第14話 シュタイナー兄妹

        シュタイナー兄妹



 少将が部屋を出たので、俺も立ち上がり、改めて周りを見回す。


 ん? 輸送機の周りが、また何やら騒がしい。

 近寄ってみると、シュタイナー兄妹が、それぞれ大きなスーツケースを引き摺っているのを、海兵隊の人達が、止めているようだ。


「拙者は、もうやってられないでござる! このメリュー王国に亡命するでござる!」

「What are you doing!  Please speak English!」

「ここでの公用語は日本語でござる! そこをどくでござる!」


 これに、クリスティーナも同調する!


「そうね。あたしもモーリスについていくわ! 首席補佐官に言っておいて頂戴! 良好な関係だけは築けるはずだったのに、全て軍がぶち壊したって! あ、丁度良かったわ! そこのドラゴンさん、この荷物、運んで下さる?」


 ぶはっ!

 もう、何処から突っ込んでいいやら。


 とぼとぼと輸送機に歩を進めていたガーナード少将も、これを聞きつけ、参戦する!


「It’s not the military’s fault! It was impossible! In the first place!」


 ふむ、軍のせいじゃない。そもそも無理だったと。ま、気持ちは分かる。あのミサイルが無くても、同盟とかは組めなかったはずだ。


「あ~、頼むから、ここで喧嘩しないで下さいますか? そして、シュタイナーさん、アマンダに聞きますので、少し待って下さい!」


 俺は、迷わずアマンダにテレポンする。


(う~ん、……って、感じで、あの二人、うちに亡命したいみたいなんだけど? 俺も、訳が分からないんだが?)

(じゃあ、私が直接理由を伺いに参りますわ)

(うん、頼む)


 シュタイナー兄妹と、ガーナード少将が押し問答を続けていると、アマンダとサヤが来た。

 ん? 新藤もか。


「あっ、陛下! お願いでござる! 拙者の亡命を認めて欲しいでござる!」

「ええ、エルバイン女王、あたしもお願いします!」


 すると、少将が割って入った。


「確かに、私の発言に問題があったのは認める! だが、モーリス、君の大統領からの信用は、この失敗くらいでは、揺らがないはずだ! そもそも、君はエルバイン女王の返答を、全て予測していたではないか! さあ、今ならまだ間に合う! 考え直せ! クリス! 君もだ!」


 ふむ、少将も、自分にミスがあったのは認めていると。そして、これが本当なら、このモーリスって男、最初から断られるのを予期していたことになる。道理で、あんなに下手に出ていた訳だ。併合の時の条件も美味しすぎたし、同盟だって、こちらの条件を全て呑めば、ひょっとしたら、まだ可能性がある、と考えていたのだろう。


 だが、それなら尚更疑問だ。この少将の信頼も得ていたし、大統領からの信も厚い。うちに来る理由が無いのでは?


「とにかく、理由をお聞かせ頂きたいですわ。このメリューは、まだたった3人の国家。そして、これからも、まだまだ苦難の道が続くでしょう」


 アマンダは、真剣な表情で聞く。


 うん、アマンダの言う事も、もっともだ。

 俺が居る限り、ここは、これからも狙われるだろう。


「ならば、申し上げるでござる! ここなら、拙者の能力を存分に発揮でき、そして、面白そうだからでござる!」


 ぶはっ!

 能力の件はともかく、面白そうだからって!

 あ、これ、どっかで聞いた台詞だな。


「あ~、これは、先を越されちゃいましたね~。はい、陛下、モーリスの言う事に、嘘は無いでしょう。そして、この場では部外者である私が言うのもなんですが、彼は19歳にして大学を卒業し、今の大統領を当選させた影の功労者と呼ばれ、次期大統領首席補佐官、いわゆるナンバー2の、最有力候補でもありますね。問題があるとすれば、重度のアニオタと、馬鹿正直すぎるとこですかね」


 振り返ると、新藤だ!

 そして、あの台詞は、新藤のだった! ふむ、類友って奴だろう。

 で、あのござる調は、どこぞのアニメの影響と。


 しかし、これは勿体無さが爆発の経歴だろう!

 これが本当なら、彼は大統領を狙える可能性まである。

 アマンダも、少し引いているようだ。


「そ、そうですか。では、クリスティーナさんは?」

「あ、あたしも、このチャンスを逃す程、馬鹿じゃないです! あたしの得意分野は、IT関連。きっと、この国の役に立てるはずです!」


 彼女は、そう言って、アマンダを……、ん? 見ていない?

 彼女の視線の先は、新藤だ!

 あ~、これ、チャンスの意味が理解できたわ~。


 新藤は、慌てて顔を背ける。


 アマンダは、軽くため息をついてから、再び真剣な表情に戻る。


「あと、お二人は、このメリューに亡命する以上、これからは、アメリカと敵対することもありえます。そうなれば、生まれ育った祖国を裏切ることになりますが、宜しいのですか?」


 ん? この質問の意味するところは?

 何か、どう答えてもダメな気がする。


 しかし、モーリスは即答した。


「その事は、既に拙者の中で解決済みでござる! 拙者がここに来たからには、アメリカとの関係は、最悪にはなり得ないでござる。アメリカは、大国として疎かにできない国。双方に取って、最善と思える手段を、常に考えるだけでござる」


 更に、クリスティーナも続く。


「あたしも、祖国を裏切るとかはありません。仲良くすればいいだけです。確かに、利害が対立する事態もあるでしょう。でも、その時は、どの選択肢を取れば、お互いの将来の為になるかを考えれば、勝手に答えが出るはずです」


 ぬお?

 この人達、そういう考え方が出来るんだ。俺も見習おう。


 アマンダは、にっこりとほほ笑んで、答えた。


「お二人の亡命を認めますわ! そして、私は国民あっての女王です。なので、堅苦しい物言いも必要ありませんわ。私の事は、気軽にアマンダと呼んで下さいね」

「感謝するでござる!」

「はい、アマンダさん、宜しくね! あたしの事も、クリスと呼んで欲しいわ」


 うん、これでいいのだろう。

 アマンダは、二人と握手した。



 そこで、ガーナード少将が、アマンダの前に進み出て来る。


「今までの非礼は、全て詫びよう。それで、この二人をお願いしたい。今の話からは、彼等がここに居れば、合衆国とのパイプにもなり、良好な関係の礎になってくれるだろう。それで、これは我が国からの差し入れだ。受け取って欲しい」


 少将は振り返り、指示を飛ばす。


「Hey! Bring that!」

「Yes sir!」


 輸送機から、小型の軍用車が出て来た!


「その車ごと差し上げよう。積まれている物資は、この島に駐在員を派遣する為のものだ。大した物は入っていないが、使ってくれ。では、私達はこれで失礼するよ。But! I shall return!」

「はい、感謝致しますわ。ええ、このお二人は、我が国が責任を持ってお預かりします。それでは、またの機会をお待ちしていますわ」


 悪い人ではなかったと。そして、最後の台詞は、まさにマッカーサーだな。

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