第15話 会談の背景
会談の背景
アメリカの輸送機も飛び立ち、俺達は、残された軍用車、ジープと言うべきか?に、満載されていた積み荷を、早速物色する。
軍用のテント一式。 ふむ、これは微妙。シュタイナー兄妹の部屋割り次第か?
通信機器一式。 これは、早速会議室兼食堂に運び入れる。おそらく、アメリカとの通信が可能になるはずだ。クリスが組み立ててくれている。
水、ガソリン、それぞれ40Lくらい。 水は魔法で何とでもなるが、ガソリンは感謝だな。発電機用のが心許無かった。
PC、プリンター、ディスプレイ一式。 これも、クリスが通信機と一緒にセットしてくれるようだ。衛星通信を利用して、インターネットにも繋がるとのことで、これは嬉しい!
食料、いっぱい。 缶詰が大半だが、ピザとか、真空パックされたファストフードもいっぱいあった。早速レンチンする。
後は小型の発電機とか、家電とか、自衛隊が持ってきてくれたものと被る物が多かったが、これはこれで、予備として重宝しそうだ。もっとも、日本に飛んで、買えば済む話なのだが。
そして、今日は色々あって、かなり遅い夕食となったが、国民も増え、とても賑やかである。
食堂では、先程の交渉で使われた机に、レンチンされたピザが、いっぱいに広げられる。
当然、俺も人間に擬態して参加する。
「では、改めて自己紹介でござる。拙者は、モーリス・シュタイナー、28歳でござる。日本の、アメリカ大使館での勤務経験もあるので、タカヒロとは、そこで知り合ったでござる。宜しくお願いするでござる」
「あたしは、クリスティーナ・シュタイナー、23歳よ。クリスと呼んでね。あたしも、モーリスが日本に居た時、留学させて貰ったわ。新藤さんとは、大使館で知り合ったわ」
ふむ、新藤と、この兄妹の接点はそこと。
そして、何故か新藤も居る。
まあ、これに関しては、クリスが強引に呼んだ結果なのだが。
ちなみに新藤の名前は、孝弘と書き、年齢は35歳とのことだ。思ったよりも若いな。
ところで松井は、可哀想に、領事館?で、ぼっち飯である。もっとも、この部屋に6人以上は厳しいという現実もあるが。後で、アメリカの食料、何か差し入れしてあげよう。
「しかし、やるとは思っていましたが、モーリス、本当にやりますかね? 私は君の、その自由奔放な行動が羨ましいですよ」
「タカヒロ、何を言うでござる! 拙者こそ、タカヒロがここに来たと聞いて、羨ましかったでござるよ。なので、拙者も、苦手な交渉役を買って出たのでござる」
皆で食事をしながら、モーリスの話を聞く。
新藤も、ここでの事は一切オフレコだと言ってくれた。
「今回の交渉、拙者は最初から無理だと分っていたでござるよ。シン殿が最初に日本に接触した時点で終わっていたでござる」
「え? その時点でですか? でも、俺は元々日本人だから、最初に日本に行くのが当たり前ですよ」
うん、その時点で結果が分かるって、凄すぎだろ!
すると、そこにクリスが割って入る。
「モーリスの最も得意なのは、情報の分析よ。少ない情報からでも、真実に辿り着ける、名探偵ってところかしら? なので、有権者の求めているものを読むのも得意ね。でも、交渉とかは、あの性格が災いしてからっきし。新藤さんには全く及ばないわね。なので、今回の交渉も失敗して当たり前かしら。でも、新藤さんだったなら…」
ふむ、彼の専門はそっち方面と。大統領の信が厚いというのも頷ける。
そして、新藤は交渉が得意と。まあ、それは昨日のバーベキューとかでも、薄々気付いてはいたが。しかし、そう考えると、あの金倉だって、この男が信用を得る為に、出汁に使われていた可能性が高いか?
「いや、クリス、君は私を買い被り過ぎです。そして、誰が担当しても無理ですね。モーリスの考えは、私も理解できます。シンさんが最初に日本に来たからこそ、独立を決意した。日本以外、あの力を見せられて、受け入れを躊躇う国はそうそう無いでしょう。そして、エルバイン陛下は、シンさんを極力戦わせたくはないし、更に、この世界の大きな変化にも、関わらせたくない。なので、この世界の統一を夢見るアメリカとは、そもそも無理なんですよ。そんなところですかね」
アマンダはこくりと頷き、モーリスも大きく頷く。
「そうでござる。大統領は、可能であれば、どんな要求でも呑むつもりだったでござる。ただ一点、シン殿を軍事利用しないという条件以外はでござるが。当然、中東とかの平定に利用するつもりが満々だったでござる」
そして、アマンダもそれに続く。
「ええ、私もそれは、モーリスさんの交渉で分かりました。あんな破格な条件、たった三人の国家相手ではありえませんわ。ならば、アメリカの目的は、シンさんの軍事利用以外は考えられませんわ」
「あ~、モーリス、あの交渉の様子が分かりましたよ。相変わらず馬鹿正直ですね~。ですが、エルバイン陛下相手では仕方ありませんね。下手に嘘を吐いても、異世界の未知の能力で、見破られる可能性が高い。私もここでは、最初からそういった駆け引きは諦めていましたよ」
ふむ、それはモーリスにも読まれていたな。
もっとも、彼の忠告を無視したガーナード少将は、大恥を掻いた訳だが。
「あと、タカヒロ、せっかくの厚意を無にしてしまって、済まなかったでござる。でも、結果オーライでござるか?」
ん? これはどういう意味だ?
「あ~、それは気にしないで欲しい。あれは、エルバイン陛下も、すぐに気付いておられたはずです。ああいった邪魔の仕方だと、返ってアメリカに有利になるだけですから。日本としても、アメリカとは、最悪の関係にはなって欲しく無かったのですが、私もまだまだですね。あの少将の空気の読めなさに、少し感情的になってしまいましたよ。ええ、結果オーライでしょう。あの少将も、最後の最後に、きちっと仕事をして帰りましたからね。あのままなら、それこそ手ぶら、いや、最悪でしたよ」
ん~、これは、新藤としては、あの場でアメリカに助け舟を出すつもりだったということか? そして、モーリスもそれを分かっていたと。だが、あの少将にキレて、思わずばらしてしまったと。まあ、キレたのはモーリスも同じか。
「ええ、現在、アメリカに、我が国と事を構えるつもりがないのは、充分に伝わりました。そして、あの少将にも、私、いえ、メリューの考えは伝わっていると信じています。では、今日ももう遅いですし、これくらいにしましょう。私はお風呂を頂きたいですわ」
うん、机の上のピザの山は、既に片付いてしまっている。
「では、私も失礼させて頂きますね。明日の昼には、メリューの承認が決定されるとのことです。同盟とかの話は、それからでいいでしょう。しかし、これは参りましたね~。モーリス、お手柔らかにお願いしますよ」
「拙者は、アマンダ陛下に助言するだけでござる。でも、内容は、ほぼ決まっているのでござろう?」
「ええ、多分、モーリスが考えている事が、お互いにとって、落としどころでしょう。では皆さん、おやすみなさい」
新藤がそう言って部屋を出ると、クリスとモーリスが、スーツケースを引き摺り、何食わぬ顔でついていく。
当然、新藤は二人を牽制する。
「あ~、モーリス、クリス。あちらの棟は今のところ、日本の管轄なんですがね~?」
「タカヒロ! 拙者のコレクションを持って来ているでござる! なので、付き合うでござる! あ、良かったら、サヤ殿も一緒にどうでござるか? その衣装、くのいちでござろう! 拙者と気が合うでござるな!」
「でも、この仮設住宅、全て日本からメリューへの謝礼と聞いているわよ! そして、モーリス! 邪魔しないでよ!」
ぶはっ!
クリスは新藤を口説きに。
モーリスは、新藤とアニメを見るつもりと。そして、サヤに興味があると。
あ~、もう勝手にしてくれ。
俺はシラン!
俺は言い合う連中を放って置いて、外へ出て服を脱ぎ、ドラゴン形態に戻る。そして、そそくさと今の俺の寝床、ヘリポートへと退散する。
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