第16話 メリュー王国近況

         メリュー王国近況



 俺は、星空を見ながらうとうとする。

 うん、ここは星が綺麗だ。メリューには劣るが。


 すると、スウェット姿のサヤがやってきた。


「シンさん、まだ寝てないっすよね。なら、その胸、ちょっと見せるっす!」


 あ~、こいつにはばれていたか。俺のスキルで剥がれた鱗の下から、血が滲んでいる。


「まあ、ほっとけば治るだろ。メリューじゃ、1週間もあれば、元通りだったし」

「ここではどうか分からないっす! 仕方なかったってのは分かるっすけど、あのスキルは、あまり使って欲しくないっすよ」

「ああ、あれがもし核だと考えた場合、遠距離から迎撃するしか無かった。1キロ以上の射程がある攻撃は、あれだけだからな」


 すると、サヤは、俺に近寄り、患部を撫でる。


「あたいの魔法じゃ気休めっすけど、ヒール!」


 滲んでいたが血が綺麗に消え、少しだが、鱗が再生したか?


「うん、ありがとう。これなら数日で治りそうだ」

「どういたしましてっす!」


 サヤは、そのまま俺の胸に頬を擦り付ける。

 俺も、そっと翼で彼女の背中を包んでやる。


「悪い。今はこれが精一杯だ」

「でも、嬉しいっす! そ、その、ちょっと人間になって欲しいっす。この世界だと、無理じゃないかもっす!」

「どうだろう? どっちにしろ、そういうのは無理だが」


 俺は、人型に擬態する。

 すると、サヤが顔を寄せてきた。

 俺も彼女を抱きしめ……られなかった!


 俺の身体が元に戻り、サヤは激しく吹き飛ばされる!

 彼女は、派手に宙を舞った後、しっかりと着地を取った。

 そして、すぐさま俺に駆け寄って来る。


「済まない、やはり感情がたかぶると、解けてしまうようだ」

「それはそれで、嬉しいっす! あたいのことを思ってくれている証拠っすから!」


 彼女は、そのまま俺の背中に飛び乗る。

 アイテムボックスから毛布を取り出し、どうやら、今晩は俺の背中で寝るつもりのようだ。


「ところで、あの後、どうなったんだ? モーリスさんはお前に興味があったようだけど? なので、さっさと俺なんか諦めたほうが、幸せになれるぞ?」

「あははは。あれは、女を見る目じゃなかったすね~。あの目、純粋に同志を求めている眼だったっす。で、あたいも少し見せて貰ったんすけど、忍者マッタリちゃんって、いつのっすか? 見た感じ、かなり古かったっす。それに、あたいは、まだ可能性はあると思ってるっす」


 ふむ、モーリスはやはり忍者物が好きと。

 それで、サヤの言う可能性は、俺も分かる。俺の魂を、再び人間の死体に召喚すればってところだろう。

 だが、俺は一度死んでから召喚されたはずだ。なので、それは俺が死ななければ叶わないと思っている。そして、俺の寿命は、おそらく、千年単位だろう。この身体は、産まれてまだ数十年の死体だったと聞く。

 アマンダも、それに関しては、平謝りするばかりだった。もっとも、俺は、2度目の生を得られたことに感謝している。彼女達と知り合えた事にもだ。


「う~ん、可能性はともかく、モーリスさん、結構レトロ趣味だな。俺も、聞いたことくらいしかないよ。で、新藤さんとクリスさんは?」

「新藤さんは、クリスさんと同室よりはと、モーリスさんを選んだみたいっすね。なんで、クリスさんは、あたいらと一緒の部屋っす。でも、あの調子じゃ新藤さん、今晩はどうなっているか心配っす」

「あははは、まあそこらが妥当なとこだろ。じゃあ、そろそろ寝るか。おやすみ」

「はいっす、おやすみなさいっす」



 翌朝、俺が起きると、陽は水平線から完全に顔を出していた。

そして、また、胸の辺りに違和感がある。

 見ると、昨晩サヤが回復してくれた部分に、スウェット姿のアマンダが手を当てている。


「自らの身体を削るスキル……。ハイパーヒール!」


 ふむ、彼女も気付いていたか。


「アマンダ、おはよう。そして、ありがとう。おかげで、ほぼ回復したみたいだよ」


 うん、再生した鱗は、他のよりも、少し小さい程度だ。


「え! 起こしてしまって、申し訳ありませんわ。でも、あのスキルはあまり使わないで下さいね」

「それは、サヤにも言われたよ。で、今、何時だ?」

「まだ7時前ですわ。でも、丁度いい時間ですわね」

「だな。じゃあ、俺も起きるか。サヤ~、朝だぞ~っ!」


 俺が立ち上がると、サヤが俺の背中から転がり落ちる。

 しかし、彼女は片膝をついて着地し、何事も無かったように立ち上がる。


「ふぇ~、シンさん、おはよ~っす」


 ふむ、まだ寝呆けているようだ。

 すると、アマンダがサヤに怒鳴る!


「おはようじゃありませんわ! 起きたら、サヤちゃんが居なかったから、心配して来てみれば! やっぱり抜け駆けしていたのですわね!」


 ぐはっ!

 アマンダ、心配の意味が微妙だぞ。


「シンさんの背中は~、あたいの~、指定席っす~」


 う~む、言われてみればそうかもな。

 向こうの世界では、食事と戦闘時以外、大抵こいつは俺の背中の上だった気がする。


「まあ、今までは、これが当たり前だったし、勘弁してやってくれ。ほれ、サヤも顔洗って来い。俺も擬態して、飯の用意でもするよ。もっとも、チンするだけだが」

「りょ~か~いっす」



 三人で並んで仮設住宅に歩いて行くと、領事館?の前に、何か転がっている。


「あれ、新藤さんだよな?」


 良く見ると、新藤が寝袋に包まって寝ていた。


「ええ、そうですわね。でも、良く眠っておられるようでしたから、そっとしておきましたわ」

「だな。まあ、原因は解るし、まだ寝かせてあげよう」

「少し気の毒っす」


 で、領事館?の中はと、窓から覗くと、そこには思った通りの光景があった。

 点けっぱなしのモニターの横でモーリスが爆睡しており、その横で、ネグリジェ姿のクリスが寝ている。


「予想通りすぎて、突っ込む気にもなれんな。新藤さんも、松井さんのところで寝かせて貰えばいいのに。クリスさん避けにもなるだろうし」

「せっかくの家の意味が無いっすね」


 隣の松井はと見ると、彼は既に起きていて、通信機の前で、一人、缶詰を開けて食べていた。

 う~ん、これはこれで何ともやるせない。



 その後は、二人がシャワーを浴びている間に、俺が冷蔵庫を物色し、足の速そうなものを取り出して行く。

 もっとも、サヤとアマンダのアイテムボックスに収納し直せば、賞味期限など関係ないのだが。


「コーヒーと牛乳とジュース、アメリカのハンバーガーと、サラダとバナナ。こんなもんだろ」


 とは言っても、量は13人前だがな。机の上は満員だ。



 準備が出来たので、俺は、残った3人を叩き起こす。

 新藤を起こす必要は無いのだが、ついでだ。彼も、ぼっち飯は可哀想だしな。


 クリスは慌てて女性陣の部屋に駆け込み、新藤とモーリスは、寝間着姿のまま食堂に顔を出す。


「皆さん、おはようございます。いや~、お見苦しいところを申し訳ないです」


 新藤は、目をこすりながら、挨拶する。


「いや、それはいいんですが、松井さんに匿って貰うとか、無かったんですか?」

「いえ、彼、起きている時は静かなんですが…、まあ、彼と寝るのは少し。それで、せっかくですから、今日の予定もここで話させて頂きますね」


 ぶっ!

 どうやら、松井はいびきが酷いようだ。

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