藤がそれをほぼ呑む。


 内容は、まず、排他的経済水域が重なる部分は、普通は中間で線引きされるのだが、今回はメリューが放棄。つまり、日本の200海里はそのまま。


 次に、問題の同盟内容だが、日本と他国が、明らかに交戦となった場合のみ、メリューが参戦する。但し、活動範囲は,現在の日本の実効支配エリアに限られる。そして、その時の指揮権は日本が持つ。

 これの意味は、メリューは、日本が海外に派兵する場合は付き合わないし、領空侵犯程度なら関わらない。そして、領土問題は自分で解決しろってことだ。具体的には、竹島と北方領土には力を貸さないが、尖閣の場合は力を貸すと。


 また、メリューが攻められた場合、日本は、日本の実効支配エリア内でのみ参戦。

これは、日本は海外での交戦はしなくていいということだ。今の日本の憲法に配慮した結果だろう。


 最後に、これがメリューにとって一番重要で、メリューの排他的経済水域を、日本の哨戒範囲に含め、日本が得ている情報で、メリューに関係しそうなものは、全てメリューに提供される。

 そう、メリューには、現在、哨戒能力が皆無だ。これにより、もし、どっかの国がミサイルをメリューに向けて撃った場合、日本のレーダーが捕らえた時は、即座にメリューに報告される。


「まあ、こんなところでしょうね。後、哨戒機の基地をメリューに負担して貰うかとか、些細な問題は、締結されてからでいいでしょう。では、そろそろ時間でしょう。クリス、そのTV、もう映りますかね?」

「ええ、衛生放送だけだけど、映るわよ」


 ふむ、流石だな。モニターには、NHKのニュースが映し出される。

 しかし、NHKの集金、来ないだろうな?


『………、という過程で、先程、メリュー王国を国家として正式に承認すると、閣議決定が為されました。これにより………』


 やった!

 遂に認めて貰えた!


「新藤さん、本当にありがとうございます!」

「はい、感謝致しますわ!」

「やったっす! 新藤さん、どうもっす!」

「タカヒロ、これで、お互い一歩前進でござるな」

「流石は新藤さんね!」

「いえいえ、モーリス流に言わせて貰えば、シンさんが日本に来た時点で、既に決まっていた事なんですよ。私は、それに踊らされたと言うべきでしょう」


 アマンダが笑顔で新藤と握手する。

 クリスが少し不機嫌そうだ。


 その後は、皆で簡単な昼食を取り、俺はサヤと一緒に、付近を哨戒する。

 アメリカとロシアの艦艇は、既に居なくなっていた。

 もっとも、潜水艦とかはまだ居るのだろうが。

 そして、これで、何か、本当に国家として成立した実感が出て来た!


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